Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
第2章の開始となります。少々リアルの方が忙しく、書き溜めが進まなかったので、以前より投稿間隔がゆっくり目になりますが、コンスタントに投稿していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。
1話
そこは戦場の跡地であった。
表の人類史には決して刻まれることのない大戦の地。
しかしそこにはもう痕跡はなかった。
その戦場では数多のホムンクルスが武器を振るった。魔術を唱えた。
巨大なゴーレムが、竜牙のゴーレムが、蟻のように群がり、一騎当千の英雄たちに蹴散らされた。
しかしもはやその跡地はまっさらな平原となっており、かろうじて分かるのは地面を抉るように刻まれた爪痕――とある英雄たちの斬撃の痕くらいのものだろう。
その英雄たちももはやこの世界にはない。
そんな中を、一人の
否、彼自身に言わせれば最早彼はサーヴァントとはいえないかもしれない。
民のない王が王ではないように、マスターのいないサーヴァントはサーヴァントとは言えないのだから。
本来、サーヴァントは楔であり魔力を供給するマスターが居なくては存在できない。召喚するのには特別な儀式や聖杯のようなものが必要だが、存在するだけならば、どでかい魔力タンクのような魔術師ならばなんとか維持できる。しかしマスターのいないサーヴァントはそれが受肉していない限り消滅は避けられない。あるいは世界が特異な事象下になければ……
しかし彼にはマスターが居なかった。正しくは、“この世界にはもう”居ないであるのだが。
「よし、目的決まった!」
この世界にマスターの居ないサーヴァントは、しかし確かにマスターとの繋がりを保っていた。
騎士の装いに身を包む彼は、眺めていた地図を懐にしまうとピョンと座っていた岩から飛び降りて空を見上げた。
世界の裏側に行ってしまったマスター。この世界の全ての人々から不死を奪っていってしまったマスター。邪竜となってしまったマスター。最後に、信じていると、頑張れと言ってくれた大好きなマスター。
マスターは人を信じた。
彼が、そして聖女が信じた人の未来を信じた。
だから――――
「マスター! 空の彼方のボクのマスター! 見てるんだか見てないんだか、多分見てないと思うけど、ボクはここで誓うぞ! ボクは世界を変えられないし、人類を変革もできない! だけど、頑張る! 君の最後の
空に向かってそう叫んだ彼は、地面を蹴って走り出し、世界を巡り――――そして世界を渡った。
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国立魔法大学付属第一高校。
入学時の新入生歓迎という学生にとっての一騒動とエガリテおよびブランシュによるテロ騒動の後は、穏やかな学生生活を送ることのできていた魔法科高校の生徒たちは、次いで訪れる関門に今頭を悩ませ始めていた。
あるいはそんなモノ知ったことかという猛者も中にはいたが、日本でもトップクラスのエリート高校でもある一校の生徒においてはごく少数となるだろう。
常であれば魔法師の慣習とはいささか距離をおいている魔術師、藤丸圭と獅子刧明日香は、四月生まれの友人の誕生日を幾人かの友人たちで祝う会に招かれたりもしていたが、目下のところ―――
「だ~か~らっ! 四系統八種の系統魔法では冷却魔法や光魔法は振動系に分類されるんだよ」
「む? だが冷却魔法は温度情報の変換で光の魔法は視覚情報に干渉する魔法だろう。なら同じ系統なのはおかしいじゃないか」
一生懸命頭を捻って魔法について覚えていた。
「君は考え方が古いんだよ……」
「む。僕だって温度が運動エネルギーの多寡によって起こる科学現象ということくらいは知っているさ。そして魔法という超常現象であったとしても物理的な法則に縛られているということも。だから分類するとすれば冷却魔法は減速魔法になるんじゃないか? 光だって波長の違いが色の違いになるんだろう? なら……何魔法なんだ?」
といっても、主に勉強しているのは明日香の方で、圭の方はもっぱら明日香に対してレクチャーを行っているのであるが、頭を悩ませているのはお互い様だ。
明日香は自分の知識――正確には明日香に宿る“彼の霊基”からもたらされる魔術 / 魔法に関する知識と現代魔法の知識、さらには“彼”の時代にはなかった現代科学の知識とが齟齬を起こしていて混乱しているし、圭の方はそんな友人にどうやって教えればいいものかと頭を抱えている。
「何をしてるの?」
そんな二人にいつも通りの感情を伺わせづらい眼差しとともに雫が尋ねてきた。
彼女から見れば、超常の悪魔や骸骨、サーヴァントを相手にあれほど勇敢に戦っていた彼と、魔術師という魔法師とはある種隔絶したような圭とが揃って図書館で頭を悩ませている光景が物珍しかったのだろう。
雫に声をかけられて、これまた珍しく明日香はきまり悪そうな顔になり、一方で圭はいつもの笑顔を向けた。
「やぁ雫ちゃん。試験に向けて頭の固い友人に個人レッスンをしているのさ」
「試験勉強?」
傍に寄って明日香の手元のディスプレイを覗き込むと、そこには必修科目である魔法学についてのテキストが開かれていた。
魔法学校に入学して入るものの、彼らが本来は
意外に感じたのは、魔法師ではない魔術師である彼らが、魔法のことで頭を悩ませているのに加え、サーヴァントとの戦いでも見せたように魔法師と比べても超常的な力を見せていたからだろう。
雫が明日香の顔を覗き込むと、きまり悪そうにしている明日香が誤魔化すように視線を泳がせて頬を掻いた。
「定期試験まで残り10日ほどだからね」
「明日香はまぁ、なんというか、うん。頭が固いというか……入試でも魔法実技の成績が優遇されてないと危なかったというような感じでね」
試験勉強に対する一般論的に頑張っていますと言い換えようという明日香の試みは、圭によってあっさりと暴露されていた。
「む……」
案に
「圭くんは?」
「僕かい? 僕は優秀だからね。おかげでこうして明日香に教える程度には余裕があるわけだけど…………」
飄々として応える圭だが、そのレッスンがあまりうまくいっているように思えないのは、二人揃って頭を抱えている様子を見れば分かる。
「…………」
「雫?」
二人を見比べた雫は、明日香の隣の席を引くと無言で席に座り、自身もディスプレイを立ち上げた。
「試験勉強。私も付き合う」
「え?」
表情の変化が乏しく大人びて見えるため淡々として見えるため、協力を申し出てくれているということを理解するのにワンテンポ、明日香の反応が遅れた。
「それは助かるよ! うん。さぁ、一緒に頑張ろうじゃないか」
それは申し訳ないとか、自分のために時間を割かせるわけにはいかないとか、返す前に圭がニコニコとその申し出を受け入れてしまったものだから明日香としては言葉が続かない。
実際、魔術師である圭は、魔法にこそ理解を示してはいるが考え方は魔術寄りで、どうしても魔法に対する造詣は深くない。
そして雫は、同じクラスの深雪には劣るものの、友人のほのかともども学年でも指折りの成績優秀者として知られている。(ちなみに入試成績の上位者リストは新入生の部活勧誘期において密かに出回っており、それは学校側としても黙認状態である。)
出遅れた明日香は雫が準備万端で教える体勢を整えて居るのをみて、申し訳無さを感じつつもその好意に甘えることにした。
「それじゃあ、よろしく頼むよ、雫」
「うん」
――――――わけなのだが。
「魔法と違って魔術というのは一子相伝でね。後継者以外が全く魔術を使えなくなるわけではないけど、代々積み重ねてきた魔術というのはほぼすべて後継者一人だけが継ぐものなんだ――明日香、それじゃ系統魔法じゃなくて、エレメンツの分類だよ」
「む。そうなのか」
「僕と明日香、藤丸家と獅子劫家っていうのは親戚でね。藤丸家が本家で獅子劫家が分家みたいなものさ。なもんで厳密には明日香は魔術を継いではいないんだ」
「そうなの? ――明日香、そこはエレメンツは魔法開発の初期に試みられた自然科学的な魔法解釈方法。あと、そっちの魔法式は順序が逆」
「え? ここかい?」
「そこ。二列目の式と三列目の式が逆――でも……」
「まあ、明日香と僕は少し特殊でね。特に彼の場合は継いできた魔術とは違っていてね。あとその歪んだ幾何学模様はなんだい、明日香?」
「いや、これは円形を描こうとして……」
教師役が二人に増えればたしかに効率は増した。
ただ明日香が一生懸命魔法について試験範囲をさらっている横で、圭は差し障りのない範囲での魔術レクチャーを雫に行っていて合間合間に二人して明日香にダメ出しをしてくるものだからたまったものではなかった。
そんな授業形態になった発端は、まあ言ってみれば学年でも指折りの美少女である北山雫がそこにいて、紳士たる藤丸圭が会話を弾ませないわけにはいかないという妙な矜持を発揮したせいだ。
それで行われた会話があからさまに口説きに走っている内容であれば雫も相手にはしなかったであろうが、なまじそれが明日香にも関わる、つまりは魔術や藤丸・獅子刧家のことだったものだから、話に食いついてしまい、このような事態になったのだった。
なお、明日香に宿って力を貸す“彼”の霊基だが、その恩恵は事務処理作業や勉学的な知力にまでは力を貸してはくれない。
それが元々の“彼”の能力に由来するものなのか、単にすでに霊基を譲り渡して明日香の中には居ないからなのかは分からないが…………
白熱する二人の会話と指導の前に、明日香が白煙を上げるまでそう長くはかからなかった。
「さて、と。時間も時間だけれど、今日のところはこんなものかな」
頭から湯気を立ち上らせていそうなほどにいろいろと詰め込んで机に撃沈している明日香の隣で、圭がディスプレイを落とした。
「ぅ……ぁあ。今日は付き合ってくれてありがとう、雫。君のおかげで随分と捗ったような気がするよ」
のっそりと顔を上げた明日香は疲れた顔にぎこちない笑顔を貼り付けて雫に謝意を示した。
感謝の言葉に雫は首を左右に振る。
―――感謝をしたいのは、やはり自分だ。
助けてもらった恩返し、には程遠いが少しでも何か役に立つことができないかと、お礼を言えたあの時からずっと考えていたから。
だから…………
「おやおや、獅子刧明日香ともあろう男が、レディの貴重な時間を浪費させて、礼の一言で終わらせるつもりかい? ここは騎士らしく行動で感謝を示すべきだと思うけれどね。ついでに僕にも」
「む。たしかにそうだな…………」
――のだが、ニマニマとした笑顔で圭が話をおかしな方向にもっていき、なにやら明日香も納得してしまっている。
「そんなの――」
「いや。すまないが、お礼をしたいけれど、なにをしたらいいのかすぐに思いつかない。だから僕にできることがあったら、なんでも言ってくれ」
そんなものは不要だと、告げようとする雫にかぶる形で告げる明日香に、雫は言葉をつまらせた。
「なんでも?」
「ああ。出来る限りのことはしよう」
これはお礼だからと、そう言ってしまえればよかったが、告げられた言葉があまりにも、そう、なんだか魅力的な響きを伴って聞こえて、雫は思わず反駁してしまった。
「なら…………」
ただ、なんと告げようか。
蠱惑的な響きを持ち過ぎていて、なんだか自分の理性とは違うところが口を動かしているようで、けれど今の勉強に釣り合うお願いごとは思い浮かばなかった。
そう、これは試験勉強のお礼なのだ。
なんでもと、そう言ってはくれていても、それに釣り合うお願いごとをやはりお願いするものなのだ。
また一緒に勉強しよう? ――そうじゃない。
一度うちに来て欲しい? ――たしかにそれは思うが、試験勉強で困っているというのに呼びつけるのか?
他には、他には……………
そう、定期試験―――それは単純に学業成績をつけるためだけのものではなく、この時期、この魔法科高校においては別の意味がある。
だから――――
「試験……まずは試験、頑張って」
思い当たったのは、この試験の“後”のこと。
この試験の成績は、“あること”の選抜に考慮される。
「勿論。せっかく雫が教えてくれたんだ。それに応えてみせるとも」
「うん。お願い、だよ」
今はまだこれがお願い。
頑張ってくれればきっと………………
✡ ✡ ✡
試験の日は瞬く間にやってきた。
それは
聖杯探索、そして敵サーヴァントの捜索がどうでもよくなったから、というのでは無論ない。
圭の言うことを認めたからだ。
つまりこの時代、この世界、この場所……あたりが特異点となりうる事象であり、情報もなしに闇雲に動き回っても見つからないものは見つからないのだと。
むしろこの時代、この世界と深く関わる事こそが、護るべき世界の一員として過ごす事こそが、尊く、生ある人間として生きていくのに必要なのだと……。
つまりは学校生活を一先ずは楽しむようにして溶け込み、過ごすことにしたわけだ。
「やったー!」
「一位の深雪は当然として、まぁ順当な結果だね」
「すごいな雫もほのかも、勿論深雪も」
そしてその試験結果の公表日。
歓喜に、あるいは悲嘆の声がそこかしこで聞こえていたが、明日香の近しい友人たちはもっぱら好成績を修めていた。
理論・実技を合算した総合成績のトップには司波深雪。総合二位にはほのか、三位には雫がランクインしており、圭とかろうじて明日香も氏名公表の対象となる上位陣に名を連ねていた。
理論のみの結果では、雫やほのか、圭とは異なり残念ながら明日香は氏名公表の対象となるほどの成績には至らなかったが、その代わりに実技においては一桁位。実技成績の方が比率が重く、かつそれは九校戦の選考基準になるところで稼げたのが大きかった。
クラスの主に男子の中には理論の上位成績者に二科生の名がいくつもあることに不満を訴える者も多かった。なにせ理論一位からして二科生の司波達也で二位こそ深雪の名があるが、三位にはこれまた二科生の某の名前があるのだから。
といっても、それは所詮ただの愚痴でしかなく、訴えたところで上位成績者の点数が下がるわけでも彼らの得点が上がるわけでもない見苦しいだけの行いだ。
「この成績だったら雫も私も、九校戦のメンバーに選ばれるよね!」
前向きに定期試験の次に思いを馳せている
九校戦―――それは魔法科高校に所属する者、魔法師を志す者にとって憧れの舞台であり―――――
「九校戦? なんだいそれは?」
明日香のその首を傾げてのその発言に、それを薄々予感していた雫は死んだ魚のような冷ややかな眼差しを向け、ほのかはぎょっとした顔になった。
風紀委員会本部。
そこには今、委員長である摩利と、なぜかそこで事務処理をやらされている(一緒にやっている、ではなく、本来は諸先輩方並びに目の前で椅子に腰掛けている風紀委員長がまとめておくべき書類までぶん投げられている)達也、そして特に達也を手伝うわけでもなく九校戦についてをまとめられたパンフレットを眺めている圭がいた。
「全国に9つある魔法科高校の対抗戦ですか。あぁ、なるほど、それでか……いやいや、ちょっとしたことですよ、うん」
九校戦に関する情報――定期試験の成績によってメンバーが考慮されるということを聞いて思い当たる節のあった圭は、薄く口元に笑みを浮かべた。
試験を頑張ってほしい、そう誰かさんにお願いした少女の狙いは、誰かさんに九校戦に出て欲しい、もっといえば一緒に出たい、といったところだったのだろう。
「ところで成績上位者から選ばれるということは今回の定期試験の結果で、おおよそ選抜メンバーは決まっているんですか?」
なので、そこは是非とも愉快な感じになってくれていると、物語として面白い。そう言わんばかりに話している圭と、面倒見よく、というよりも事務処理作業から逃れる口実とばかりに話し込んでいる摩理を背に、達也は言いたいことを呑み込んで資料作りに励んでいた。
「ああ。女子では達也くんの妹も当然だが選ばれているし、男子では君と獅子刧くんも選抜されているぞ」
達也が風紀委員に所属し始めたころの、この本部の整理されなさ具合や、伝統的に風紀委員会の引き継ぎがまともに行われていないということ、そして達也が事務処理に長けているということを知るや否やのぶん投げ具合からするに、風紀委員長である摩利の事務処理能力は推して知るべしといったところだろう。
そして風紀委員に所属しているという口実でやってきたにもかかわらず、手伝いに関しては笑って誤魔化す藤丸圭にも、達也は早々に見切りをつけていた。
引き継ぎが実際に行われるのは二ヶ月以上先のことで、達也一人でも時間に追われるということはないし、達也の処理能力からするとむしろ一人の方が早いかもしれない。
「おやおや、明日香も。いくつか競技があるようですが、どれに出るかは決まっているんですか?」
話している内容に関しても、深雪が関わることになる以上興味がないわけではない。
達也からして見ても深雪が選ばれないわけはないだろうし、単純に成績的な意味でも学年主席を選抜メンバーにしない理由はないだろう。
それに加えて、基本的に秘匿されているはずの魔術師たちが高校生の魔法大会とはいえ大々的に行われるイベントに参加するのが意外だったというのもある(九校戦は一般―――非魔法師であるという意味の一般大衆向けにもテレビ放送されている)。
達也は所要があって――過去における彼の夏休みは主に実家に関わる何かや実家やその他色々とやることがあって観戦に行ったことはないが、深雪は何度か直に観戦に赴いている。
「基本的に部活動に入っている者は部活連からの推薦になるな。あとは本人の魔法適正なんかを見てになるが。君の方はどれになるかはまだ分からないが、獅子刧の方はまず間違いなくモノリスコードに選ばれるだろうな」
一応、事務処理を何もしない風紀委員長も、達也だけに仕事をさせているのが悪いとは思っているのか、圭が眺めているのと同じパンフレットを達也にも手渡してきた。
それをどうもと受け取り、一段落ついた合間に達也も眺めることとした。
行われる競技は
深雪が出るとすれば、その魔法特性から棒倒しの別名のアイスピラーズブレイクが有力だろう。
「へぇ~、モノリスコードですか、どれどれ……」
そして獅子刧が出るだろうと思われるモノリスコードは、男子のみで行われるという開催意図から分かるように、直接攻撃こそ禁止されているもののかなり実戦に近い魔法競技だ。以前見たサーヴァントとの戦闘を見るに、あの力を対人戦闘で発揮することができるのであれば、魔法師といえど圧倒的だろう。
「……おや?」
「どうかしたか?」
「いえ、このルールだと、明日香がモノリスコードに出るのは難しそうですね」
「なに!?」
ルールブックを確認していた圭の言葉に、摩利は目を剥いた。
明日香がモノリスコードに出場すれば、絶対勝利は間違いなしと、それだけ確信していた計算が早々に崩れたのだから。