二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第67話

「おはようなのじゃ、二郎真君。」

「うん、おはよう、竜吉公主。」

 

士郎を姜子牙の元に送り出した翌朝、二郎は竜吉公主の屋敷で目覚めた。

 

寝台の上で一糸纏わぬ身体で二郎に寄り添う竜吉公主は、心の底から嬉しそうに微笑んでいる。

 

「うむ、よい朝なのじゃ!…コホッ、コホッ!」

 

身体を起こして咳き込む竜吉公主の背中を二郎が優しく擦る。

 

「二郎真君、妾は後どのぐらい生きられるのじゃ?」

「俺の見立てでは五十年ってところかな。」

「そうか、封神計画を見届けられるといいのだがのう。」

 

咳きが落ち着いた竜吉公主は、二郎の胸に頭を預ける。

 

「うむ、やはりこうしているのが身体の調子が一番いいのじゃ。」

 

そう言う竜吉公主の頭を二郎は優しく撫でる。

 

「むう、また子供扱いをしおって。昨夜はちゃんと女の扱いをしたというに。」

「仕方ないよ、竜吉公主は可愛いからね。」

「二郎真君は女たらしなのじゃ…。」

 

そう言いつつも満更でもないと頬を朱に染める竜吉公主は、

二郎に口付けをしてから寝台を抜け出すのだった。

 

 

 

 

「二郎真君、また来るのじゃぞ。妲己に自慢せねばならんのじゃからな。」

「そうかい?なら、なるべく来るようにするよ。」

「む~!なるべくじゃダメなのじゃ!一杯来るのじゃ!」

「はいはい。」

 

二郎が頭をポンポンと叩くと、竜吉公主はプクッと頬を膨らませた。

 

「それじゃ、行ってくるよ、竜吉公主。」

「うむ、行ってらっしゃいなのじゃ、二郎真君!」

 

二郎の言葉に笑顔で返事をした竜吉公主は、哮天犬に乗って去っていく二郎が

見えなくなるまで手を振り続けたのだった。

 

 

 

 

姜子牙主従と士郎が同行を決めたその日、一行は姜子牙と四不象が申公豹に受けた

雷のダメージを癒す為にその場を動かずに野宿をした。

 

そして翌日、一行が封神計画遂行の為に動き出すと、不意に士郎が声を上げた。

 

「姜子牙、あちらに見える軍勢がどこのものかわかるかね?」

「む、どこにいるのだ?」

 

四不象に乗りゆっくりと飛ぶ姜子牙の隣を歩く士郎が指摘した方向を、

姜子牙は目を細めて見る。

 

「見えぬのう…スープー、上空からゆっくりと近付いてみるのだ。」

「了解っス!」

 

四不象は姜子牙の指示通りにゆっくりと飛んでいく。

 

「ほう、確かに軍勢がおるのう。しかし、これほど遠くが見えるとは…

 士郎はどんな目を持っているのかのう?」

「士郎さんはスゴイっすね。」

 

額に手を翳して軍勢を眺める姜子牙は、軍勢が掲げる旗指物を見つける。

 

「どうやら、あの軍勢は殷のものらしいのう。」

「またどこかの集落や部族を攻めるんすかね?」

「どうかのう…?」

 

この頃、殷の軍は紂王の命により頻繁に人狩りを行っていた。

 

理由は奴隷を集める為と、紂王が酒池肉林の贅沢をする財を集める為である。

 

「早く殷を操る妲己を倒さないといけないっすね。」

「…そうだのう。」

 

十年前に妲己が殷の紂王に見初められて後宮に入ってから、紂王はそれまで以上に

贅沢三昧の日々を送るようになった。

 

故に、中華の人々は妲己が紂王を唆したと噂している。

 

しばらく軍勢を観察していると、姜子牙は兵とは違う装いをしている者を見付けた。

 

「…スープー、戻るぞ。倒すべきは中華の民であるあやつらでは無い。

 邪仙として中華を乱す妲己達だからのう。」

「了解っス!頑張るっすよ、ご主人!」

 

姜子牙達が戻ると、士郎は姜子牙に話し掛ける。

 

「どうだったかね?」

「殷の軍勢だったのう。」

「そうか…それで、この後はどうするのかね?」

 

士郎の言葉に姜子牙はどこか試されているという感覚を受けた。

 

(殷の人狩りを率いる者の中に道士服を着ていた者がおった。あれは妲己の配下で間違いなかろう。だが、今仕掛ければ封神計画と無関係の兵まで巻き込んでしまうのう…。)

 

姜子牙は腕を組み思考を巡らせる。

 

(兵を巻き込まぬ為には一計を案じなければならぬが…さて、どうするかのう?)

 

しばらく姜子牙が考え込んでいると、不意に姜子牙の腹の虫が鳴る。

 

姜子牙は頭をガシガシと掻くと士郎に目を向けた。

 

「とりあえず今日の寝床を探すとするか。二日連続で野宿は避けたいからのう。」

「あぁ、了解した。」

 

士郎が何かを言ってくると予測していた姜子牙は、提案をあっさりと

受け入れた事に内心で驚く。

 

(士郎の歳は二十にも満たぬと思っておったが、それにしては落ち着いておる。

 魔術師にも容姿と年齢を違える術があるのやもしれぬのう…。)

 

そう考えながらも姜子牙は、打神鞭で行き先を指し示す。

 

「川沿いを進めば集落の一つや二つは見つかろう。そこで一夜の宿を借りるとしよう。」

「了解っス。士郎さん、行くっすよ。」

 

姜子牙主従が進みだすと、士郎は殷の軍勢の方向へと振り向く。

 

魔術で強化した視力で軍勢の進行方向を確認した士郎は、先を行く姜子牙達の後に続くのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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