Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
時間軸とは、無数に枝分れした川のようなものだ。
分かれ道を左に行くか右に行くか。些細な分岐によっても世界は分かれることがある。
ただし、世界の流れは最も太い流れを進んでいき、それが今という時間に繋がっていると言われている。
今の
たとえば夏休みのバカンスで違う水着を着ていた世界、なんていうのもあり得たかもしれない些細なパラレルワールドだが、
例えばこの場にいる麗しき魔法師の少女たちがアイドルとなっている世界。
例えばフィギュアスケーターになっている世界。
例えば魔法戦士になっている世界…………。
合わせ鏡のように無数に展開した世界。
3次元の存在である人間には通常、それを観測することはできないが、稀にその存在の片鱗を知覚することができる者が現れたりもする。
千里眼や未来視といった特殊な魔眼もその一つだ。
そして飛来した魔術礼装は、そんな並行世界を覗き見ることのできる魔術礼装なのだという。
「それで。その魔法少女のステッキとやらがどう危険なんだ?」
圭の説明は(本人の現状を見ると些かシリアスさの足りないものの)、達也のような魔法師としても興味深い解釈であった。
かつて魔法は魔術をはじめとした異能から分かたれたと言われている。
けれどもその思想、理念など多くは失われてしまった。英霊の召喚やサーヴァントの契約、神秘という概念など失われてしまった最たるものだろう。
ぐだ丸K: カレイドステッキには人工の精霊が宿っているんですが、そいつは資質ある者と契約することで、並行世界から別の可能性を契約者に憑依することができるんです。
「契約者の資質というのは、魔術師ということか?」
摩利や真由美としても、魔法少女のステッキ、などと言われると真剣みも失せるが、魔術の礼装と言われるのであれば、聞く耳も持てよう。
以前、九校戦で窮地を切り抜けたのは圭の持っていた
ともすれば
ぐだ丸K: カレイドステッキの契約者である資質。それは……………………魔法少女になる資質のことです!
「……………………」
けれども残念ながら、どこまでいっても今日の藤丸圭は、そして獅子劫明日香は残念な感じであった。
ぐだ丸K: 魔法少女。それはつまり、ローティーンもしくは相応の
「…………………………………………」
最も冷え冷えとした視線を向けているのは雫だろう。
彼女だけではなく真由美や深雪も同様に白い目を向けており、摩利に至っては頭痛を覚えたのか額を抑えている。
ぐだ丸K: どうしよう、明日香! 全く深刻さが伝わっていないような気がする!
TSキシオーもどき: いや、本当に危険な状態なんですよ? ステッキと契約した
「そんなに!?」
サーヴァントとすらも互角。それはサーヴァントを知る魔法師としては驚きの朗報だろう。
なにせ十師族の直轄部隊ですらも一蹴するほどの存在なのだから。
そして事実として、昨晩は圭に加えてアストルフォまでもが
サーヴァントへの対抗策を模索している最中である達也にしても興味深い情報だ。────あまりにもふざけた与太話としか思えない契約条件に目をつぶればだが。
ぐだ丸K: それにその人工精霊の性格が最悪なんですよ。なにせ──―
TSキシオーもどき: ────、ケイ!!! 外だッ!
「!」
説明を遮り、明日香が突如として窓へと向かって駆けた。
窓を開くとそこには校庭が見えて、生徒たちの姿が見えるはずなのだが、そこに──正確には空中に── 在らざる者の気配を感知したのだ。
サーヴァントにも匹敵する濃密で膨大な魔力の気配。
そう、そこに居るのは間違いなく逃亡していたカレイドステッキ。
それ
「こんにちはぁ、真由美さん♪ あ、皆さんもお揃いですね」
ロリロリしい童顔に雫を超えるツルペタのボディはまさにローティーン相当。
ぐだ丸K:あれはマジカルエメラルド!
「あーちゃん!!?」「中条!!?」
彼女の装いは一高の学生服でもなく、普段の彼女ならば決して着用することはなさそうな派手派手しいコスプレの様な装い。
フリルの豊富なエメラルドグリーンの上衣は短く臍はおろか真白いお腹が下乳(ほぼない)の下部ほどまでしかない。
揃いのミニスカートにはリボンがあしらわれており、なによりもその丈の長さでは滞空していると下から色々と丸見えであろうに、光影の魔法を駆使しているかのごとくに絶対領域を維持している。
無垢にも見える魔性の笑みを浮かべるは第一高校の時期生徒会長候補筆頭である中条あずさであった。
いつもあれば小動物めいて大人しい、
むろん驚きを覚えているのは彼女たちだけではなく、同じ生徒会の深雪や達也も、そして副会長としてを知っている雫たちすらも驚き、
ぐだ丸K: やはり契約者を既に得ていたか。このままではアレの放つGUDAGUDA粒子によって人理定礎、世界の法則がグダグダな感じに破壊されてしまう!
「ぐだぐだな感じ!?」
「なんだそれは!?」
驚きはあずさの姿にだけではなかった。
いやもちろん、あずさのアレな魔法少女姿も驚きなのだが、それを見ての圭の言動も一同に驚愕を与えた。
ぐだ丸K: この世界を構築する絶対の法則。それをGUDAGUDA粒子は
「その説明が既にぐだぐだな感じなんだけど!?」
TSキシオーもどき: 下がっていてください、七草会長。ここで止めて見せる!
「明日香!!?」
ぐだぐだな説明を行う圭に思わずツッコミを入れている真由美を強引に窓から離し、風を纏うかのように蒼銀の霊衣へと姿を変えた。
歴戦の英霊たちを斬り伏せてきた頼もしきデミ・サーヴァントの姿は、雫にとってなによりも頼もしい姿。
TSキシオーもどき: はぁあああッッッ!!!!
魔力放出による推進力によって弾丸の如く宙を翔ることができるが、それは自由自在にとまではいかない。
現代魔法では既に魔法師が自由自在に空を飛ぶ術を手に入れているし、魔術であっても空を飛ぶ術がないわけではない。
けれども対サーヴァント戦における高速戦闘においてその程度の飛行魔法では到底対抗することはできない。
魔法少女は空を飛ぶものであるからして、カレイドライナーとなったあずさもまた空を自在に翔る。
故に明日香はCADを使った飛行魔法は戦闘には取り入れていない。
自在に空を翔る魔法少女が弾丸の如くに直線的に飛来してくる敵を避けることは容易く、当然明日香もそれは織り込み済み。
魔力放出で空中に足場を固定し、すぐさま方向を転換。再度の爆発的放出で今度こそカレイドライナーを地に叩き落そうとした。
「野蛮ですねぇ」
平時であれば童顔と言えるあずさは、けれどもその
妖艶ならぬ幼艶。
「見せてあげます!」
翠緑のハート型のステッキ頭が膨大な魔力を異次空から取り寄せる。
そして
TSキシオーもどき: これはっ!!?
「
振るわれたステッキから色とりどりにラヴリーな光が乱舞して中空で動きを止めさせられた明日香を包み込む。
「
光帯が次々に貫いていく。
一撃一撃が本来のあずさでは有り得ないほどの魔力が込められており、明日香の強力な対魔力をものともせずに貫通している。
そして光溢れんばかりの魔力は魔法少女の手元で一張の弓を形成。
あずさはうっとりとした恍惚の表情でその弓を一撫でし、構えた。
「
TSキシオーもどき:
真名解放。
翠銀の矢が明日香の心臓を穿ち、空翔ける騎士を地に撃ち落とした。
ぐだ丸K: なっ! 宝具の真名解放だとっ!!!
それは紛れもなく宝具による一撃。
宝具とは人の思いや願い、人間の幻想を骨子に作り上げられたノウブル・ファンタズム。
ならば魔法少女という概念が形となった人々の想いの結晶が放ったそれは、確かに宝具に他ならない。
「そんなっ!! 明日香ッ!!!!」
目の前の信じがたい光景に雫が悲鳴のように明日香の名を叫んだ。
見てくれだけで言えば、
にもかかわらず、撃たれた明日香が立ちあがる様子はない。
ライダー:クリストファー・コロンブスの宝具を捌き、キャスター:メフィスト・フェレスの宝具にも耐えた明日香が、魔法少女の前に屈したのだ。
地に墜ちた明日香は、なんとか身を起こそうとするもその体はまったく自由が利かなくなっている。
「あっはっは! たかだか
魔法少女の嘲弄の声。
その笑みは小動物を思わせる中条あずさのものからはかけ離れている。
「いったい何が目的なんだ! 中条!」
いつも見てきた後輩の見たこともない幼艶な顔に、彼女自身ではないと理解しつつも、それでも摩利は問わずにはいられなかった。
「目的ですか? くだらないことを尋ねるんですね。摩利さん」
宙に浮かぶあずさが摩利を、真由美を、尊敬する先輩や後輩たちを見下ろしながら嘲るような眼を向けた。
そう、くだらないことだ。
「私、気づいたんです。この学校の生徒会長になるためになにが必要なのかなって」
問いかけが、ではなく、その問いかけの内容が。
その懊悩が今ではなんとくだらなく感じることだろう。
答えはこんなにも明快で華やかで簡単だったのに。
「真由美さんは十師族の直系として、深雪さんは氷の女王として、この学校のみんなに、崇められているじゃないですか! だからこれが、私にも必要なことなんだって!」
彼女には優等生としての自負はあった。
全国でもトップの、九校戦でも最も優勝回数の多い一高に主席の成績で入学し、十師族の名門、七草の直系である真由美のもとで送る学生生活。
入学後の成績でこそ、2位、3位の服部や五十里と争いはしても、魔法力や魔法についての知識は確実に入学当初よりも格段に向上している。
そう言い切れるだけの研鑽を積んできたと言い切れる。
けれどもそれで真由美のような生徒会長になれるかといえば絶対に無理だ。
十師族ではない自分には真由美のような魔法力は得られないし、彼女が為してきた、そして為そうとしているような生徒たちの意識改革なんかできっこない。
自分は周囲の人間を引っ張っていけるような、そんな人間ではないのだ。
尊敬する先輩のようにだけではない。自分の一つ下にいるはずの深雪にだって、到底及ばない。
ならば自分は?
自分はどんな魔法師になれるのだ。
先輩にも後輩にも及ばない、それでどんな立派な魔法師になれるというのだ。
「私は魔法少女として、一高のみんなに崇められる! それが一高の生徒会長に必要なことなんです!」
だからこそ、これが答えだ。
真由美も深雪も、魔法少女に選ばれなかった。
選ばれたのは自分。自分こそが魔法少女だ。
衆生の願いの形の具現。夢と希望の担い手。
──“それ”は銃型の特化型CADに本人の意図せざる形で生成されたエネルギーを込めていた。
照準は物理世界における存在のみだけではなく、情報次元に存在する閃光のごとき霊子構造体にも。焦点をずらして照準を当て、圧縮した想子を
「きゃあああ! 何するんですか! 達也さん!」
「!」
驚きの声はあずさからのものだが、同様以上に驚きに目を見張ったのは圭だ。
ぐだ丸K: 今のはまさか、魔法でサーヴァントにダメージを与えたのか!!?
本来サーヴァントは霊体であり、神秘側の存在だ。
魔術から分かたれたとはいえ、神秘を切り離してきた現代魔法は最早、物理現象の改変という事象を引き起こしているに過ぎない。
なればこそ通常の魔法で霊体──それも高位の霊体であるサーヴァントにダメージを与えることなどできないのが道理だった。
「どうやら今の中条先輩は本来のサーヴァント、魔術的な存在よりも魔法よりのようですね。開発中の魔法の実験にはうってつけだ」
「くっ! 言ってくれますね。ですが流石です、達也さん」
だがそれを良しとするわけにはいかない。
達也にとってサーヴァントに対する対抗策は急務の案件だった。
“想子徹甲弾(仮)”
いまだ完成には至っていないが、通常のサーヴァントよりもこちらの世界に主軸を置いている今のあずさのような存在に対してであればある程度はダメージを通せるということが明らかとなった。
達也の特異とする分解と再成の魔法には情報の理解が不可欠だと思っていた。
だがそもそもにして、物質界の情報にイデアを介してアクセスして見透かすことのできる達也だが、ヒトのような有機生命体の構造のすべてを理解することはできていない。
24時間であれば失われた四肢の欠損や瀕死の状態であったとしても蘇らせることのできる達也の異能も、この理解こそが端緒だと思っていた。
だが果たしてそうだろうか。
いわゆる生命の神秘とやらを達也は完全に理解しているとは思えない。
事実として、たとえ
ただ得られた幾つかの情報から処理できる範囲において整合性を合わせて推測しているに過ぎない。
それを理解したと考え、その推測の及ばない領域である魔術や神秘を理解できていないと考えていた。
だから魔術や神秘を別物だと捉え、彼の魔法はサーヴァントに通用せず、奴らの領域に隔離された深雪の存在を見失うという失態を犯した。
発想が逆だったのだ。
魔術が知らない領域にあるのではなく、自身の理解していた領域も、無限にある不知の領域にあるものなのだと再定義する。
ならばヒトを分解して塵に変えることのできる達也の魔法で、サーヴァントにダメージを与えられない道理はないはずだ。
そして一度当ててしまえば、達也の眼は今までよりも鮮明にサーヴァントの次元を認識できた。
ぐだ丸K: なんて奴だ。無意識に魔力を練り上げて込めたのか!? 突然変異の規格外にもほどがあるぞ!
例えるならそれは、何百光年、何千光年離れた宇宙から届く恒星の光だろうか。
決して強くはない。けれどもそれは物理次元に表出している、いわば肉眼で見ている情報に過ぎない。
実際にはその光は今よりも遥か過去のもの、此処から遥か彼方から届く強烈な光。
いまの
とはいえ未完成の想子徹甲弾(仮)の一撃で撃ち落とすことができるほどではないだろう。
如何に達也の異能、理解の範囲が規格外とはいえ、達也が踏み込んだ土俵──神秘においては相手の方が上手だ。
達也は構えるシルバーホーンに再び
狙いはあずさの肉体構造の情報体に潜む、内側の恒星の輝き──―その連絡路。
おそらくそれこそが、圭が言っていた契約、その繋がりだろう。
流石の達也といえども、今はまだサーヴァントの霊核に匹敵するほどの輝き自体を破壊することはできない。けれども連絡のみであれば、繋がりを断つこともできるはずだ。
そう、これは魔法師によるサーヴァント打破の手段確立のための第一歩────────
シスコンバースト: 魔法でも通用するというのなら恐れるには足りない。愛らしい魔法少女というのであればなぜ深雪に憑依しなかったのか理解に苦しむが、いや、深雪がこんな破廉恥極まる残念な姿になるのを望んでいたわけではないのだが。勿論深雪なら理性が蒸発してしまいかねないほどに愛らしいに決まっているが!
脳裏を雑念がよぎった。
おかしなことだ。
達也には激情と呼べる感情の高ぶりはたった一つに対する事柄を除いて失われたはずなのに。
雑念を振り払い、
「お、お兄様」
シスコンバースト:どうした、深雪?
「「……………………」」
沈黙が流れた。
残念空間を斬り裂く魔弾放つ魔弾の射手。そのシリアスな言動と振る舞いが、途端に残念空間に侵蝕されていった。
ぐだ丸K: なんてことだ! 達也君にまでGUDAGUDA粒子の影響が!
TSキシオーもどき: バカな! GUDAGUDA粒子で残念になるのはサーヴァントか、それに近しい魔術師だけのはず!
驚愕。
サーヴァントでも魔術師でもない達也への影響の感染。
それの意味することは──────────
答えは
「あっはっは! 甘いわねぇ! 極甘! ツインアーム・ビッグクランチ・フラペチーノみたいよ!」
TSキシオーもどき: くっ! なんだか知らないけどすごく甘そうだということはわかる……。いや、そうじゃなくて、なぜ彼がGUDAGUDA粒子の影響に巻き込まれているんだ!?
ツッコミの切れが今一つテンポ遅れになっているのもきっとGUDAGUDA粒子の影響なのだろう。
「私は平行世界を管理する魔法使いによって作られた礼装! 高濃度GUDAGUDA圧縮粒子を全面開放すれば、極小の可能性未来であったとしても英霊に至る可能性があるのなら、その人物からサーヴァントになるかもしれないというグダグダな情報だけを呼び寄せてぐだぐだワールドに引き込むことが可能なのよ!」
ぐだ丸K&TSキシオーもどき: なっ!!!?
「つまりお兄様は英雄になるお方!?」
「深雪! しっかりして! あんなへんてこなステッキの言うことを真に受けないで!?」
驚愕するは魔術師二人だけではなかった。
なにやら深雪はうっとりとして頬を染め、尊敬と愛慕の溢れた陶然とした眼差しを兄に向けており、隣にいた雫はそんなポンコツ化した友人の肩を揺さぶって意識を取り戻させようとしていた。
がくがくと揺さぶられた衝撃が、深雪の脳を刺激したのか、彼女はハッと気が付き、口元を抑えた。
「つまりお兄様は
「深雪さん!?」「なんの奴隷にするつもり!!?」
真由美も雫も、この残念ワールドにあってGUDAGUDA粒子に影響されていないがために、その役どころは必然としてツッコミ役とならざるを得なかった。
いつもは可愛い後輩をからかう渡辺摩利も、開いた口が塞がらない状況だ。
そうして
シスコンバースト: くっ………………
「お兄様!」「達也くん!!」
蒼銀の騎士の剣は輝くこともなく、魔術師の舌は魔術を紡ぐために回ることもできない。
「そんな…………」
全滅。真由美には眼前の状況をそう言い表すことしかできなかった。
魔法少女は少女たちの夢の形。
なればこそ、少女から女性へ、移り変わろうとしている真由美たちに打破できないのは
ぐだ丸K: 明日香でも、達也くんでもダメなのか…………
打破できる可能性があったのは、
おそらく十文字克人ではだめだ。
魔法少女という概念に対して、
それこそ物語序盤のクールでけちょんけちょんにやられる姿しかないだろう。
魔法少女という
魔法少女を倒せるとしたらそれは──────魔法少女に他ならない!
「シュナイデン!」
「きゃあああ! なに!」
突如上空から飛来した純粋魔力の斬撃が、
TSキシオーもどき: あれはッ!
肌色成分の多くなったあずさの方から視線をそらし、キラリと輝くその飛行者に一同は目を見開いた。
「見つけた」
「大人しくしなさーい! エメラルド!!」
それはまさしく魔法少女。
銀髪赤目で多分貴族的なファミリーネームとミドルネームを持っているけれど多分平凡な一般家庭のロリっ娘と、和服姿が似合うけれどもキャラ寝間着を愛好しているだろう黒髪で紅い瞳を失ったロリっ娘。
「でたわね────ロリっ娘魔法少女! イリヤ、美遊!」
✡ ✡ ✡
国立魔法大学付属第一高等学校。通称一高。
退任した前生徒会長に十師族直系の七草真由美を持ち、次期生徒会長は一人しかいないと衆目の一致する一学年に司波深雪を持つこの学校は今日も平和だ。
それは暖かな、夏休みが終わって季節が夏から秋に移り変わり、まだまだ残暑が厳しくても──もっとも寒冷期以降、この表現はあまり適切ではないことの方が多いが──平和だった。
それはもう、ほとんどすべての在校生が、教職員たちと一緒に白昼夢を見るくらいに平穏無事な一日だった。
そんな平和な学校の、平和な象徴である生徒会室で、生徒会長となったあずさは目を覚ました。
「夢……?」
「あっ、そうだ、生徒会長に、なった……んだよ、ね……?」
珍しいことに、いつもは完璧才女な深雪や、諸々の雑務をこなすために生徒会を訪れていた達也までもが夢見心地にうたた寝をしてしまうくらいに平穏で何事もない一日だった。
「…………?」
──気のせい……だな──
24時間という限定こそあるが過去の情報にアクセスすることのできる達也は、わずかに覚えた違和感に、視界時間の遡行を行ってみたが、
最近懸案だった中条あすさ生徒会長の就任だだこね事件は無事に解決し、全校生徒による一斉投票は何の問題もなく全会一致であずさの就任を可決した。
今日の達也は、生徒会及びこれまた近々代替わりが行われる風紀委員の引継ぎ業務の代行サービスをなぜか行ういつもと変わらない一日だった。
お騒がせ男筆頭である達也でもこうだったのだ。
同じように騒ぎの中心にいることの多い魔術師たち、藤丸圭と獅子劫明日香も、いつもと変わらない平穏な一日を過ごしていた。
彼らは自宅に
それはそうだろう。
いかに
だから今日も一日平穏無事で、世は事もなし。
銀髪赤目ロリっ娘魔法少女: よかったのかなぁ……
遥か眼下に今日も平穏無事な一日となった学校を見ながら魔法少女は、良心の葛藤から呟いた。
見ようによらなくてもとっても破廉恥な恰好で、今のように空を飛んでいる姿を下から目撃されたらいろいろと羞恥に転げまわりそうな恰好をしているロリっ娘魔法少女にとって眼下の学校はまったく馴染みがない。というかこの世界そのものに馴染みがない。
なにせ彼女は正真正銘、どこをとっても紛うごとなきごく普通の女の子だ。
ちょっと銀髪赤目で名前が貴族っぽくて、留守がちな両親は謎の仕事をしていて、なぜか一般邸宅にメイドが二人も居て、ついでに血の繋がらない兄がいるけれど、ごくごく普通の小五女子だ。
たとえ知り合いの赤いあくま的な人がイギリス魔法学校みたいなところから一時帰国していようと、異世界転移的なことに慣れっこになっていようと、詐欺師的な魔法のステッキに騙されて魔法少女をやっていようと、彼女自身は極々普通の女の子……たぶんきっと。
だからそんな、魔法少女をやっている普通の小五女子からしてみれば、魔法を教えているというファンタジックな学校──それも高校! ── なんて驚きもいいところだ。
周囲の景色が現実的であるだけにより一層だ。
「仕方ありません。あのカオスにグダグダな感じを治めるにはルビーちゃんのぐるぐるポイズンとサファイアちゃんのマジカル洗脳を使うしかありませんでしたから」
「
彼女が持つ、デフォルメされた翼の生えたピンクな感じのマジカルステッキと、隣に浮かぶ親友が持っているマジカルステッキが、なんだかとっても
彼女たちの役目は、異次元転移なんていうこれまたファンタジックなことをしでかしてしまったステッキ仲間を、人知れず世界に影響の出ないように回収することだったのだから。
一応それは無事に回収できた。
女子高生がちょっとあれな感じの魔法少女コスチュームになってアレな感じでやらかしちゃっていたのも、
だからきっと、これで何も無問題。
「ところでイリヤ……」
銀髪赤目ロリっ娘魔法少女: なに、美遊?
「…………感染してるよ」
銀髪赤目ロリっ娘魔法少女: ふええええええ~~~~!!!!???
見知らぬ異世界の空に木霊した魔法少女の悲鳴が境界回廊に飲まれて消えた。
ぐだぐだの方たちは内容からタイトルを決定してしばらくしてから出演しないことに気が付きました。あとがきでぐだぐだな掛け合いシーンにご登場いただこうかとも思いましたが、本編に全く関係ないので泣く泣く(笑)全カットとなりました。