迷い込んだのはリリカルな世界 By Build 作:Plusdriver
12月14日。既にあれから二週間程経過していた。今日はフーカのウィンターカップの予選の日である。
彼女の帰りを待っているナカジマジムの面々とは異なり、戦兎は管理局を訪れていた。
アリシアが戦兎の娘になり、フーカとも初めて会った次の日。ミッドチルダの端で火災事件があったのだ。
幸い倉庫は既に老朽化により破棄されていた為に被害者はいなかったのだが、問題が一つ有った。
現場にパンドラボックスの欠片が落ちていたのだ。この世界にパンドラボックスは存在していない。一斗が破壊したはずだが、事件現場に落ちていた為に調査の依頼が戦兎に流れて来たのだ。
『次元の狭間へはエニグマでもアクセスする事は出来ません』
「やっぱりそうだよな」
ミカと話しながらでも戦兎は仮想スクリーンを見詰める。平行世界から流れ着いたものなのかと以前創り上げたパンドラボックスのレプリカと比べているものの明らかに一致しているのだ。
「...葛城さんに動いて貰う必要があるかもな」
『通信を今すぐにでも繋ぐ事が出来ますが...』
「いや、まだいい」
戦兎自身もわかっているのだ。一応地球には魔法文化は根付いていない。そんな世界に英雄の道具を開発した人物がいることは管理局にも話していない。こちらの世界だけで解決へと導かなければならないのだ。
戦兎は管理局を後にした。調査は少しずつだが確実に進んでいるのだ。が、まだ何故今更パンドラボックスの欠片がミッドチルダのあの場所に流れてきたのかが分からないのだ。
「仕方がない、か」
『一斗様からメールです。フーカ様が一位で予選を通過した様です』
「フーカもメキメキと強くなっているみたいだな」
途中でフェイトの操る車に出会い、乗っていたアリシアと共に家に送ってもらったのだった。
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夕食を終えて暫くたった頃、戦兎は一斗に話しかけられていた。
「父さん、ちょっと話があるんだけど...」
戦兎は珍しいなと思いながらも一斗話を聞くために皿洗いを終わらせる。
「どうしたんだ?」
一斗はかなり真剣な表情だった。戦兎は一斗が座っていた机の向かい側の椅子を引いて座った。
「最近久しぶりにベルトを使ったんだけど....」
一斗がベルトを使用した際に好戦的になる事が多くなってきたらしい。更には力が抑えきれなくなる時もあるようだ。幸い試しに変身したのはロックフォームだったので被害が起きたわけではないらしい。もしフォレストフォームなら確実に何かが破壊されていただろう。
そして、戦兎はその原因が分かっていた。
「それはきっと、一斗の中にあるエボルトの遺伝子のせいだろうな」
「エボルトの....」
一斗は自身が感じている違和感に納得した。戦兎はそれが何時から続いているのかを聞いたのだ。
「二週間前か...」
それはパンドラボックスの欠片が発見された事件が起きた日と被っている。戦兎は事件の関係性を考えたがそれよりも一斗の事を優先することにした。
「もし一斗がいいのなら、エボルトの遺伝子を取り除くことは俺にも出来る。でも、そうなると一斗はライダーシステムを使うことは出来なくなる」
「でも、人体実験をすれば...」
「俺はするつもりはないよ。それが息子の頼み事だったとしても」
これだけは譲れない。戦兎は人としての禁忌を犯すことだけは絶対にしないことにしている。勿論その中には死者蘇生も含まれている。
「....僕からエボルトの遺伝子を取り除く必要はないよ。この力も、大切な人を守るために使うって決めているんだからね」
一斗の決意は揺るがない。きっとこれからも。戦兎はそうかと言って席から立ち上がり、一斗の頭に手を乗せて髪をぐしゃぐしゃにした。
「何かあったら言ってくれ。必ず力になるから」
「うん!」
アリシアはそんな親子のやり取りを眺めていたのだが、一つ普段と異なることがあった。
その彼女の目には、光が宿っていなかったのだ。
火災事件を起こした青年
予選を通過したフーカ
様子が可笑しいアリシア
パンドラボックスの欠片が意味していることとは一体何なのか?
次回、『あの日、あの時、あの場所で』