迷い込んだのはリリカルな世界 By Build   作:Plusdriver

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美空色のソルジャー

一斗はジャックの動きに翻弄されていた。それは、まるでロンドンの霧の中で姿を現したり消したりして、殺人を繰り返した本物の切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパ―)の様に。

 

それに対する一斗はそのロンドン最悪の殺人鬼の事を知らない。だが、それを攻略する術を持っていた。

 

「フク!ユニゾンだ!」

 

戦兎がブリザードナックルとその専用ボトルを制作した際ミカは知らなかったが、グリスブリザードの時のみに一斗はガジェット達とのユニゾンが出来き、更に武装を追加する仕様にしたかったのだ。だが、一斗自身の成長に合わせることにして、戦兎は計画を保留にするために途中まで作り上げて保管したのだ。

それから時間がある時に調整を繰り返し、そのシステムは完成したのだ。

 

フクとユニゾンすると、左肩に着いたゼリーパックがフクロウだけで埋められる。それにより背中に追加飛行ユニットが追加された。造形は鳥の翼によく似ており、その羽自体は黄で統一されている。

 

「行け!」

 

羽を広げて、それぞれを個別に発射する。これらすべてはスピーカーとなっており、一斗の意思で位置を固定、移動ができるビットとなっている。微量な超音波を流し、グリスは隠れているジャックを発見した。

 

「そこだ!」

 

フォレス・キャノンモードを右手に構えて狙い撃つ。エネルギー弾は防がれてしまうが、これが出来る限り一斗は簡単に隠れたジャックを追いかけることができる。

 

「危ないじゃない。最も優しくできないの?」

 

「お前にはそんなもの必要ない。スタッグ、次行けるか?」

 

『♪~~~!』

 

フクと入れ替わるようにスタッグとユニゾンする。ユニゾン解除と共に羽はその場で消滅し、新たな武器が精製される。スタッグとのユニゾン時には、そのボトルの持ち主が得意とする二刀の刀を角に見立てたクワガタ型のクローが精製される。

 

「刃物ね...これは、楽しめそうね!!!!!!」

 

今ジャックが持っているのは武器である短刀のみ。だが、その切れ味は簡単にビル一つを解体できる程。一斗は確実にその一撃をクローで受け止めた。

 

「あら、中々いい強度じゃない」

 

「褒められても、嬉しくないね!」

 

一斗はそのままジャックへと蹴りを放つが、それを交わされた上に、霧の中に消えるのを許してしまう。

 

「くっ...」

 

このユニゾンシステムには、弱点が有った。それが、ユニゾンを交代する際の時間である。準備中に敵は待ってくれるだろうか?嫌、待つことなく攻撃を仕掛けてくるはずなのだ。かなりの実力差がある一斗は、この問題をどうにかしなければならないのだ。

 

「フォレスは待機。スタッグ、このまま一度やってみよう」

 

『♪~~~』

 

一斗はフォレスにその場で待機するように言い、左手のロボットアームを広げて待機する。一斗が選んだのは、相手からの攻撃を待つというものだった。

 

「........そこだ!」

 

「! 気づかれちゃった」

 

右側からナイフを突きつけようとしていたのに気が付き、すぐさまクローを振り下ろす。防がれたものの一斗は少しずつ、ジャックの気配を探し出すのに慣れ始めていた。

 

再び姿を消したジャックを今度はロボットアームで捕獲する。そのままクローを叩き付けた。

 

「きゃあ!」

 

一撃が思った以上に大きかった為にジャックは壁へと吹き飛ばされる。アリシアの声が聞こえてきたために、一斗は罪悪感に襲われた。

 

「痛いよ...お兄ちゃん....」

 

それでも一斗は心を鬼にした。罪悪感が無くなる訳ではないが、それでもまだ戦えると自分に言い聞かせて。

 

「フォレス!」

 

『♪!』

 

ユニゾンを交代し左肩のアーマーには、でかでかと城が描かれた。肩には大きな盾が追加され、足には小さな砲門がある。その姿はフォートレスフォームに似ていた。

 

左手のロボットアームでジャックを殴りつける。悲鳴が聞こえ、何度も一斗は攻撃を躊躇いそうになる。

それでも、一斗はアリシアを救うためだと自分自身を納得させようとした。だが、何処かで納得できなかったのだ。

 

「ごめん.....」

 

一斗は謝った。殴りつけたり、砲撃を食らわせたり、蹴りを放つたびに何度も。

 

「止めて....お兄ちゃん.....」

 

一斗には、限界が来ていた。いくらメンタルが強いと言ってもまだ中学生。しかも傷つけている相手は妹なのだ。それだけで追い詰められていた精神が、アリシアの声を聴くたびに限界へと向かっていき遂にそれを迎えたのだ。

 

「.....()は、もう...」

 

「痛い、痛いよ。お兄ちゃん!」

 

この精神攻撃こそがジャック(才賀)の狙いだった。内側から破壊されてしまえば、いくら外側が強くでももう戦え無くなるという、一斗の若さを利用した攻撃だった。

 

「.............」

 

遂に一斗はその場で動かなくなってしまう。ジャックは再びナイフを構えてそれをグリスのボディを貫くように、突き刺そうとする。

 

「貰った!」

 

「いえ、やらせません」

 

だが、そのナイフはグリスのアーマーに突き刺さることはなかった。

 

「一斗さんは、何時だって私の隣りにいてくれました。今度は、私が貴方を守る番です」

 

「ハ...ル.....」

 

一斗の声に微笑みながらも、アインハルトは自身の拳をジャックに向かって構えた。

 

「何でここに?あなた達は洗脳されていたはず...」

 

「確かに私は洗脳されました。ですが、好きな人の家族を手にかけるようなことは決してしません!」

 

「そんなバカな!? 伊能の洗脳を仮面ライダーでないものが、破れるはず無いのに!」

 

才賀は今迄 の隣で数々の星を滅ぼすのを見てきた。その中でも何度も洗脳を使ったが決して破られることはなかったのだ。

 

「貴方は知らないんですね。『愛』というものを」

 

「『愛』だと...お前はそんなもので洗脳されなかったとでも言うのか!?」

 

「はい」

 

才賀は啞然とした。彼女について調べたが、過去の王の記憶を継いでいるだけで単なる武闘家少女と決めつけていたのだ。こんなイレギュラーは、予想外なのだ。

 

「そんなことを、信じられるかあああああああああ!!!!!!!」

 

アインハルトは飛んできたナイフを弾き飛ばして、打撃を叩き込む。

 

「覇王、断空拳!!」

 

 

その一撃はしっかりとジャックの身体の芯を捕らえ、しばらくの間動けない様にしてしまう。勿論悲鳴が上がることはなかった。

 

「ハル、ありがとう」

 

「いえ、貴方の役に立てるのならば、例え火の中、水の中、次元すら超えられる。そんな気がするんです」

 

「嬉しいな。でも、これは俺の戦いだ。ハルは見ててくればいい。大丈夫、一撃で終わらせる(・・・・・)から」

 

一斗は次の一撃に、今の己を全てかけることにした。アインハルトを後ろへと下げて、一斗は叫んだ。

 

「フク、フォレス、スタッグ....ユニゾン・イン!」

 

その言葉とともにガジェット達が集まり、次々に融合(ユニゾン)していく。全身に生成・展開された全てのユニットを同時に使うことができる最終形態。これが一斗の切り札だった。追加で発生した冷気は優しくアインハルトを包み込む。

 

「ぐっ...」

 

「一斗さん....」

 

だが、この姿でいられるのには限界が有った。複数のデバイスを同時に操作し闘う為に脳への負担がとても大きいのだ。一斗自身はそれを理解した上でベルトのハンドルを回しながら羽をはばたかせ空中に一時的に停滞する。

 

『シングルアイス!』

 

「これで、」

 

『ツインアイス!』

 

「終わりだ!」

 

足に付けられた砲門からは二つのビームが放たれ、それは真っ直ぐにジャックの両肩を貫いた。声があげられず、逃げ出そうと必死にもがくジャックに一斗はクローを放った。それはジャックのもとにたどり着くまでに変形し、大きなクワガタの牙へと変わり、ジャックを更に動けない様に拘束した。

 

『READY GO!』

 

『グレイシャル・フィニッシュ!』

 

グリスブリザードは冷気を纏ったキックを、ジャックへと放った。その一撃はすぐさまジャックの身を凍り付かせていく。

 

「___________!!!!!!!!!」

 

声にならない奇声が上がる。それは、アリシアの身体から才賀が分離する際の痛みによるものだった。

 

凍り付いた身体からアリシアの手が見えた瞬間、アインハルトはすぐさま駆け寄り、凄まじい冷気に充てられながらもその手を掴んで引っ張っり出した。

 

「一斗さん!」

 

「おりゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

一斗はアリシアが助け出されたのを確認すると、確実に凍らせていく。周囲一帯が凍り付いた時、一斗は爆発とともにジャックの身体を貫いた。

 

「.......頭、痛いなぁ」

 

変身が解除された一斗は、爆発の後に残された凍ったエボルドライバーを拾い上げ、壁に投げつけた。それによりベルトにはひびが入り砕け散った。

 

「一斗さん!」

 

アインハルトがアリシアを抱えて走ってくるのを見たのを最後に、一斗は気を失った。

 

「お疲れ様でした。今は....」

 

アインハルトは自らの膝を枕代わりに横向き寝ている一斗にその言葉を贈った。アリシアは、一斗の背中に抱きついて何処か安心している様に見えた。

 

「ティオも、眠りますか?」

 

『にゃ~ん』

 

アスティオンは一斗の身体の上に行くと、そこで身体を丸くした。




最後は後日談と、あのライダー!

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