「ん~…?いい匂いがするっス。」
気を失いながらも草を食んでいた四不象が鼻をヒクヒクとさせながら目を覚ます。
「おぉ、目を覚ましたか、スープー。」
目を覚まし身体を起こした四不象が目にしたのは草原に腰を下ろし、椀と匙を手に
舌鼓を打つ姜子牙の姿だった。
「あ―――!?ご主人だけズルいっス!あれ?ご主人って料理出来たっすか?」
「目覚めて最初の言葉がそれか…。スープーは食い意地が張っておるのう。」
苦笑いをしながらも椀の中の汁を啜る姜子牙は、腹の中から暖まるそれとは
違う力が沸き起こる感覚に思考を巡らせていた。
(医食同源とは言うが、この汁は一口飲むごとに間違いなく活力が湧いてきおる。
一体、何を用いて作っておるのだ?)
姜子牙がそう考えていると、料理の匂いにつられて四不象が近寄ってきていた。
「ご主人、僕にも一口欲しいっス。」
「汁が欲しくば、あやつに頼むがよい。」
「あやつっすか?」
姜子牙が行儀悪く匙で指し示した方向に四不象が振り向くと、
そこには赤い外套を着た長身の男がいた。
「カバ君、目が覚めたかね?」
「カバじゃないっス!僕は四不象っス!」
「そうか、私は士郎だ。四不象も飲むかね?」
「いただくっス!」
四不象の返事を聞いた士郎は首に掛けている鍵の宝貝に魔力を流し空間に波紋を造り出すと、
波紋から取り出した様に見せて椀と匙を投影した。
この光景に四不象は驚いて目を見開く。
「宝貝っすか?」
「む?あぁ、これは私の師からいただいた物でね。私の倉と空間を繋げてくれるのだ。」
「へ~、便利な宝貝っすね。」
士郎が使った宝貝は、二郎がギルガメッシュやエルキドゥと冒険をしていた時に
手に入れた宝貝である。
ギルガメッシュが使う鍵の宝貝の下位互換にあたる物だが、家一軒分の
収納能力を持つ貴重な宝貝である。
この鍵の宝貝を士郎が持っている理由は、二郎が士郎の魔術の特異性を考えたからだ。
宝貝級の物を魔力が続く限り幾らでも投影出来る。
これは神の権能にすら匹敵する特異性だ。
もしこの特異性を道士や仙人が知れば、例え武神の弟子と知っても士郎を狙う可能性が高い。
なので士郎が投影する際に、予め用意しておいた物を鍵の宝貝を使って
取り出した様に見せる事にしたのだ。
ちなみに鍵の宝貝を首に掛ける為の紐に使っているのは、
哮天犬の毛を結わえて作った物である。
神獣の毛で作った紐だけでも転生した直後の士郎ならば胃を痛める案件なのだが、
今では受け入れられている事を考えれば、彼も成長したという事なのだろう。
士郎が料理した汁を口にした四不象が舌鼓を打つ。
「美味しいっス!」
「そうか、口に合った様でなによりだ。」
本当に嬉しそうに微笑む士郎を、姜子牙は汁を啜りながら横目で盗み見る。
(士郎の反応を見るに、どうやら悪い者ではなさそうだのう。だが、何が目的で儂達に接触したのかがわからん。偶然と見るには出来すぎておるからのう。)
汁を飲み込んだ姜子牙は大きく息を吐いた。
(封神計画の監視役の可能性が高いのだが…疑いで視野を狭めるのはよくないからのう。
決め付ける事はせずに、しばらくは様子見といこうかのう。)
汁を飲み干した姜子牙がお代わりを所望すると、競う様に四不象もお代わりをする。
士郎の料理は燃費の良い道士の食欲を刺激する程に見事な物なのだった。
◆
「二郎真君、よく来たのじゃ!妾は歓迎するのじゃ!」
姜子牙一行が食事に舌鼓を打っていた頃、二郎は竜吉公主の屋敷にやって来ていた。
「お邪魔するよ、竜吉公主。」
「邪魔ではないぞ、二郎真君。お主ならば、いつまでも妾の屋敷にいてよいのじゃ!」
そう言って竜吉公主は弟子達の目がある中で二郎に抱きつく。
少し前に妲己に自慢された事がキッカケで、自重する事を止めたのだ。
「竜吉公主、封神計画が始まったよ。」
「ほう?確か実行者は元始天尊様の弟子の姜子牙という者だったと思うが…、
どういった奴なのじゃ?」
「申公豹曰く、聡明で胆力もあるそうだよ。」
「あやつめにそう評価されるか…。一度あってみたいのじゃ。」
そう言った竜吉公主は二郎から一度離れると、今度は二郎の腕に抱きつく。
「今夜は泊まっていくのじゃろ?泊まると言わぬと離さぬからな。」
「はいはい、泊まっていくよ。」
「むー!子供扱いするでない!」
二郎に空いている手で頭をポンポンとされた竜吉公主が不満気に頬を膨らませる。
だが次の瞬間には笑顔になり、二郎を屋敷の奥へと案内するのだった。
次の投稿は13:00の予定です。