二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第64話

「老師、姜子牙は雷に飲み込まれてしまったが?」

「あの程度でやられるようなら、姜子牙もそこまでってところだね。」

「小山を破壊する程の一撃を凌げか…随分と厳しい査定な事だ。」

 

士郎は苦笑いをしながらそう言う。

 

「でも、姜子牙は結構しぶといみたいだね。」

「あぁ、そのようだな。」

 

俺と士郎が目を向けると、そこから風の刃が申公豹に向けて放たれる。

 

「それじゃ、俺は申公豹に挨拶にでも行くから、姜子牙の事は頼んだよ。」

「あぁ、行ってくるよ、老師。」

 

俺が虚空立歩で空に立つと、士郎を乗せた哮天犬は地に落ちた姜子牙の元に飛んでいく。

 

それを見送った俺は、虚空立歩で空を歩いて申公豹の元に向かうのだった。

 

 

 

 

「おや?この程度ですか?元始天尊様に封神計画の実行を命じられたにしてはあっけないですね。」

 

雷公鞭を用いて雷を姜子牙に放った申公豹は、手応えの無さに拍子抜けしてしまう。

 

だが…。

 

ザッ!

 

申公豹の死角となる下方から放たれた風の刃が、申公豹の左頬を切り裂いた。

 

「なるほど、姜子牙も中々やりますね。血を流したのはギリシャの巨人と戦った時以来です。」

 

常の無表情に面白そうな笑みを浮かべた申公豹は、頬を流れる血を指で拭って舐めた。

 

「それじゃ、黒点虎、行きましょうか。」

「申公豹、あっちを見て。」

 

黒点虎が顔で指し示す方向を見た申公豹は、驚いて目を見開いた。

 

「久し振りだね、申公豹。」

「お久し振りですね、二郎真君。しかし、空を歩いてくるとは非常識ですね。」

「そうかい?」

 

そう言って首を傾げる二郎の姿に申公豹はため息を吐く。

 

「たしか虚空立歩でしたか?貴方が造り出した技法だと聞いていますが、それでも貴方の様に扱える者は私が知る限りでは貴方一人しかいませんよ。」

「そうなのかい?思い付いてやってみたら、結構簡単に出来たんだけどね。」

「拳法に執心している道士や仙人が聞いたら膝から崩れ落ちそうな言い分ですね。」

 

申公豹がため息を吐きながら肩を落とすと、黒点虎も同じ様に肩を落とした。

 

「それで、私に何の様ですか?」

「あぁ、姜子牙はどうだったかなと思ってね。」

「聡明ですね。それに、飄々とした振る舞いに反して私に一矢報いる強い心も持っています。」

 

申公豹の姜子牙に対する高評価に二郎は笑みを浮かべた。

 

「姜子牙は封神計画を成せそうかな?」

「それを見極めるのは貴方の役目でしょう?」

 

申公豹がそう言うと二郎は肩を竦めた。

 

「それじゃ、私は行きますね。」

「何か用事でもあるのかい?」

「帰って寝ます。もう少し面白そうな状況になったら、また姜子牙に会いに来ますけどね。」

 

そう言うと申公豹は黒点虎に指示をして帰っていった。

 

申公豹が去ったと同時に哮天犬が二郎の元にやってくる。

 

「それじゃ、俺達も行こうか。」

「ワンッ!」

 

哮天犬に跨がった二郎は、士郎を置いて何処かへと飛んでいったのであった。

 

 

 

 

「う…。」

 

気が付くと草の匂いと共に身体に怠さを感じる。

 

申公豹が放った雷を凌ぐのに打神鞭に力を注ぎ過ぎたようだのう。

 

だが…。

 

「どうやら、生き延びたようだのう。」

 

儂は安堵のため息を吐く。

 

顔を巡らせると、側にスープーの姿を見つけた。

 

気を失いながらも草を食んでおる…。

 

食い意地の張った奴だのう。

 

「気が付いた様だな。」

 

不意に掛けられた声に驚くが、儂はそれを表に出さぬようにして声の主に振り向く。

 

「大きな雷が鳴ったと思ったら、空から人とカバが降ってくるのだからな。

 中華というのはそういった事がよく起こるのかね?」

 

赤い外套を着た長身の男が腕を組みながら斜に構えてそう言ってくる。

 

この者の言葉と格好から察するに中華の民では無いようだのう。

 

「儂も空から落ちるのは初めてじゃよ。」

「ふむ、随分と年寄り染みた言葉を話すのだな。若いのに苦労したのかね?」

「儂は見た目通りの歳では無いぞ。儂は道士だからのう。」

 

少しの情報をこの男に与えてその反応を見る。

 

「道士?魔術師とは違うのかね?」

「生憎、魔術師というのは知らんのう。」

 

ふむ、この男はその魔術師というものなのかもしれぬな。

 

目の前の男を見ながら思考を巡らせていると、不意に儂の腹が鳴った。

 

「腹が空いているのかね?ならば、食事でも一緒にどうかな?」

「それは助かるが、儂は生臭は食えぬのでな。」

 

道士の修行の一環として、儂は生臭を口にするのを断っている。

 

これは儂が仙人に至るために必要な事なので仕方がないのう。

 

まぁ、酒は飲めるので文句はない。

 

だが、噂では二郎真君様は一切の制限が無く仙人に至ったとか…。

 

羨ましい限りだのう。

 

「生臭とはどういった物かね?」

「簡単に言えば獣や魚の肉だのう。」

「ふむ、穀物は大丈夫かね?」

「うむ、問題無い。だが、出来れば甘い物がいいのう。」

 

儂がそう言うと、赤い外套を着た男は笑った。

 

「失礼、年寄り染みた言葉を話すと思えば、子供の様な事も言うのでな。」

 

赤い外套を着た男は笑いを収めると、不意に名を名乗った。

 

「私は士郎、魔術師だ。」

「儂は姜子牙。姓が姜で字が子牙。中華の慣わしで名は親しき者にしか名乗らぬのでな、姜子牙と呼んでくれると助かるのう。」

「では、姜子牙。食事の準備をするのでゆっくりとしていてくれ。非才の身だが、君の舌を満足させる程度の物は作ってみせよう。」

 

 

 

 

封神演義の一節にはこう残されている。

 

『申公豹に軽くあしらわれた姜子牙は霊獣の四不象と共に草原にて気を失ってしまう。』

 

『そこに運良く旅をしていた士郎が通り姜子牙は介抱された。』

 

これが姜子牙と士郎の初めての出会いである。

 

後に中華の歴史に名を残す姜子牙もこの時はまだ未熟な道士であり、その名を中華に

轟かせるには今一時の時間を必要とするのだった。




次の投稿は11:00の予定です。
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