(略)のはAce -或る名無しの風- 作:Hydrangea
尚、テンプレ(という名の前書き)でも触れている通り、本作は横表記文字サイズ中を前提としており、特に今回の話ではそれに依存したレイアウトとなっている事を、予めこの場で明記させていただきます。
また、今回の話から改行のタイミングその他を今までとは少し意識して変えています。その辺りの読みやすさ等についても感想を戴けるとありがたいです。
「ゴメン! 遅くなっちゃって。……間に合ったかな?」
「いや、まだ大丈夫だ。慌てる様な時間じゃない という訳でもないがな」
次元の波間へ錨を下ろす超大型次元航行艦にして、時空管理局“海”の総元締めたる「本局」。その一区画に設けられた訓練用施設の一角に今、まさしく精鋭と呼ぶに相応しい錚々たるメンバーが集結していた。
たった今到着した“エース・オブ・エース”を皮切りに、古の業を受け継ぐベルカの騎士が三人、しかもそれも其々が各分野におけるエキスパートであり、尚且つ現場における信頼も厚い者達ばかり。分母が少ないとはいえ、その魔導師ランクの平均が文句無しの「S」であると言えば、如何に豪華な面子であるのかが判るだろうか。
その一角、僅か4人の女性の集団が、管理局員やそれを志す少年少女にとっては何よりの憧れの的であり、同時に犯罪者達にとってはこの上なく恐ろしいカルテットとなっているのである。
「おせーぞなのは。時間ってのは守る為にあるんだろうが」
「まぁまぁ、そう言わないの。
皆だって忙しいんだし、こうして集まれた事だけでも十分でしょう?」
そして“第一人者である”という事は、相応の需要に基づくものであり、即ち何よりも忙しいという証でもある。唯でさえ慢性的な人手不足に悩まされる管理局が、勤労意欲著しい「優秀」な魔導師を遊ばせておく道理などある筈も無く、次元世界の中でもトップクラスの好待遇である高位魔導師は、同時に何よりもハードワークな職業でもあった。
誰が言い始めたのか「給料が良くても使う時間が無い」という冗談は、相応の役職に就く局員にとっては最早冗談でもなんでもなく、分刻みのスケジュールを回す猛者の存在が都市伝説として真しやかに語り継がれている程でもある。
なまじマルチタスクといった技術がある分、魔導師にとっての「標準」は魔導文明の存在しない世界のそれと比べ余計に高くなり、(嫌味にも聞こえるかもしれないが)資質の高さが必ずしも人生における余裕へ繋がらない環境となっているのである。
加えて、その限られた戦力を少しでも効率的に運用するための「戦力制限」の制度が、当人達にしてみれば極々普通の仲良しグループを、「奇跡の世代」たらしめているという事情もある。
通常ならば、同期入局の新入りが10人20人入った所で、部署全体における戦力には殆ど影響は無い。しかし彼女達の場合、その個々人があまりにも優秀すぎるが為に、大抵の場合二人並べばそれだけで制限を軽く越えてしまうのである。
当然、一堂に集う事などそれこそ世界を揺るがす大事件でも起きない限りあり得る話ではない。
だが、現実に彼女達は(一人の滑り込みはあれど)こうして集まっている。しかもそれは、対ロストロギアの特別部隊が編成された為でも、凶悪な次元犯罪者を相手取る為でもない完全な私事であり、尚且つ「模擬戦の立ち会い」などという、物々しささえ感じられる理由の為であった。
「なのはも着いたみたいだね」
「その様だな。
……ならば、そろそろ始めるとしようか」
言わずもがな、極々普通の訓練としての模擬戦であれば、教導官や医務官はまだしも、通常の武装局員である他のメンバーまで集まるのは難しいだろう。
然らば、彼女達がこうして駆け付けたのは、それが普通ではない“特別”である証。臨む両者が、どちらも縁深い存在であるが故の事。
『多忙の身であろうにも関わらず、態々済まないなテスタロッサ』
『ううん、大丈夫だよザフィーラ。忙しいのはお互い様だもの。
でも珍しいね、シグナムなら兎も角、貴方が模擬戦を申し込んでくるなんて』
『うむ。これだけは、どうしても直接会わなければならなかったからな』
古代ベルカの生きた伝説『ヴォルケンリッタ―』が一騎:盾の守護獣ザフィーラ・八神と、時空管理局の“剣”たる執務官の一人フェイト・T・ハラオウン。
フィールドにて向かいあうそのどちらもが観客達に勝るとも劣らぬ実力者であり、また深い親交で結ばれた間柄でもある。その間柄を知るものであれば、有事の際には所属は勿論ベルカ―ミッドチルダという在りし日の
この強い縁こそ、これ程までに豪華なメンバーを“当然の事”として集められた一番の原動力でもある。勿論、彼女達とてそれは承知しており、今の今更疑問を挟む余地などありはしない。
「でも、急にどうしたんだろね。態々皆を集めまでして。
それに……」
「ええ、確かに気になるわねぇ。
シグナムならまだしも、ザフィーラがこんな事を持ちかけるなんて」
「おいおい、テスタロッサといいシャマルといい、
それじゃあまるで、私が剣を振う事以外に能の無い駄目人間みたいじゃないか」
「……誰もそこまでは言ってねーだろ。
まぁ、なのはの疑問にゃあたしも同意するけどな」
ならばこそ、今の彼女達が抱く疑問は、或る意味では親しいが故に、「良く知っている」が為に生まれたものと言えよう。
寡黙な性格やそのポジション故、ともすれば他の三人と比べ影が薄いものと思われがちなザフィーラではあるが、彼もまた剣林弾雨を潜り抜けてきた
しかし、例え彼が他の騎士達に後れを取らない戦闘能力を有していようと、その本来の役割は前述の通り「盾」であり、あくまでもその勝利条件は「守り抜く事」。即ち、背に誰かを抱える時こそが彼の立つべき戦場であり、真価を発揮する舞台。
故に、今回の様な純然たる「一対一」という構図は、彼を良く知る仲間達にとっては聊か奇妙にも映ったのである。
勿論、彼が使命の外で純粋に個人としての力量を磨こうと考えるのはなんら不自然な事ではないし、闘争本能著しいベルカの血筋を引くが為に、彼もまた“そんな気分”になる時もあるのかもしれない。そも、こういった考えそのものが思い過ごしである事も十分にあり得る話ではある。
しかし、「拳の勝負」であればフェイト以外に適任はいくらでもいるし、「盾」を試すのであれば、それこそ一対多数で袋叩きにでもされない限り、彼の実力を鑑みても温過ぎてまともに磨く事さえままならない。何より、何れの理由にしても態々こうして観客を集める事には繋がらない。
だが、それら渦巻く疑問の中においても、ザフィーラの様子からは「気まぐれ」や「思いつき」といったものは感じられなかった。
自然、聴衆の背筋もフェイトのそれと同様張りつめたものとなってゆく。
『ゆくぞっ!』
それまでの静寂により一層けたたましく感じられたブザーと共に、それさえかき消す程の気迫によって幕が押し開けられる。
瞬間、聴衆の疑問は驚愕へと姿を変えた。
驚くべき事に、先に動いたのはその魔力変換資質「
しかも、踏みしめた一歩目を前ではなく上へ向けそのまま急上昇。目の前のフェイトは勿論、ざわつく外縁までもが一切視界へ入っていないかの如く、只々天を目指し飛翔していったのである。
そして、衝撃は未だ潰える気配を見せず。
高高度空中戦も視野に入れて敷設された防護結界ギリギリの高さにまで上り詰めたザフィーラは、なんとそこで騎士甲冑を含む全武装を解除、一転して急降下を始めたのである。
瞬く間にその距離を詰めてゆく地表。いくら常人ならざる守護獣とて、種々の安全措置が施された模擬戦闘とはいえ、身を守る鎧も無しにその様な暴挙に出れば、最悪でなくとも大怪我は必至。
だが、誰よりもそれを理解しているであろうザフィーラはしかし、欠片たりともその勢いを緩める事は無く、あまつさえ重力に上乗せし更なる加速へと飛び込んでゆく。
『これが私の……俺の、覚悟だ!!』
着弾 そう形容する他無い程の轟音と共に、濛々たる土煙が区画を満たしてゆく。
やや前方、何も無い場所へ「落ちた」にも関わらず、バリアジャケットを纏い浮遊していたフェイトにまで余す事なく伝わってきたと言えば、その衝撃の大きさが推し量れるだろうか。
「どういう……事なの……」
困惑は驚愕へ 驚愕は更に深まる困惑へ
未だ視界の晴れぬ状況の中、なのはは依然として混乱の只中に取り残されていた。
それも当然だろう。開始より間も無いとはいえ、恐らくは全身全霊を掛けたであろうアクションを目の当たりとしても尚、結局ザフィーラの意図や動機は何一つ明らかになっていないのだ。
先程のそれも、彼女にとっては理解の外側のものでしかない。
「ねぇ、さっきのはもしかして……」
「ああ、我らの目が正常なら間違いなく……」
「まさか、アイツ……」
だが、一方で残る三人。彼と故郷を同じくする守護騎士達の困惑は、なのはのそれとはやや方向が違うものであった。
言うなれば、半端に「知っている」が為に生まれてしまう、確信を欲する思考の放浪の様なもの。当然、全くの五里霧中であるなのはとは、立ち位置も進行方向も全く異なる。
それぞれの想いを胸に、しかし同じ時の歩みの下に暗雲は晴れ往く。その時、その瞬間、其処にあったのは――
唐突に申し訳ないが、皆さまは「黄金比」なるものをご存じだろうか?
とはいえ、何も複雑怪奇なる数式や小難しい定義について語ろうとするつもりはない。そういったものは専門家に任せるとして、今此処で重要なのは、それが持つ「美しさ」についてである。
それは、遍く次元世界へ数多く存在する彫刻や絵画、各種芸術品においてもしばし見受けられる数字にして、「黄金」の名に違わぬ美しさと、内なる無限を秘めし大自然の奇跡。可能性という名の神秘を纏う神代の幾何学。
それら黄金比の持つ
何故そんな事を急に と思う事だろう。脈絡が無い事は此方とて承知している。
だが、“それ”を現実に目の当たりとした今、黄金比についてを欠片たりとも「知らない」というのは、何にも代えがたき悲劇でしかない。そう断言できるだけのものを、紛う事なき確かなる「黄金」を、“それ”は有しているのだ。
ひとつ 揃えられた両の手は百獣の王よりも雄々しく
ふたつ 垂れた頭の荘厳さたるや仏に勝るとも劣らず
みっつ 畳まれた膝を奔る血潮が情熱は火山をも沸騰させ
よっつ 滑らかなる曲線を描く背の優雅さはギリシア彫刻をも凌駕し
――そして その在り方はこの世の如何なる存在をも上回る「美しさ」を以て完成されるッ!!
「間違いない……あれは『平身低頭覇』ッ!」
「知っているのかヴィータ!? …………ちゃん!」
「うむ!」
◇◇◇
平身低頭覇(へいしんていとうは)……古代ベルカ、戦乱の時代において、後に“覇王”と称されるシュトゥラの名門貴族・イングヴァルト家が時の長子アマデウス(Amadeus= Ingward)により編み出された秘奥の業。
流された血により綴られてきたと言っても過言ではない古代ベルカの歴史を少しでも知る者であれば、後の“覇王”を輩出した家の、それも実質的な「武闘派としてのイングヴァルト家」の始まりとも言えるアマデウスが直々に編み出した奥義と聞けば、龍さえ恐れ戦く程の残虐極まる絶技を想像するに難くはないであろう。
しかし、平身低頭覇の真の姿はそれら世間の「誤った」常識とは全く逆のものであり、初めて世に現れて以来、一滴たりとも血を流したという記録を残してはいない。
それも当然だろう。何故なら、それは破壊の為の業に非ず。戦うべきは敵ではなく己自身であり、示すのは戦果では無く『覚悟』。
平身低頭覇とは、誰よりも強く在らんと欲した、何よりも純粋であった一人の漢が魅せた、人間としての美しき魂なのである。
より詳細を語る為には、術者であるアマデウスの来歴と、そこから生まれ出でた平身低頭覇に込められし願いについて触れない事などできはしない。故に、読者諸兄にはこれより今しばらく、古代ベルカの歴史語りへお付き合い願いたい。
時は古代。未だベルカが“聖王”の下一つに纏まっておらず、各地の有力貴族達が銘々「王」を称し覇を賭していた時代にまで遡る。
老いも若きも、男も女も。ベルカの地に住まうおよそ全ての人間に安寧と平穏が許されなかった修羅の時代。そこでは、人々の上に立つ者……例えば貴族や領主といった地位にある者達は、同時にその個々人の有する主義や主張・信条に関わらず、常に魁となり戦場へ向かう事を強いられる立場でもあった。
それは、牙を持たねば文字通り全てを奪われる時代が生みだした慣習であり、またある意味では本能的に戦場を欲するベルカの気質が齎した血の
特に戦乱の激しかったシュトゥラの地に生まれた事もあったのだろう、当時こそ唯の一有力貴族でしかなかったものの、既に代々受け継がれてきた類まれなる武の才と技とはこの時から既にその片鱗を見せ始めており、戦いと呼べる戦いには余さず足を運び、一歩ずつ、しかし確実にその勢力を広げる日々を送っていた。その勢いたるや、周辺諸国の中でも特に抜きん出た二頭の一つに数えられた程である。
だが、その栄光の時代において只一人、長子であり他ならぬイングヴァルト躍進の筆頭でもあったアマデウスだけは、他の同年同世代と比べ異質なる性格を有していた。
簡潔に纏めれば、アマデウスは“争い”が何よりも嫌いであったのだ。無論、彼とて誇り高きベルカの血筋を引く者。日常のすぐ傍らに武が息づく生活を常としており、また彼自身長らく家の片隅で眠っていた数々の書物を積極的に掘り起こしては読み耽る等、武技を磨く事それ自体を好んではいた。けれども、それはあくまでも「純粋なる武技として」であり、少々矛盾する話ではあるが、それを実践する事を、濁った血潮が野心の脈を刻む鉄火場で振るう事を、何よりも嫌っていたのである。
しかし、時代は彼に戦う事を求めた。前述の通りアマデウスは長男であり、イングヴァルトを、そこに住まう力無き民を背負う立場でもあったのだ。
血で大地を潤す修羅の時代、戦いに敗れた国が、その民が如何なる扱いを受けるのかは、あえて明言せずとも聡明なる読者諸兄ならば容易に察せられる事だろう。当然、それを彼が知らない筈が無い。
自らの信条を血で汚したくはないが、しかし血を流さなければ民を守り通せはしない。
『剣を持たねば、お前を守れない。剣を持てば、お前を抱き締められない』というベルカの故事にもあるこのジレンマに、アマデウスもまた突き当たったのである。
彼は悩んだ、悶え苦しんだ。そして葛藤に次ぐ葛藤の果てに、彼は自らの心を固く閉ざした。
己を殺し、修羅と成り。圧倒的なる“
当然、そんな選択を強いた世界が彼に優しくあろう筈も無い。修羅の怒りでも、仏の慈愛でも、人間が人間である限り万人を救う事などできる筈も無く、拳を振う度“敵”を打ち倒す度に、彼の顔からは笑顔が消え、その心は擦り減ってゆく。誰よりも“覇王”に近い力を持つ彼の心は、しかし何よりもその称号が似つかわしくない程に純粋過ぎた、優し過ぎたのだ。
何の為、誰の為かも判らぬ目的を、心も感情も無く完遂する為だけの心無き
後の世における「恐ろしい存在」としての覇王像は、この時期におけるアマデウスの凄惨なる姿が元であるという説が有力視されている現実を鑑みれば、それが如何に凄まじいものであるかが窺い知れるだろう。
そんな彼に、ある一つの転機が訪れた。メヒティルデという、一人の娘との出会いである。
戦場における同舟という浪漫に欠ける出会いでこそあったものの、二人は直に打ち解けていった。それは、単なる容貌の麗しさ以上に、彼女がアマデウスに勝るとも劣らない美しき心を、平和を望む優しき心の持ち主であったが故の事だろう。その出会いにより、彼の人生は大きく変わる事となった。
何にも勝る「一番」を、魂の軸とでも言うべき存在を得た彼の拳は再び黄金の輝きを取り戻し、義務や運命ではない自らの意志で振るわれるそれは、瞬く間にシュトゥラを覆っていた暗雲を吹き散らしていった。
そして、相手たるメヒティルデも彼の情熱を快く感じたのであろう。共に立つ戦場で、或いは穏やかなる日常の中で、二人は次第にその交際を深めていった。メヒティルデとの出会いは、長き冬に喘いでいたアマデウスにとってはまさしく春一番となったのである。
しかし、深く歴史に通じる読者諸兄ならば既にお気づきの事であろう。あの古代ベルカが、因果応報と諸行無常により編まれた極彩色のタペストリーが、そうも容易く男女のラブロマンスを受け入れるものかと。そして、その疑念は紛れも無く確信のものである。
なんたる悲劇、アマデウスの笑顔を取り戻したその娘こそ、躍進目覚ましい「もう一つの勢力」にして、同じくベルカ統一という志を抱きながら、しかし僅かな方向性の違い故袂を別つ事となった同門の有力貴族……「虎」のイングヴァルトと対を成す「龍」、後の聖王家たるゼーゲブレヒトの一人娘、メヒティルデ・ゼーゲブレヒト(Mechthilde=Sagebrecht)その人だったのである。
無論、二人の間柄が深まる事をその周囲が黙って見過ごす筈も無く、様々な思惑や利権が絡み合い、しかし「仲を裂く」という一点において奇妙な連携を見せた両家は様々な手段を以て、二人の関係を崩そうと躍起になった。
だが、ここで敢えて読者諸兄に問わせていただこう。その様な小細工で、老いた馬さえ踵落としを放ちそうな程までに無粋なる横槍で、二人の間柄を引き裂けるものかと。
惹かれあう
当然、その様なものを間近で見せつけられようものなら、対抗心に滾る周囲が同調して燃え上がるのは自明の理。一方がよくも傷物にしてくれたな[検閲済]と罵れば、もう一方は誑かしよってこの[検閲済]と罵倒を返す平行線。
「子どもの喧嘩に親が出る」の故事の元になったとも言われるこの争いは、あわや同門同士での戦争一歩手前の自体にまで陥る事となった。
そして、その窮地を打破すべく編み出されたのが、彼の奥義・平身低頭覇なのである。
延長に次ぐ延長戦、「これがご破算となれば即開戦」という正真正銘最後の会談の場において始めて世に出でたそれは、昇竜が如く飛翔した術者が裂帛の気合と共に完全武装解除、一転し流星と見紛う速度を以て地に五体を投げだすというものであり、副次的に着弾時においてクレーターを刻む程の衝撃こそ発生させど、前述の通り直接的な攻撃能力は一切有してはいない。
だが、その腕一つで文字通り世界に覇を唱えられる程の英傑が頭を低く下げ、あまつさえ剣であり誇りでもある身を地へ平に伏すという行いの持つ“
五体投地は築き上げた“
その会談より後の歴史については、残念ながら詳細を記した歴史書が軒並み失われてしまい、現在においても推測の域を出るものにはなっていない。しかし、これより後の時代においては、聖王ゼーゲブレヒトの傍らには常に“影”たるイングヴァルトが存在し続けたと言われている。両家は其々が昼と夜を守護する太陽と月の化身となり、終幕を迎えるその日まで永劫ベルカを守護し続けたのである。
そして、ここまでの時点で賢明なる読者諸兄は既にお気づきの事であろう。そう、この平身低頭覇こそ、現代において最高位の謝罪方法と位置付けられている「土下座」の起源なのである。
無論、現代におけるそれと古ベルカの奥義とは難易度も意味合いも全くの別物ではあるが、この相違は一説によると、ベルカの凋落・崩壊に伴い数多くの秘儀が失伝してしまった中で、平身低頭覇もまた本来の意味合いを薄れさせ「謝罪」の部分のみが強調・一人歩きした結果とされている。
なお、所謂「土下座」という名前の由来については、古代ベルカ史・特に乱世の近辺の第一人者であり、当人もまたベルカ貴族の血を引くとされていた学者ジークヴァルト・ド・ゲズウェアの名にあやかったものとするのが昨今における定説となっている。
Leute&Licht書房刊『乱世にみる古の奥義―古代ベルカ編―』より
◇◇◇
⌒
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切れた! その
僅かばかりの理性により辛うじて口から漏れだす事こそ防いだものの、縦横無尽に氾濫するマルチタスクの海で荒れ狂うは、年頃の乙女のそれとは到底思えぬ……乙女の……乙女……?
…………失礼。
切れた! その
僅かばかりの理性により辛うじて口から漏れだす事こそ防いだものの、縦横無尽に氾濫するマルチタスクの海で荒れ狂うは、凛然たる淑女のそれとは到底思えぬ程に品性を欠いた感情のうねり! その坩堝の底で脈動する混沌の模様たるや、正しく歯車的海渦の小宇宙!
なのはは今、まさに
彼女とて、この“非日常”を嫌っている訳ではない。
確かに、彼女の、そして彼女の生まれた世界にとって、その力は「超常」のものであり「異端」なる存在。そして、本来であれば凡百ながらも平穏なる人生を歩む筈であった一人の少女を、静けさからは程遠い戦いの道へと引き込んだ張本人でもある。
だが、同時にそれは掛替えの無い親友を、変え難き出会いを齎してくれたのもまた事実である。
或いはもしかしたら、これよりも幸福な未来が何処かにはあったのかもしれない。けれども、この道を選択した高町なのはの
何より、非常識を常識に置き換えつつある今となっても尚、彼女は果てなく続く蒼き空を、その無限の海を羽ばたく事を愛しているのだ。無論、この場にいるヒト達の存在は言わずもがな。
しかし、それとこれとは話が別。
好意と全肯定とは必ずしも同義ではないし、愛と盲信とは全くの別物。なのはの周辺には極端に“例外”が密集しているとはいえ、永遠の蜜月なんてものは極々限られた界隈での話であり、倦怠期もあれば飽きの訪れが来るのが現実なのである。
もしかしたら、
閃光と雷鳴轟くこの世界へ飛び込んで十余年。純粋 とは言いきれずとも純情ではあった少女に訪れた数多の出会いは、その血肉となった経験は、胃もたれが約束されている程までに濃厚過ぎるものであったのだ。
彼女自身もまた使い手であるミッドチルダ式を相手取っている時分はまだ“マシ”であった。
比喩でも誇張でもなく実際ババa……もとい、「老婦人」と呼ばれても仕方の無い年齢にも関わらず露出過多な衣装に身を包んだ魔女や、どう考えてもその血筋を引いているとしか思えない現在の親友(脱ぐと早くなる)程度であれば、まだ許容範囲内に収まるものではあった。
こう表現すると其方も中々に大概なものであり、かつ「その程度」と言ってしまえる辺り随分毒されている様に思えるが、「その程度」であれば、まだ異文化故のギャップとして見過ごす事ができたのだ。
だが、それと対を成すベルカ式。それも、先述の
直接的な体験に限ったとしても、出会い頭に纏劾狙振弾をぶっ放してきた赤ロリやら、直接リンカーコアをぶち抜くというド外道技を「ん!? 間違ったかな……」の一言で済ませる人妻、古今東西はおろか二次三次に至るKENZYUTUに精通している将(笑)に加え、どんな企画に基づいたのか犬耳と尻尾を生やした筋骨隆々浅黒ガチムチ等、その“非常識”の例は枚挙に暇が無く、しかも全てが僅か数ヶ月の間に纏めて押し寄せてきたのだからたまったものではない。
その
「善良なる常識人」を自称する彼女にとっては全く以て笑えない現実が、そこにはあったのだ。
また、愉快なる友人達程ではないにせよ、所謂「次元世界人」という者は(なのは主観では)中々に螺子の飛んでいる連中揃いであり、事件一つ一つの詳細は省かせてもらうが、何れも培ってきた常識と程良い腹筋とに多大なるダメージを蓄積させ続けてきた。
それらと比べれば、AAAランクのステルス機能を駆使し非殺傷ガン無視で奇襲を仕掛けてきた違法型魔導兵器(なお5秒と保たず廃品と化した模様)なぞ可愛いものなのである。
『例え記憶そのものが曖昧であろうと、社会が受け入れてくれようと、
この両の手が血で汚れている事は承知している。
真っ当な生き方が許された今でも、己の過去が清算されたなどとは思っていない』
『だがそれでも、それでも私は、彼女を愛しているのだ。
偽りに塗れたこの身においても尚、それだけは確かなる真実だ』
『例え何があっても、彼女を守り抜く。
課せられた使命の……「盾の守護獣」としての
自らの意志で生きる一人の
「ザフィーラ……お前、そこまでアイツの事を」
「いつもは「黙して語らず」みたいな感じだったけど、やる時はやる気質だったのねぇ」
「うむ、それでこそ誇り高きベルカの騎士だ」
(あ、でもそれぐらい熱いプロポーズとかだったら欲しいかも。
実家の道場でお父さんやお兄ちゃんが「なのはが欲しければ自分達を納得させてみろ」
とか言い始めて、でも圧倒的プレッシャーを前にして一歩も引かず
剩「認めさせるのは良いが……別に、二人とも倒してしまっても構わんのだろう?」
なんて宣言しちゃって、それからそれから……)
これ以上、そんな“濃い”ものを摂取する訳にはいかない。否、既に飽和状態にある身体が自然と拒絶するのは明白。然らば、この現状もまた必然の結果と言えよう。
目の前で繰り広げられる、ベルカ―ミッドチルダの高い垣根を、更には「造られた生命」という重責さえも撥ね退ける一世一代の大勝負が行方を右から左へ聞き流し、只管に自分の世界へと沈んでゆくなのはさん[結婚適齢期]才。
周囲が喜びと感動と祝福の笑顔を浮かべている中、唯一人明後日の方向へにやつくその姿は、とてもではないが少年少女憧れの的であるエース・オブ・エースとは思えない程に俗物であった。
もしくは、そう思える程に“普通の”女性をしていたとでも言うべきか。
しかし、彼女は大切な事を忘れていた。或いは、その“うっかり”もまた必然なのだろうか。
彼女は忘れていた、この世は所詮因果応報と諸行無常によりできている事を。意図せずとも立ててしまったフラグは、必ず回収されるという事を。それも、斜め上の方向で。
その詳細を語るのはまたの機会にするとして、唯一つ現時点で言える事は、
『高町なのはは、その人生の中で今一度平身低頭覇を目撃する事となる』という真実のみである。
それも、この上無い“特等席”で。
※この物語はフィクションです。実際の人物・団体とは関係ありません。
また、ゴルフやフェンシング等の起源が中国であるといった通説はございません。