二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です


紀元前2700年代 ~古代ウルク編~
第8話


「じ、二郎真君、頼む、見逃し…。」

 

男の言葉を遮る様に、三尖刀を突き刺す。

 

「伯父上から受けた任だからね。見逃すわけないでしょ。」

 

三尖刀を突き刺した男は邪仙であり、不死の霊薬を飲んだ者だ。

 

この程度では死なない。

 

なので、突き刺した三尖刀を通して反魂の術を応用して、男の魂を破壊する。

 

「い、嫌だ…私の道はまだ半ばなのに…。」

「お前が霊薬の実験に、キョンシーではなく中華の民を使ったのが悪い。」

 

神様なんかが当たり前にいる世界でも、所謂マッドサイエンティストはいるもので、

時折目の前の男の様な奴を退治、討伐する任を伯父上から受ける事があるのだ。

 

「いや…だ…。」

 

討伐対象の邪仙が事切れたのを見届けて、三尖刀を引き抜く。

 

こういった事にも慣れたもので、多少の嫌悪感はあれども戸惑う事は無くなった。

 

「ワン!」

 

俺とは別の邪仙を相手にしていた哮天犬が、喉笛を咬み千切った邪仙を引きずってくる。

 

「カヒュ…。」

 

俺は哮天犬の頭を撫でながら、まだ息のある邪仙に止めをさす。

 

「よし!帰ろうか、哮天犬。」

「ワン!」

 

討伐証拠として邪仙2人分の首を持ち、俺は哮天犬に乗って伯父上の宮へと向かうのだった。

 

 

 

 

「二郎真君!邪仙討伐の任、大義である!」

「はっ!」

 

伯父上からの労いの言葉に包拳礼をして返事をする。

 

面倒な事なんだけど、中華の地で二郎真君の名が有名になってきたから、

こういった形式も必要になってきたんだよね。

 

「さて、二郎よ。任を終えて早々なのだが、中華の外へと行ってくれぬか?」

「中華の外?一体、どこに行けばいいのですか?」

「都市国家ウルクだ。」

 

ウルク?

 

どこかで聞いた覚えがあるような…?

 

「知っているのか、二郎?」

「前世の記憶だと思うのですが、100年近く前ですからね。思い出せません。」

 

両手を拡げてそう言うと、伯父上は笑い声を上げた。

 

「はっはっはっ!不老になったばかりではよくある事よ!なに、慣れれば千年前の事も

 思い出せる様になる。」

「そうですか。なら、今生の事は忘れない様に早く慣れましょう。」

 

伯父上は俺の返事にまた笑い声を上げる。

 

「ところで伯父上、なぜウルクに行くのですか?」

「それは、ウルクに人の王となる者が誕生したからだ。」

 

ん?人の王って中華以外でも一杯いるよな?

 

「二郎よ。今の世で人々はどのように統べられているかわかるか?」

「王が統べているのではないのですか?」

「その通りだ。だが、それらの王達は全て神々に加護を授けられている者達よ。

 故に、人々は神々によって支配されていると言っても過言では無い。それはこの中華でもだ。」

 

俺は伯父上の言葉に頷く。

 

伯父上の任を受けて、50年近く中華の地を色々と巡って来たが、

人々には自然の猛威に抗う術がなく、神の庇護を求めているのが現状だ。

 

俺も川の氾濫を静めたり、蛟退治をしてきた結果、治水の神や武神として

中華の民に認識されてしまった。

 

だからなのか、先の邪仙討伐の時にも中華の民に治水を願われたりしている。

 

でも、いくら神々でも人々の願いの全てを聞いてはいられない。

 

そこで、神々は人々の意見をまとめる代表者として王を選び、王の証として加護を与える。

 

そして、加護を与えられた王だけが民の言葉を選別して神に陳情する事が出来る。

 

それ故に、王は特別な存在として民の上に立つ。

 

こういった形で現在の世界は廻っているのだ。

 

「だが、ウルクの王であるルガルバンダが、女神リマト・ニンスンとの間に子を作った。

 この子供はギルガメッシュと名付けられたそうだが、このギルガメッシュは神の血を

 引いている事で、神々の加護を与えられずとも王となる資格を持っている。

 つまり、生まれながらにして王となる者なのだ。」

 

全ての王は等しく神の加護を与えられた者だった筈が、

加護を持たずして王となりえる者が現れたのか。

 

なるほど、面白いな。

 

でも…。

 

「伯父上、なぜウルクではそのような事になったのでしょうか?」

「確かウルクに近い国が、ウルクへの侵攻を企んでいたと思うが、現王のルガルバンダは

 千年もの間、ウルクを統治した英傑だ。かの王が現役の間は侵攻されぬだろう。」

 

千年か…凄い男だな。

 

「その事からギルガメッシュが生まれた理由を考えると、

 おそらくは現地の神々の気紛れであろうな。」

 

伯父上はそう言うと、深くため息を吐いた。

 

「神々が人を支配する形になってから、初めて加護を持たぬ人の王が現れる…。

 これが人々、神々、そして『世界』や『星』にどの様な影響を与えるのか気になるのでな。

 二郎には、このギルガメッシュという者を見極めて来てもらいたい。」

 

うん、この任は随分と楽しくなりそうだな。

 

「それと二郎よ、気付いているか?」

「何をでしょうか?」

「ギルガメッシュがお前と同じ、半神半人であるという事だ。」

 

あ…そういえばそうだな。

 

「故に二郎よ、お前はギルガメッシュと友になってまいれ。」

 

はい?

 

「いや、伯父上?俺はギルガメッシュを見極めてくるのでは?」

「それは建前というやつよ。本当の理由はお前に友をと思ってな。」

 

伯父上はニヤニヤと笑いながら俺を見ている。

 

「二郎が生まれてからおよそ100年程経ったが、お前に友はおらぬであろう?」

 

伯父上の言う通りに、俺はボッチである。

 

俺と気軽に話せる知り合いは家族と老師ぐらいなのだ。

 

道教の最高神の外甥という立場だから、色々と遠慮されちゃうんだよね…。

 

「そういうわけで二郎よ、ギルガメッシュと友になってまいれ。」

 

伯父上はニヤニヤとした笑みから、ニコニコとした暖かい家族の笑みを向けてくる。

 

俺はため息を1つ吐いてから包拳礼をした。

 

「伯父上、ウルク視察の任、承りました!」

「うむ、楽しんでまいれ。」

 

ヒラヒラと手を振る伯父上に苦笑いをすると、俺は哮天犬に乗ってウルクを目指すのだった。




これで本日の投稿は終わりです

また来週お会いしましょう

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