ウチが〈組織〉と行動を共にするようになったのは、〈矢〉に貫かれた僅か三日後だった。〈組織〉はその怪しげな素性とは裏腹に、親切な人々ばかりだった。
「だから、まゆさんも一度だけでも〈組織〉へ顔を出すべきだと思うんだ。この
「そう、ですか……」
そう真剣な表情で語る早坂美玲の目に、虚偽や狂気の類いは見られない。美玲の評価だけで判断するのは危険だろうが、それなりに信用はできるのかもしれない。
「それで、私は何処に向かえばいいんですか? その〈組織〉が大っぴらに活動しているなら兎も角、そうでないなら探すのも一苦労になると思うんですけど……」
「あ、それなら問題ないぞ! 〈組織〉の本拠地はすぐに行けるから」
そう言うと、美玲は部屋の隅に置かれた『古ぼけたクローゼット』に目をやる。可愛らしいぬいぐるみや人形で装飾された部屋には不釣り合いなその家具は、異様な存在感を放っていた。
「さて行くぞ、まゆさん!」
「え、えっ?」
美玲はそう言ってまゆの手を握り、クローゼットの扉を開く。その中には数々の衣装が所狭しと入れられていて――その空間へ美玲は躊躇なく身を滑らせていった。
「へっ!?」
当然美玲に手を握られていたまゆもその空間に入ることとなり――美玲の部屋から人の気配はなくなり、静寂の支配する空間へと変わった。
まゆが瞑っていた目を恐る恐る開くと、其処は白い壁と床で囲まれた部屋だった。
「Hello、Name:早坂美玲。そして……Welcome、Name:佐久間まゆ。此処は、幽波紋所持者保護&捕縛団体〈エーシー・ディーシー〉デス」
唐突にかけられた声に体を震わせると、まゆはすぐに声のした方向を向く。そこには、女性……いや、それは人型であるものの、衣服の隙間からは生気の感じられない、機械の肌が覗いている――そう。立っているのは、アンドロイドだ。
「Sorry、自己紹介がまだデシタネ。私は〈アカ・ダカ〉……この組織の管理を行う管制機器にして、今は亡きノイマン氏の
「え、え? ……えぇ!?」
混乱が混乱を呼ぶ状況にまゆはついていけず――数分の硬直の後に、意識を失った。
――ジョン・フォン・ノイマン。
1903年にハンガリーで生まれ、アメリカで活躍した数学者。そして、20世紀の科学史に名を残す最重要人物の一人。
驚異的なまでの
信じられないことだが、彼女(?)はそのノイマン、彼のスタンド能力であるらしいのだ。
「でも、だって、スタンドは精神の具現したものだと聞きましたけど……貴女は物質としてそこに在りますよね?」
「Exactly。流石の慧眼デス、Name:佐久間まゆ。しかし、スタンドというのは文字通り――『気の持ちよう』なのデス。彼、ノイマン氏は私を残すために機械の素体を造り、そこに私を封入しました」
そんなこと、誰が思い付くのだろう。いや、そもそもそんなことが可能なのだろうか。それを思い付いたこともそうだが、実行に移したのも、驚きだ。
「現在、私はこの素体を本体とした物質に宿るスタンドとして活動していますが、これは例外的なものデス。通常のスタンドは本体の意識が無くなるか死んでしまえば、そこで消えてしまうことを忘れないでクダサイ」
そう告げる彼女(?)の顔と声は、機械であることを考慮せずとも完全に冷えきっており、すなわち……暗に、
「さて、Name:早坂美玲……Name:佐久間まゆをこの場に招いたのは、私にスタンドの説明をしてもらうため。そのような認識でよろしいデスカ?」
「うん、それで合ってるぞ」
「OK。それでは私も誠心誠意、教えさせていただきましょう……スタンド、それは〈
「惹かれ合う、って……」
困惑するまゆに対し、平然とした様子で頷き返す。
「言葉通りに受け取ってクダサイ。スタンド使いは、同じくスタンドを持つ者に惹かれ、出会う運命なのデス。Name:佐久間まゆ、貴女が矢に貫かれた後に敵性スタンド使いに出会ったのも、運命デス」
「そんな……それじゃあ、私はこの先――」
「But、だからこそ。スタンドの扱いを覚え、自らの身を守れるようになりましょう。まずは、スタンドを出すところからデス」
そう言うと、アカ・ダカはまゆの手を握る。
「私、〈AC/DC〉の能力は『潜在能力の引き出し』――さあ、落ち着いて、Name:佐久間まゆ。自身の内面に意識を向けて……」
その言葉に、自然とまゆの心は鎮まる。そして、自分の内側に意識を潜らせ――何かを感じる。
「見付けましたネ。では、感じるままに
内面に潜んでいた……いや、ずっと傍に居たモノ、『
「……〈ピンク・フロイド〉」
気付けば、まゆの傍には人型の何かが居た。
所々、ピンク色のリボンで装飾のされた、無機質な身体。まゆは、この人型――〈ピンク・フロイド〉が自分のスタンドだと、不思議と確信を持てたのだ。
「Good、Name:佐久間まゆ。では、スタンドのルールを説明しましょうカ」
アカ・ダカはまゆの手を離し、言葉を続ける。
「スタンドのルール、その一――『スタンドを見ることができるのは、スタンド使い』。私のように物質と同化しているモノを除き、スタンドというものは決まってスタンドを持たない一般人には見えません」
だから、と前置きをしてアカ・ダカは〈ピンク・フロイド〉とまゆを一緒にカメラで撮る。そして出された写真には――〈ピンク・フロイド〉の影など全くなく、まゆの姿のみが写し出されていた。
「このように、撮影・映像機器にも写りません。スタンドのルール、その二――『スタンドに触れれるのはスタンドだけ』。スタンドの方から接触するしないを決めることは出来ますが、スタンド以外がスタンドに触れようとしてもすり抜けマス」
アカ・ダカに指示され、まゆは恐る恐る〈ピンク・フロイド〉に触れる。が、まゆの手はあっさりと、〈ピンク・フロイド〉の身体をすり抜けた。
「スタンドのルール、その三――『スタンドは本体の意思によって動く』。スタンドのルール、その四――『スタンドは本体から離れて行動できる距離に限りがある』。さあ、Name:佐久間まゆ、ソレを限界まで自分から離れさせてみてクダサイ」
そう言われ念じてみると、まゆが思ったよりもすんなりと〈ピンク・フロイド〉は動かすことができた。強く念じたりする必要は無いようだ。
そして、歩かせるとまゆから二メートル離れたところで、ぴたりと行動を停止した。
「スタンドのルール、その五――『スタンドが傷付けば、本体も傷付く。本体が傷付けば、スタンドも傷付く』。特に、人型のスタンドはこの性質が顕著に現れマス。これには、Name:佐久間まゆもアイドルデスし、キチンと注意してクダサイ」
スタンドが傷付けば、本体も傷付く。その言葉に、まゆはグッと歯噛みする。その性質が本当ならば――今さら疑うよしはないのだが、確かにスタンドを扱う上で注意しなければならないだろう。
「スタンドのルール、その六――『スタンドは一人一体まで』。スタンドのルール、その七――『スタンドは特殊な能力を一つ持つ』。これら、スタンドのルールデス。覚えておいてクダサイ」
「スタンドの能力って……前に美玲ちゃんが言ってた」
「覚えてくれていたんだな! そう、まゆさんの最初に出会った〈アイアン・バタフライ〉の『空間の切り取り』のように、スタンドには一体一体に固有の能力があるんだ。アカ・ダカの能力だと、そこまでは引き出せないみたいだけど、まゆさんのそれ――〈ピンク・フロイド〉にも固有の能力はあるはずなんだ」
美玲の言葉に、まゆはぼんやりと〈ピンク・フロイド〉を眺める。まだ、その
スタンド紹介②
スタンド名:『AC/DC』
本体:ジョン・フォン・ノイマン(故)
破壊力:なし→C スピード:なし→C 射程距離:E→
持続力:B→
能力:本体の持つ潜在能力を引き出す。ただそれだけとは言えど馬鹿には出来ず、今は亡きノイマン氏の頭脳もこのスタンドによって引き出されたものらしい。接触することで、他者にもその能力を限定的に使用でき、その対象のスタンドの覚醒を補助することも可能なのだとか。パラメータはノイマン氏が没する前と没した後。
スタンド名:『ピンク・フロイド』
本体:佐久間まゆ
破壊力:A スピード:A 射程距離:E
持続力:E 精密動作性:B 成長性:B
能力:詳細不明。近距離パワー型の人型スタンド。