Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
ヒッポグリフに騎乗して空に舞い上がったアストルフォに対して、
けれども“あれ”が立っていた所。立っていたその隣に、女がいた。
求め続けた女。自分の隣に侍るべき女。求めて、願って、探し続けた彼女。
なぜ彼女はそこに立っている。
なぜ自分の隣に彼女はいない。
彼女は、かのじょは、カノジョは!
ゆえに
「うわぁっと! ────この程度!!」
ヴィマーナの移動速度自体は流石は神の機乗足りえるが、幻馬たるヒッポグリフも負けてはいない。それよりもむしろアルターエゴから放たれる魔弾の方が厄介だった。
アストルフォは
ハイ・サーヴァントの強大さは感じているし、アルターエゴに対しての相性の不利も理解している。
そもそもアストルフォは宝具が多いという長所がある以外は、サーヴァントとして決して強くはない。宝具の性質として、魔術に対しては滅法アドバンテージがあるものの騎士、あるいは戦士に対しては地力で勝っている相手はそう多くない。
マスターがこの世界にはいないとはいえ、彼からの無限にも等しい魔力供給は世界の裏側から滞りなく供給されており、出力的にも、アストルフォの宝具コスト的にはフルに使ったとしても問題はない。
だがこの場には、戦いの戦場となっている空の真下では敵の目的であるシータがおり、守るべき者たちがいる。
だから彼は自身が敵わない強大なサーヴァントであるこの敵に対して、引き付けるためにも絶対的な回避能力のあるヒッポグリフを少なくともこの場では発動することはダメだ。
せめてこの場所から引き離さなくてはならず、そのために彼はヒッポグリフを敢えて実世界に存在させたまま騎馬戦を仕掛けている。
その甲斐あってか、はたまた飛び上がってきたアストルフォになにか腹立たしいことでもあったのか、
それはこちらとしても思惑通りなのだが────
「うわわっ! なんかちょっとバーサーカー入ってない!? すんごい怒ってるのは分かるんだけ、ど!!?」
攻撃の苛烈さに、アストルフォは一目散にヒッポグリフを加速させて離脱をはかり、けれどもヴィマーナの推進力によって引き離せずに空のカーチェイスを演じることとなっていた。
✡ ✡ ✡
当初、圭がもくろんでいた作戦方針は完全に瓦解している。
シータとともにラーマに対するはずの明日香はセイバーのルキウス・ヒベリウスと交戦状態に突入しており、ラーマ自身はもはや霊基を神霊クラスに変質させたアルターエゴとなって空にあった。それに対抗できるのは同じく飛行系の騎乗宝具を有しているアストルフォしかいない。
こちら側のサーヴァント戦力はこれで手詰まりとなり、協会に迫るバーサーカーに対するサーヴァントはいなかった。
「二人とも交戦に入ってしまったが、どうする、藤丸」
問いかける克人自身は、退くことはできない。
彼は十師族十文字家の一員であり、名目上は総領代理。事実上は総領である。そして十師族は建前上表の権力を融資はしていないが様々な便宜、特権を有しており、それはこういう時のためだともいえる。まして十文字家の役目は首都防衛。横浜という首都の目と鼻の先で異国の侵略者に組した超常的な敵性存在を認めながら、何もせずに逃げることはできない。
彼自身は藤林らから車を借り受けてでも協会に赴くことは必然だが、ほかのみんな、まして魔法師よりも魔術師である藤丸はそうではない。
彼らは国からなんらかの便宜を図られているわけではないのだ。
「武装勢力の戦力は西側、魔法師協会に向かっているのですね。…………ならアーチャーとともに北東方面に抜けます」
ゆえに彼のこの決断──戦場からの離脱を責めることは克人にはできない。
ただ厳めしい顔にさらに苦悩の皺が深くなることは隠しようがなかった。
「協会の方を見捨てるつもり!?」
「花音!」
そして誰に強制されるわけでもなく、この非常事態において正義感から自らの魔法師としての力を活かそうと考えていた花音にとっては、敵前逃亡をしようという圭の主張はいささか多い血の気を逸らせるものだったようで、咎める声音に対して婚約者である五十里が慌てて止めていた。
けれども彼とて千代田と同じく百家本流の直系。十師族の克人ほどではなくともこの状況に対して何かをしなければという思いはある。
激昂している花音を一度黙らせた五十里は冷静になるように自分にも言い聞かせて圭を見据えた。その視線がやや険を帯びているのは仕方あるまい。
「藤丸君。協会では今も大勢の魔法師がサーヴァントに立ち向かっているんだ」
五十里の言わんとしていることもわかる。
実際、圭は先ほどまではバーサーカー討伐に協力することを承認していたのだ。明日香やアストルフォの助力が得られないとはいえ、何も魔法師たちは圭とシータに討伐の全てを押し付けようとしているわけではない。
彼らのプライドとしても魔法師だけでは対処しきれないことを呑んだ上での助力要請なのだ。
味方の数が減ったからという急な方針転換はエリカや真由美にも変節漢のように見えたのだろう。非難するような視線を感じつつも、圭は淡々と理由を告げた。
「バーサーカーは魔力消費の最も激しいクラスです。疑似シャドウとはいえ依り代にしているのが魔力量の少ない魔法師ならそう長くはもちません。放っておけば遠からず自滅する爆弾を相手に無理をしてまでまともに対処する必要はないでしょう」
無理をしてまで対処する必要がない、という言葉はたしかに圭の言う通りなのかもしれない。
それでも今も協会支部とそこにある重要な情報──この国の魔法を支えていくだろう価値あるものを守るために、命を懸けて戦っている人たちを分が悪くなったからと見捨てる決断をあっさりとしたことに嫌悪の心が抑えきれなかった。
だが圭としてはこれ以上、議論を続ける気はなく、ましてここは危険な戦場のど真ん中であるからだろう、魔法師たちから背を向けた。
離脱のために動こうとした圭は、けれども共に離脱させなければならない
「アーチャー?」
「私は行きます、藤丸」
呼びかけに対する答えに、圭は顔を顰めた。
「確かにまともに対処する必要はないのでしょう。けれども犠牲はでる、でている。なら、放ってはおけない」
シータは武勇の英霊ではない。
その逸話において、魔王に攫われ、翻弄された一人の王女に過ぎない。
けれども───────
「それがかつてラーマ様が盟友と認めたカルデアでしょう?」
「シータ。君は…………」
圭が驚きに目を見開く。
本来サーヴァントには別の時間、場所において召喚された時の記憶はない。
正確には座に戻った時点で記録としては存在するのだが、そこから鋳造されたサーヴァントには影響を及ぼさない。
例外があるとすれば、その記録が英霊の根幹にさえ影響を及ぼし得る奇跡のような出来事であった場合や、アストルフォのように霊基が座に戻らずに召喚されている場合。
多くの場合、たとえ縁を結んだマスターとの記憶でさえも、再召喚されたサーヴァントというのは以前とは別人だ。
ただ英霊の側においても例外はある。
たとえば、その英霊が未来や過去を見通す千里眼の保有者であった場合、その英霊がたとえ実体験の伴わない記録でさえも救い上げる性質であった場合、たとえば────―
けれどもシータの紡ぐ言葉はまるで彼女が、彼女の霊基が“彼ら”を知っているようだった。
時の彼方での特異な時間での出来事、願い叶う奇跡を共有した者であったならば。
──お人よしの理論だな。あるいはそれが英雄とやらの性質、か……──
シータの言葉を聞いて達也は他人事ながらそう感じていた。
正直なところ、彼が藤丸圭の立場に立っていたならば、一顧だにせずに撤退を選んでいただろう。
彼にはそもそも軍に協力する義務がない。
達也が特尉として軍に所属しているのも、それが必要であったからであり、一族からすらも恐れられている彼の力が行使された時の正当な理由が必要であったからにすぎない。
それも
五十里や花音、真由美や克人のように選ばれた魔法師の一門に生まれたからこその責務など、天秤にかける対価ですらない。
黙っているのは彼にとって藤丸たちが参戦した方が都合がいいからで、極論としてはどちらでもいい。
藤丸の言う通り、遠からず呂剛虎が自爆するというのならば、相手をせずに一時撤退し、協会支部も破棄すればいいだけのことだ。あるいは捨て身の足止めを行っている魔法師たちを達也が
「けれど──―ッッ」
圭が言い淀んだ。
彼の眼にはある程度の先の未来を予測する力──未来視がある。
ただしその自由度はそう高くはない。彼のそれは確定した未来を視る測定の未来視ではなく、数多の情報から可能性の高い未来を予測するものでしかないからだ。
それで言うと多面体理論── 今回論文コンペに帯同している廿楽先生などが得意としている分野に近く、そうでなくとも魔術や魔法に依らない一般人の中にも稀に存在しうる程度でしかない。
今回のこの事件についても心構えをしておくことができた程度で、あらかじめ芽を摘むなどというほどに未来を視れたわけではない。
今もこの事件の結末までは視れていない。けれども視れた結末もある。
だからこそ、現状の戦力で向かうわけにはいかない。
何故なら────―。
言い淀んだその先の言葉を、シータは察したのだろう。
淡く微笑みを浮かべた。
「藤丸様。私は私の終わる時を他の誰にも委ねはしません。貴方であろうと、そしてたとえ、ラーマ様であったとしても」
英雄の妃、シータの最後は悲惨であった、そう言えるのかもしれない。
王位を継ぐはずであった夫は謀略によって森へと追われ、そこでさえ平穏にはならずに攫われてしまい、ようやく再会し取り戻せたはずの王妃としての位は民の猜疑と、よりにもよって夫の決断によって投げ捨てられてしまった。
そうして最後には自ら破滅するために大地に身を投げることとなった。
けれどもそれは彼女自身が選んだ最後。
たとえその容姿が幼く儚げに見えようとも、彼女は紛れもなく英霊。
理想の君主像と謳われるコサラの王の妃なのだ。
「~~~~~ッッ。ああ! 分かった! 分かったよ! 十文字先輩、藤林さん、車の運転を頼みます。バーサーカーを討ちに行きます」
✡ ✡ ✡
国際会議場から地下道に避難していた第一高校生徒や職員、一般人たちの集団は、地下道に入り込んだ武装ゲリラに足止めを受けつつも、シェルターへと向かっていた。
先導するのは一高の生徒会長の中条あずさなのは、各校の生徒たちはそれぞれに避難経路を選んで脱出を模索しているのと、会場が襲撃を受けたのが一高の発表の直後であった為、応援の生徒数がピークとなっていたのも一因だ。
ただ、あずさには精神に干渉し大勢の人々を精神的に鎮静化させる魔法はあっても、攻撃的なあるいは防御における魔法は得手としていなかった。そのため武装ゲリラとの遭遇戦は部活連と風紀委員会から選抜された警備隊メンバーによる護衛と、十文字克人の指示により合流してくれた服部と沢木という一高きっての武闘派魔法師二名の奮戦の甲斐あってのものだった。
彼らの魔法も万能ではなく、ゲリラが放つ銃弾の威力が魔法の事象改変力を上回ってしまえば途端に彼らは血塗れとなって倒れ伏していたし、避難してきた一般市民に紛れたゲリラからの不意打ちを受ける危険もあった。
それでも地上において猛威を振るっていた、魔法の通じにくい白猿やサーヴァントが出現しなかっただけ幸運と言えたかもしれない。
沢木の収束・移動系複合魔法“
彼が
そうしてあずさたちは地下シェルターのある桜木町駅地下の地下広間へと辿りついた。
服部と沢木は道中での脱落者がいないかを確認していたし、同行していた廿楽や十三束は後背の通路を警戒し、周囲に敵兵の姿はなかった。
シェルターに収容されたからといって敵の脅威が消えたわけではないのだが、ひとまず安全地帯に移動できたという安堵があった。
戦闘に直接参加していなかったとはいえ、全員を無事に引き連れているという責任を感じていたあずさが、ひとまずのゴールを目前にしたことで彼女の任務が達成されたという気持ちもあり────
「皆さん、頭をかばって伏せてください!」
廿楽が声を上げたのは、異変に気付いたというよりも彼の魔法特性上の予感が警鐘を鳴らしたからだろう。
まるで上から隕石でも落ちたかのように何かが地下道の頑丈な天井を突き破って激突し、衝撃であずさたちの頭上の天井一帯が瞬く間に罅が広がった。
息つく間もない瞬きの間の出来事で、悲鳴を上げようとした者もいたが、その声が音になるよりも早く地下通路が崩落した。
崩落したはずのコンクリートの破片がアーチを作っていた。
いかなる奇跡によるものか、コンクリート破片の大きな塊が円弧状に絡み合って互いの重量を支えており、通路にいたあずさを始め全員が潰されることもなくなんとか空間を保てていた。
「早く! そう長くはもたない」
ポリヒドラ・ハンドル。廿楽の得意魔法であり、崩落する寸前に事態を察知した彼が、天井という構造物を幾つもの構成材料の集合体として認識することにより、岩塊に影響を与えてこの奇跡を演出したのだ。
だがあくまでもこれは瓦礫で作られた即席のアーチ。彼自身が言うようにこれはそう長くは保たないだろう。
動揺し動きの止まったあずさ。判断が早かった服部はすぐさま全員に避難を急ぐように指示しようとして────崩落が吹き飛ばされた。
「なっ! ────―獅子劫!?」
生徒たちに飛ばそうとした指示は、驚きの声に代わった。
風の鉄槌とでもいうべきか。魔法であれば偏倚解放のように指向性をもった空気の塊が黄金の光を伴って頭上の岩塊を薙ぎ飛ばしたのだ。
それを成したのは現代の魔法師からすると時代錯誤とも思える騎士の鎧に身を包んだ獅子劫明日香だった。
彼のあの姿を服部が直接目にしたことはこれまでなかった。
けれども獅子劫明日香と藤丸圭の二人が魔法師ではなく、魔術師であるというのは副会長として生徒会の業務に携わっていた関係で多少は聞き及んでいる。
それにブランジュによる襲撃事件の時に、まさに怪物としか言いようのない悪魔のような何かを──三巨頭すらも圧されていた化け物を易々と斬り伏せた姿は見ている。
ただあの時は一高の制服姿で振るっていたのは不可視の得物だったが、今彼の手にあるのは、幅の広い装飾の施された西洋剣を手にしていた。
遥か上空から叩きつけられたかのように窪んだクレーターの中心で体勢を整えたばかりといった姿。
だが驚きをもって名を呼ぶ声に彼が応じる素振りはなく、険しく上を睨み────追ってきた何かからの攻撃をその剣で防いだ。
地上で、時に空中で戦っていた明日香だが撃ち落とされる形で道路へと叩き落された。その威力はすさまじく、その層下に空洞──地下通路があったことから路面を砕き、崩落させて落下してしまった。
切り結ぶ敵は明日香の中に宿る
かつて円卓の主たる騎士王はローマの
その時、生前の騎士王には竜の心臓による強大な魔力炉心があり、無限にも等しい魔力を運用し、精霊の加護すらあった。対してルキウスには渓谷の魔力と数多の魔術師たちの魔術による加護、魔獣の力を以って赤き竜の化身に対抗して見せた。
今ここにスワシィと同様の地の利はルキウスにはなく、かつて彼が従えた異形の軍勢の援護もなく当然魔術師たちの加護もない。
けれども騎士王ならざる明日香の剣技ではルキウスのフロレントを捌くには十分ではなかった。
剣技だけならばそうそう後れを取ってはいない。けれども相手はかつて大陸最強と謳われ、東方の猛者たちからすらも
フロレントの空間を断ち切るほどの連撃を、もはや風王結界による隠蔽も解除してその姿を露わにした聖剣を以って打ち防ぐことできたとしても、この剣帝の業はそれだけではすまない。
撓る蛇が如き蹴撃が明日香の予想外の意識の死角から打ち込まれ、蒼銀の鎧へと吸い込まれる。
強大な魔力で編まれたはずの鎧が砕け、肺腑を貫くような衝撃に呼吸が止まり、吹き飛ばされる。
けれども離れる一瞬、明日香はその手に握られた聖剣を斬り上げに一閃。
聖剣の輝きを伴った風王の斬撃がカウンターにルキウスへと襲い掛かり、息を呑んだ剣帝は崩壊していく空間めがけて凄烈な気迫を込めてフロレントを振り下ろした。
輝きの残滓と真紅の刃がぶつかり合い、衝撃が破裂する。
蹴撃の衝撃による内腑の損傷を受けた一方で、相手は聖剣の斬撃により片腕を炭化させている。
どちらの傷も只人であれば重傷だが、ルキウスの肉体は魔力によって形作られた半実体。そして明日香もまたデミ・サーヴァント化している今は魔力によって肉体の見かけ上の負傷はさしたるものではない。
だが、戦いの痛みは確かに肉体に刻まれており、明日香の顔は戦いが始まって以来ずっと険しいままだ。
一方のルキウスの顔には堪えきれない笑みが浮かんでおり、明日香にはそれがどうしようもなく悍ましいものにしか感じられなかった。
「はは、くははは! この笑みが気になるか。今世のアルトゥールス!」
その表情の変化を鋭敏に感じ取ったのだろうルキウスが声に出して喜色を露わにした。
「やはり貴様は貴様だ! たとえ肉体は失われエーテルによる仮初の器であろうとも。戦場にあって“これを”悍ましく感じるその心はまさしく貴様のものだ!」
なぜならば明日香が感じたその思いを、かつての戦場にあって、ほかでもない騎士王が指摘したものだから。
──皇帝よ、我らは命のやり取りをしている。自らの命ではなく、我らは数多の民の命をも背負って戦っている。愉しむな。笑うな。ルキウス、その哄笑はあまりにおぞましい──―
「かつて言ったはずだ。
両者の動きが止まり、それを隙と見たのだろう、魔法による雷撃がルキウスを襲った。
現代の魔法師戦闘において呪文詠唱や儀式の省略による発動の高速化は、戦闘自体の速度を上げた。古の昔に行われた騎士と騎士との決闘のように互いが名乗りを上げ、互いの矜持を賭けた決闘など無価値と切り捨てた争いこそが現代の戦闘だ。
戦闘の最中に言葉を交わすなど不要な隙を生むものでしかない。
だからこそ、服部はその隙を見逃さずに、脅威となる敵に、たとえそれがサーヴァントという十師族ですらも寄せ付けない強大な敵に一矢を放ったのだ。
だが────────
「余の語らいに水を差そうとはな。だが、雷を供する心意気は魔術師もどき風情にしては中々に気が利いているではないか」
「な──────」
敵を撃ち痺れさせる雷撃は、けれども赤髪の剣士に僅かたりともダメージを与えることもできず、さらにはその雷電は消えず、真紅の刃に纏わりついた。
それは服部が意図した魔法の挙動では有り得ない。
現代魔法は明確にその効果の始まりと終わりの規定をせねばならず、服部の放った魔法は一瞬で敵を撃ち据える魔法のはず。
魔法が乗っ取られた。そんなことが出来るのだとは今まで考えたこともなかった。
だが事実として、刃に帯電した紫電は剣士の威を受けて赤雷へと転じ、どころか差し向けられた最初の魔法の威力よりも遥かに、比べようもなく強大になって明日香に牙を剥いた。
「───────ッッ」
切先を引き右下段に構えた剣に風を纏わせる。
剣を不可視化させるほどに膨大なインビジブル・エアはすでに解除され、剣は実体を現し、風王結界は明日香のスペックを引き上げるために回している。その幾割かを不可視化させるためではなく剣へと収束させ、聖剣の光とともに切り上げた。
───風王鉄槌 ストライク・エア!! ───
赤雷と風の斬撃とが激突し、地下広間に超音波を発生させる。同時に衝撃は上へと跳ね上げられ、天井を突き破る。ただでさえ一部を崩落させていた天井に穴ができ、あずさを含めた避難者たちが悲鳴を上げてしゃがみ込む。
この地下空洞でこれ以上戦闘を続けるのは、被害を増すばかり。
明日香は落下してくる岩塊を蹴り、素早く地上へと駆け上って行った。
ルキウスが追撃して来なければ魔法師たちの殺戮が繰り広げられていただろうが、読み通り、彼にとっては取るに足りない魔法師たちを弄ぶことよりも明日香との戦いをこそ望むルキウスもまた地上へと舞い戻って行った。