迷い込んだのはリリカルな世界 By Build   作:Plusdriver

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今回はしっかりとした解説が必要かもしれません。


記憶が無くても

戦兎は先の見えない道を、自身の記憶の中を走った。

 

今ここがいつの時代の想い出かもわからないまま、追いかけてくる漆黒から逃げ回る。

 

声は出ない。だから只々逃げ続ける。何時しか全てが飲まれるとわかっていても。僅かな希望を抱きながら。

 

「....まだ、飲まれていなかったとはな」

 

「!?」

 

漆黒からかなり距離を取った頃、戦兎の目の前にエボルトが現れる。その姿は先程まで対峙していたものと変わらない。

 

「さっさと、俺の物になれ...」

 

戦兎はすぐさま走り出す。先程まで立っていた場所からは漆黒があふれ始めている。

 

その様子を見ながらも距離を置こうとする戦兎へとエボルトはすぐさま飛びついた。

 

そのせいで倒れてしまった戦兎は背中のエボルトを払いのけて漆黒から逃げようと試みるが、両手足を絡め取られてしまい動けなくなってしまう。

 

「このまま、俺と一緒に闇に飲まれよう?そうすれば、もう苦しむことなんてない...」

 

エボルトの声が直接脳に響いているような感覚に襲われながらも、余り拘束されなかった右手を伸ばす。

 

「そのまま眠れ...それだけで全ては終わる...」

 

エボルトと共に漆黒に身体が飲まれていく。だが戦兎は右手を伸ばし続けた。そこに何があるわけでもない。永遠続く闇に向かって手を伸ばしたのだ。

 

そこに忘れかけていた、ベルトがあると信じて。

 

___________

 

 

「ん、はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

エボルトは全身を震わせながら、何処かくねくねしながら自身を抱きしめるようにして空中で丸くなる。

 

意識だけの戦兎を自ら吸収したのだ。その達成感と快感が、彼女を同時に襲っていた。

 

「...名残惜しい。それよりもこの結界をどうにかしなければ...」

 

既にこの世界に存在価値がないと判断したエボルトは、次の世界()を滅ぼす為の前座としてこの世界を破壊する事にした。だがこの結界の中ではエボルトは自身の溢れんばかりの力を使うことは出来ない。もし使ってしまえば、先程吸収した戦兎を完全に消滅させてしまうかもしれないからだ。

 

「待っていろ...お前は何度でも吸収してやるからな」

 

自身の腹をさすり、中にいる戦兎へ向けてそんな言葉を送る。

 

『それは遠慮しておくよ、エボルト』

 

「! バカな!? 先ほど完全に吸収したはず...」

 

自身の中から聞こえる戦兎の声に驚きを隠せないエボルトはすぐさま意識を自身の奥深くへと送ろうとするが、阻まれてしまう。

 

『ここから出させてもらうぞ!』

 

「やめろ...やめて....やめてよ....折角...」

 

『どりゃあああああ!!!!」

 

「一つになれたのにぃぃぃ!!!!!!!!」

 

背中に強制的に開けられたブラックホールをズタズタに切り裂きながらビルド(戦兎)が出て来る。

 

「なんで...どうしてだ...!?」

 

内側からの攻撃を喰らったことのないエボルトは、背中から溢れ出る血を結晶体で固めながら戦兎へ問い掛ける。

 

「お前は折角のチャンスを逃したんだ。お前が俺からもぎ取ったベルトは完全に吸収できず、そのままあの漆黒の中に残っていた。それを使って出てきただけだ」

 

そう、戦兎は伸ばしていた右手で奇跡的にベルトを掴んだのだ。もし掴むことが出来なければ今頃エボルトによって可愛がられていたこと(吸収と絶望の無限ループ)だろう。

 

「そんな...あの時の...万丈(・・)の時と同じだっていうのか!?」

 

「ん~、俺はそれを知らないからな。それに、俺の相棒は...」

 

ビルドの姿が消え、エボルトはすぐさまブラックホールを展開するもすでに遅し。

 

『スピーディージャンパー!』『ラビットラビット』

 

「万丈龍斗(・・)だ!!!」

 

背中に出来た結晶ごと背中に生えていた翼を切り裂かれる。エボルトはそのまま落下し、地面に突撃する。

 

「何故だ...?傷が癒え...ない..」

 

「当たり前だろうが」

 

戦兎はゆっくりと落下しながらボトルをバスターにセットする。

 

『ラビット』『タンク』

 

『ジャストマッチで~す!』

 

「その力は琴理が(士道)の為に託したものなんだ!お前がそう易々と使っていいものじゃない!!!」

 

ビルドはバスターブレードを構えたまま落下する。

エボルトもそれを黙って食らうわけにもいかず、すぐさま大剣を召喚する。

 

『ジャストマッチ・ブレイク!』

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

だが、召喚した大剣はその一撃を受け止められずその刀身を半分も行かないほどのものに変えられた。

止まらないバスターブレードはそのままエボルトを切りつけた。

 

「お前には、同情なんてしない...お前をあいつ(・・・)とは思わない!!!」

 

地面に突き刺さったバスターを蹴り上げ更にエボルトの額にバスターを直撃させる。

戦兎は吸収されたことで曖昧になった記憶を、士道たちを助け出すために蹴り上げたバスターを握り直した。




補足


漆黒に飲まれた記憶はエボルトのエネルギーとして吸収されます。そして身体(意識)が飲まれるとその力全てをエボルトは吸収する事ができます。

漆黒に一時的にでも飲まれれば一部の記憶を失います。今の戦兎が持っているのは、エボルトと戦った記憶と、ここ最近の記憶、漆黒に追いかけられるまで見ていた士道たちの記憶のみです。


戦兎がここまで容赦なくバスターを振り下ろしたのは、士道と琴理の過去(琴理の精霊化)を見せられ、兄を救うために自分の力を封じた琴理の力をただの治癒能力だと思っているエボルトに対して怒ったからです。


※感想と共に質問を交えて感想を送って頂けると、返事を返させて頂きます。










間もなくテストが近づいてくるので、投稿が止まる事があります。ですが、10月中旬には投稿を再開しますので失脚はしませんので、お待ち頂けると幸いです。


ではまた

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