俺が隠行の術を解いて姿を現すと、妲己以外の二人が目を見開いて驚いた。
妲己はそんな二人を見てクスクスと笑っている。
数秒後、ハッとした様な表情をした王貴人が妲己の前に立って戦闘態勢になった。
「お姉様、下がってください!」
王貴人の対応につられる様に、胡喜媚も妲己を庇う様に戦闘態勢になる。
「私と胡喜媚でなんとか時間を稼ぎます!その間に逃げてください!」
「妲己姉様は私達が守るもん!」
そんな二人の姿を見た哮天犬が、俺の前に出て二人を威嚇する。
哮天犬の威嚇を受けた二人は身体を震えさせた。
「二人共健気だね、妲己。」
「そうでしょう、楊ゼン様。自慢の養妹達なのよん♡」
決死の覚悟で俺と対峙した王貴人と胡喜媚が、様子を伺う様にゆっくりと妲己に振り返る。
「お姉様、二郎真君様とお知り合いなのですか?」
「そうよん、王貴人ちゃん♡」
「おぉ!妲己姉様スゴ~い☆」
そんな三人の姿を見た哮天犬は威嚇を止めて俺の後ろに戻る。
哮天犬が俺の後ろに戻ったのを見た王貴人はその場にへたりこみ、大きく安堵の息を吐く。
そして俺が自分達を討伐に来たのではないと知って安堵した王貴人と胡喜媚を見た妲己は、二人に詫びの一言を言った後に俺を宴に誘ったのだった。
◆
「お姉様、もっと早く言ってください。心臓に悪過ぎます。」
「ふふふ、王貴人ちゃん、ごめんなさい♡」
顔の前で両手を合わせ片目を瞑る妲己の姿を見た王貴人はため息を吐くと、宴の料理をやけ食いし始めた。
「モフモフ~☆」
王貴人がやけ食いを始めると胡喜媚が哮天犬に抱きついて顔を埋める。
ちょうど酒を口に含んだ王貴人はそんな胡喜媚の姿を見て、盛大に噎せてしまった。
「ゴホッ、ゴホッ!胡、胡喜媚姉様!?何をしているのですか!?」
「モフモフを堪能中☆」
「じ、二郎真君様の神獣に何をしてるんですか?!不敬ですよ!」
「王貴人ちゃんは相変わらず真面目ねぇん。」
二郎にピッタリと寄り添って酌をしている妲己が養妹達を見て微笑む。
「お姉様も何をしているのですか!?そ、そんなに寄り添うなど…ふしだらです!」
「あらん?王貴人ちゃんは初なのねぇん。」
「王貴人ちゃんはウブ~☆」
二郎に寄り添う妲己を見て頬を紅く染める王貴人の反応を見て、妲己と胡喜媚はからかい始めた。
しばらく三姉妹が楽しんでいるのを眺めていた二郎は、一段落したのを見計らって口を開いた。
「妲己、君は姜子牙をどう見たかな?」
「一言で言えば未熟。けれど、将来性ありってところかしらん。」
王貴人と胡喜媚は二人の会話を黙して聞き入る。
武神である二郎真君と当たり前の様に会話をする妲己の姿に、改めて尊敬の念を抱いているのだ。
「それじゃ、士郎の方はどうだったかな?」
「それにお答する前に、あの子が何者か聞いてもいいかしらん?」
この妲己の言葉に王貴人と胡喜媚も反応した。
「お許しいただけるなら私も知りたく思います。あの者は、虚空にいきなり武器を出した様に見えました。宝貝を使った様子も感じられなかったのにです。」
「そうそう、胡喜媚、ビックリしちゃった☆」
まだ二郎に物怖じしている王貴人だが、今後の為に勇気を振り絞った。
胡喜媚も内心では冷や汗を流しているが、生来の好奇心の強さが勝り、王貴人程は緊張していなかった。
「彼の名は衛宮 士郎。俺の弟子だよ。」
二郎の言葉に三人は驚きの表情を浮かべる。
「楊ゼン様、いつの間に弟子をお取りになったのかしらん?」
「十年ぐらい前かな?妲己が俺の廓に十日程泊まり込んだ後だね。」
「と、泊まり込んだ…?」
王貴人が顔を真っ赤にしながら呟くと、それを見た妲己は微笑みながら二郎の肩に身体を預けた。
そして、それを見た王貴人は…。
「ふ、ふしだらです―――!!!」
妲己が結界を張っていなければ間違いなく衛兵が駆け付ける程の大きな声で叫ぶと、王貴人は顔を真っ赤にしたまま宴の場を走り去ったのだった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。