「姜子牙さん、士郎さん、よくいらしてくれました。」
李靖が再び哪吒から逃げ出した後、姜子牙達は領主の住まいに向かうと李氏に歓迎を受けた。
「すまぬが、哪吒が戻るまで待たせてもらうぞ。」
「えぇ、どうぞゆっくりとしていってください。」
李氏は使用人に白湯を持ってこさせると、姜子牙達を案内した客間から去っていった。
「良妻賢母といったところか。」
「うむ、李靖には勿体無い女傑よのう。」
「李氏さん、カッコ良かったっス!」
姜子牙達は白湯を口にすると、その温かさにホッと一息吐いた。
「ところでご主人、どうやって哪吒くんを仲間に誘うんすか?」
「そうだのう…おそらくは一戦せねばなるまいな。」
「哪吒くんと手合わせをするんすか?」
四不象の疑問を姜子牙は頷いて肯定する。
「うむ、哪吒は儂が道士と名乗った時、ジッと儂達を観察してきおった。太乙真人の元で修行をしたと元始天尊様に聞いておるし、腕試しをしたいと思っても不思議ではなかろう。」
「若者らしくて微笑ましいっすね。」
そう話すと主従は白湯を口にする。
「士郎、もしかしたら哪吒はお主に挑むかもしれぬ。」
「構わんよ。」
「すまぬのう。」
「なに、修行をし直す必要性を感じていたからちょうどいいさ。」
士郎はそう言うと白湯を飲む。
そして半刻(一時間)後、姜子牙は帰ってきた哪吒と話をするのだった。
◆
「断る。俺は俺より弱い奴に従うつもりは無い。」
帰ってきた哪吒に自己紹介をした後に仲間に誘ってみた姜子牙だったが、あっさりと断られてしまった。
「ふむ、ではどうすればよいかのう?」
姜子牙が哪吒に伺いをたてると、哪吒は士郎を指差した。
「お前、俺と戦え。」
「哪吒よ、何故に士郎を指名するのだ?」
「理由は…無い。」
姜子牙は哪吒の言葉に疑問を持った。
(今の間は何かのう?儂には士郎を選んだ理由がある様に感じたのだが…?)
士郎を指差したまま返事を待つ哪吒の姿に、姜子牙は頭を掻く。
(哪吒の持つ腕輪の宝貝…あれは確か乾坤圏だったかのう?あれを投げてくるだけならば儂の持つ打神鞭との相性で問題無く勝てたのだがのう…。)
そう考えながら姜子牙はチラリと哪吒の足下に目を向ける。
(あの足下にある宝貝はおそらく『風火輪』だろうのう。空を自在に飛べる宝貝となると、中華でも二つと無い貴重な宝貝…。剣士の士郎とは相性が悪いのう…。)
そこまで考えると、姜子牙は小さくため息を吐く。
(何かしらの理由があれば口先で誤魔化して儂が相手をしたのだが…こうなっては士郎に哪吒の相手をしてもらうしかないのう。…ふむ、空を飛ぶ哪吒の対策としてスープーに士郎を手伝ってもらうのも有りかのう?)
取り合えず哪吒との勝負を受けてもらうべく、姜子牙は士郎に目で合図を送る。
「わかった、私でよければ相手になろう。」
士郎が勝負を受けると、哪吒は無言で立ち上がり外へと向かって歩き出したのだった。
◆
(やれやれ、尚の懸念が当たってしまったな。)
哪吒に続いて立ち上がった士郎は、哪吒の背に続きながら小さくため息を吐く。
(しかし、哪吒の生い立ちが幾分か私に似ていると感じるのは、私の感傷なのだろうか?)
士郎と哪吒はお互い幼少期に絶体絶命の危機を救われた経験を持つ者同士である。
それ故に、士郎は哪吒に既視感の様なものを感じていた。
(まぁ、私の様な非才と違い、哪吒は溢れんばかりの才を持っているのだろうがな…。)
そう考えた士郎は自嘲する様に笑う。
しばらく哪吒に続いて歩いて行くと、町の外の荒野へと辿り着く。
士郎から距離を取った哪吒は、腕輪となっている乾坤圏の大きさを変えて両手に取り、風火輪を用いて浮き上がる。
それに対応する様に士郎は空中に波紋を浮かべ、その波紋から取り出した様に見せて干将と莫邪を両手に取った。
「さて、少しばかり大人気無い気もするが、本気で行かせてもらおうか。」
そう呟いた士郎は哪吒の乾坤圏の投擲に合わせて踏み込んだのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。