二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第55話

混乱する私を見た老師は、少し休憩しようかと言って自ら食器の片付けを始めようとした。

 

そこで私は気分転換も兼ねて片付けの役割を願い出た。

 

その後は食器の片付けだけでなく、今日から寝泊まりする私の部屋や

老師の部屋等の掃除もしていった。

 

私の記録にあるバトラーの経験を存分に活かして埃一つ無い完璧な状態に仕上げてみせた。

 

ふっ、私を満足させたければこの三倍は持ってこい!

 

家事の達成感により落ち着きを取り戻した私は、広間で寛ぐ老師の元に戻り

話の続きを聞く事にした。

 

「老師、廓の一部だけだが掃除は完了した。」

「そうかい?士郎、ご苦労様。」

 

労いの意味も込められているのか、老師が私に杯を差し出してきた。

 

私は杯を受け取り中の水を飲む。

 

喉を流れ落ちていく水が、守護者をしていた時には無かった爽やかな汗と共に、

私に生きているという実感を与えてくれる。

 

「旨い…この水はどこの水なのかね?」

 

本当に旨いと感じた私は、老師に問いながらも水を口に含む。

 

そして…。

 

「ん?適当にそこら辺の川から汲んできた水だよ。神水だけどね。」

 

老師の一言で盛大にむせてしまった。

 

「…っ?!ゴホッ!ゴホッ!」

「おや?大丈夫かい?」

 

なんとか咳が止まった私は老師に物申した。

 

「老師、貴重な神水をさも当たり前の様に振る舞ってどうする!?」

「水さえあれば俺の権能で幾らでも造れるからなぁ。貴重でもなんでも無いよ。」

 

そう言って肩を竦める老師に私は頭を抱える。

 

呆れを超えて諦めの境地に達した私は、手にしていた杯の神水を飲み干した。

 

すると、身体の奥底から活力が沸き上がってきた。

 

「なんという理不尽…。」

「そうかい?俺にとっては当たり前なんだけどね。」

 

せめて他の仙人はもう少し常識的な存在であってほしいと心から願う。

 

「それで、士郎はまだ聞きたい事があるんじゃないかな?」

「あ、あぁ…。」

 

老師に手で促されたので椅子に座る。

 

「士郎は神水でいいかい?それとも神酒を飲むかい?」

「…神水でお願いする。」

 

私とて魔術師の端くれだ。

 

神酒に興味がないわけではない。

 

だが、頼むからそれほどの物をさも当然の様に提供しようとしないでくれ…。

 

私は自然に胃の辺りに手を置くが、神水により与えられる活力で

胃は荒れるどころか健康そのものだ。

 

私は度重なる非常識に盛大にため息を吐くのだった。

 

 

 

 

何故か大きなため息を吐いた士郎だったけど、神水を飲んで落ち着いたのか

背筋を正して口を開いた。

 

「老師、二つ目の問いだが、私の身体についてだ。」

「士郎の身体?」

「あぁ、私の身体は何故子供なのだ?」

 

士郎の言う通りに、士郎の身体は七歳程の少年に調整して造ってある。

 

「その理由は二つ程あるね。」

 

俺が指を一本立てると、士郎は腕を組んで話を聞く態勢をとった。

 

「一つは休憩前に話した士郎の魂が関係しているんだ。」

「私の魂?守護者の力に耐えられる様に調整したのではないのか?」

「耐えられる様には調整したよ。でも、身体と魂が馴染むかは別の問題になる。」

 

俺の言葉に士郎は頷いて続きを促してくる。

 

「士郎の身体を前世に比べて強化して守護者としての力に耐えられる様にした。

 けれど、それによって前世の士郎の身体の感覚とズレが生じてしまうんだ。」

 

士郎は何度も手を握ったり開いたりして感覚を確かめている。

 

「なるほど、掃除をしている時にも感じた違和感は身体が子供に

 なっただけが理由ではなかったのか。」

「今の士郎は魔力を半分以上封印してある状態なんだけど、それを身体の成長に合わせて

 段階的に解放していく事で、魂と身体を馴染ませていくというのが理由の一つだね。」

 

士郎は納得したのか頷くと、一口神水を飲んだ。

 

「老師、もう一つの理由はなんだろうか?」

「もう一つの理由は俺の興味かな。」

「興味?」

 

士郎は腕を組みながら首を傾げて眉を寄せた。

 

「士郎は『世界の守護者』として色々な世界や時代を巡ったんだよね?」

「あぁ。」

「その経験や知識、そして技術を持った状態で一から鍛え直したら、

 士郎がどれだけ成長出来るのか興味を持ったんだよね。」

 

俺の言葉を聞いた士郎は片手を顎に当てて何かを考え始める。

 

そして数秒経つと、士郎は口角をつりあげた。

 

「余計なことだったかな?」

「いや。老師、改めて感謝をする。」

 

そう言って士郎は俺に包拳礼をした。

 

それを見ていた哮天犬が士郎によかったねとでも言うように、尻尾を振りながら

大きな声で哮えたのだった。

 




次の投稿は13:00の予定です

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