Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
満員の観客が注視する中、二人の魔法が激突していた。
片や敵陣に炎獄をもたらし自陣を凍てつかせる
雫は氷柱の温度改変を阻止する情報強化をもって自陣を守り、深雪は振動と運動を押させるエリア魔法によって雫が本命の共振破壊がその本領を発揮する前に鎮圧した。
互角にも見える攻防は、深雪がじわりじわりと押していた。
どちらの氷柱も一つたりとも欠けてはいないが、雫の共振破壊は完全にブロックされており、一方で深雪の熱波は雫の陣地覆っていた。
氷柱にかけた情報強化の守りは、しかし熱波による空気加熱による物理現象からまでは氷柱を守り切れておらず、じわりじわりと溶け出していた。
このままではジリ貧。
故に攻防を大きく動かす一手は雫から放たれた。
汎用型のCADを装着し、共振の魔法を放っている左手を右袖の袂に入れてすばやく抜き出す。
手にしているのは小型の拳銃形態の特化型CAD。
向かい合う深雪の驚愕する表情が見える。意識の外側では観客達も驚きに湧いていた。
CADの2個持ち、同時操作。それは一つのCADを使ってマルチキャストすることよりも難易度の高い特異技能とも言われている。
この九校戦でも同時操作を行える者はいるが、例えばそれは現代魔法と古式魔法であったり、あるいはイレギュラーの存在であったり。
現代魔法の同時使用。それは九校戦を長年見てきた目の肥えた観客をして驚きに値するものであり、敬愛する兄の特異技法であるそれを目の当たりにした深雪の動揺も大きかった。
格納されている魔法式は一種類。振動系魔法、フォノンメーザー。
雫が得意とする大出力振動系の高難度魔法。超音波の振動数を量子化するレベルまで上げて熱戦とする魔法だ。
熱戦は、これまで相手に傷一つ許さなかった深雪の陣地の氷柱に確かにダメージを刻みつけ――――しかしそれでも、深雪には届かなかった。
深雪の次なる魔法によってフォノンメーザーはその量子レーザーに匹敵する運動エネルギーを失った。
広域冷却魔法“ニブルヘイム”。領域内の物質を均質に冷却する魔法。その冷却域はダイヤモンドダストを、ドライアイス粒子を、そして時に液体窒素の霧すらをも含む大規模冷気塊を作り出して対象にぶつけるという使用法すらもある。
雫は情報強化によって守りを固めようとするも、氷柱の温度改変を阻止する情報強化ではニブルヘイムによって液体窒素を生み出すことを止めることはできない。
びっしりと霜のように氷柱に張り付いた液体窒素。
それの意味に雫が気づいた時にはすでに遅く、深雪によって再び発動された
無慈悲なほどに圧倒的に、残酷なまでに明確な結末。
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この日、一高は大きな成績を叩き出した。
新人戦の得点は本戦の半分とはいえ、女子バトル・ボード優勝、男子バトル・ボード優勝、女子アイスピラーズ・ブレイク上位独占。
いずれもその成績を恥ずべき所などなく、真由美たち首脳陣にしてみれば小躍りしたくなる一日だっただろう。
だが、トップの得点が優勝であったとして、そこに負けた者がいたというのもまた事実。上位独占ということは、
「優勝おめでとう、明日香」
「ああ。ありがとう」
部屋への道の途上で遭遇した雫から勝利の祝福を述べられた明日香は、けれどもそれに対する返事がワンテンポ遅れた。
雫の成績は新人戦スピード・シューティング優勝にアイスピラーズ・ブレイク準優勝。誇るべき成績であり彼女が優等生であることは疑いの余地がない。だが続けて彼女に祝いの言葉を返すには、雫の顔はあまりに憂いを帯びて見えた。
あるいは感情の起伏に乏しく見える雫の表情からは、その憂いを見紛う者もいるかもしれない。けれども明日香には雫の心のうちに悔しさが溢れているのを感じ取っていた。
視線を受けて顔を俯かせた雫に、明日香は手を伸ばして頭を撫でた。
アシンメトリーを飾る花の髪飾りを崩さないように優しく温かな手に誘われるように、雫は正面に立つ明日香の胸に顔をうずめた。
「勝ちたいって、思った」
ゆっくりと、雫は抱え込む悔しさを滲ませる。
「今までで一番、誰かに勝ちたいって、そう思ってた」
何が足りなかったのか。
雫も深雪も、技術者は超高校級である司波達也。用意された術式もAランク魔法師にのみ公開されている高レベル魔法式。
達也が深雪にのみ贔屓したということはない。それならば達也は雫にCADの二個持ちなど提案しなかっただろう。深雪との時間を削って、あれほど一生懸命に自分の練習に協力しなかっただろう。
確かに、
CADの調整は技術者に内面を曝け出すようなものであるだけに、信頼関係が影響を及ぼすこともある。
けれども達也に不信を覚えはしなかった。信頼できる技術者だ。
勝ちたいという思い、これまでの努力が深雪に劣っていたとも思わない。
「でも、手も足も出なかった……」
それでも結果は伴わなかった。
つまり、純粋な魔法力の差。
魔法の力、才能は平等ではない。かつての“異能”とは異なり汎用的になったとはいえ、魔法を扱える才能を持った人はわずかだ。
その中でより実践的な魔法力を持つ魔法師はわずかで、多くは血統に依存している。
だからこそ百家が、十師族という制度が、存在する。
自分はそういった魔法の名家ではない。けれども深雪も同じはずで……なら、その差はどこにあったのだろう。
伴わない結果なら、これまでの努力というものは……
「過程と結果はワンセットじゃない。それらは別のものだ」
自身の胸元に顔をうずめ、ぎゅっと服を握りしめて震える雫の様子に、明日香は言葉をかけた。
「結果を出せない努力に意味はないと言うけれど。愚かしい詭弁だよ」
その言葉は、考えるよりもどこかから流れてくるようで、もしかすると彼の中に宿っている“彼”も、かつてどこかの誰かにかけた言葉なのかもしれない。“彼”が抱いていた思いなのかもしれない。
「過程も結果も、それぞれが独立したヒトの意志だ。時には選ぶこと自体が答えになることだって、きっとある」
けれども今、懸命な過程を経ても得られなかった結果に震える雫を見て、それは間違いなく明日香の口から紡がれていた。
「雫にとって、戦うという選択をしたことが他に代えがたい答えのはずだと、僕は思う」
震えは、止まっていた。
ただ雫の握りしめた手はそのままに、明日香はあやすように少女の頭を撫でた。
✡ ✡ ✡
熱戦繰り広げられる九校戦会場から少し離れた場所にて
「か~っ!! 俺のケツでも舐めやがれってんだコンチクショウ!」
携帯端末に映るTVでその戦いの様子を見ていた彼は、和服姿の少女の陣地にある氷柱が全て粉砕されるという結果に思わず悪態をついた。
生身の左手で端末を持ち、義腕を額に当てて天を仰いだ。
「おやおや、卿のお賭けになった“牝馬”は2着ですか。それはそれはご愁傷様です」
悪態をついている隻腕義手のランサーに、気配遮断を解除したアサシンが声をかけけた。
「なんだ、オタクは違うのかい?」
「んン。私は予選の結果から手堅く相手の
悪態は賭け馬が負けたがため。賭けた額は契約者たちが取り扱っている額からすればそれはもう微々たるもので、けれどもこれから数日分の彼の飲み代がおけらになるくらいは懐を痛める。
「けっ、メルヒェン作家が手堅くとは夢や希望ってのは座にでも置いて来たのですかよ」
そもそもとして、
食事や休息などはさして意味をなさないし、元より彼らの身は泡沫の影法師。金を溜め込んで虚飾を彩っても詮無いことだ。
「いえいえ、私はメルヒェンなどというものの作家ではなく、んン、まぁいいでしょう。しかし、名にし負う決闘卿がそんな捨て鉢に賭け事に弱いとは、そちらこそ生前に置き忘れでもあるのでは?」
サーヴァントは本来全盛期の姿で喚び出される。
だが直接戦闘タイプではないかのアサシンにとっては活動さえできればどの姿であっても意味などなく、そしてかのランサーにとっては
「あいにくこちとらの運の悪さは
「あぁそうでしたね。んン。貴方のその腕も教訓でしたね」
「おうよ。王だの皇帝だのに仕える騎士の誉れなんざ、戦場じゃぁ役にたたねぇ愚図の言い訳ってな」
だからこその隻腕。だからこその
この腕こそは騎士の誇りだの誉れだなどという幻想に酔った結果だ。
だからこそ彼は誇りある騎士を憎む。騎士道だなどという権威の都合のよい走狗を蔑む。
騎士道を花と散らせなどしない。
現実という汚濁に這いずり、生きることに醜くもがく、理想という名の鎧を剥けば、高潔の騎士ですらそうなのだと知らしめてやるのだ。
「しかしま、運が無いのは俺だけじゃあるめぇ。下馬評通りに進み過ぎちゃあ、胴元の一人負けだろうよ」
とはいえ、目下の所、彼は騎士であっても傭兵でもある。なればその仕事の契約者の金払いについては何よりもまず気にせざるを得ないだろう。
騎士の誉れが金にならないのと同様に、金の切れた雇い主など糞も同じなのだから。
彼らの今の雇い主は、少々無謀な賭博の胴元を行っているらしい。
九校戦の勝敗と順位を賭けてのもので、ランサーとアサシンも遊びで一枚噛みはしたものの、胴元たちの規模はかなり大きい。失敗すれば上納先の親組織に粛清されることになるらしい。
だからこそ雇い主たちは九校戦に細工をして勝敗を操作、怪我人を出してでも優勝候補で客の多い一高を敗退させようと工作しようとしているのだ。
「んン、まぁそうですね」
下手をすればドロップアウトや死人が出ようとも構わない。それは選手たちの運が悪かったからだろうと。それがクライアントたちのご要望だ。
もっとも、アサシンにとってはランサーほどクライアントたちの金払いにも興味はない。彼にとってより重要なのは別にある。
「と言う訳でそろそろ私の出番と言う訳ですよ」
ただし彼にとってもクライアントたちの意向は趣向に沿っている。
物語の収集。それも教訓ある悲劇ならなおよい。
「まずは未来視の彼にはご退場いただきましょうか」
けれども邪魔な者がいる。
物語の登場人物は物語を俯瞰してはいけない。未来視などという異能は、教訓ある物語を阻害する要因でしかない。
ならば排除しようではないか。
物語をより悲劇的に、教訓ある物語として収集するために。
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大会七日目、新人戦は四日目。この日から新人戦とはいえ、九校戦のメイン競技ともいえるモノリス・コードの予選が行われ、同時に女子の花形競技であるミラージ・バットも予選が始まった。
軍関係者にとっては軍事力に直結しやすいモノリス・コードへの注目が強く、一般的な観客にとっては華やかなコスチュームなどでファンタジックなファッションショーの要素もあるミラージ・バットへの関心が高い。
ミラージ・バットに出場する光井ほのかと里美スバルの担当技術者である達也はそちらの調整にかかりきりとなり、一方で深雪はモノリス・コードの観戦となった。九校戦の中でもモノリス・コードがもっとも好きな競技である雫もそちらの観戦をし、一校の選抜選手――藤丸圭や森崎駿の応援を行っていた。
首脳陣である真由美や摩利たちも、魔術師のデビュー戦であるモノリス・コードを観戦に来ていた。
「やっぱり課題はチームワーク、か……」
「一試合目はなんとかなっていたし、次は四高だから取りこぼしはないだろうけど……」
九つある魔法科高校はそれぞれに特色があり、その中で四高は工程の複雑な、いわゆる技術色の強い理論畑の魔法師を多く輩出する傾向がある。実戦的な魔法師がいないわけではないが今までに九校戦の優勝経験はない。
今大会でも今のところ最下位の成績であり、予選トーナメントの一試合目でも黒星を刻んでいた。
一高の選手たちにも問題がないわけではない。
女子の好成績(とそれの立役者である二科生)を意識しすぎて空回り気味になっている男子の状態であったり、3人一チームで競うことになるモノリス・コードでのチームワークなどは一高の抱える大きな問題だ。
三人とも魔法実技の成績を勘案して選抜されただけあって魔法力は高い。学年三席である森崎はクイック・ドロウの名門である森崎家の魔法師で家業のボディーガードを手伝っていたりと実戦経験のキャリアもある。
同じく藤丸圭も魔法師ならざる魔術師ではあるが、その実戦力は目の当たりにしている。
地力では四高に負けることはないだろうが、この二人の相性というか折り合いの悪さは首脳陣にとってなかなか頭が痛い。
「森崎はもう少し現実的な現状把握をしてほしいところだが」
「藤丸君も浮世離れした対応をするから、火に油よね」
ガチガチの一科至上主義で、二科生で活躍する達也のことを頑なに認めない森崎は、風紀委員の上司である摩利としても悩みどころだ。
彼らの初対面からしてなかなか険悪だったが、その後も溝が埋まることはなく、同じ風紀委員の所属になっても、見下していた森崎の思惑に反して実績を積み重ねる達也は、本人は意図していないが、森崎の悪感情を煽る結果となっている。
そして今大会、技術スタッフでとはいえ、二科生でありながら唯一九校戦のメンバー入りをしている達也は、その担当競技――男子が敬遠したことによりすべてが女子競技――が無敗の結果を誇っているということに森崎はかなりのプレッシャーを覚えて自らを追い詰めている。
そして、一方の藤丸もその溝を埋めるためのフォローをしているかというとなかなか難しい。
明らかに喧嘩腰であったり対決姿勢を見せているのならば、上級生としてや風紀委員として注意のしようもあるが、藤丸圭は相手をそれとなく注意を行って窘めているように見せながらやんわりと相手を煽っており、それが意図してかどうかは一見すると分かりにくいが気づけば問題ごとを大きくしているとう困り種だ。
彼の幼馴染であり親戚であるという獅子劫明日香がしょっちゅうため息をつきたくなるのも分かるというものだ。
ともあれ会場では競技場のセレクトが終わり、一高と四高の両チームが準備に入っていた。
モノリス・コードはいくつかのステージからランダムでバトルフィールドが選択されて戦うことになるのだが、今回は市街地フィールド。
廃墟となったビルの中が両チームともスタート地点となり、敵チーム及び勝利条件であるモノリスの索敵と戦闘を行うことになる。
首脳陣たちの頭を悩ませる藤丸圭が九校戦として魔法師の舞台に上っていたころ、一方で明日香は…………
「さぁて、それじゃあ
騎士と相対していた。
魔術師として、そしてデミ・サーヴァントとしてだ。
すでに宿る霊基は活性化し、鮮やかな金髪と碧眼、騎士鎧に身を包み不可視の剣を携えた戦装束。
対する敵が携える得物は槍。
騎士らしく鎧に身を固めているものの、特に目を引くのはその右腕。もとよりエーテル体であるサーヴァントの身だが、そこにあるのは肉感による再現ではなく鈍色の鉄腕。
「
「さぁてどうだかねぇ。そういうオタクは分かりづらいねぇ。武器を隠すなんざ騎士の風上にも置けないとは思わねぇかい?」
この騎士を捕捉したのはつい先ほど。これ見よがしなサーヴァントの気配を察知して九校戦会場の片隅、軍事演習場の人工林にかすめる場所でサーヴァントと対峙することとなったのだ。
三騎士の一角。ランサーのサーヴァント。
今までに明日香は四騎士のサーヴァントと戦い、彼らを下してきた。けれども今回対峙するのは三騎士。
対魔力と高い白兵戦技能を有する騎士のサーヴァント。
明日香に宿る
鍛錬はもちろん積んでいる。
けれども夢の中で、夢魔である魔術師の導きのもと戦った本物の“騎士”との手合わせでは、まだ及第点を得ていない。
彼の騎士たちは理想の騎士の具現であり、その力はまさに英雄。
その“王”たる“彼”の霊基を宿し、その戦闘経験の影響も受けているとはいえ“彼”そのものではない。
明日香は……、いやカルデアの魔術師として、目の前のサーヴァントの真名を把握できていない点。
数多の英霊と絆を結んだ藤丸に連なる彼にとっても、目の前のサーヴァントは未知の英霊であったのだ。
それに対して如何なる手段からなのか、明日香は本来の英霊の姿とは異なるはずなのにそこに宿る霊基の素性を知られている。
真名の露呈・看破はサーヴァントと対決する上で重要なファクターだ。
ただし隻腕騎士の英霊となればある程度は絞られる。“彼”の旗下にある騎士にも隻腕で知られた
注目すべきはランサーの持つ槍。
英霊の持つ武具はそれが宝具となっているケースが多い。無論、それだけが有する宝具ではないだろうが、真名を看破する手掛かりにはなる。
白黒二色塗りの槍には同じく白黒二色地の旗が巻かれている。
「偉大なりし騎士王サマの騎士道ってやつを、いっちょ後輩騎士に拝ませてくれやッ!!」
「――!!!」
観察と対峙はそこまで。槍を手に突進してくるランサーに、明日香も不可視の剣を向けて剣戟の幕を上げた。
モノリス・コード会場の廃墟ビルの中
「さてさて、それじゃあ今回も頑張っていきますか。ね、モリサキ君」
「……ふん。頑張るのは当然だ。勝たなければ、いや、優勝できなければ意味がない」
プロテクション・スーツにヘルメットを被った姿は圭のセンスにも反するものではあるのだが、規定上それがモノリス・コードのスタンダードである以上仕方がない。
諦めてせめてチームメイトに朗らかに話しかけるが、あまり友好的ではない顔と気負いすぎな返答が返って来て肩を竦めた。
実際の所、森崎の魔法力は一科生に選ばれるだけのことはあるレベルだし、テクニックに関しては学年三位の成績だけあって一年生にしてはだが非常に高い。だがそれにしても十師族の直系である三校の一条将輝に対抗できるほどではない。
魔法師は魔法の力によって現実を改変する。だがそれはそれとして、改変できるからこそ現実を正しく認識しておかなければならない。
その意味で森崎は現実を正しく認められていない。あるいは魔法力の低さをテクニックで補っていると教師たちなどからは評されている。
とはいえ、相手はここまで最下位の四高。
首脳陣はまず取りこぼしはないだろうと楽観視している試合だし、だからこそ森崎たちにとっては無様を見せられない戦いだ。
特に二科生や女子たちが活躍しすぎており、一方で男子の成績がふるっていない現状はプライドの高く一科至上主義の森崎には耐え難い。
二科生の肩を持つ軽薄な魔法師である藤丸の力は、たしかに一科に相応したものであるし、先の試合でも十分な支援技術を見せたことから、魔法師としての力は認めよう。
けれどもそれと相手の性格・人格を受け入れることとは別問題だ。
性格的な問題として、森崎は藤丸圭が気にくわなかった。
と、いうように思われていることは分かっているが、圭としても好みではない。
弄りがいのあるのは好むところではあるのだが、如何せん森崎は男子だ。
何が悲しくて男のツンツンキャラの好感度を上げてデレモード突入なんてルートを選ぶ必要があるだろうか――――いやない!
そういうわけで、圭としてはこの競技ほどほどに、適度に、終わらせたいところではあった。
ただし、それは
モノリス・コードは、適正がかなえば明日香が是非とも出たかったであろう競技のはずだ。
正確には彼が、というよりもモノリス・コードフリークの少女の期待に応えるために。その代わりに出場しているのだから、ここはいいところを見せるべき場所に他ならない。
試合開始前に敵チームと直接会って挨拶、などができれば
――――そしてそれは圭にとって、致命的な条件不足であった。
間もなく試合が始まる。
姿は見えないがおそらくどこかの廃ビルに、こちらの陣営と同じようにモノリスが設置され、スタートの時を待っていることだろう。
スタートの合図を前に魔法式を構築することはどの競技でもフライングになる。監視員とサイオン活動の機械的なチェックによってフライングは審判されるので、もしかすると魔法ならざる魔術であれば判定を潜り抜けられるかもしれない。
ただそれでも、このような試合で出し抜くために魔術を使おうとは思わなかった。
もちろん、試合開始よりも前に相手に会うことで自身のパッシブスキルである異能が相手の情報を見抜いてしまうのであればそれに越したことはなかったが。
開始の合図まで残り20秒。
圭の役割は遊撃及び支援。敵陣に攻撃を仕掛ける森崎のサポートという役回りだが、どちらかというと森崎とかち合わなかった敵が自陣モノリスに近づく前に排除するのがメインになっている。
残り15秒。
不意に、圭の右目に今とは別の光景が映る。
――――崩れ落ちる天井。魔法による防御は間に合わず、加えて加重系の系統魔法である破城鎚が襲い掛かり、その下にいる者たちを押しつぶす――――
「!! まず―――ッッ、二人ともビルから――」
それはわずかに数秒先の未来。
ここに至るまで未来視が発現しなかったのは、相手を見ていないという致命的な情報不足がゆえだろう。
もしもここに居たのが明日香ならば、その直感によって別の未来を手繰り寄せたかもしれない。人ならざる、魔法師をも上回る身体能力によって二人を強引に引っ張ってビルから飛び降りることも可能だっただろう。
「なん、うわあああああっっ!!!!」
だが圭では崩落を防ぐには間に合わず、けれども天井が森崎達を押しつぶすのには間に合うはずだった。
――「それはイケませんよ。
「!!?」
そこに別の介入者が現れなければ。
圭が未来を予測し、その未来に反応して見せたからこそ、その介入者は現れた。
――「この物語において、貴方は読者などではなく、踊り狂うヴィランの一人なのですから……」――