哮天犬との旅を続けて1ヶ月程経った頃、本能のままに暴れている蛟の元に辿り着いた。
「へぇ~、龍に成りかけているだけあって、蛟って結構大きいんだな。」
「ワン!」
俺と哮天犬の存在に気付いた蛟は、暴れるのを止めてとぐろを巻いて臨戦態勢に入った。
初めて蛟を見たが、かなり大きい。
牛でも一飲みに出来る程の大きさだ。
龍になったらどれだけ大きくなるんだろうな?
「哮天犬、ちょっとこれを持っててね。」
「ワン!」
哮天犬は一吠えしてから、槍(剣?)の宝貝を銜える。
「さて、俺の拳法はこの蛟に通じるかな?」
そう言ってみたものの、俺の心に不安は無い。
スタスタと散歩の様に近付いて行くと、とぐろを巻いていた蛟が身体を伸ばして、頭上から噛み付こうとしてきた。
頭上から噛み付こうとしてきた。
俺は瞬動で踏み込んで、地上に残っている蛟の身体に一歩崩拳を打ち込む。
ズシリとした手応えを感じると、蛟は吹っ飛んだ。
だけど、吹っ飛んだ先で蛟は鎌首を持ち上げて威嚇してくる。
「今の一撃で仕留められないのか。蛟が頑丈なのか、俺が未熟なのか、どっちにしても帰ったら老師に小言を言われるだろうなぁ。」
ため息を吐きながらそう言うと、俺は虚空瞬動で蛟の目の前に移動する。
そして、虚空立歩で空を踏み締めると、馬歩からの崩拳を蛟の頭部に打ち込んだ。
2秒程、蛟の身体が硬直すると、蛟はズシンと音を立てて地面に倒れた。
「よし!蛟退治完了!」
「ワン!」
哮天犬から宝貝を受け取りながらそう言うと、哮天犬は俺を祝福する様に鳴いた。
俺がお礼に哮天犬の頭を撫でてしばらくすると、哮天犬は蛟の所に向かった。
「どうした、哮天犬?」
「クゥ~ン。」
哮天犬は片方の前足を蛟に乗せると、その円らな瞳で俺を見てきた。
「もしかして、蛟を食べたいのかな?」
「ワン!」
哮天犬は俺の言葉を肯定する様に、尻尾を振りながら吠える。
「頭は退治した証拠として伯父上に持っていくからダメだけど、
身体の方は俺と一緒にたべようか。」
「ワン!」
哮天犬は嬉しそうに俺にすり寄って来た。
その後、哮天犬と一緒に蛟を食って腹拵えをすると、哮天犬に乗って
蛟の頭部を退治の証拠として持ち帰り、伯父上に提出するのだった。
◆
「二郎。蛟退治、大義であった。」
「はい、ありがとうございます。伯父上。」
俺は片膝をついて、伯父上に包拳礼をする。
「伯父上、この剣?槍?なのですが、何でしょうか?」
「ほう?それは『三尖刀』だな。」
「三尖刀ですか?」
「うむ、中華の宝貝の1つだ。」
へぇ~、やっぱり宝貝だったのか。
「それで、この三尖刀なのですが、どうしましょうか?」
「お前が使えばよい。」
「宜しいのですか?」
俺の言葉に、伯父上が頷いてから話し出す。
「その三尖刀は拾ったのであろう?」
「はい。なんであそこに宝貝があったのかわかりませんが…。」
「ならば、その三尖刀は拾った二郎の物だ。この我が認めよう。」
伯父上が許可してくれるなら、遠慮せずに貰っておくか。
「ありがとうございます、伯父上。一層精進します。」
「うむ、また今回の様に何かを頼む事もあるだろう。その時に力を
存分に振るえる様に励むがよい。」
「はい!」
俺はそう返事をした後、荒れている川が静まった事を伯父上に話した。
「ほう?それはおそらく、二郎の『権能』であろうな。」
「『権能』ですか?」
「うむ。荒れていた川はどの様にして静まった?」
「えっと、俺が近付いたら勝手に静まりました。」
俺がそう答えると、伯父上は面白そうに笑みを浮かべて話し出した。
「なるほど。二郎の権能はおそらく『治水』であろう。」
「『治水』?」
「うむ、世界のあらゆる水は、二郎に害をなさない…。そういう権能だ。」
へぇ~、便利な権能なのかな?
「例え毒水だろうと、大雨だろうと、二郎には害をなさぬ。使いこなせばその権能は、
泥水を清水や神水にすら変える事も出来るであろう。」
つまり、水分さえあれば飲み水には困らないって事か。
めっちゃ便利な権能やん。
「我の推測だが、その権能を使いこなせば酒もより上等な物に変えられるであろう。」
「絶対に権能を使いこなしてみせます!」
良い酒を飲めると聞いては黙ってられない。
なんせ、今生では娯楽が非常に少ないのだ。
そんな中で酒は貴重な嗜好品の1つだ。
全力を尽くす価値がある。
「うむ、なれば二郎には下界の治水を頼むとするか。」
「下界の治水ですか?」
俺の疑問の声に、伯父上が真剣な表情で頷く。
「下界では作物を育てる為に川などから水を引いているのだが、
その際に川の流れを無理矢理変えたりするせいで、少し多く雨が降れば
川が氾濫するといった事が日常的に起こっているのだ。」
へぇ~、それは知らなかったな。
「故に二郎よ。これからは時折、治水の任を与える事とする。」
「はい!その任、承ります!」
「うむ、大義である。」
伯父上は1つ頷くと、ニヤリと笑った。
「二郎よ、お前に褒美を授ける。」
「褒美ですか?」
「うむ。二郎よ、此度の蛟退治の功と、これから行う治水の任に先立ち、
二郎に仙人としての名を与える事とする。」
仙人としての名?
「二郎よ、これからお前は『二郎真君』と名乗るがよい!」
「『二郎真君』?」
「昔、お前の前世がどうであろうと、我の家族であると言ったのを覚えているか?」
忘れるわけがない。
伯父上のその言葉があったから、俺は転生した事を受け入れられたんだから。
俺は伯父上の言葉に強く頷く。
「『二郎として生きた今こそが真の君の姿』…そういった思いを込めて考えた。」
そう言う伯父上の目は、家族としての暖かさを感じさせてくれる優しいものだった。
俺は両膝をついて頭を下げる。
そして、精一杯の感謝を込めて包拳礼をした。
「二郎真君の名!ありがたく頂きます!」
こうして俺は二郎真君と名乗り、時には下界の治水を、時には蛟や邪仙を退治しながら、
修行の日々を送っていった。
そんな日々を送って、そろそろ俺が生まれてから100年の歳月が経とうとした頃の事。
俺は伯父上から、中華の地の外へと向かう任を受けるのだった。
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