集落を後にした私達は、翌日には殷の都に程近い町に辿り着いた。
ここで腹ごしらえをしようとなったのだが、姜子牙は金銭を持ち合わせていなかった。
私は老師に鍵の宝貝の先に繋がっている蔵の財を譲られているので問題無いのだがな。
しかし…。
(廓にある蔵一つをそのまま私に譲ってくるとはな…。)
老師は千年以上前から世界中を旅して財を集めていた。
そのため老師は金銀や酒に宝石、宝貝等の財を所狭しと納めた蔵を多く持っている。
しかも蔵は灌江口にある廓だけでなく中華の天界にもあるので、その財の総量は個人で考えれば天帝様をも凌いで中華で最も多く財を持っているのだ。
だが老師曰く…。
『ギルガメッシュとエルキドゥが集めた財に比べれば微々たるものだよ。』との事だ。
かの英雄王夫妻は生前にどれだけの財を集めたのだろうか?
前世の師が宝石魔術を扱っていた影響でカツカツの生活を送っていた記録がある私には、想像もつかない程の量なのだろうな。
考えすぎると頭が痛くなりそうなので、私は頭を振って思考を打ち切る。
(前世の私の暮らしを考えれば、老師に貰った蔵の財は百年かかっても使いきれん。ならば、ここは姜子牙に奢って貸しを作っておくのも悪くないだろう。)
そう考えて私が口を開こうとしたら、不意に姜子牙が薪売りに声をかけた。
「これ、そこな薪売りよ。」
「はい、薪がご入り用ですか?」
「いや、その薪を一つ儂に貸さぬか?お主の先を占ってやろう。そして占いが当たったら幾ばくかの金銭を儂に払うがよい。」
姜子牙にそう言われた薪売りは訝しげに首を傾げながらも薪を姜子牙に差し出す。
薪を受け取った姜子牙は打神鞭で薪をポンポンと叩き始める。
「薪よ~先を示したまえ~。」
胡散臭い言葉を言いながら姜子牙が薪を打神鞭で叩き続けると、不意に薪に火がついた。
「むむっ?」
薪についた火を姜子牙がジッと見詰める。
「薪売りよ、あちらの通りに向かうがよい。そこにお主の薪を求める者がおると出た。」
私が感じた様に薪売りも胡散臭そうな表情をしていたが、薪売りは姜子牙が示した通りに向かう。
そして五分程の時間、薪売りが口上を述べて薪を売ろうとしていると…。
「おぉ、ちょうどよい。薪を売ってくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
薪売りが薪を積んでいる背負子を下ろすと、薪を求めた客が騒ぎだした。
「おぉ?!それは蟷螂の卵じゃないか!」
薪売りが驚いて目を見開く。
「少し前に倅夫婦に子が出来たところなのだ。子沢山の蟷螂の卵は縁起が良い!是非ともその薪を売ってくれ!いや、君の薪を全部売ってくれ!」
薪を求めた客はただ薪を全部買うだけでなく、代金に色をつけて支払った。
トントン拍子に小金持ちになった薪売りは呆然としている。
そんな薪売りの肩を姜子牙が軽く叩いて振り向かせる。
「どうやら占いは当たったようだのう。」
そう言って姜子牙は手を差し出すと、薪売りから少しばかりの金銭を受け取った。
そして、それを見ていた町の人々は…。
「俺も占ってくれ!」
「私も占って!」
あっという間に姜子牙を取り囲む人だかりが出来上がると、ニヤリと悪い笑みを浮かべた姜子牙が、次々と人々を占って金を稼いでいった。
その様子を見ていた私と四不象は顔を見合わせると、同時に深いため息を吐いたのだった。
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