二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第72話

あの後、王宮内の一室に通されて休憩した私達は、日が暮れた頃に中庭へと案内をされた。

 

宴が始まる前に紂王が中庭に姿を見せたが、既に酒に酔っておりフラフラとした足取りだった。

 

『愚王』

 

これが現在の中華での紂王の評価だ。

 

紂王は妲己の一言に二つ返事で頷くと宴から去っていった。

 

…あの様子では妲己を討っても殷の悪政は改善されないだろう。

 

その事を実感していると、妲己の一言で宴が始まった。

 

妲己と王貴人、そしてもう一人の少女の容姿をした胡喜媚という道士が酒を口にした所で姜子牙の目配せを受けた私は、姜子牙と共に妲己達に仕掛けるべく立ち上がった。

 

だが、私達の仕掛けは失敗した。

 

何故なら私達が立ち上がった瞬間、私達は四肢の自由を奪われてしまったからだ…。

 

 

 

 

「あらん?宴は始まったばかりだというのにもう酔ったのかしらん?」

 

儂と士郎は立ち上がった姿勢のまま動けなくなってしまった。

 

そんな儂達を見ながら妲己は妖艶に微笑んでおる。

 

「そこの霊獣ちゃんはこっちにいらっしゃい。」

「はいっス。」

 

妲己に手招きされたスープーがフラフラと飛んでいきおった。

 

その様子に衝撃を受けた儂は、頭の中にあった靄が晴れていった。

 

「幻術…いつの間にかけられておったのだ…?」

「最初からよん。」

「最初から?」

「そう、私が貴方達に会ったあの時にねん。」

 

妲己の言葉で儂は理解した。

 

儂達は妲己に思考すら誘導されていた事を…。

 

儂は隣で立ち上がった姿勢のまま固まっている士郎に目を向ける。

 

…どうやら士郎も四肢の自由を奪われただけで、意識はあるようだのう。

 

「士郎、すまぬのう。」

「謝る暇があるのなら打開策を考えてくれないかね?」

「手厳しいのう…。まぁ、無いわけではないが、一手足りぬ。」

 

隣にいる士郎に小声で話し掛けると、士郎が儂に目を向けてくる。

 

都合がいい事に妲己達はスープーと戯れておる。

 

「その一手とは?」

「妲己達をスープーから離す。それが出来れば、この場から逃げられる。」

 

儂は左手に持った打神鞭に目を向けて答える。

 

調息をして体内の気を整えたら、左手一本なら動かせる様になったのは不幸中の幸いだのう。

 

「そうか、ならばその一手は私が補おう。」

 

儂はその一言で士郎に目を向ける。

 

「無事に逃げ切ったら酒を奢らせてもらおうかのう。」

「ならば、私は酒に合う一品を作るさ。」

 

儂達は視線を合わせて微笑むと、同時に妲己達に目を向ける。

 

状況は妲己がスープーの背から下り、胡喜媚がスープーの背に乗るところだった。

 

「トレース・オン。」

 

耳慣れぬ言葉と共に士郎の周囲に三本の剣が現れたのが視界の端に映った。

 

鍵の宝貝による波紋が無いことへの疑問を抑え込み機を待つ。

 

士郎の周囲に現れた三本の剣が、矢の様な勢いで妲己達へと飛んでいく。

 

剣に気付いた妲己は身に纏っている羽衣で剣を払い、王貴人は地を転がる様にして剣を避け、胡喜媚は飛び退いてスープーから離れた。

 

その瞬間、儂は全ての力を打神鞭に注ぎ込んで風を操る。

 

そして風で儂と士郎をスープーの元に吹き飛ばすと、殷の都の外へと向かう様に風で儂達を空高く吹き飛ばしたのだった。

 

 

 

 

「逃げられちゃった☆」

「お姉様、追いますか?」

 

胡喜媚と王貴人に問われた妲己は姜子牙達が吹き飛んでいった方向を一瞥すると、胡喜媚達の方へと振り返る。

 

「放っておいて構わないわよん、胡喜媚ちゃん、王貴人ちゃん。」

「ですが…。」

「今まで私達に挑んできた道士達と違って、姜子牙ちゃん達は私の所まで辿り着いたのだもの。ご褒美に見逃してあげてもいいんじゃない?」

 

十年以上前から妲己達は殷を滅ぼすべく動いているのだが、それは道士の多くに知られている事である。

 

その為、姜子牙が封神計画を元始天尊に命じられる前に、年若い道士達が名を上げようと妲己達に挑んでいたのだが、その挑んだ全ての者が妲己の元に辿り着けずに討たれていた。

 

妲己の言葉に王貴人は頭を抱え、胡喜媚はニッコリと笑う。

 

二人の反応を見た妲己は不意に虚空を見詰める。

 

そして…。

 

「そうは思いませんか、楊ゼン様?」

 

妲己が虚空に言葉を投げ掛けると、虚空から二郎と哮天犬が姿を現す。

 

二郎と哮天犬を見て驚いた王貴人と胡喜媚を見た妲己は、クスクスと楽しそうに笑うのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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