二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第74話

王貴人が宴の場から走り去った頃、殷の都に程近い草原で姜子牙が目を覚ました。

 

「…どうやら生きておるようだのう。」

 

ムクリと身体を起こした姜子牙は安堵のため息を吐く。

 

「気が付いたかね?」

 

姜子牙が声の方に振り向くと、草原に横たわる士郎の姿があった。

 

「お互いに無事な様だのう。」

「生憎、こちらはまだ身体を起こせる状態ではないがね。」

「草原を狙って吹き飛ばしたのだが、着地まで考える余裕は無かったからのう。身体をどこか強かに打ってしまったのか?」

「いや、妲己が使った幻術とやらの効果がまだ抜けなくてな。指一本自由が利かんのだよ。」

 

自らを皮肉る様に笑う士郎の姿を見て姜子牙が吹き出す。

 

「プッ!それは災難だのう。」

「笑ってないで解決策を示してくれないかね?また寝たまま野犬を撃退するのは勘弁願いたいのだが?」

 

士郎の言葉で姜子牙は周囲に目を向ける。

 

姜子牙が闇夜に目を凝らすと、そこには十匹を超える野犬の骸があった。

 

「士郎、儂はどれほど気を失っていた?」

(一時間)程だ。」

「そうか、それはすまんかったのう。」

「礼はこの状態をなんとかする事を頼もうか。」

 

姜子牙はまだ怠い身体に力を入れて立ち上がると士郎の側に腰を下ろす。

 

「それを何とかするには調息をせねばならん。」

「調息?」

「うむ。儂と同じ拍子で呼吸をしてみよ。」

 

そう言うと姜子牙は調息をしていく。

 

士郎はそれに習うように息をしていくと、次第に身体に力が戻っていくのを実感した。

 

「ふむ、確かに自由が利く様になってきたな。」

「しばらくはその拍子で呼吸をしているがよい。儂はスープーの様子を見てくるからのう。」

 

そう言うと姜子牙はフラフラと立ち上がって四不象の元に歩いていったのだった。

 

 

 

 

調息をして右腕が動く様になってきた士郎はため息を吐きそうになるのを堪える。

 

(調息か…咄嗟の状況ではどうしても前世や守護者の時の癖が出てしまう…。老師に十年も鍛えられて、基本の調息を忘れるなど笑い話にもならん。)

 

調息をして体内の『気』が整っていくと、右腕だけでなく全身の自由が利く様になった。

 

(もし私一人だったならば、文字通りに手も足も出ずに敗北していたな…。流石は前世で傾国の美女の異名を持つ伝説の人物といったところか。)

 

士郎は身体を起こすと、四不象に水を飲ませている姜子牙に目を向ける。

 

(今の私達では何度挑もうと何も出来ずに返り討ちだろう。さて、姜子牙はこの後どうするつもりかな?)

 

そう考えた士郎は立ち上がって姜子牙達の所に歩いていったのだった。

 

 

 

 

「う~…まだ頭がフラフラするっス。」

「かなり深く幻術にかけられてしまったからのう。明日一杯はその状態が続くであろうよ。」

「仕方ないっすね。生きているだけ儲けものっス。」

 

四不象が竹の水筒に口をつけると、士郎が二人の側に腰を下ろした。

 

「姜子牙、この後はどうするのかね?」

 

士郎のこの問いに四不象は顔を姜子牙に向ける。

 

「今の儂達では妲己に勝てぬ。故に、先ずは修行と仲間集めだのう。」

「修行と仲間集めっすか?」

 

四不象が首を傾げると、士郎が腕を組んで話し出す。

 

「姜子牙、修行はわかるが仲間集めを行う理由は何かね?」

「士郎よ、紂王を覚えておるか?」

「あぁ、覚えている。」

「お酒に酔ってフラフラだったっすね。」

 

士郎と四不象の言葉に姜子牙は頷く。

 

「紂王を見た時、儂は妲己達を討っても殷の悪政は終わらぬと思った。」

「…確かに、紂王は噂に違わぬ愚かな王だと私も思った。」

「うむ。それ故に妲己達がいなくなっても、妲己達の代わりとなる道士や仙人が現れるだろうのう。」

 

姜子牙が一息ついて竹の水筒に口をつけると、四不象が疑問の声を上げた。

 

「ご主人、二郎真君様は何で動かないんすかね?」

「動かないのではなく、動けないのであろうよ。」

「動けないっすか?」

「うむ。今回の一件で実感したのだが、殷の腐敗があそこまで進んでおれば、妲己達は思うままに殷の中枢に入り込めるだろうのう。もし二郎真君様が動いたとわかれば直ぐにでも行方を眩まし、ほとぼりが冷めた頃にまた戻ればよい。如何に二郎真君様でも相手がおらねばどうしようもないからのう。」

 

そう言うと姜子牙はため息を吐いた。

 

「姜子牙、君達の目的が何なのか詳しく聞いても構わないかね?」

「士郎よ、すまんが儂にもよくわからんのだ。」

 

そう答える姜子牙に士郎は首を傾げる。

 

「儂達は封神計画というものを成そうとしておるのだが、どうもこの計画は胡散臭くてのう。」

「どのように胡散臭いのかね?」

「中華を乱す道士や仙人を討伐し、中華を乱した罰として転生出来ぬ様にその魂を封じる。これが封神計画なのだが、それを中華で無名の儂とスープーに任せられたのだ。それがどうも納得いかなくてのう。」

 

そう言いながら姜子牙は頭をガシガシと掻く。

 

「封神計画は儂の師である元始天尊様に任じられたのだが、おそらく元始天尊様は初めから殷や妲己達、そして二郎真君様の事を知っておったのだろうな。それ故に中華で無名の儂とスープーに任せたのだろうが、儂は封神計画にはまだ隠されている事があると思っておる。」

「隠されている事っすか?」

「それが何かは正直わからぬ。元始天尊様に問い質したところで、妲己達にあっさりとやられた儂達には話さぬであろうよ。」

 

姜子牙は竹の水筒に口を付けると、ボソリと呟く。

 

「おそらくは隠されている事を知られても辞退されぬ様に、殷に私怨を持つ儂を選んだのだろうのう…。」

 

魔術で強化した聴覚で姜子牙の呟きを聞いた士郎は、驚きを表情に出さぬ様に必死になったのだった。




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