「それじゃ、行ってくるよ士郎。」
「あぁ、行ってらっしゃい、老師。」
哮天犬に乗った二郎は士郎へ挨拶をすると、天帝の宮へと向かった。
師とその使い魔である神獣を見送った士郎は軽く息を吐くと、
廓へと向き直った。
「さて、修行をする前に掃除をするとしようか。」
そう言うと士郎は両手に掃除道具を投影した。
「行くぞ、埃の量は十分か?」
そして士郎はノリノリで掃除をしていったのだった。
◆
伯父上の宮へと到着した俺は、十年振りに伯父上と老師に会っていた。
「二郎真君、ただいま参りました。」
「うむ、よくぞ来たな。二郎。」
包拳礼をする俺を笑顔で迎えてくれた伯父上は、さっそくとばかりに話を始める。
「二郎よ、以前から進めていた封神計画の準備が整った。」
「そうですか。伯父上、詳細をお聞かせいただけますか?」
「うむ。」
伯父上の話を俺なりに解釈すると次の様になる。
・後日、元始天尊様が弟子の姜子牙に封神計画の実行を命じる。
・最初は姜子牙に封神計画を成し遂げられるかどうかを見極める為に見守る。
・折りを見て姜子牙を手助けする道士を派遣して、封神計画の実行を支えさせる。
だいたいこの様な内容だった。
「それで、俺はどうすればいいのですか?」
「二郎には姜子牙が封神計画を成し遂げられる器なのかを見極めてもらいたい。」
伯父上の言葉に俺は首を傾げる。
「それは構いませんが、見極める役は俺でいいのですか?」
「二郎は原初の王であるギルガメッシュを始めとして多くの英雄をその目で見てきた。
その二郎が姜子牙に器を感じなければ、如何に元始天尊の推挙であろうと
中華の命運を託すわけにはいかぬであろう。」
ギルガメッシュとエルキドゥなら殷はおろか、黄帝が統べていた中華ですら滅ぼせるだろうな。
そしてケイローンなら中華全土を計略で振り回せるだろうし、アルケイデスなら
単身で百を超える道士とも渡り合えるだろう。
さて…姜子牙はどうかな?
まだ見ぬ姜子牙を見るのを楽しみだと思った俺は、哮天犬に乗って
上機嫌で廓へと戻ったのだった。
◆
崑崙山のとある岩の上に一人、腰を下ろしている道士がいた。
その道士は足を組んで調息をすると、気を整えながら思考を巡らせていた。
(ここ十年ばかり、急に元始天尊様の修行が厳しくなったのう…。何かあるのか?)
その若々しい青年の容姿にあわぬ老成した言葉で思考する道士の名は姜子牙という。
姜子牙の正式名は姓を姜、名を尚、字を子牙という。
数十年前の彼は中華の民であったのだが、彼の一族は殷の軍に滅ぼされてしまった。
一族を滅ぼされ焼け出された姜子牙はまだ火が燻る野原で一人涙を流していた。
そこにたまたま自身の蔵から酒を盗んだ申公豹を追い掛けていた元始天尊が現れて、
涙を流していた姜子牙に声を掛けて彼を弟子にしたのだ。
(情報が少なすぎてわからぬのぉ…。まぁよい、いつでも動ける様に適度に
修行を怠けるとするかのぉ。)
もっともらしい理由で自分を納得させた姜子牙は鼻提灯を膨らませる。
そして姜子牙がコクリコクリと船をこぎ始めた頃、師である元始天尊が
姜子牙の頭を強かに張り飛ばしたのだった。
これで本日の投稿は終わりです
また来週お会いしましょう
拙作の『宝具』表記を『宝貝』へと修正しました。