「ねぇ、少し縄を緩めてくださらない?食い込んで痛いの。」
私達は王貴人を捕らえた後、殷の都に向かっているのだが、その道中で王貴人がその様に四不象に話し掛けた。
「緩めてあげたいけどダメっス。後少しだから我慢してくださいっス。」
手足を拘束されて自身の背中に乗っている王貴人に、四不象はすまなそうな様子で答える。
「それで、殷の都に到着したらどうするのかね?」
「士郎よ、予測は出来ているのではないか?」
「私の予測通りならば、あまりオススメはしない策なのだがな。」
「儂とスープーの目的である封神計画を成すのならば、この策が一番早いからのう。」
王貴人を四不象の背中に乗せている関係で地を歩いている姜子牙がそう答える。
「労せずして相手の懐に飛び込めるのだ。そんな機会を逃すのは勿体無いからのう。」
姜子牙はそう言うと、王貴人と戦った町で購入した果物を懐から取り出してかじる。
「まぁ、逃げ出す算段さえ整えておけば問題なかろう。」
「…逃げ出す隙があればいいのだがな。」
前世では数千年先まで名が残る伝説の美女が妲己だ。
その妲己が道士ではなく老師と同じ仙人…不安が拭えない。
だが私の不安を他所に、私達一行は順調に殷の都へと辿り着いたのだった。
◆
「さて、殷の都に到着したが、本当に彼女を差し出すのかね?」
「そうすれば妲己が出てくる可能性が高い。なにせ、王貴人が姉と呼ぶ関係なのだからのう。」
先の町を発ってから、どうも士郎は不安そうな雰囲気を持っておるのう。
確かに妲己は仙人だが、儂達が警戒される存在になってからでは面倒になる。
ならば、多少の危険は承知で挑んだ方が民の犠牲が少なくなるからのう。
道士や仙人が封神されるのは自業自得だが、それに民が巻き込まれるのは避けたい。
故に卑怯と謗られようと王貴人を利用するのだ。
しかし、士郎は中華の者では無い。
巻き込むのは避けたいのう。
「士郎よ、気が向かぬのなら儂に付き合う必要はないぞ。」
「君達と一緒にいるのが現時点で一番、放浪の神ゼンに会える可能性が高いのだろう?ならば私に行かぬという選択肢は無いさ。」
やれやれ、士郎もお人好しだのう。
二郎真君様に会うという理由だけで命を懸ける必要は無い。
巻き込みたくはなかったが、正直に言えば士郎の戦力があるのは助かるのう。
それに、士郎の人柄も好ましい。
まぁ、少々斜に構えて皮肉な言葉を吐くのが玉に瑕だがのう。
「さて、お手並み拝見といったところか。」
士郎の言葉で意識を前に向けると、王宮の門が見えていた。
「こちらには王貴人という一手があるのだから気楽にいけばよい。それに、失敗したらさっさと逃げればよいからのう。」
そう言って儂が笑うと、士郎とスープーがため息を吐いたのだった。
◆
「初めまして、私が妲己よん♡」
これは驚いたのう…。
儂は女好きと噂の紂王に王貴人を差し出す形で王宮内に入ろうとしておったのだが、まさか妲己自ら出迎えにくるとは思わなかったのう。
「その娘は私が直々に後宮に入る為の教育をしてあげるわん。だから貴方達は下がっていいわよん♡」
「「「はっ!」」」
妲己の一言で妲己の警護をしていた兵達が下がっていきおった。
「今日は王貴人ちゃんを連れてきてくれたお礼に私自ら宴を開いてあげるわん。楽しんでいってねん♡」
妲己はそう言うと、王貴人の縄を解いて王宮の奥へと向かった。
「…よかったのかね?あのまま行かせて。」
「完全に機先を制されてしまったからのう。兵もまだ近くにおったし、ここは仕切り直して宴で隙を見付けるのがよかろう。」
士郎にそう言ったものの、どうもしっくりこないのう。
儂の中でどこか考えが噛み合わない気がしておる。
「ご主人、妲己ちゃん可愛かったっすねぇ。」
そう言ってスープーがだらしなく鼻の下を伸ばしておる。
そんなスープーの姿に儂は悩んでいるのが馬鹿らしくなってしまった。
「スープーよ、妲己自ら宴を開くと言っておったのだから、また会えるであろうよ。」
「ご主人、僕楽しみっス!」
この時の儂達は誰一人として気付いておらんかった。
儂達が既に妲己の術中に嵌まっておった事を…。
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