Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
いよいよ全国魔法科高校親善魔法競技大会―― 九校戦の開幕の日。10日間にわたる熱い戦い。現在華々しく活躍するA級魔法師たちの多くも世に知られるようになったのはこの戦いの場からだ。
この国の将来を担う魔法師の雛たちが富士山麓より飛び立つのを目撃できる貴重な場。
――――「使用魔法は全て可視化処理した特別放送でお送りします。興奮と感動のスペクタクル。若き魔法師たちによる華麗な競技を是非ご自宅でもご覧ください。チャンネルのご契約は今すぐスカイアイランドTVまで」―――
空を往く飛行船が宣伝文句と共に開会式の様子を映し出しており、下を歩く人々は祭りの雰囲気に心を躍らせていた。
そう――――
道々には様々なキッチンカーが屋台を出しており、観客席に赴く人々の足を止めさせ、ケバブにバーガー、クレープ、うどん……おいしそうな匂いが誘惑してくる。
だがそれらの誘惑もなんのその、観客席は初日から超満員となっていた。
そしてそんな彼らのお目当てはスピード・シューティング。そこに出場することになっている一高の才女。
「第一試技から真打登場か。渡辺先輩は第三レースだったな」
「はい」
十師族の中でもきっての名門、七草家のご令嬢の試合は彼女の容姿や魔法力の高さ、そして最終学年であり今年度で九校戦での活躍が見納めということもあって多くの観客を惹き寄せていた。
同じ高校の後輩である達也や深雪、そしてほのかや雫たちもこの大本命の試合を見に来ていた。
勿論、観戦しているのは非魔法師の一般人よりも同じ魔法師、この九校戦で戦うことになる魔法科高校の生徒たちこそが、注視して見ていた。
「やぁやぁ、ご一緒させていただいてもいいかな。何分この通り、満員でよく見える席は限られているものでね」
そしてそこにはこの会場で二人しかいない魔術師である圭と明日香も“先輩”である彼女のその試合を見に来ていた。
観客席の全てが完全満員というわけでは流石にない。
特に前列の方には空席もある。だが空中を拘束で飛ぶ標的を撃ち落とすというこの競技の特性上、フィールドに近い前列では状況を冷静に観ることはなかなかに難しく、“競技”に関心を持つ者たちは概して後列に陣取っている。
「ああ。別に構わない」
明日香と圭もそちら側であり、達也たちの集団のところに空き席があれば知り合いだけに避ける理由もなく便乗させてもらったのであった。
明日香と圭が腰掛けると達也や深雪、ほのかと雫といった九校戦参加者以外にもおり、数人の一高生が座っていた。
4月の終わりごろ、ブランジュの騒動が解決した後で行われた達也の誕生日会でも同席していた柴田美月と千葉エリカだ。
明日香に至ってはエリカとは共闘した間柄でもあり、それ以外の男子二人にも見覚えがあった。
「よろしく。レオと、そちらは初対面だったかな」
ただし、挨拶を交わしたことのあるのはその内の一人、エリカ同様ブランジュの騒動の際に共闘した西条レオンハルトのみで、もう一人は言葉を交わすのは初めてだった。
裏を感じさせない明日香の挨拶に幹比古は一瞬鼻白んだようになったが、その隣のあからさまに裏のありそうな笑顔を浮かべている圭を見て意を決したようだった。
「……吉田幹比古。名字で呼ばれるのは好きじゃないから幹比古でいいよ」
たしかに面と面を合わせては初対面と言えるだろう。
だが幹比古にとっては入学からこの数か月。精霊を介してずっと視ていた相手だけに気後れするのも無理はないだろう。
「初対面と言っても、そちらは随分と僕たちのことを知っているようだけれどね」
「やっぱり、気づいていたのか……」
そしてそれを掘り返すのは圭。端的に告げてきた言葉は以前から幹比古の監視を気づいている上でのことだろうし、今の会話を疑問に思っていない素振りの明日香も気づいていたのだろう。
「古式魔法師の家のお知り合いですか?」
ただ、幹比古と彼らの間に流れる微妙な空気感に気づいた美月がおっとりと首を傾げて尋ねてきた。
「あ、いや。彼らは古式魔法師じゃなくて」
美月の問いかけは場の空気を感じたものではあるが、純粋に知らないからこそ出た問いだろう。だが魔術師と魔法師、殊に古式の魔法師との境界は難しい。
そして知り合い、というのも説明しづらいところだ。
なにせ幹比古にしてみれば気づかれていたとはいえ覗き見していた立場なのだから。
「そんなところだよ、ミス・美月。もっとも神道系の古式魔法の大家である吉田と比べれば藤丸なんて知っている人もほとんど居なくてね。家の繋がりなんて気にせずに自由を謳歌できるというわけさ。ところでどうだろう。ミス。よければちょっと抜け出してデートでも」
「ケイ!」
そしてそれに乗っかり更には調子づく圭の、手を取りながらのナンパなセリフに幹比古は別の意味でどきりとし、明日香からは注意が入った。
「ははは。ちょっとした挨拶じゃないか。今はデートより会長さんの応援だろ。うん。もちろん分かっているとも。ああ、デートを受けてくれるというのならそれを優先するのも吝かではない……おっと、失礼。会長さん会長さん、
明日香からの叱責に競技場へと視線を戻し、それでも余計な言葉の続く圭に呆れた眼差しが向けられる。
だが圭の意見はどちらかというと会場では多数派なのかもしれない。観客席の最前列の方からは意欲的な熱視線が向けられており、だけではなく黄色い声援も飛び交っていた。ちなみに黄色いだけでなく野太い歓声も多い。
「まったく、これだからバカな男どもは」
軽薄そうな言葉を呟いて感心している圭やわざわざ最前列に詰め掛けている男どもに対してエリカは嘆かわしいとばかりに軽蔑の視線を投じていた。
だがたしかに、真由美の装いはまるで近未来映画のヒロインのような可愛らしさと凛々しさがミックスされた雰囲気があり、男ならずとも一見の価値があるように思える。
「すごい人気ですよね。会長さんの同人誌を作っているファンもいるくらいですから」
「え!?」
「美月。貴女、そういう趣味が……」
「ええっ!? そそそんな趣味なんてありませんよっ! き、聞いた話ですっ!」
エリカの言うバカな男どもをフォローするため、でもないだろうが美月のポロリと漏らしたセリフにエリカと深雪が大半は冗談で、そして一割くらいの本気を込めて訝しむと、美月は面白いくらいに動揺していた。
「始まるぞ」
わたわたと慌てふためいていた美月と寸劇を繰り広げそうなエリカたちに一言、達也が告げると美月はハッとなって口を閉ざし、歓声を上げていた最前列の観客たちも静まりかえっていた。
スピード・シューティングは5分間の競技時間の間に不規則に射出される百個のクレーを魔法射撃によって打ち抜く競技だ。
真由美はこの競技の大本命に相応しい圧巻の射撃を見せつけ一つの取りこぼしもなく打ち砕いていた。
「あの距離での精密連続射撃。すごいな。アーチャーとしての能力なら僕では到底及ばないな」
驚嘆の声が会場のあちこちから漏れ聞こえており、明日香も感嘆の眼差しを向けていた。
スピード・シューティングの準々決勝からは紅白の対戦形式だが、今見ている予選では単独のスコアによって競われる。繰り返し行使される魔法の発動速度と精密性。対戦形式になってからは相手の領域干渉や魔法を上回る魔法力が要求される。
真由美のとっている戦術は一つ一つのクレーを個別に撃ち落とすというもので精密性が高く要求される。
非魔法競技におけるクレー射撃よりも目標までの距離は遠く、射出速度や回数も格段に多く速い。
「明日香はああいった精密遠距離攻撃は苦手だからねぇ。まぁ、とはいえあれは僕にもちょっと真似できそうにない。うん。やっぱり適材適所、ということだろうね」
明日香にしても圭にしても、あのミドルレンジではあれほど高精度かつ連続性の高い射撃手段はない。
――遠隔精密魔法、という点では魔術よりも現代魔法に有利があるのか。いや、彼らの魔術特性、と考えるべきか……――
へらへらとして見せている魔術師の様子に、けれども表情の一片も変えず競技場へと視線を向けたまま達也は先ほど圭が言っていたことの意味を考えていた。
明日香の戦闘スタイルを思い返すと確かに彼は近接型。剣の千葉と同じ様に魔法剣技によるもので、それを考えれば明日香もエリカ同様に遠距離攻撃は得手ではないのかもしれない。
そして古式魔法は現代魔法に比べて発動速度に不利があるのが一般的だ。
魔術が古式魔法以前のものだというのなら、一概には言えないだろうが魔法の発動速度が現代魔法に比べて優れているものではないだろう。
ブランジュが一高に襲撃してきた時の戦いでは、圭はCADなしに三巨頭と同等以上の戦いをしていたというが、それは敵のホムンクルスに物理攻撃や魔法が通じにくい特性があったのも理由の一端だ。
CADを操作する作業がない分、たしかに切り替えは早いだろう。だがあの時の戦いでは圭もホムンクルスには有効打を与えられなかったという。
敵と見据えての戦力分析ではない。
――彼らの目的は君たちに敵対するものではないし、敵対してはいけないということだけだ――
達也にそう言ったのは古式魔法師でもある忍術遣い、九重八雲だ。
だが達也は知る必要がある。
彼らの力は自分たちの脅威となるのか。自分たちの力となるのか。
✡ ✡ ✡
九校戦の初日は男子女子のスピード・シューティングとバトル・ボードが並行して開催される。
注目は黄金世代と評される一高の三巨頭の出場競技だ。
真由美の観戦を終えた観客の多く、そして達也や明日香たちもその三巨頭の試合、渡辺摩利の出場するバトル・ボードの観戦へと移動していた。
明日香にしてもバトル・ボードは自身が出場する競技だけに、他の魔法師たちがどういった戦術でこの競技に挑むのかについての関心はあり、圭と共に観戦をした。
レースは優勝候補とも呼ばれるのが頷ける圧巻の快走で摩利が勝利を収めた。
常時複数の魔法を発動させるマルチキャストによる摩利の技量は高校生レベルを大きく凌駕しており、波を使った妨害戦術を行おうとした他校の選手が自爆するのも味方につけての快勝だった。
「さて、この後はどこを観戦するんだい?」
目当てであった先輩の試合が終わってひと段落のついた圭たちだが、当然ながらまだ午前の競技は続いている。
バトル・ボードであれば女子の予選が午前中だけであと一競技。スピード・シューティングの方では準々決勝が始まっている頃だろう。達也たちもその予定であったのだが
「この後はスピードシューティングの決勝トーナメントを観るつもりだ」
「ああ、真由美会長の試合か。うん。それじゃあ、司波君たちとはここで一旦お別れかな」
「見に行かないの?」
「男子のバトル・ボードも開催されているし、午後には男子のスピード・シューティングもあるからね。なるべく男子の選手も見ておきたいんだ」
少し意外感を覚えたのは雫だけではあるまい。とりわけ見たい試合でなければ十師族七草家の令嬢の試合は何よりの注目の試合だ。
他の選手の偵察というならまだしも、男子の試合を見たとしても彼らはこの大会では本戦の選手とあたることはないのだから。
だが圭にとっては全力でなかったとしても、一度見た真由美の魔法よりも全く違う魔法師の魔法を見ることの意味の方が大きいだけのことだ。なにより、真由美の力も高校レベルを遥かに凌駕しているのだからして、決勝戦であったとしても、きっと真由美の本来の本気の魔法は見られないだろうから。
結局その日の九校戦では大方の予想通りスピード・シューティングの女子部門で真由美が、そして男子部門においても一高が制した。
予選の行われたバトル・ボードにおいても男女とも突破を果たす結果となった。
✡ ✡ ✡
午前の競技が終わった段階で、達也は友人たちと別れて高級士官用の客室を訪れていた。
当然ながら、いくら演習場が九校戦用で魔法科高校生たちに開かれているとはいえ、佐官クラス以上が使用するような客室が開放されることはない。
「君が高校生の大会のCADエンジニアを務めるというのは、レベルが違いすぎてイカサマの様な気もするな」
「真田大尉。達也君だって歴とした高校生ですよ、ねぇ、達也くん?」
彼がここを訪れているのは旧知の戦友……という概念が当てはまるかどうかは知らないが、彼が秘密裏に所属している軍属の友人(少なくとも今回はそういう名目だ)と会う約束をしていたからだ。
「そうですね。“シルバー”のことは一応秘密ですし」
独立魔装大隊。
“大天狗”の異名を持つ風間少佐と大隊の幹部たち。真田大尉、柳大尉、藤林少尉。
そして達也もまた、軍属としての名を大黒竜也という。
そのほかにも魔工技師としての名前として“トーラス・シルバー”という名もある。世界にも知られた高名な魔工技師だが、正確にはそのうちの“シルバー”を担っているのが達也だ。
直近では現代魔法の三大難問と言われた飛行魔法を完成させた天才技術者として知られている。
「ねぇ、選手としては出場しないの? 結構良い線いくと思うんだけど」
彼ら、そして彼女は達也のそんな秘された肩書を知る者たちだ。加えて彼の出自――十師族の一角、世界最強の魔法師の一人と目される“夜の女王”を当主に戴く一族、四葉。
魔法学校では劣等生に組されている達也が、世界でも数えるほどしかいない強大にして凶大な魔法師であることを知っている。
「藤林。たかが高校生の競技会だ。戦略級魔法師の出る幕ではない」
戦略級魔法師。
一度の発動で人口5万人クラス以上の都市や一艦隊を壊滅させることができる恐るべき魔法。それが戦略級魔法。
世界の各国において対外的に公表されたその魔法師はわずかに13人――十三使徒とも呼ばれる国家公認戦略級魔法師であり、達也――大黒特尉は非公開の戦略級魔法師だ。
無論のこと、そんな強大すぎる魔法が親善試合でも九校戦で使用できるはずもない。
「でも去年の大会では十師族の七草家や十文字家のAランク魔法が使用されたくらいですもの」
藤林の言うように、単体で戦術級にも目されるほどの魔法師である十師族の魔法師がその力を振るっているのだから、戦略級魔法を使うことはできなくとも、“同じ十師族の一員”である達也が出場できないこともない、と見ることもできる。
「それに、今年の大会では一条家のクリムゾン・プリンスも出ていますし、一高でも随分と変わり種が出場しているじゃありませんか」
加えて言えば、今年の九校戦の新人戦は一昨年、つまり七草真由美や十文字克人が初出場した年と同等か、内情を知る者たちにとってはそれ以上に魔窟のような年だ。
新ソビエト連邦による非公式の佐渡侵攻事件に際して、“爆裂”の魔法をもって数多の敵兵を屠った実戦経験済みの魔法師。クリムゾン・プリンスの異名を持つ一条将輝。
弱冠十三歳で仮説上の存在であった基本コードの一つ、加重系統プラスコードを発見した天才研究者。カーディナル・ジョージの異名をとる吉祥寺真紅郎。
師輔二十八家の一つ、“エクレール・アイリ”とも呼ばれる一色愛梨。
一高でも公開されてはいないものの達也や深雪といった十師族の魔法師がおり、加えて未知なる存在とも呼べる魔法師、否、魔術師が二人も参戦している。
藤林がそれを示唆すると、場の空気がピンと張り詰めた。
風間が、柳が、真田が、達也へと鋭い視線を向けていた。
「達也君。君はあの魔術師たちをどう見ている」
「どう、とは?」
名目上では、達也はこの場に彼らの友人ということで呼ばれている。
軍属としての大黒特尉は秘密にされるべき戦略級魔法師だからだ。だが、実際にはいろいろと告げるべき内容を告げ、釘を刺し、情報を仕入れるための場だ。
“大天狗”風間玄信。達也が体術の稽古を受けている九重八雲の門下の筆頭でも忍術使い。古式の魔法に連なり、今軍属に身を置く彼も魔術師については知っている。けれどもすべてを知っているわけではない。
「彼らには国外の何らかの組織との繋がりがあると見られている」
魔法とは強力な軍事力になりうるものだ。
達也しかり、十師族や百家であっても、あるいはなくとも、兵器としての魔法力を求められる魔法師は、国によって海外との関わりを制限される。
中には、ハーフやクォーターのように系譜に海外の者がいて繋がりがあるケースもあるが、特に強力な魔法師や希少な魔法を有する者は、自由に海外渡航することもできないし、移住は特に厳に管理される。
「藤林の調査でも彼らの両親が国内に居ないことが判明しているし、どうやら海外に資金源があるらしく、資金の流入が見られる」
その彼女が調べ上げたことだ。彼らには日本の魔法師としては疑わしい点がある。
「魔法師の国外移住は制限されているはずですが」
「魔法師は、な。だが彼らは魔術師だ」
真田の言うことはある意味ではもっともだ。
魔術師の歴史は魔法師より古く、魔法師のルールが魔術師に適用されるいわれはない。
「詭弁でしょう。事実としてあの二人は魔法師として魔法科高校に在籍している」
だがそれを達也はバッサリと、明確に断じた。
たとえ彼らが魔術師であっても、今の彼らは魔法師という肩書を持ち、魔法を有する者という区分けがなされている。
ならば魔術師であっても、古式魔法師と同じく現代に生きる魔法師であることに違いはない。
「だが彼らが魔術師と分かったのもこの数年のことだ。彼らの先代も魔術師であるのかどうかは調べられていない」
ただし、あの二人が魔術師として、魔法師として明らかになったのがここ数年なのだから、それ以前の状態では彼らや、彼らの親族一門に関しては魔法師とは見なされていなかったとしてもおかしくはない。
そして非魔法師でなければ、今でも移民や渡航は不可能ではない。
「藤林さんでも、ですか……」
「どうやら彼ら、重要な情報のやりとりには通信機器ではなく、なんらかの魔法的な、いえ、魔術的な手段を用いているようなのよ」
「流石の藤林でも未知の技術体系が相手では深入りできん」
藤林は電気・電波信号に干渉する発散系、収束系、振動系魔法の使い手であり、有線・無線を問わず通信に介入する魔法を得意としている。そして現在進行形の通信のみならず、上書きされて消去された磁気・電子・光学記憶媒体のデータを再構築する特殊スキルまでもを有しており、そんな彼女がその気になれば特定されている個人の家庭に対してハッキングを仕掛けることはわけない。
けれども彼らが現代的な情報通信手段、つまり電化製品を用いた情報のやりとりをせずに別の手段――例えば魔術による遠隔通信手段を持っていた場合、いくら電子を操作できる藤林でも情報を探るのは難しいだろう。
そしてなにも情報を得る手段はハッキングだけとは限らない。
「したのですか」
穏便に訪問して交渉することもできるだろうし、国外の不審な組織と繋がりが疑われるというのであれば、些かばかり強硬な手段で“交渉”することもあるだろう。
実際、調査して分かりませんでした。で済むはずがない。
独立魔装大隊は、国防陸軍第101旅団の旅団長である人物が、十師族という民間魔法戦力から独立した魔法戦力を備えることを目的とした実験部隊だ。
十師族との繋がりの薄い、そして十師族でさえ解決できなかった魔法事件を独力で解決してみせた魔術師という戦力は是非とも確保しておきたい力だ。
おそらくは十師族も、わずかでも繋がりのある十文字家や七草家から彼らにアプローチしようとしているだろう。
「できなかった、というべきだな」
「2年前の事件の後、秘密裏に交渉をもとうとしても彼らの屋敷に招き入れられなかったの」
だが今のところ、十師族側も、国防軍側も彼らから技術を盗み出すようなことはできていない。
今もって彼ら、魔術師は謎の存在だ。
「彼らと繋がりのある組織については分かっているのでしょうか?」
達也からの質問に、真田たちは顔を見合わせ、そして風間がその組織の名前を口にした。
「……国連だ」
それは前世紀から原型をもつ世界的な組織。
魔法が世界に認知されるよりも前、明確に非魔法師たちが築き上げたはずの組織。三度の世界大戦を経て、今やその権威は失墜している。
魔法師たちも国際魔法協会憲章に基づき国際魔法協会に属しているといえなくもない。けれどもそれは国連とは別の独立した組織であり、根本的に国家間の争い、魔法師の闘争に介入するという事はない。
「でも、調べた限り、国連に魔術師が携わっている部署は確立されていないはずだし、彼らの親族が務めている記録はないわ」
表立っては明言されない国外の組織に組している。
しかもそれらは魔法師にとってすら未知の技術を有しているとなれば、持たざる者にとっては邪推を働かせるには十分。
そう、他ならぬ魔法師自身が、そうなのだから。