Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~   作:バルボロッサ

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お待たせしました。第3章 夏休み編の始まりです。
原作では5巻の夏休み編に相当する章になります。





第3章 夢想迷走遊戯 夏休み編
バカンス編 1話


 

 華やかで落ち着いた管弦の音が流れ、リズムに合わせて足が動く。

 繋いだ手は温かく、けれど少女の柔らかく小さな手とは違って大きくて固いのは彼が剣を振るい誰かを護る騎士だからか。

 身長差があるので見上げる形になっているが、脚の運びに淀みはない。

 見えない剣を振るうときの疾風迅雷のような苛烈な動きとは違う優美な動き。

 大富豪の令嬢である彼女は、良家の子女のマナーらしく社交ダンスも嗜んでいる。

 それが活きた経験は殆どなかったのだが、このような場で活きることになったのなら無駄ではなかったのだろう。

 手を繋ぐ彼は、少女がダンスを踊れないくらいで態度を変えるとは思わないが、滑らかな足運びで優美さを見せる彼と釣り合いがとれて見えるのは嬉しい。

 どちらかというと彼がこのような社交ダンスを踊れる事の方が、意外といえば意外だったかもしれない。

 思っていたことを顔に出したつもりはなかったが、それを見透かしたのか彼はくすりと口元に笑みを浮かべると、少しだけ強引に、けれども流れるようにして雫の手を引いてターンした。

 

 彼の胸元で、彼に腕を引かれるのはこれまでも何度かあった。

 ただそれは戦場で、少女を守るための動きであり、華やぐ社交ダンスの場ではない。

 そしてその時の彼はフードで顔を隠していた。

 その時の顔と今の顔は違う。

 戦場で敵と向かい合っている時と平時であるからというだけではない。

 少しくすんだ金色の髪。少し色の褪せた黒い瞳。

 これだけ近くから見つめてもやはり彼の顔立ちは整っている。

 この九校戦会場で、深雪と最初にダンスを踊っていた三高の一条将輝もプリンスと呼ばれるだけの美男子ではあるのだが、それに勝るとも劣らない。

 ただ、彼の顔を見つめるとドクンと胸のどこかで赤い実が弾けたような気持ちになるのは、なにも彼の顔が整っているからだけではない。

 きっとすべて。

 過去において彼女を守ってくれたからだけではなく、頼もしい力の持ち主だからだけではなく、懸命に誰かを護ろうと戦う姿がかっこいいからだけではない。

 きっと彼のすべてが、こうも少女の心をときめかすのかもしれない。

 

 やっぱり―――――

 少女は――――彼女は―――――北山雫は――――――

 

 

 

 

 

     ✡  ✡  ✡

 

 

 

 意識が浮上する。

 見ていた夢の心地よさに、もう少しと欲求が訴えかけるがそれとは裏腹に覚醒していき夢が遠のく。

 今日の夢は覚えていた。九校戦の時の閉会式典で明日香と踊っていたときのこと。

 まだ寝ぼけが解きほぐれない眼で自分の掌を見てみた。

 あの時彼とつないだ掌。

 あの時のことを思い出してドクドクと鼓動が早まるのは見ていた夢が鮮明だったからか。

 掌を心臓に当てて鼓動を感じ、落ち着かせるとベッドから降りて窓へと向かった。

 

「―――――ふぁ………………っぁ」

 

 雲一つのない晴天。女子友だちと買い物に行くにはいい天気だろう。

 大きく伸びをして、寝ている間に固まった体をほぐし、頭を覚醒させたところで今日の予定を思い出した。

 

「今日は買い物の日…………よし」

 

 今日は友人たち――ほのかや深雪、エリカや美月と共に水着を買いに行く約束の日なのだ。

 買い物に行くということに加えて、その目的を思い返して小さく拳を握った。

 

 水着の購入は残りの夏休み期間に友人たちと行く予定になっているバカンスのためだ。

 北山家が所有しているプライベートビーチ付きの別荘。

 小笠原の元無人島(さらに遡ればその前は有人島であったらしいが)に建てられた高級別荘は、資産家たちの近年のトレンドでもあるのだが、その中でも北山家の様にプライベートビーチ付きなのは富裕層の中でも一握りと珍しい。

 幼い頃からの付き合いであるほのかとは以前にもバカンスをその別荘で過ごしたことがあるが、今回は新たに一高でできた同級生の友人たちと一緒だ。

 その中にはほのかの想い人である達也と、そして明日香も来る。そして、目下最大の危機感を雫に与えている強敵もまた…………

 

 

 

 

 ――――――九校戦終了後のある日。

 

「海のある別荘、かい?」

「うん。だけど……忙しい、かな……?」

 

 外界との没交渉で知られている魔術師の館ということで通信自体が繋がるかどうか不安があったが、教えてもらえた連絡先はきっちりと目的の主を出してくれていた。

 現代において、一般家庭用に普及している通信システムでは相手の顔を見ながらのTV電話が当然のように標準仕様ではあるのだが、相手が異性間である場合や相手方の室内の様子を映さないように配慮した場合にはサウンドオンリーの通信というのも廃れてはおらず残っており、今回も相手方の顔は映していない。

 だから顔色とかは分からないのだがなんとなく通信越しに聞こえるその声が疲れているように感じて、雫の誘いの言葉を尻すぼみになった。

 

 先日行われた九校戦の疲れ……ではなく、最終日前日での2人のサーヴァントとの激闘が尾を引いているのか。

 明日香のサーヴァントとしての戦いを3度間近に見て、その度に助けられてきたが、彼があれほど危機に陥ったのは初めてだった。

 雫たちを助けるために敵の術中に飛び込み、打つ手のない窮地に陥った。

 幸いにも助力するサーヴァントが現れたことと、藤丸圭が切り札を切ったことで窮地を脱することができた。だが後で聞いた話によると、あの時藤丸圭が行った魔術行使―――概念礼装というらしいが、それは使い捨てで、もう一度発動することはできないらしい。

 あの時、倒れて意識消失するほどであった藤丸圭を見れば、いかにギリギリで薄氷の勝利であったかは雫にも分かる。

 そんな戦いを彼らはこれからも繰り返していくのかもしれない。

 だからこれは迷惑なことなのかもしれない。

 けれども……過酷な戦いをこれからも続けていくというのなら、せめて一時でも……

 

 そんな気遣いに悩める雫の懊悩は通信の向こうから聞こえる底抜けに明るい声にぶん投げられるようにしてぶち壊された。

 

「海? バカンス!? 別荘!? 行きたい行きたい! 僕も行きた~い!!!」

「ライダー!!!!」

 

 バカンス参加を叫ぶ声と明日香のやりとりに雫の眉がぴくりと反応した。

 先日の九校戦以来、彼らの家に居候している“少女”騎士。やはり彼らは一緒に暮らしているらしい。

 

 九校戦の際に召喚され、今現在、藤丸の家に滞在しているアストルフォ。

 藤丸圭と明日香とは同じ家に住んでいるのだという。可憐な少女が居候するには適切だとは思わないが、サーヴァントであるという事情からそうなったらしい。

 ()()を思い出すともやもやが強くなる。

 可憐で快活。少しアホの娘らしさがあるがそれがまた彼女の魅力に映る。

 年齢や幼い外見とは釣り合わず、感情表現に乏しいと言われる雫とは対照的。

 体型は雫よりもさらに幼児体型に見え、胸のサイズでは雫が勝っているだろう。けれども胸のサイズを主張すると他方面でいろいろと不都合が出てきそうだからやめておきたい。雫とて胸には自信がない。

 なによりも、彼女は強いのだ。

 彼と共に戦場で肩を並べられるほどに。背中を預け合えるほどに。

 雫が立つことのできない魔術師の戦い、サーヴァントとの戦いに彼女は立てる。

 

「っとすまない。誘ってくれるのは嬉しいのだけど、いいのかい? …………雫?」

 

 これまでにも彼女は自身の魔法力の不足は感じていた。

 周囲の同年代の魔法師と比べてではない。

 超常の存在を相手に剣を振るい戦う彼の姿を見て、それを支えたいという思いに対して、圧倒的に自分の力が隔絶しているから。

 けれども彼女は戦った。

 彼と共に戦えるほど、もしかすると彼以上に強く。

 理由は聞いた。

 真正のサーヴァントとデミ・サーヴァントの差。

 本来の意味で英霊であるアストルフォと比べて獅子劫明日香は現代に生きる人間だから。

 サーヴァントも英霊の全ての力を使えるわけではないらしいが、それでもただ霊基()を受け継いだだけのデミ・サーヴァントに比べれば、力の使い方、経験の蓄積――英雄としての覚悟と在り方そのものが違う。

 アストルフォという英霊は決して強い英雄ではないらしいが、それでも雫にしてみれば、魔法師にしてみればありえざるほどに強く、そして明日香にしてみてもこの上なく頼りになる強さを持ったサーヴァントだ。

 それが羨ましく、そしてどこかでほっとする。

 今まで、明日香はどこまで行っても雫たちとは違う存在なのかもしれないと、焦がれても仕方のない英雄なのかもしれないと思いかけていた。

 けれども真正のサーヴァントと比べれば、違うのだと分かった。

 

 雫の胸にもやもやが広がるのは、彼女は明日香の(正確には藤丸の)家を知らないのに、そこにアストルフォという“少女”は生活を共にしているからか。

 

 シャルルマーニュ十二勇士の一人、英雄アストルフォ。

 物語におけるシャルルマーニュ英雄譚に出てくる騎士の一人で歴史に当てはめるのであればカール大帝の時代、8世紀後半に活躍したことになる。

 魔法とは違い魔術では古ければ古いほど力が強く、今の魔術は殆ど力がないらしいとは藤丸圭から聞いた話だが、魔法師である雫にはよく理屈の分からない話だ。

 ただその法則に従えば、15、16世紀に生きたコロンブスや鉄腕ゲッツ、同じ時代の物語に名を登場させるメフィスト、さらに後の時代にくだるグリムなどよりもずっと古く―――つまり強い英霊である筈だ。

 

 明日香に宿っている英雄が誰なのかは知らない(通常英霊の名前――真名は隠すものらしい)。

 けれどもデミ・サーヴァントでありながらもコロンブスや鉄腕ゲッツを1対1では圧倒していたことから本来はとてつもなく強い英霊なのだろう。

 その英霊の正体をアストルフォはうっすらとだが察することができているらしい。それもまたもやもやとした妬心の種なのかもしれない。

 自分の知らない彼のことを、言われなくても察することのできる彼女が、肩を並べて走ることのできる彼女が、羨ましいのかもしれない。

 

「ぼ~くも~行~く~!!!! ダメだっていうなら泣いちゃうぞ! わんわん泣いて、そんでもってヒッポくんで飛び出しちゃうぞ!」

「ライダーッッッ!」

 

 騒がしい会話が通信の向こうから聞こえてきて、やりとりをしていた明日香の声が遠くなったのは、騒いでいるのを止めにいったからか―――――――

 

「いやいや、騒がしくてすまないね、雫ちゃん。聞いての通り、ちょっと色々事情があって、僕としても明日香にはバカンスでのんびりしてほしいんだけど、手が離せないのがいてね」

 

 明日香の代わりに通信には別の声、圭が出てきた。

 その奥ではドタバタフォーゥと騒がしさが通信機越しに聞こえ続けている。

 

 それは雫の知らない場所での、通信機越しでの今の彼の日常。

 

 

 

 

     ✡  ✡  ✡

 

 

 

 

 

 あの後代わりに出てきた圭と話をつけたことで明日香と圭、そしてアストルフォが今回のバカンスに参加することとなった。

 もとより明日香のみならず友人たちというくくりで圭も呼ぶつもりだったので、九校戦の際に十師族たちとの取り決めで決められた監督下にあるアストルフォが来るのも想定の範囲内であったから別にそれは構わない。

 

 今回のバカンスは雫自身が友人たちと行きたいという思いがあるのだが、別の目的や思惑もあった。

 一つは雫の父親が娘の新しくできた友人や“気になる男子”に会いたいからというのがある。

 かつて雫が誘拐された事件においてそれを解決したのは十文字家と七草家。そういう暗示がかけられていたのはなにも雫だけではなかったのだが、今はその暗示から解放されている。

 魔術によるものは魔法による記憶改竄とは違うからなのか、雫の解放と同時に両親の記憶の修正も行われた。

 だからか父は彼らのことを気にかけるようになった。

 今回、父がバカンスに友人たちを別荘に招きなさいと提案したのは彼のことや、昔からもう一人の娘同然に可愛がっているほのかの想い人(達也)を見たいからだろう。

 

 そして別の目的として、そのほのかと達也の距離を近づけるというものがあった。

 雫の親友である光井ほのかは司波達也に好意を抱いている。

 それがいつからかというと多分入学試験の時か入学早々に達也やエリカたちと知り合うに至った騒ぎの時に庇ってもらったことからだろう。どちらにしろほぼ一目惚れと言っていい。

 ほのかの家系である光井は十師族や百家などのように数字付きではないが、魔法師としては古い家系に属する。

 エレメンツ。魔法の開発初期において、古式魔法に見られた伝統的な属性――火や風、あるいは水などといった分類に基づくアプローチが有効だと考えられていたころに行われた魔法の開発アプローチによって生み出された家系だ。

 この考え方とアプローチは後に4系統8種の体系が確立することによって中止されることになるのだが、当時はまだ有効だと考えられており、そして同時に未知の新技術、魔法に対する権力者の恐れが迷信的に強かった時代だ。

 なぜそれほどまでに権力者が魔法を恐れたのかの“理由”は定かではないが、けれども確かに物理現象自体を改変し、当時の科学力では視覚化することのできなかった魔法は暗殺などにはおあつらえ向きだっただろうし、であれば権力者が恐れたのも納得できる。

 けれども軍事力の開発のためには実用的な魔法の開発は必要であるとの二律背反から、研究者たちはエレメンツの遺伝子に主に対する絶対服従の因子を組み込むことを命じられて実行した。

 勿論、服従遺伝子は完全ではなかっただろうが、可能な限りの措置によって施されたそれは、現代においてもエレメンツの末裔に高い確率で他者に対する依存癖、あるいは忠誠心が見られる傾向にあることから一応の成功はしていたのだろう。

 つまりその末裔であるほのかにも他者に対する依存癖があるのだ。

 かつてはやや雫に対して見られていたかもしれないその癖は、けれども司波達也という、ほのかからして頼りがいのある男性の登場によって完全にそちらにシフトした。

 依存と忠誠、そこに乙女フィルターによる恋慕の情などが入り混じった状態が今のほのかだ。

 ただ一方で達也の方にほのかを受け入れる構えがあるかというと疑問符が付く。

 現状、達也の関心と大事は唯一人の妹、深雪に向いている。

 深雪も大切な友だちではあるのだが、彼女と達也とは血のつながった兄妹だ。

 大昔の異能者や貴族などは(あるいは魔術師もそうだったかもしれないが)、近親婚によって血を濃くすることで魔法力を高められるという迷信があったようだが、現代魔法と科学においては近親婚は百害あって一利なし。むしろ魔法力を損なう可能性が非常に高いとされている。

 それでなくとも兄妹の近親相姦など倫理的にもアウトだろう。

 であれば、ほのかを応援して達也との距離を縮める―― つまりは恋人関係にしようとすることは裏切りにはなるまい。

 別荘のある聟島列島は海に面しており、プライベートビーチもついている。季節的にも夏真っ盛りでつまり思う存分、水着アピールできるわけだ。

 

 そしてもう一つ。雫自身も、明日香と…………という想いもあった。

 少なくとも、ほのかに達也との距離を縮めてみないかと、今回のことを提案したときに、逆に彼女から指摘されるほどには、親友の目から見ても自分は彼に好意を抱いているらしい。

 だから彼の家(正確には従兄弟である藤丸家)に滞留しているアストルフォに危機感を抱く。 

 

「…………よし」

 

 とりあえず今日は水着を買いに行く日だ。

 ほのかが達也にアピールするための、そして自分が明日香にアピールするための。どうせならとびっきりの水着を、けれども自分らしいものを買いたい。

 買い物にはほのかだけではなく、都合のついた深雪やエリカ、美月たちも来るし、達也も荷物持ちとして来てくれるらしい。

 残念ながらそちらの方は明日香や圭との日程が合わず、アストルフォも来ない。

 世界を移動してきたばかりというアストルフォに水着があるのか疑問だが、本人曰くどうにかなるらしい。(そういえば九校戦のときも、現れた時の騎士姿ではなく私服だった)。

 

 

 ちなみに、買い物に行ったデパートでは案の定、周囲の注目を集めまくってひと騒動になりかけた。

 雫やほのか、エリカたちも十分以上の美少女だが、とりわけ絶世の美少女である深雪がいたからで、そんな彼女が水着を選んでいるのだから当然だろう。

 

 

 ともあれ、ほのかも雫も、来るべき日のための戦闘準備は整った。

 金曜日から日曜日にかけての二泊三日。

 向かうは小笠原にある聟島列島の媒島。

 

 いざ―――――夏休みバカンスの始まりだ。

 

 





昨年はスカディや水着BBに始まり弓王、アビィとお迎えできたのですが、エッチィ服装に釣られてぐっちゃんを回して爆死。そのあと新年迎えて邪ンヌをお迎えできてテンション持ち直した次第でした。
だからというわけではありませんが、前章から長く空いてしまいました。
魔法科サイドでは最近は亜夜子に浮気しつつあります。ロリ巨乳とか…………
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