「
四不象に乗っている姜子牙が打神鞭を振るい風の刃を二郎に飛ばす。
二郎は士郎と哪吒を同時に相手にしながら、姜子牙が放った風の刃を目も向けずに拳で打ち払った。
「おや?飛び入り参加かな?三人相手でも俺は一向に構わないよ。」
士郎と哪吒の猛攻を捌きながら笑みを向けてくる二郎の姿に、姜子牙は驚愕する。
(あの髪の色に額の紋様…そして桁外れの強さ…まさか、二郎真君様!?)
ここに至って二郎の正体に察しがついた姜子牙は額に脂汗を浮かべる。
(まずい…妲己が相手どころではない。どうにかして隙を作って士郎達と共に逃げねば!)
姜子牙は士郎達と二郎を分断するべくもう一度風の刃を放つ。
すると、風の刃は三者の間の地にぶつかり土埃を舞い上げた。
「士郎!哪吒!」
姜子牙が声を掛けると士郎は直ぐに距離を取ったが、哪吒は乾坤圏を振り上げて二郎に仕掛けていく。
その哪吒の姿に姜子牙は舌打ちをした。
「士郎、退くぞ。」
「簡単に退ける相手でもないと思うがね。」
「それでもなんとかせねば、ここで全滅だ。」
「全滅?あぁ、この戦いは…。」
姜子牙が勘違いをしていると察した士郎が説明をしようとする。
だが…。
「話をしているとは余裕だね。それとも油断をしているのかな?」
土埃で視界が悪い中で哪吒をあっさりと叩き伏せた二郎が、姜子牙と士郎の正面に現れた。
姜子牙はもう一度土埃を作って視界を制限しようとするが、姜子牙が打神鞭を振るう手を二郎が掴み捕った。
「いい判断だね。でも、ちょっと遅いかな。」
二郎がそう言うと、姜子牙は四不象の上から吹き飛んで地を転がっていく。
姜子牙は腹の痛みで呼吸もままならず、身体を地へと横たえている。
(わ、儂は何を、された…?)
空気を求めて口を開閉する姜子牙は遠退きそうになる意識を必死に繋ぎ止める。
「あれ?ちょっと強かったかな?」
その言葉に姜子牙はなんとか目を向けると、そこには拳を突き出した二郎の姿があった。
(儂は、崩拳を、くらったのか…。一撃で、意識を失わなかっただけ、もうけものだのう…。)
辛うじて呼吸出来る様になってきた姜子牙であるが、身体の自由が利かずに倒れたままだ。
「ご主人!」
そんな姜子牙の元に四不象が急いで近寄る。
(こ、これは、本当にまずいのう…。)
動かぬ身体を四不象によって起こされた姜子牙は、二郎と戦う士郎に目を向ける。
姜子牙の脳裏には幾つもの策が浮かんでは消えていく。
(あまりにも力が違い過ぎて、策が意味を成さぬ…。士郎ですら相手になっておらぬとは…。)
妲己にあっさりと敗れた時以上の絶望感が姜子牙を包んでいく。
(一つだけ策はある…。だが、確実とは言えぬのう…。すべては士郎の魔術次第か…。)
姜子牙は動かぬ身体に鞭をいれて戦場全体を見渡す。
「ス、スープーよ、哪吒の所へ…。」
「了解っス!」
生き残る為の策を伝える為に、姜子牙は身体を起こそうとしている哪吒の所へ向かったのだった。
◆
「老師、話を遮ったのはわざとか?」
「うん、その方が面白そうだったからね。」
士郎は全力で仕掛けながら二郎と話しているが、二郎は余裕たっぷりに捌きながら話している。
「何故と聞いても?」
「姜子牙の才は元始天尊様や申公豹が認める程のものだけど、戦う者としての自覚が足りないかなって思ってね。」
「戦う者としての自覚?殺す覚悟や殺される覚悟の事かね?」
「殺す覚悟はともかく、殺される覚悟は必要ないよ。」
二郎がそう言うと、驚いた士郎の動きが鈍くなる。
二郎は士郎を戒める為に、軽く崩拳を士郎の腹に打ち込む。
「ぐっ!?」
込み上げてくる胃の内容物を堪えながら、士郎は鈍ってしまった攻勢を強める。
「人に限らず、生き物にとって生きたいと思うのは自然な感情だよ。殺される覚悟を持つというのはそれを否定する事になる。」
「戦士が殺される覚悟を持つのは間違っていると?」
「悲劇を美化したいのなら殺される覚悟を持ってもいいんじゃないかな?もっとも、そんな事をしている暇があるのなら、今を精一杯生きた方が楽しいと思うけどね。」
会話をしながらも士郎は全力で斬りかかっていくが、二郎は士郎の攻撃を文字通りの紙一重で避けていく。
「さて、お喋りはここまでかな。どうやら、姜子牙が何かをするみたいだからね。」
そう言うと二郎は崩拳を放って士郎を姜子牙達の方向に飛ばす。
二郎の崩拳を士郎は辛うじて干将と莫耶を交差して受けたのだが、乾坤圏と打ち合っても砕けなかった干将と莫耶は二郎の崩拳の一撃で砕け散り、魔力へと還ったのだった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。