二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第61話

ドォン…!

 

轟音を立てて巨大な身体を地に横たえた蛟を見届けた士郎が地に膝をつく。

 

「…終わったか。」

 

二の腕の途中から左腕を失った士郎は、残った右手で止血をしながら安堵の息を吐く。

 

「お疲れ様、士郎。」

 

俺はそんな士郎に神酒を差し出しながら労いの言葉を掛けた。

 

限界近くまで力を振り絞っていた士郎は、右手を震えさせながらも何とか神酒を飲み下す。

 

すると失っていた左腕だけでなく、蛟との戦いで傷付いていた全身の傷が瞬く間に癒えた。

 

「老師、すまないが後を頼んでもいいだろうか?」

「あぁ、いいよ。」

 

俺の返事を聞いた士郎はゆっくりと目を閉じた。

 

士郎の身体を哮天犬の背に乗せた俺は、散歩をする様な気軽さで地に倒れる蛟に歩み寄る。

 

すると…。

 

「シャー!」

 

死んだふりをしていた蛟が牙を剥いて俺に襲い掛かってきた。

 

「詰めが甘かったけど、初めての蛟退治なら上出来かな。」

 

そう言いながら三尖刀を一振りすると、蛟の首を斬り飛ばした。

 

討伐証拠として斬り飛ばした頭を持ち、今日の食料として蛟の身を

斬り分けて哮天犬の背に跨がる。

 

「士郎は英雄になりたいと言っていたね。なら、姜子牙の手伝いをさせても面白そうだ。」

「ワンッ!」

 

そう思い立った俺は廓の寝台に士郎を寝かせると、伯父上の宮へと向かったのだった。

 

 

 

 

「二郎、ちょうどよいところに来た。今、使者を二郎の廓に送ろうとしていたのだ。」

 

そう言いながら伯父上は俺を笑顔で迎えてくれた。

 

「何かご用でしたか?」

「うむ、下界も暖かくなってきたのでな。そろそろ姜子牙に

 封神計画を始めさせるつもりなのだ。」

「その事で伯父上に一つお願いがあるのですが。」

「うむ、申してみよ。」

 

俺は伯父上に士郎の事を話してみる。

 

「ふむ、二郎の一番弟子を姜子牙の手伝いにな…。」

「士郎の願いの一つは英雄になる事です。姜子牙がどの様な形で女媧様の配下の道士を

 討伐していくのかはわかりませんが、最終的には殷との戦になると思います。

 その戦に参加させれば、士郎の願いが叶う可能性があるのではと思いまして。」

 

俺の話を聞いた伯父上が顎に手を当てて思考を巡らせる。

 

「うむ、面白い。二郎よ、弟子を我の宮へと連れて参れ。その者を見てから決めよう。」

「わかりました。」

 

伯父上に包拳礼をして踵を返した俺は、廓で眠る士郎を連れてくるべく伯父上の

宮を後にしたのだった。

 

 

 

 

蛟退治を終えて気を失った私は、気が付けば哮天犬の背の上だった。

 

そして状況を認識しようと思考を巡らせていると、老師に中華の最高神である

天帝の前に連れ出されたのであった。

 

…なんでさ。

 

「その方が二郎の一番弟子である衛宮 士郎か?」

「はっ!」

 

威厳に満ちた声色に私は片膝をついた包拳礼をして答える。

 

…これで礼は合っているのだろうか?

 

「そう畏まらずともよい。面を上げよ。」

「…はっ!」

 

私は天帝の言葉に従い顔を上げる。

 

すると、そこには面白そうに私を見ている老師と天帝の姿があった。

 

一体、私をどうするつもりなのだ?

 

胃を押さえたい衝動を堪えて身を正す。

 

「二郎からの提案でな、その方に姜子牙の手伝いをさせようと思うのだ。」

「…はっ?」

 

突然の言葉に私の思考が止まってしまう。

 

「二郎に聞いたのだが、その方の願いは英雄になる事であろう?」

「はい、確かにそれは私の願いの一つです。」

 

私がそう答えると老師と天帝はいい笑顔を浮かべた。

 

…答えを早まったか?

 

「そこでだ。その方は姜子牙と同行し、封神計画を手助けしてもらいたい。」

「…なんでさ。」

 

天帝の言葉に思わず口癖が声として出てしまった。

 

「封神計画は最終的に殷との戦になる可能性が高い。ならばその戦に参加して名を上げれば、

 その方の英雄になるという願いに近付くのではないか?」

「確かにその通りですが…。」

 

戦争や紛争に参加した事が無いわけではない。

 

そういった事をしてきた『世界の守護者』の時の記憶や記録は残っている。

 

その時の『世界』に振り回されるままに人々を殺した光景を思い出した私は、

答えを返す事が出来ずに身を震わせてしまう。

 

「その方のもう一つの願いも二郎から聞いている。」

 

天帝のその言葉に私は身体を震わせながらもなんとか顔を上げる。

 

「殷の紂王は酒池肉林の日々を送り、中華の多くの民に重税を課して苦しめている。

 その紂王を、ひいては殷を滅ぼす事は多くの中華の民を救い、先の世を生きる

 中華の民を救う事に繋がるのではないか?」

 

この天帝の言葉で私の腹に力が戻った。

 

「此度の任、謹んで拝命致します。」

「うむ、励むがよい。」

 

こうして私は封神計画に深く関わる事になったのだった。

 

突然の出来事に振り回されるばかりだった私だが、その心は隠せない

高揚に満ちていたのだった。




次の投稿は15:00の予定です

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