殷の都の妲己の元を訪ね姫昌と酒を酌み交わした翌日、二郎は崑崙山に戻り、妲己との話し合いを実行する為に行動を開始した。
「士郎、出掛けるよ。」
「出掛ける?老師、どこに出掛けるのかね?」
「士郎の『気』の修行にいい場所だよ。」
そう言って微笑む二郎の姿に、士郎は何故か嫌な予感を感じてしまう。
(私も調息で『気』を整えられる様になってきたが、まだ自身の『気』を感じ取る事は出来ない。それを考えれば咸卦法を体得する為には『気』の修行は必要だが…。)
腕を組み思考をする士郎に姜子牙が声を掛ける。
「士郎よ、何を考えておる?」
「尚、どうにも嫌な予感がしてな。」
「武神たる二郎真君様の修行だからのう。それも仕方なかろう。」
姜子牙がそう言った事で、士郎は諦める様にため息を吐いたのだった。
◆
哮天犬に乗って飛び立った二郎と士郎を見送った姜子牙はニヤニヤと笑っていた。
そんな姜子牙に四不象が話し掛ける。
「ご主人、どうしたっすか?」
「なに、士郎も大変だと思ってのう。」
姜子牙の言葉に四不象は首を傾げる。
「士郎さんの『気』の修行ってなんすかね?」
「士郎は調息で『気』を整える事は出来るが、まだ感じ取る事は出来ぬ。ならば、それが出来る様になる修行だろうのう。」
「『気』を感じ取る修行っすか?」
「うむ、もっとも手っ取り早いのは、他者と『気』を交わす事だのう。」
そう言ってニヤニヤと笑う姜子牙の表情を見て、四不象も士郎の修行に思い至った。
「士郎さんが帰ってきたらお祝いの言葉を言わなきゃいけないっすね。」
「そんな事をしたら士郎は臍を曲げるだろうのう…。激辛料理を食わされては堪らぬから止めよ。」
「僕は辛いのも好きっすから問題無いっス!」
甘党である姜子牙は士郎に激辛料理を食わされる事を想像すると、心底嫌そうな表情をしたのだった。
◆
「妲己姉様、修行とは何をするのですか?」
「もう少し待ってねん♡王貴人ちゃん一人じゃ出来ない修行なのん♡」
妲己の言葉に従って王貴人がしばらく待っていると、不意に妲己が上空に目を向ける。
それにつられて王貴人も上空に目を向けると、そこには空を飛んで近付いて来る哮天犬の姿が見えた。
「妲己姉様、修行のお相手は二郎真君様なのですか?」
「残念ねぇん。お相手は楊ゼン様ではないわよん♡」
王貴人と妲己が会話をしている間に哮天犬が二人の近くに下りてくる。
すると…。
「老師、何故修行をするのに殷の都の宮殿に行く必要があるのかね?」
聞こえてきた士郎の声に王貴人は驚いて目を見開く。
そんな王貴人と目が合った士郎もまた、驚いて目を見開いた。
「妲己姉様!これはどういう事ですか!?あの者は敵ですよ!」
「老師、これはどういう事かね?何故敵である彼女が修行相手なのだ?」
修行相手に察しがついた王貴人と士郎が、それぞれの相手に問い質す。
そんな二人を見てから顔を見合わせた二郎と妲己は、揃って笑いだした。
「笑い事ではありません、妲己姉様!」
「老師、笑い事ではないぞ!」
一度場を仕切り直す様に二郎が柏手を打つと、王貴人と士郎が静まる。
「さて、二人にはお互いを相手に修行をしてもらうよ。」
「あの、二郎真君様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだい、王貴人。」
「私はこの者と何を修行するのですか?手合わせでもするのでしょうか?」
真面目な表情でそう話す王貴人がコテンと首を傾げる。
その姿にどこか懐かしい光景を幻視した士郎は表情が緩んだ。
「手合わせじゃないよ。」
「では何でしょうか?」
「二人には房中術をしてもらおうと思ってね。」
「…はい?」
二郎の言葉に疑問の声を上げた王貴人だが、言葉の意味を理解すると一気に顔を真っ赤に染める。
「ぼ、ぼ、房中術ぅ!?」
顔を真っ赤に染めながら叫んだ王貴人は無意識に後ずさる。
そんな王貴人の姿を不思議に思った士郎が二郎に問いを投げる。
「老師、房中術とは何かね?」
「他者と『気』を交わす術の事だよ。」
「ふむ、それをすると私にも『気』を感じ取れる様になるのかね?」
「少なくとも、それで妲己は感じ取れる様になったね。」
二郎がそう言った事で士郎が妲己に目を向けると、妲己は頬に手を当てて恥ずかしそうに身体をくねらせる。
その妲己の姿と王貴人の反応を見て、士郎も何かがおかしいと気付いた。
士郎の背中を冷や汗が流れる。
「老師…房中術とは、具体的に何をするのかね?」
「ん?簡単に言うと、王貴人と『ナニ』をいたしてもらうだけだよ。」
二郎のこの言葉で士郎は顎が外れんばかりに口を開いてしまう。
「な、何を言っているのかわかっているのか!?王貴人は敵なのだぞ!」
「そ、その通りです妲己姉様!こ、この者は敵なのですよ!」
初々しい反応を見せる二人に二郎と妲己は暖かい目を向ける。
「老師!」
「士郎、君は咸卦法を使えずに、この先の戦いで生き残れると思うかい?」
「っ!?そ、それは…。」
士郎は返答が出来ずに言葉が詰まる。
「王貴人、君は油断したとはいえ、力の劣る姜子牙にあっさりと捕らわれて、この先の戦いでも妲己の役に立てるのかい?」
「そ、それは…。」
王貴人は二郎の指摘に肩を落とす。
「俺や妲己の目から見て、二人がこの先も封神計画に関わっていくには力不足だ。その二人が折角の成長の機会を捨てるのかい?」
二郎の言葉に二人は拳を握り締める。
そして…。
「わ、わかりました!この者と房中術をいたします!」
「封神計画に参加する機会を逃せば、私の夢を成せる機会が次にいつ訪れるかわからない。ならば、私も王貴人と房中術をする事に否やはない!」
そう言い切った二人に二郎と妲己がニッコリと笑みを向ける。
その笑みを向けられた王貴人と士郎は察した。
あ、はめられた…と。
「それじゃ、邪魔者は去ろうか、妲己。」
「はい、楊ゼン様。」
二郎と妲己は並んで歩き去っていく。
そんな二人の背中を呆然と見送った王貴人と士郎は、顔を見合わせると揃って顔を真っ赤に染めたのだった。
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