Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~   作:バルボロッサ

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生徒会選挙編 2話

 

 

 魔法が使えたら……

 そんな他愛無い願いを抱くのはいつの世でも変わらない。それはいわゆる“魔法”が使えるようになった現代においても変わらない。

なぜなら他愛無く願う、その魔法とはつまりはデウスエクスマキナ──―あらゆる望みを強引に叶えるもののことだからだ。

 

??? : ノブノブォーン! 

 

「あばばば!!!」

 

 だがそんな魔法とは、つまるところ他のことを無慈悲に、理不尽に踏み潰すものと同義となる。

 

「くっ! アストルフォがやられた!」

 

 魔法力に卓越しているとされる魔法科高校の一科生であったとしても、叶わないことは数多ある。

 

 

「ここを通すわけにはいかない!」

 

??? : ノブゥ!? 

 

 現代に生きる数少ない──世界の表側ではほぼ唯一の魔術師、藤丸。その館にて戦いが起こっていた。

 マスター契約こそ行っていないものの、正規のマスターからの供給を受けているアストルフォはすでに倒れ、デミ・サーヴァントとしての力を解放している明日香すらも圧倒されている。

 

??? : ノブ、ノブブ! 

 

「ぐっ! ぐわぁあああああっ!」

 

 そしてついに、圭までもが敵の攻撃に打たれ、封鎖していた道が開かれてしまった。

 

「ケイッッ!!! ──―しまったっ!!」

 

??? : ノッブブノブブー! 

 

 人理の護り手。カルデア最後の魔術師たる二人は、その日………………敗北した。

 

 そしてそれは、世界崩壊(コラボイベント)序曲(はじまり)──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────―それは濃紺色の綺麗な夜であった。

 眺めているのは綺麗な夜空。

 東京という都会にあっては、前世紀のように排ガスによって濁って見えるということはないまでも、ビルや家屋の眩い明かりによって星の光は弱い。

 それでも夜の帳は深く……煩悶しため息をつく少女の苦悩の色を表しているようであった。

 

「はぁぁ…………」

 

 少女の名は中条あずさ。

 日本国内で屈指の魔法師育成のエリート校、国立魔法大学付属第一高校の、さらに優等生である一科に所属する2年生。

 入学時には主席の成績を収め、一年時より生徒会に所属する、現生徒会書記の魔法師の卵である。

 

 重い重いため息は先ほどから幾度も続いている。

 夏休みが終わってしまったから、ではない。学生の中には夏休みというアバンチュールを満喫し、課題が終わらずに自業自得の艱難によって泣く泣く補修を受けるということもあるだろうが、少なくとも一高では見られない光景だ。

 もちろん、あずさとてそうだ。

 学校の勉強が難しくて、とか恋煩いで、というわけでもない。

 

 夏休みが終わって、というのはあながち間違いではない。この時期、3年生はいよいよ受験あるいは卒業を控えてそれに向けての準備を始める。

 魔法科高校の卒業生の多くは魔法大学へと進学する。防衛大学校に進学する者もいるが、一高では年間100人の魔法大学への進学者が国策によってノルマとされており、そのための一科生でもある。

 現生徒会長である七草真由美も魔法大学への受験を控えている。

 彼女ほどの才女であり実績があれば、通常の高校ならば推薦によって軽々と大学へと進学できるだろうが、一高では大学進学の枠を確保するため伝統的に生徒会長は推薦を辞退することになっている。

 そうでなくとも、卒業してしまえば一高の生徒会長など続けられないのは当然のこと。

 つまり、一高では生徒会の代替わりが行われようとしているのだ。

 

「私が生徒会長なんて……無理だよぉ」

 

 あずさの悩みの原因はその代替わり、生徒会長候補筆頭になっているのがよりにもよって自分だということだ。

 

 一高では伝統的に生徒会役員になっていたものが生徒会長になる。さらに過去5年間は主席入学者が生徒会長を務めているのだ。

 癒着というか慣習ともなっているそれは、一科二科の差別にも通じるものでもあり、そんな因習をこそ現生徒会長の七草真由美は打破しようとしてきた。

 たとえば生徒会役員が一科生からしか選ばれないという規則の打破などだ。

 これについてはあずさ自身も、今では撤廃した方がいいとは思っている。

 それは単に、尊敬する真由美の方針だからというわけではなく、実務・実利的な面でだ。

 以前であれば、生徒会役員は一科生からしか選ばれないというのも仕方のないことというか、副会長の服部刑部ほど明確な選民的スタンスでこそなかったが、消極的な賛成、あるいは反対はしないというスタンスであった。

 教員による直接指導のある一科生に対して、個人での学習を余儀なくされる二科生は入学時であればともかく、1年が終わるころにはその魔法力に明確な差が生じている。

 それだけ個別指導の有無の差は大きく、加えて一科生・二科生という制度があるがために、二科生になった生徒は上昇的な意欲に乏しいことが多いのだ。

 差別は受ける側においてもその意識を根付かせる。

 ゆえに、二科生としても生徒会という一高を代表する立場に就ける者はいなかったし、であれば別に、反発を生んでまで制度自体を変える必要はないと思っていた。

 けれどもそうではないのだ。

 二科生とは、一科生とは、単に国際的な魔法力の基準に従って分けられているに過ぎず、二科生であっても優れた者、基準とは異なる魔法力に秀でた者がいるのだから。

 具体的にはとある1年二科生の尋常ではない事務能力や存在を知っているから。

 けれどもそんな真由美も、無論のことあずさも、生徒会長選挙については改善(あるいは改造)のための行動を起こそうとはしていない。企画もしていない。

 なぜなら自由で民主的な生徒会長選挙というものを過去には標榜した生徒会があったらしいのだが、それは重傷者が二桁に達した時点で取りやめになったという事実があるから。

 一高の生徒会長には大きな権限があり、卒業後もその経歴は高く評価される。そのことからその地位を目指す生徒は少なからずおり、同時にその者を推す派閥の形成なども活発なのだ。

 そして魔法という大きな力を持って完全な自制心を発揮できるほど、高校生という年頃は大人ではない。

 そんなこんなで、生徒会長選挙は生徒会が推す生徒会役員が新任投票、もしくは一騎打ち選挙によって選ばれることになっているのだ。

 今年度の2年生の生徒会役員は書記のあずさと副会長の服部刑部の二人。

 直近の成績では服部にトップを譲っているが、年間の成績的にはほとんど互角。役員にはなっていないが五十里啓というもう一名を加えて、あずさたち三人が僅差の状態が続いている。

 けれども入学時成績という一度しかない争いではあずさが主席なのだ。

 加えて、服部は副会長という会長職にもっとも近い役職ではあったのだが、次期部活連会頭へと立候補しようとしているらしい。

 部活連会頭と生徒会会長の兼務はできない。

 つまりは世代における主席入学者であるあずさは、慣習的には筆頭にして唯一の生徒会長候補なのだ。

 そんな成績的には優秀なあずさは、けれども生徒会長を務めあげる自信など欠片も持てなかった。

 なにせ現生徒会長がもはや伝説的な七草真由美なのだ。

 眉目秀麗。学内のみならず九校戦でも多くのファンを虜にした妖精姫(エルフィンスナイパー)であり、十師族の直系。彼女たちの世代は三巨頭を筆頭に、九校戦の三連覇という偉業を成し遂げたのだ。

 そんな跡を自分が継げるとは到底思えない。

 加えて言えば、自分の下の世代にだって劣等感を抱いている。

 司波深雪。

 1年生にして九校戦ミラージバット本戦に出場し、他を寄せ付けない圧倒的な飛行魔法で優勝した美女。

 来年の生徒会長は確実に彼女だろう。むしろ今年の生徒会長だって彼女でいいのではないか。

 もっと言えば、九校戦の活躍を見るに、一科二科などという縛りには囚われない方がいいのではないだろうか。具体的には司波達也という二科生などはまさに生徒会長にうってつけだろう。

 今年度九校戦で一高が優勝した立役者。反対意見のある中で秀でた技術力を見せて、二科生でありながら唯一、九校戦の技術スタッフに選ばれ、担当した競技すべてで勝利を収めた功労者。加えて突如として代役となったモノリス・コードでは、新人戦優勝候補のライバルでもあった三校のエース、十師族一条家の御曹司、クリムゾンプリンス、一条将輝を撃破するという大金星を成し遂げたイレギュラー。

 そしておそらく……その正体は……あずさの推測通りなら、世界的にも有名な天才CAD技術者(エンジニア)──― トーラス・シルバー。

 魔法師の演算キャパシティが許す限り何度でも魔法を発動できるようにした起動式──ループ・キャストの開発や他にもCAD分野における様々な革新的技術の実現、洗練され実用的なCADの開発、直近では加重系魔法の技術的三大難問の一つである汎用的な飛行魔法を実現し、現代魔法の扉をまた一つ開けることに成功している。

 憧れのトーラス・シルバー。

 その正体は謎とされるが、発表されたばかりの飛行魔法をあれだけ見事にCADに調整したことといい、高校生離れした超級の技術力といい、彼こそがトーラス・シルバーなのではないかという疑念は、九校戦の最中からよぎりはじめ、今でもその疑念は大きくなるばかりだ。

 さらに言えば、その胆力や事務能力、判断能力も高校生離れしており、生徒会長の真由美や部活連現会頭の十文字克人でさえも一目置き、その意見を積極的に尋ねることがある。

 達也自身は、トーラス・シルバーの事といい、積極的に自分を推していくタイプではないが、その妹である司波深雪は、兄を深く敬愛していて(傍で見ているこちらが恥ずかしくなるほど)、彼が生徒会長にでもなることをこの上なく喜ぶに違いない。

 それならばいいではないか。

 自分のように目立たない、十師族でも百家でもない家柄の、地味な自分なんかが生徒会長などという大役を担えるはずもない。

容姿だって、真由美や深雪、風紀委員長の渡辺摩利などと比べれば……比べるべくもない地味な容姿だ。

 

「はぁ……………………あ、流れ星?」

 

 重い溜息を、もう何度目か分からないほどに再びつき──そんなあずさの視界に一条の星が流れているのが見えた。

 流れ星に願いを、なんてロマンチックなことが一瞬頭をよぎるが、科学的にも現代魔法的にもそんなものは無意味だろう。

 現実問題として、この生徒会長問題を解決できるのは自分の決断だけで、真由美も摩利も、そして達也も深雪までもが、自分が生徒会長になるのだというスタンスで動こうとしているようなのだから。

 

「…………?」

 

 違和感は、その流れ星の軌跡を目で追えたことだろう。

 流れ星とはごく小さな宇宙塵や小石などが大気圏で燃え尽きた際に見られる現象で、わずか数秒足らずで消えてしまう宙の気まぐれで見られる現象だ。

 目で軌跡を追える、そのことに違和感を覚えるほどに星が流れ続けているとしたらそれは流れ星ではなく隕石だ。

 魔法によって地球付近にある小天体を地球に引き寄せる魔法なども一部研究されていたりもするようだが、そんな危険な魔法はまだ実用段階からは程遠い。

 それに隕石の落下ともなればニュースの一つや二つ流れていることだろう。

 だからあれは単なる目の錯覚。あるいは別の何かであろう。

 なによりもその隕石は──―

 

「ふぇ? …………ふぇええええええ!!?」

 

 あずさ目がけて軌道を変え、落下してきているのだから。

 

 

 

 

 

     ✡  ✡  ✡

 

 

 

 

 

 一校の通学路は基本的に最寄り駅からの一本道となっている。

 第一高校前という、まさに一校の学生(および関係者)が利用するためのような駅名だが、一校には学生寮がないため、徒歩圏内の学生を除いてほぼすべての学生が利用していることになる。

 一般的に(非魔法師・魔法師問わず、どちらの観点からも)お嬢様に該当する北山雫だが、基本的には彼女も通学には駅を利用しており、同じ中学出身で比較的家の近いほのかと一緒に通学するのがデフォルトになっている。

 雫とほのかはSSボード部という同じ魔法競技系運動部に所属しているが、朝練なるものはなく、基本的に通学時間は他の多くの学生たちと大差ない時間だ。

 それだけに二人だけの通学路とはならず、時には友人であるエリカや美月、レオや幹比古、達也や深雪、あるいは明日香や圭たちとも通学時間が被ることがある。

 そして会えば挨拶はするし、同道してとりとめもない話題で通学路を歩みもする。

 通学路の途中には、彼女たち行きつけの喫茶店“アイネブリーゼ”をはじめ、様々な店も並んでいたりもするから、放課後のティータイムについてを話題にしたりもする。

 家の方角の関係で、だいたいは雫とほのかだけは別に、二科生のみんなが一緒の時間になることが多いのだが、この日は珍しいことに雫たちも時間が被っていた。それだけではなく、現生徒会長の真由美の姿もあった。

 もっとも、真由美の方は達也に向けて手を振って挨拶をしたりするが、ファンの多い会長のことだけに道すがら一緒に話しながらとはなりにくい。なってしまえば深雪にほのかに加えてエリカや雫と、学校でもトップクラスの美少女たちを侍らせているようで(レオと幹比古もいるのだが男女比率的に)、大いに嫉妬の視線を浴びることになっていただろう。

 もっとも────―

 

「居た!」

 

???? : 見つけたっ!!!! 

 

「?」

 

 もう少しで校門、というところで耳に入った声と猛烈な勢いで駆けてくる二人の姿に、周囲の視線は自然と集められた。

 サーヴァント化や魔法こそ使っていないが、時間ギリギリでもないのに全力疾走してくる明日香と圭の姿は目立っていた。

 その声に周囲の生徒は視線を向け、雫たちも足を止めて振り向いた。

 

「明日香? どうかした、ひゃっ!?」

「無事かい、雫!?」

 

 追いついた明日香にいきなり両肩をつかまれ、まじまじとその顔を寄せられた雫は小さく飛び跳ねるように体をびくつかせた。

 驚く雫や友人たちの視線を他所に、明日香は雫の体に何か異常がないのかを見つけようとしているかのように凝視する。

 さらには追いついてきた圭も息を整えながら深刻そうな顔つきで雫を視ている。

 なにやら事情がありそうだが、登校中の校門前だ。

 周囲の生徒たちも何事かと雫たちを見ており、両肩を捕まれ明日香にまじまじと見られていては、普段クールな雫でも顔から火が出るかのように恥ずかしい思いをすることとなっていた。

 止めようにもあまりにもいきなりというか、危機迫るというか、真剣な二人の様子に達也やレオ、エリカでさえも口を挟めていない。

 そんな羞恥の時間も、長くは続かず、ひとしきり観察し終えたのか、明日香はほっと安堵の息をついた。その様はとてもとても雫のことを心配していたようだ。

 

「無事、のようだね……よかった……本当に」

 

ぐだ丸K: ふむ。アレの好みにピッタリ当てはまるペタンコ胸具合を持つ恋する乙女といえば、雫ちゃんに他ならないと思ったんだけど。当てが外れたか……。ローティーンでも通用する魔法(ツルペタ)少女……一体誰なんだ……。

 

「…………」

 

 何やらおかしな、そして残念なことを言われた気がした。

 藤丸圭の表情は深刻そのものなのに、いつにもまして残念な感じだ。

 

「いや、無事ならいいんだ。でも気をつけてくれ。今、この街はおかしなことに巻き込まれつつある。それとケイのことは気にしないでくれ、今少しおかしくなっているんだ」

 

 雫はじめ、友人たちの白い目に気づいたのだろう。明日香はフォローにもならないコメントをしてさらっと流そうとしたのだが────

 

TSキシオーもどき: それにしても、心当たりが途絶えてしまった。アレの好みになりそうなロリっ娘魔法少女と言えるだけの器量を持った女の子といえば雫に違いないと思ったんだが……。

 

「…………明日香、その喋り方はどうしたの? それとそのおかしな考え」

 

 残念でおかしいのは藤丸圭だけではなくなっていた。

 

ぐだ丸K: あああああっ! 明日香! 大変だ! 君まで影響を受けているぞ! 

 

TSキシオーもどき: なんだって!? 

 

ぐだ丸K: なんてことだ! 明日香の対魔力と精神力すらも突破するほどにGUDAGUDA粒子が強まっているのか!? 

 

「ぐだぐだ?」

 

 これまで魔法師すらも圧倒する強大なサーヴァントを打倒してきた二人が、揃って崩れ落ちるように地面に膝をついた。

 

 

 

 

 

     ✡  ✡  ✡

 

 

 

 

 圭と明日香の陥っている状況は、彼らの状態(へんてこな言語出力)だけを見れば間の抜けた状態だが、彼ら曰く、街全体が巻き込まれつつあるものだという気になるワードがあった。

 

「────―ということで、事情を聞かせてもらえるかしら? 藤丸君、獅子劫君?」

 

 ニコっと見惚れるような微笑みを向けられた圭と明日香は、きまり悪そげにさっと視線を逸らした。

 だが視線を逸らせても、そこには別の視線。真由美だけではなく、生徒会室にはジト目を向けてくる雫をはじめ同席者がいた。

 

「一応、父からは貴方たちの事件解決に融通をきかせるように言われているのもあるわ。それに…………」

「あれだけ騒ぎになっていたんだ。そのまま授業に行ったのでは気まずいだろう」

 

 朝の騒動はそれなりの注目を集めてはいたが、今の時点ではまだ一部。落ち着いて話ができるということであの場にいた真由美はなんだかおかしくなっている魔術師二人と、関係のありそうな少女(北山雫)、そして事件によく巻き込まれる解決役兼アドバイザーとして達也を巻き込んで生徒会室に連れて来ていた。そして当然ながら達也がいれば深雪もいる。

 そこに摩利がいるのは学校の風紀を取り締まる者の責務というべきか生徒会長の親友がための巻き沿いというべきか。

 達也にしてみれば、魔術師がらみ、サーヴァントがらみの事件であるのであれば、この場にいるのは情報収集を行うのに都合がいい。けれども二人の様子(バカらしさ)を見る限りでは、この事件(?)はそう大事ではないだろう。

 普段であれば、明日香はともかく圭は飄々とした態度で事情を煙に巻くか、内々に解決しようと試みるだろう。

 だが既に事態は露見しており、なによりも雫を巻き込んでいる。

 明日香の心境は複雑なのか眉根を寄せて深刻な顔をしており、圭は深々と溜息をついて話はじめた。

 

ぐだ丸K: 実は昨日、この世界──この街にとある敵生体が出現して倒したんですが……その際にとある魔術礼装を街に放たれてしまったんです。

 

「魔術礼装?」

 

 言語出力がなにやらおかしな感じになっていて、いまいち真剣みに欠ける切り出しではあったが、その内容は達也にとっても耳を傾ける必要のあるものだった。

 

ぐだ丸K: 藤丸の屋敷には初代の魔術師が得た様々な魔術礼装──魔法師的に言えば特化型CADというか元レリックというか、そういうのがあるんです

 

 レリック、聖遺物。

 現代の魔法技術、科学技術をもってしても作成はおろか解析すらも満足にできないとされているオーパーツ。

 ものによってその効果は違うが、いずれにしても現代魔法ではなしえない事象を引き起こすこともあり、達也がまさに調べようと思っている事柄の一つでもあった。

 たとえば賢者の石、エリクシール、ムップ。呼び名は数あるが、錬金術で著名なレリックであるそれは、非金属を金属に変えることができるという。

 魔法学的な視点でそれを見ると、賢者の石はある種の触媒として働いており、魔法の効果を増幅、あるいは発動の魔法式そのものの役割を担っている。

 それはつまり、ある種のレリックには魔法式を保存しておくことが可能なのではないかということ。

 それは達也の魔法研究における目的。

 魔法師が兵器としての在り方から解放され、けれども人類の繁栄にとって不可欠な存在として生きていけるようになることに必要なパーツの一つだ。

 達也は魔法師の間で稀に研究題材とされるこれらレリックは、より大きな枠組みでとらえると魔術師、サーヴァントの宝具と同じなのではないかと推測していた。

 

ぐだ丸K: ただそれらは初代と絆を結んだ英霊たちの絆の証。他の何者であっても使うことはできないものなんです。

 

 一人の英霊の伝承が具現化したモノ。

 魔術師たちの言うところの魔力、達也の解釈ではプシオンにカテゴライズされる霊子構造体の一種を込めることで、特定の効果を発揮する武具、あるいは道具、触媒。それはまさにある種のレリックと同様の性質と言えた。

 

ぐだ丸K: そういった魔術礼装──絆礼装は基本的に個々では何の影響力もないんですけど、なにせ数が膨大で、おかげで藤丸の屋敷の敷地内は一種異界のようになっているんです。もちろん普段は結界で厳重に隔離されているのですけど…………

 

 それらが──―多くは力を失っているというが──数多く魔術師の館には所蔵されているという。

 本来、レリックというのは国家レベルの案件であることが多い。

 魔法師の魔法を阻害する作用のあるキャストジャミングに必要なアンティナイトも、レリックの一種であり、あちらは完全に軍事物資に該当する。

 魔法大学は研究機関としてレリックを研究することもあるが、その多くは出元を辿れば国家機関からの依頼であることがほとんどだ。そしてそれらの研究データのいくつかは魔法科高校においても閲覧することが可能となっている。

 達也が一高に所属している理由の一つでもある。

 

ぐだ丸K: 問題の魔術礼装はそういった収集されていたモノとは別物で、敵生体と一緒に突然現れたんです。おそらくは特異点として不確かになっている現世と、屋敷の異界の波長がおかしな感じで孔をつくったのだと思いますが……。

 

 圭としては、というよりも魔術師としては本来、自身の家の内情を話すのは望ましくない。

 それでも話してしまうのは現状の圭と明日香の状態がなかなかに困った状態になっているためだ。

 昨夜の戦いですでに圭はダメージ()を負っている。アストルフォもだ。

 そして昨夜の時点では明日香は敵を取り逃がしことしたがまだダメージ()を受けていなかった。だが、今朝になって影響が現れた。

 

ぐだ丸K: 現れた魔術礼装は、異なる世界を覗き込み、干渉する人工知能を有した魔術杖──────愉快型魔術礼装 カレイドステッキ、マジカルエメラルド!!!! 

 

「…………は?」

「えっと……藤丸君。ごめんなさい。なんだかあまり深刻じゃなさそうなワードが聞こえた気がしたのだけれど……」

 

ぐだ丸K: ステッキです。魔法少女が持つようなステッキ。いえ、違います。持ち主を魔法少女にしてしまう魔法のステッキです。

 

「…………………………」

 

 沈黙が痛いほどに生徒会室に降りていた。

 白い眼が魔術師・藤丸圭に向けられていた。

 






今回の発言形式のプチ変更はFox Tailの19話、20話の言語出力の変更を参考にしてみました。まぁ、あちらは電脳空間だからということですが。


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