士郎が転生してから一ヶ月程が過ぎた。
あれから士郎はその小さな身体に早く慣れるべく自分なりの鍛練を続けている。
その鍛練は拳法のそれとは違ったが、中々見応えのあるものだった。
うん、そろそろいいかな。
頃合いと思った俺は、鍛練中の士郎に声を掛けてある事を話すのだった。
◆
「老師、用は何だろうか?」
「うん、士郎はどの仙術を覚えたいのかなって思ってね。」
「仙術?」
士郎は俺が手渡した神水を飲みながら首を傾げた。
「士郎の戦いの形は既に出来上がっているから、それに手を加えるつもりは無いよ。
でも士郎は俺の弟子であり、道士となるんだから仙術の一つも出来ないとって思ってね。」
納得をしたのか士郎が頷く。
「そこで、士郎は仙術の何を覚えたいのか聞いてみたのさ。」
「老師、私は魔術師だ。それ故に魔術にはそれなりに詳しいが、仙術は門外漢だ。
出来れば仙術にどういったものがあるのかを教えて欲しいのだが…。」
その士郎の言葉に応えて俺は仙術を一通り説明していく。
すると、士郎は顎に手を当てながら思考を始めた。
「士郎が希望した仙術は教えてあげるけど、それでも向き不向きがあるからね。
数ヵ月で使える様になるものもあれば、千年掛かっても使えないものもあるよ。」
俺の言葉に頷いた士郎は、考えが纏まったのか顔を上げてこちらを見た。
「老師、私は練丹術と反魂の術の習得を希望する。」
「練丹術と反魂の術だね。その理由は?」
俺の問い掛けに士郎は一度目を瞑ってから答えた。
「以前に私には救えなかった人々がいたと話した事があると思う。」
「うん、あるね。」
「もしまた同じ状況に遭遇した時、私は今度こそ、その人達を救いたい。」
強い意思を持った士郎の瞳に俺は笑顔で頷く。
「それじゃ、三日後から修行を始めようか。」
「老師、今日からではないのか?」
「この一ヶ月の鍛練の疲れを抜いてからだよ。士郎は休むという事も覚えないとね。」
俺がそう言うと士郎は困った様に苦笑いをしたのだった。
◆
士郎の修行が始まってから五年程の月日が過ぎた。
正直に言って士郎の修行は順調とは言えない。
なぜなら士郎はまだ調息を身に付ける事が出来ていないからだ。
調息を身に付け『気』を扱える様にならないと仙術を身に付ける事は出来ない。
それ故に、士郎にはまだ練丹術も反魂の術も教えていないのだ。
士郎は自身の才の無さを皮肉っているが、これは士郎の才の無さのみが原因ではない。
一番の原因は士郎が魔術師である事だ。
『気』と魔力は反発する性質を持っている。
その為、魔力の扱いに長けた士郎は『気』の扱いに難儀しているのが現状だ。
ただ、悪いことばかりではなかった。
士郎の修行の過程で新たな発見があったのだ。
それは『気』と魔力が反発する過程で大きな力を生み出すのがわかったのだ。
だが、これが少し難しい。
『気』と魔力を反発させることで大きな力を生み出すのだが、それを感覚だけで全くの
同量をぶつけなくてはならないのだ。
しかも、『気』と魔力をある程度以上の力で反発させなければ大きな力を生み出さないので、
制御しやすい少量でやっても意味が無いのだ。
士郎の修行の傍らで俺もこの新しい技術に挑戦をした。
結果、この新しい技術は四半刻(30分)程で出来る様になった。
それを見ていた士郎はどこか遠いところを見詰める様な目をしていたな。
ちゃんと修行に集中しないとダメだぞ。
そんな感じで士郎に修行をさせたり、竜吉公主の屋敷に泊まりに行ったりして更に
五年が過ぎた頃、俺は伯父上に宮へと呼び出されたのだった。
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