Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
*注意
今回、死にネタが満載となっています。原作キャラおよび作中生存キャラの死亡、カップリングの崩壊などがあります。残酷描写ありです。バットエンド直行、タイガー道場コースです。読み進められる方はご注意ください。
────―22世紀、某国────―
とある大陸のとある国。人類の繁栄の象徴を詰め込んだような雑多な街。
そこにポウと、一つの光が灯った。
それを宙から見ている者がいれば、あまりの眩さに心を奪われていたかもしれない。
古の詩人であれば松明を千、合わせたよりもなお明るいと評しただろう。
しかし詩人たちはその輝きには美しさを讃える詩ではなく、畏怖、あるいは恐怖を覚えて口を噤んだだろう。
宇宙からも見えるほどの輝き、大きさになったその光は、人類の進歩の象徴であるかのごとき巨大なその街を呑み込み────消えた。
圧倒的な熱量と、喪失後の吹き荒れる嵐は唯の一人の生存者も許さずに瞬きと共に消えた。
後に残されたのは抉り取られたかのような凄惨なクレーターと草木一つない大地。
失われた質量を補うために、周囲の空間からなだれ込んできた空気は、それだけで大惨事を招くであろうハリケーンを発生させ、なにもなくなった大地をさらに蹂躙する。
その日、
都市ひとつが丸々消えるほどの大破壊、それだけの熱量の発生は大陸の局部地域のみならず世界の気候にすら悪影響を及ぼすほどだ。
だがもはや、世界の人々は
この大破壊は、既に幾つもの国で繰り返されてきたことなのだ。
魔術や超能力──魔法の存在が認知されてからおおよそ100年。
魔法師たちにとっては始まりの世紀とも呼べる21世紀を終えて、人類は滅亡の危機に瀕していた。
無論のこと、これまでも滅亡の危機などというものはあった。ありふれていた。
3度の世界大戦。
けれどもその度に人類はそれを回避してきた。乗り越えてきた。
時に集合無意識の後押しによって、時にグランドオーダーの遂行によって。
だが今回、それらは働かなかった。
なぜならばそれは人類の意志。
彼らが求めに求め続けてきた生き方、人類の在り方が、行き詰まりを迎え、今日という日を迎えてしまったからだ。
USNA、新ソビエト連邦、大亜連合……そして日本。
かつて科学力と魔法力によって世界を牽引していることを標榜していた各国は既に首都を含む有力な諸都市を崩壊させられ、有力な指導者たちも既になく、内紛によってその国に生きる正統なる国民などというものが存在しない状態だ。
きっかけは、一人の少女の死だった。
前世紀の初頭から再発見され、人類の繁栄を後押しすることを期待された異能──魔法。
しかしそれは限られた才能を有した一部の者たちへのギフトだった。
世紀末を目前とするまで、魔法師と人類はなんとか共存できていた。
魔法師の数が著しく少なかったこと。その成立過程において人為的な後付けや研究がなされ、造られてきたという経緯。そして国家が魔法を自国の軍事力として定めていたことがその共存の理由であった。
無論、すれ違いや摩擦は多々あった。
かつての魔女狩りのようにではなくとも、非魔法師の人類の中には自らが持たない異能を持つ魔法師を脅威として排斥することを目論んでいたし、そうでなくとも魔法師を消耗品のように扱うことを是とする者たちも多かった。
特に後者は国家あるいは大企業の幹部や上層部に多く見られた傾向であった。
社会に必要とされる希少スキルを有している魔法師たちは、その魔法技能を搾り取られるように過酷な労働環境に身を置くことと引き換えにするようにして一般社会人の平均年収以上の高所得を得ていた一方で、魔法技能を持ちながらも魔法とは無関係の職業に従事することしかできなかった予備役的な魔法師の存在もあり──むしろ多く──彼らは差別を抱えながら低賃金の貧困にあえいでいた。
けれどもそれが続くと、あるいはそれは緩やかな速度ながらも、きっとより良い未来へと繋がっていくのだと、多くの者は考え、より良い未来を願っていた。
きっかけは────
✡ ✡ ✡
──―某所。
二人の魔法師の男女が、灯の消えた室内、ベッドの上にその身を横たえていた。
どちらの魔法師も青年期を迎え、今が最も肉体として充溢している時だろう
二人は恋人か夫婦か。
淫気の残る室内、女性の体には情事の痕が色濃く残っており、それだけに疲弊しているのか彼女は深く眠っている。
そんな女魔法師を眺める男魔法師。
引き締められた肢体はただの魔法師ではなく、彼が戦闘のできる魔法師であることを示唆している。
二人の情事が無理やりの結果ではないことは、女魔法師の様子から窺える一方で、男魔法師の瞳は、熱烈な情事の後とは思えないほどに冷え冷えとしている。
男の魔法師────彼の瞳は、かつて、すべてを見透かすかの如き瞳、物質界ではなく情報界にすらアクセスすることのできる瞳──精霊の眼であった。
それはあるいは千里眼と、魔術的にも評することのできるかもしれない、そこに至ることができただろう瞳であった。
だが今やその瞳は失われている。
先日超長距離狙撃大規模殲滅魔法を発動させたのも、衛星照準を介してのものだった。
男は──―司波達也は横たわる女に、壊れた瞳を向けながらも、その思考を過去へと回想させていた。
──────―なにが間違えていたのか。
彼にとって、大切なモノはただ一つだけであった。
彼の一族によって激情を奪われ、執着を生み出す感情はただ一つのそれへとしか湧き起こらない。だから彼女を愛し、慈しみ、絶対の庇護の翼に包んでいたはずだった。
だが喪った。
熱の消えていく彼女の体に触れたのは二度目。
一度目の時はまだ少年の時で、彼の異能が間に合った。だから取り戻せた。
けれども二度目。
絶対に起こさせはしないと、そう誓っていたはずの喪失は、あまりにも理不尽に起こってしまった。
彼の異能──再成の魔法は24時間以内であれば、損傷であろうと欠損であろうと取り戻すことができた。
ただしそれは、死という不可逆な変遷へと至らなければだ。
それは神ならぬ身の限界。
侵してはいけない、侵すことのできない領域。
司波達也をして、失われた彼女の命を取り戻すことは終にできなかった。
彼が感情を爆発させ、慟哭したのはただの一度。
彼女の残された一部。首だけとなった彼女を抱きしめた時だけだ。
地上を覆い尽くすかの如く侵蝕していく■■■■■■■。
立ち向かうは片割れの魔術師を失った
魔法師たちはついぞ、魔術師たちと信頼関係を結ぶことができずにあの時を迎えてしまった。
そのきっかけがなんだったのか──―あるいは、司波達也が
いずれにしても、もはや詮無いこと。
既に世界は、世界の人々は、一人の悪魔によって剪定される事象へとなってしまったのだから。
■■■■■■■が現れたのは、突然の出来事ではなく、人類の自業自得と言えた。
まず、かの大国はそれを恥部と捉えて独自に解決を図ろうとし、飲み込まれていった。
星の名を冠する魔法師の部隊が投入され、戦略級魔法師ですらもその大規模破壊魔法を持って戦ったが、彼ら、そして彼女たちは泥に呑まれるように消えてしまった。
ついに事態は世界の知る事となり、それよりも早くに知っていた者たちは満を持して、あるいは利を得るための時節を見定めて、あの“獣”を利用しようと企んだ。
愚かなことだ。
いち早く、事態の最初期からその危険性を訴えていた魔術師たちは、けれども魔法師との信頼関係を結べなかったことで動きを制限された。
世界がその愚かさに気づいた時には、十三使徒と呼ばれる戦略級魔法師は半数となり、各国が秘匿した非公式の戦略級の使い手たちすらも、その多くが失われてからだった。
事ここに至り、達也も参戦を余儀なくされた。といっても、達也自身、■■■■■■■と戦うことは終になかった。
■■■■■■■は取り込んだ魔法師を、その中でも強力な者たちを先兵として侵略の枝葉を広げていた。
戦場において、達也は汚染された模造神器を奮う戦略級魔法師の少女を●した。
結末は魔術師の手でついた。──────―その命と引き換えに。
聖剣の輝きをもって■■■■■■■は討ち滅ぼされ、魔術師という生物は完全に世界の表側から姿を消した。
神秘の消滅。
けれども達也にとって、その時にはもうどうでもいい事となっていた。
戦いの最中で、彼の大切な者は失われてしまったのだから。
そうして魔術師たちが消えて、世界は一応の救いを得て、引き換えのように彼の瞳の力はまた別の力を宿すようになった。
後になって調べて分かったことだが、後天的に隻眼や盲目、あるいは四肢の欠損を生じさせることは、肉体的なハンデを生じさせる一方で魔術的には力を増加させる手法なのだという。
だがその時にはもう、彼は決定的に壊れてしまっていた。あるいは世界は終わりを決定づけられていた。
共に生きる者を失った彼には、世界の安寧や継続などどうでもよくなっていたのだから。
むしろあの事態を招いた者たち、あの事態の後でも安穏として生きる者たち、続いていく世界が許せなかった。いや……違うのだろう。
彼にはそんな激情などない。ないはずだった。
彼の感情の極点は、ただ一人、彼女にのみ向けられるもので、それを失ったとき、彼の激情は止むことなく世界へと向けられることとなったのだ。
彼はかつての友を、仲間と呼べたかもしれない者たちを、何人も●した。
友ではなく、すでに単なる既知となってしまった者たち。
彼らは、あるいは彼女たちは彼に、「気持ちは分からなくもない」と告げた。そして「でも……」と続けた。
そんな言葉は必要なかった。
必要だったのはただ一人だけだった。
はじめに彼の前に立ったのは、かつての学び舎の先輩。
十師族の一つの総領となった巌のような男、十文字克人は、人類の脅威となるであろう彼の前に立ち、殺すことを覚悟して戦った。
あるいは克人こそが人類最後の砦だったのかもしれない。
分解と再成のみに特化した達也にとって、多重防壁を即時連続発動することのできる克人は相性の悪い相手であり、克人の攻撃型ファランクスは、かつてであれば達也にとって脅威であった。
だが達也の開発した新魔法──国際魔法協会によって禁じられている中性子線を用いた
国際的な思惑などという、まさに“彼女”を殺したモノそのものを彼が今更意に介することなどありえない。放射能汚染など、もはや今更に過ぎる。
彼は、そして彼にとって人類は、とうに汚染された唾棄すべきものであるのだから。
中性子線による攻撃に対する防御は既に確立された技術であった。それだけに特化した中性子バリアは完璧で、だからこそそれを彼の魔法は分解した。
そうして克人は中性子線によって腕を焼かれ、CADを失い、なす術なく達也によって焼却された。
十師族の一人、十文字家の総領を●したことは日本の魔法師界にとって大きな衝撃を齎した。
特に克人── 十文字家の役割は首都防衛。国家に対する砦とも言える魔法師であり、十師族内においては四葉と七草について三番手と見做されており、七草のように手駒を多く持っているわけではないことから一騎当千の魔法師でもあったのだ。
十師族会議によって司波達也は抹殺すべき悪と定められ、彼を生んだ四葉家はその責務を求められた。
四葉家に属するある魔法師は──―
「だから言ったのだ。彼は生きているべきではない」────と言った。
また別の者は言った──―
「あの悪魔は存在してはならなかったのだ」──―と。
彼にとって四葉家は、自身を、そして“彼女”を生み出した親族ではあった。
だが“彼女”がいない今、どうでもよかった。
関わってくるのであれば対処して、襲ってくるのであれば消すだけだ。
だから彼は生家である一門を消し去った。
極東最強と謳われた叔母ですらも、相性の関係から彼に対抗することはできずに消滅した。
七草真由美を●した。
あるいは、彼に対して微かな恋愛の情を、本人すら気づかぬうちに抱いていた彼女は、変わってしまったように見えた彼に止まってほしいと、戻ってほしいと、まだやり直せると訴えた。
失ってしまった深雪のことを、彼女が本当にこんな貴方を望んだのかと、そう訴えた。
故に達也は彼女の心臓に穴を穿ち、体の中で血が流れだしていきながら悶え苦しむ中で●した。
やり直せるはずはない。
彼の異能と言えるほどの魔法をもってしても、●という不可逆の再成は行えない。
深雪が●んだ以上、最早やり直しも後戻りも、ありはしないのだ。
真由美が●んで、その友であった渡辺摩利も●した。
多様な魔法を駆使して真由美を援護しようとした彼女だが、唯一の“一”である彼の魔法には無力も同然であった。
摩利が●んだことで、彼女を●されて怒りに呑まれ、義憤を覚え挑みかかってきた千葉修次を●した。
3m以内の間合いであれば世界に十指に入るというその魔法剣技は流石で、彼も一度はCADを持つ腕を斬り落とされた。
そして間髪入れずに心臓を穿たれた。
だが●に至るまでの僅かな刹那があれば彼には十分だった。
斬り落とされた腕と、取り落としてしまったCADの位置情報を再成することによりトリガーを引き、分解の魔法を放った。
相打ち──―否、心臓を貫いた武装型CADごと敵を消滅させた彼は、己の意志や思考すらも凌駕する速度で行使された自動再成により致命傷はなかったことになり、残ったのは唯一人だけだった。
一門の弟を殺された千葉寿和を●した。
仲間を●された警察たちも消した。
兄の仇として立ちふさがった千葉エリカも●した。
最早魔に堕ちたのだと彼を評した吉田幹比古も●した。
かつての彼の仲間──彼の力を利用することで枷をかけようとしていた独立魔装大隊の幾人かも●した。
全てでなかったのは、これ以上の損害を受けて国防に影響をきたすわけにはいかないという上層部の判断であった。
かつて仲間だった、友だった既知の悉くを鬼火に変えて、痕すらも残さずに消していく。
ただ一人だけ、彼に付き添った者がいた。
彼を絶対視していて、けれども理解していた。
彼は変わってしまったわけではない。
元からこうだったのだ。
最初から、ただ一人だけを見ていて、ただ一人だけがいればそれで充分だったのだ。
だからそれが無くなってしまえば後に残るものは何もなく、絶望したわけでもなく、ただ、何もなくなってしまっただけなのだ。
寄り添うことを許したのに特別な理由はなかった。
深雪の代わりを求めたわけでもないし、一度たりとも、そんな思いを抱いたことはない。
ただ、都合がよかった。
明日香たちが望んだのは、命を賭けて守りたかったのはこんな未来じゃなかったと、泣きながら言ってきた北山雫を、そのただ一人が──―北山雫の親友であった光井ほのかが焼き●した。
そうして達也は今、自分の隣で眠るかつての少女──光井ほのかを見ていた。
光井ほのかは決して司波深雪の代わりにはならない。代わりではない。
それでも隣に置いているのは何故なのか。
それは単なる気まぐれでもあり、利用価値があるからでもあり……。けれどもそこに愛情や情欲などはない。
かつての達也であれば、激情には至れないまでも情欲とも呼べる感情はあった。
だがそれは深雪の喪失とともに完全に消えた。
だから光井ほのかと共に歩いているのは……。
かつてほのかが焼いた北山雫。
彼女は獅子劫明日香を愛していなかったのだろうか……?
彼が聖剣の輝きを振るい、消えてしまって、二度とは戻らぬことを知った時、雫は涙を流した。
そんな彼女をほのかは慰めていた。
けれども結局、雫と達也のその後の歩みは違っていた。
ほのかは達也と共に歩き、最も親しかった親友を焼いた。達也の前で涙を流すこともしなかった。
ならきっと、いつの日か、ほのかは達也も…………
それは恐れなのか、希望なのか。
深雪のいないこの世界で、いまだに達也が生きているという絶望に対する。
達也はすっと右手を彼女に向けた。
その手は“デーモン・ライト”。
全てを分解する、今や世界が恐れる摩醯首羅の御手。
大自在天。
今や司波達也の名は、神話に語られる破壊の最高神シバとも同義となっていた。
その御業が、今や唯一人、神の傍に侍る光へと……………………