「姜子牙ちゃん達の修行は順調みたいねん♡」
姜子牙達の修行の合間に殷の都に訪れた二郎は、妲己の歓迎を受けつつ話をしていた。
「妲己、王貴人と胡喜媚の方はどうだい?」
「王貴人ちゃん達の修行も順調よん♡あの娘達には封神計画が終わっても無事に生き残ってもらいたいもの♡」
「君は生き残るつもりはないのかな?」
妲己は二郎の言葉に微笑んで答える。
「それでは天帝様のお顔を潰す事になってしまうわん。」
「確かに殷を滅ぼすために中華を乱した道士や仙人を指揮していた妲己を見逃したら、伯父上の顔を潰すことになるけどね。」
「うふん♡楊ゼン様にお気に掛けていただいただけで、私は満足よん♡」
そう言って二郎の首に腕を回した妲己は二郎と唇を重ねる。
「正直に言えば少し怖いです。でも、後の世に名を残す事を考えればそれ以上に嬉しいですわ。」
そう言って微笑む妲己に二郎は笑みを返す。
「妲己の生き様を見届けさせもらうよ。」
「大歓迎よん♡私の最後は楊ゼン様の腕の中でって決めてるのん♡」
茶目っ気たっぷりに片目を瞑った妲己は、もう一度二郎と唇を重ねたのだった。
◆
「これは二郎真君様、ようこそいらしゃってくださいました。」
妲己との一夜を過ごした翌日、二郎は姫昌の元を訪れていた。
「やぁ姫昌、また一杯どうかな?」
「では、遠慮なくご相伴に預からせていただきましょう。」
二郎の誘いを笑顔で受けた姫昌は、二郎に続いて床に腰を下ろす。
「二郎真君様、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
二人は特に会話もなく静かな時間の流れを楽しみながら酒を飲んでいたが、不意に姫昌が二郎に問いを発した。
「なんだい?」
「私の長子、伯邑考の事です。我が子も殷の都に捕らわれているのですが無事なのでしょうか?」
そう言う姫昌の表情や言葉は、真に己が子の身を案じているのがわかる。
そんな姫昌に二郎は笑みを浮かべて答えた。
「無事だよ。聞仲が処刑しようと動いているみたいだけど、妲己が邪魔をしているみたいだね。」
「あの紂王様をたぶらかしている妲己が?」
二郎の言葉に姫昌は驚きの表情を見せる。
「二郎真君様、妲己は何者なのでしょうか?」
「姫昌、君は紂王が何をしたのか知っているかい?」
「はて?紂王様は色々とやらかしておりますからなぁ。」
見事な顎髭を撫でながら答える姫昌は、そう言いながら笑みを浮かべている。
「女媧様の一件と言えばわかるかい?」
「なるほど…妲己が紂王様に見初められたのもその一件の後でしたな。」
優秀な為政者である姫昌は十年間前から続く殷を中心とした一連の出来事に納得した。
「では、私と息子がまだ生きているのは妲己のおかげというわけですな?」
「うん、そうだね。」
「政に携わる者としては中華を乱す妲己の存在は頭痛の種ですが、個人としては感謝をしなければいけませんなぁ。」
姫昌が朗らかに笑うと、二郎は腰に括っていた竹の水筒を姫昌に差し出す。
「それで、私に求める役割はなんでしょうか?」
「時がくれば自ずとわかるよ。」
「やれやれ、軟禁されているからといって楽はさせてもらえませんなぁ。」
そう言ってまた朗らかに笑った姫昌は、二郎に差し出された酒に舌鼓を打つのだった。
本日は5話投稿します。
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