二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第97話

「女狐め…紂王様に幻術を掛けて飛虎の奥方に懸想をさせるとは何を考えている…。」

 

杯を片手に眉間に皺を寄せてそう呟くのは殷の大師(軍師)である聞仲である。

 

「酔った上での戯れとして飛虎は誤魔化したが、生来の女好きである紂王様は幻術が解けても飛虎の奥方への懸想は変わらぬだろう。頭の痛い事だ…。」

 

紂王は中華の地に根付く人身御供の考えに疑問を持ち、その機会を減らした功績を少なからず評価されているのだが、それ以上に酒池肉林の贅沢三昧を楽しむ醜態が外聞を悪くしている。

 

一つ息を吐いた聞仲は顎に手を当てて思考を巡らせる。

 

(私の目がある内は紂王様も飛虎の奥方に手を出さぬだろうが、それでは姫昌と伯邑考の処刑の為に動く事が出来ぬ…。女狐の思惑通りというのは気に入らぬな。)

 

聞仲の脳裏に幾つもの案が浮かんでいく。

 

「後の殷の為にも、紂王様には多少の荒療治が必要かもしれぬな。例え、それで飛虎が犠牲になるのだとしてもだ…。」

 

虚空を鋭く睨む聞仲の目には、殷の為には友をも切り捨てる覚悟が宿っていた。

 

「女狐め…忠誠を誓い数百年仕えてきたこの殷を、貴様の好きにはさせぬ。」

 

杯の中の酒を飲み干した聞仲は、杯を握り砕いて立ち上がったのだった。

 

 

 

 

聞仲が杯を握り砕いた頃、崑崙山に戻った二郎は姜子牙達と手合わせをしていた。

 

「哪吒、正面からばかりでなく左右背後からも仕掛けよ!李靖!お主は石でも何でもいいから二郎真君様に投げて少しは注意を引かぬか!」

「姜子牙殿!無茶を言わんでください!」

 

二郎を相手に三人で挑んでいる姜子達は、姜子牙の指揮で立ち回っている。

 

もっとも、二郎の間合いに入ったら一蹴されるので、それぞれがなんとか距離を保とうとしながら戦っているのだが…。

 

しかし、そんな姜子牙達の立ち回りは二郎にあっさりと破られる。

 

「いたぁ!?」

 

一切の予備動作を察知させぬ瞬動で距離を詰めた二郎が、李靖の額を指で弾く。

 

痛みのあまりに地を転げ回る李靖の姿に、姜子牙は頭を抱えたい思いを堪えて哪吒に指示を出す。

 

「哪吒!空を飛び、二郎真君様の真上から仕掛けよ!」

「お前が指図をするな。」

 

士郎にあっさりと負けた姜子牙の実力を疑っている哪吒は、姜子牙の指示を無視して正面から二郎に仕掛けていく。

 

そんな哪吒に対して二郎は、李靖と同じ様に指で額を弾いた。

 

「うっ!?」

 

指で額を弾かれただけで脳を揺らされた哪吒は、フラフラとした足取りで歩いた後に地へと膝をついた。

 

「疾っ(ちっ)!」

 

李靖と哪吒が復帰する時間を稼ぐ為に打神鞭を振るって風の刃を放った姜子牙だったが、次の瞬間には驚いて目を見開く。

 

何故なら、瞬きをする間に二郎の姿が消えたからだ。

 

「まだまだ経験不足かな。想定外の事態にも素早く対処出来る様にならないとね。」

 

瞬動で姜子牙の直ぐ横に移動していた二郎が姜子牙の額を指で弾く。

 

すると、その一撃だけで目を回した姜子牙は地へと倒れたのだった。

 

 

 

 

「大丈夫っすか、ご主人?」

「う~ん、まだ地が揺れておるのう…。」

 

桶の水に浸した布を絞りながら四不象が地に横たわる姜子牙に話し掛けると、姜子牙は痛む額を左手で押さえながら呻く。

 

「ほら、これで冷やすといいっすよ。」

「それよりも神酒を飲みたいのう。」

「ダメっス!少しは痛みに慣れないといけないって二郎真君様がおっしゃっていたっス!」

 

そう言いながら四不象が額に布を乗せると、姜子牙はひんやりとした感触に大きく息を吐いた。

 

「これは心地良いのう。」

「李靖さんや哪吒くんも我慢してるんだから、ご主人も我慢するっすよ。」

 

そう言うと四不象は姜子牙と同じ様に横になっている哪吒達の元に向かった。

 

「はぁ…儂は成長出来ているのかのう…?」

「封神計画を始めたばかりの頃よりは、確実に成長出来ているよ。」

 

自身の一人言に二郎の返事を聞いた姜子牙は、地へと身体を横たえたまま二郎に目を向ける。

 

「でも、姜子牙には経験以上に覚悟が足りないかな。」

「儂は中華の民を犠牲にしたくは無いのだがのう…。」

「そういう我儘を言うには実力が圧倒的に足りないね。少なくとも今のままでは、他人だけでなく仲間にも犠牲が出てしまうよ。」

 

二郎の言葉に姜子牙は拳を握り締める。

 

「かつて戦や流行り病の際に、民に一人も犠牲を出さなかった偉大な王がいたよ。」

「二郎真君様、その王とは?」

「千年近く前の時代にウルクで賢王と呼ばれた男。その者の名はギルガメッシュ…俺の友だよ。」

 

柔らかな笑みを浮かべて虚空を見詰める二郎を見た姜子牙は内心で驚く。

 

(二郎真君様もこんな表情をするのだのう…。)

 

中華の地にて隠れなき武名を誇る二郎は、その在り方そのものが中華に生きる者達の憧れである。

 

そんな二郎に友と呼ばれる存在がいたことを、姜子牙は初めて知った。

 

(怠け者な儂にも、いつの日か士郎を友と誇る事が出来るであろうか…?)

 

額に乗せていた布で目を覆った姜子牙は思考を巡らせていく。

 

そして姜子牙は元始天尊の命で行っていた封神計画を、己の意思で行う事を決意したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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