二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第80話

とある中華の町中を一人の男が必死の形相で走っていく。

 

その男の名は李靖。

 

李靖は現在、自身の息子である哪吒から逃げている真っ最中である。

 

だが、その李靖の逃げる姿を見る民達は既に慣れた様子だった。

 

「李靖様!左後方から哪吒坊っちゃんが回り込んで来てますよ!」

「あと四半刻は逃げてくださいね!俺、それに賭けているんですから!」

 

まるで親子の暖かな戯れを見る様に民達は笑顔で応援していく。

 

だが…。

 

「ひっ!?」

 

逃げる李靖のコメカミの直ぐ側を輪の形をした武器が通過する。

 

これは哪吒が投げ放った『乾坤圏』という宝貝である。

 

この乾坤圏は普段は哪吒の両腕に腕輪として在るのだが、有事には武器へと変ずる宝貝なのだ。

 

李靖のコメカミの直ぐ側を通過した乾坤圏は、李靖の前方で円の軌道を描くと哪吒の元に戻っていく。

 

戻ってきた乾坤圏を手に取った哪吒は二つの乾坤圏を同時に李靖に向けて投げる。

 

すると…。

 

「うおおぉぉぉぉぉおおお!!」

 

李靖は横っ飛びで地を転がり乾坤圏を回避すると、直ぐに立ち上がってまた逃げ出す。

 

「誰か、助けてくれぇぇぇええええええ!!」

 

李靖の叫びは今日も空しく町中に響き渡るのだった。

 

 

 

 

半刻後、李靖を追い回すのを止めた哪吒が家に戻ると李氏が笑顔で出迎えた。

 

「お帰り、哪吒。」

「ただいま、母さん。」

「哪吒、貴方にお客様が来てるわ。」

 

そう言って歩き出す李氏の後に哪吒はついていく。

 

そして客間に哪吒が到着すると、そこには二郎が待っていた。

 

二郎の姿を見た哪吒は直ぐに片膝を床について包拳礼をする。

 

「お邪魔してるよ、哪吒。」

「お邪魔などではありません、二郎真君様。」

「その通りです二郎真君様。貴方様は私達母子の命の恩人です。いつでも歓迎いたしますわ。」

 

数年前に二郎に助けられた哪吒と李氏は、その時の事を忘れぬ様に毎日二郎に感謝の祈りを捧げている。

 

「先程李氏に聞いたけれど、今日も李靖を追い回していたのかい?」

「…はい。」

 

昨年、太乙真人の所から戻った哪吒は、その時から李靖を追い回す様になった。

 

だが、これは李靖が憎いからでは無い。

 

では、何故哪吒が李靖を追い回しているのかというと、これは李靖を鍛える為である。

 

哪吒は太乙真人に封神計画の事を聞いており、その時に封神計画に李靖が治める領地も巻き込まれる可能性があると聞いていた。

 

なので哪吒は不器用ながらも父が生き延びられる様に鍛える事にしたのだ。

 

李靖は道士として仙人に弟子入り出来る程度には才能がある。

 

だが、修行を逃げ出した李靖には今一度修行をやる気が無い。

 

そこで自身が父に嫌われている事を利用し、追い回す事で李靖に強制的に修行をさせているのだ。

 

「ところで二郎真君様、何用があって我が家にいらしたのですか?」

「哪吒にちょっと頼みがあってね。」

 

李氏の問いに二郎が答える。

 

すると、哪吒はまた包拳礼をした。

 

「二郎真君様、何でも言ってください。俺は、貴方に受けた恩に応えます。」

「哪吒、そこまで畏まる必要は無いよ。」

「いえ、俺と母さんは貴方に救われました。だから、この命を使って恩に応えます。」

 

哪吒の言葉に二郎は苦笑いをする。

 

(蓮の精の力の影響かな?哪吒はまだ十代なのに随分と大人びているね。)

 

二郎は李氏に差し出された白湯を口にしてから口を開く。

 

「それじゃ、一つだけお願いしようかな。」

「なんなりと。」

 

二郎は哪吒の返事に頷いてから話し出す。

 

「後日、姜子牙と士郎という二人の男が君の事を訪ねてくる。その時、哪吒に士郎と戦ってもらいたいんだ。」

「二郎真君様、その男達は何者なのでしょうか?」

「姜子牙は元始天尊様の、そして士郎は俺の弟子だよ。」

 

李氏の問いに二郎がそう答えると、哪吒は驚きの表情を見せる。

 

「二郎真君様の弟子と戦うのですか?」

「二人は封神計画を成す為の仲間を集めていてね。その仲間として哪吒を誘いに来るんだ。」

「まぁ!それは光栄な事です!」

 

李氏と二郎の会話を哪吒は目を伏せて黙して聞いていた。

 

「どうしたの、哪吒?」

 

李氏が問い掛けると哪吒は目を開き、顔上げて話し出す。

 

「二郎真君様、士郎という男との戦いは承ります。ですが、俺は封神計画に加わるつもりはありません。」

「哪吒、とても光栄な事なのよ?何故参加しないのかしら?」

「俺がここを離れたら誰が母さんを守る?」

「貴方の父がいるじゃない。」

 

哪吒は李氏の言葉に首を横に振る。

 

そして…。

 

「あの男には任せられない。」

 

哪吒がそう言い切ると、李氏は頬に手を当ててため息を吐いたのだった。




次の投稿は13:00の予定です。

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