Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~   作:バルボロッサ

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14話

 

 

 ──魔法協会関東支部へと向かうトレーラー車内にて。

 広々ゆったりというほどではないが、協会に赴くことを選択した克人たちを乗せてこれからの戦いを相談するほどの広さはあった。

 

「残念ながら、僕の魔術程度ではバーサーカー相手でも大したダメージソースにはならないと思います」

 

 魔法師としての戦力で見れば、克人も真由美も摩利も並の軍属魔法師を超える戦力になるだろう。達也は特尉として独立魔装大隊の切り札といえる存在だ。深雪も九校戦で示したようにA級の戦術級魔法を容易く使いこなし、今はその時にあった制限すらも解除されている状態だ。エリカもレオも幹比古も、二科生とはいえ実戦力としてはかなりのものだろう。  

 加えて今回の騒乱に対しての念のための保険をかけていたらしい藤林の思惑により、エリカの兄であり千葉一門の総領、千葉 寿和も同行し、エリカに彼女の本来の得物“大蛇丸”をもたらした。

 けれどもそれらはあくまでも一般の戦力、魔法師としての戦力で考えればだ。

 彼らが武装ゲリラとの戦線に加わることで、大なり小なり戦況を覆すことはできるであろうが、サーヴァントとの戦いとなれば別だ。

 魔法師の魔法ではサーヴァント相手に有効打となりえないというのは、これまでのサーヴァントとの戦いで明らかで、達也をもってしても、未だ解決には至っていない。

 サーヴァントには神秘のこもっていない魔法や重火器による物理的攻撃が通用しないという。

 それは克人や真由美が痛感したことであり、先ほどの戦いでエリカやレオ、摩利たちが改めて実感したことでもある。

 ただしそれは純正のサーヴァントであればの話だ。

 サーヴァントのスキルによって生み出された化生体には効果が減弱しているのか威力不足なのかはともかく辛うじて通じている。

 現在彼らが討伐に向かっている呂剛虎にしても、憑依しているのがシャドウ・サーヴァントであるからなのか、それとも魔法師を依り代にしているからなのかは定かではないが、魔法が完全に無効化されているわけではないらしいというのが、迎撃に当たっている軍からの情報だ。

 もっとも、重火器は通用しないし、魔法にしても掻き消えるように無効化されていないだけで碌にダメージを与えられているとは言えないらしい。と

 それゆえ敵の侵攻を止められはしないまでも遅滞させることはできているらしい。──―周囲の建物と兵とに大きな被害を受けながらではあるが。

 

 ここには魔術師である圭とサーヴァントであるシータがいるが、神秘の宿る魔術であっても現実的にサーヴァントに通用するレベルの魔術行使は圭にはできないし、霊基が完全ではない上、闘いの逸話を持たないシータではバーサーカー“呂布奉先”を単独で倒すことはできないだろう。

 

「なので、皆さんの魔法を一時的に引き上げます。具体的には礼装による魔術でシャドウ・バーサーカーの守りの概念を貫通する効果を付与します」

 

 ゆえにこそ圭がとれる現時点での最善は、魔法をサーヴァントにとっての有効打に変えることだ。

 

「それができるならなんでさっきの時にやらなかったんだ?」

 

 レオのそれは魔法師たちにとって当然の疑問であっただろう。

 ルキウスやラーマといったサーヴァントたちは確かに英霊として常人とは隔絶していたが、魔法さえ通じるのであれば対応することは多少なりできなくもない。

 

「いくつか理由はあるけど、一番の理由としては通用しないからだね。

 魔法の効果を引き上げるとは言ったけど、実際には魔法に神秘という色付けをしてサーヴァントにも通用できるようにするだけだ。

 “人”のサーヴァントであり、対魔力のクラススキルのないバーサーカーならそれでなんとか通用するだろうけど、“地属性”──― そもそも現代の魔術よりも格上の神秘の塊であるサーヴァントには基本魔術も通用しない。まして伝承を由来とするサーヴァントで、しかもとびっきりの対魔力を備えたあのセイバー(ルキウス)やハイ・サーヴァントであるラーマにはおそらく、というか間違いなく魔術や魔法そのものが無効化されるだろうね」

 

 現代において神秘は遥か彼方に置き去りにされ、“魔法”ですらも解き明かされた現代では魔術の力は極めて()()

 

「それに礼装による魔術は効果時間がかなり短い一方で、使えるのはこの戦闘の間でおそらく一回(1ターン)が限度。だからその効果時間内に確実にバーサーカーを撃破してほしい」

 

 なによりもこの魔術は、圭本来の魔術ではなく、礼装に付随した魔術によるもので、強力だがそう易々と何度も使えない。

 車内は緊張から喉を鳴らして唾を呑み込む音が聞こえるようだった。

 

「方法は分かった。それで、作戦はどうする、藤丸?」

 

 彼らが戦う戦場は着々と近づいおり、克人の問いかけに圭は「ふむ」と思案した。

 

「全員で一気に、といきたいところですが、今回の目的はバーサーカーの撃破よりも拠点防衛─── 協会支部の情報強奪の阻止ですよね。それなら──────―」

 

 

 

 

 

 

 ✡  ✡  ✡

 

 

 

 

 

 

 

 魔法協会関東支部のある横浜ベイヒルズタワー。そこに向かう通り道は凄惨な破壊の痕をそこかしこに刻み付けられていた。

 

 黒い靄を纏う怪物染みた異形、あるいは異形染みた怪物か。

 立ち向かう魔法師たちは、魔法協会への道を守るために懸命にそれに立ち塞がろうとし────

 

「ひっ、ぅ、あああああッッッ!!!!!」

 

 グシャリと、肉塊が赤く弾けた。

 現代の魔法は科学兵器に対して万全に超越しているわけではないが、多くの点で優越していることが認められている。

 ここに集い、異国の侵略者に対抗しようというほどの魔法師ともなれば、己が魔法両区に相応の自負を持ち、それは公的に認められる魔法力の評価においても確かだ。

 けれどもそんな、一騎当千とはいかずとも超人的な魔法師たちが、その魔法が黒い靄の怪物にはまったく通用しない。

 放たれた攻撃魔法はその突進をわずかも鈍らせることができない──― 術者が潰された────

 防御のための魔法は紙くずほども威力を減じることができない──― 肉塊が破片となって飛び散った────

 

 振るわれる方天画戟はその物理的形状の範囲以上に破壊を巻き散らす。

 振るわれる度に魔法師たちが赤い肉塊となって散っていく。

 

 魔法協会支部に蓄積されている魔法研究の情報は断じて異国の手に渡してよいものではなく、戦場において命を賭けて守るべきものだ。

 そうでなくば、奪われたその技術をもって外夷は更なる力を得て、さらに大きな騒乱と破壊をもたらすに違いない。

 だからこそ守らなければならない。

 少なくとも十師族の魔法師たちが駆けつけてくれるまでは、国防軍が敵対勢力を排除してくれるまでは────

 けれども心が折れる。

 畏怖すら抱くほどに圧倒的な破壊の権化に。

 魔法師が置き去りにしてきたなにか、科学で制圧したはずの神秘こそが、まさにこの目の前の光景であるのか。

 立ち塞がっているのはすでに義勇兵の魔法師だけではなく、国防軍の装備をもった者たちもいる。

 耐える時は終わりを迎え、反攻の時に至ったはずなのに。

 

「ああああああああっっ──────」

 

 ぐしゃりと、また幾人もの魔法師たちが血肉を飛び散らせた。

 

 

 

 

 

 

 昏い、昏い、昏い────―

 周囲の世界のみならず、埋没する自己も暗闇の中、黒に染まっている。

 その中でただ、幾つか、朱が散らばっている。

 叫ぶ朱。吠える朱。飛び散る朱。

 最早、その朱を見るためだけの機能しかない視覚以外、五感はすでにない。

 触覚もなく、握っている感覚などとうになく、四肢を動かしている感覚もない。

 ただ目の前で朱が花火のように飛び散っていくだけだ。

 勿論のこと──────それを認識するだけの知性も理性も、何もかもが、呂剛虎という存在そのものが、すでに魂から押しつぶされて、塵の一欠けらだけが、狂乱の激流の中で翻弄され続けていた。

 

 敵意が降り注ぎ、それを撃ち払う。視界の中で、一際朱いナニカが、狂戦士の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■」

「くっ! 流石は中華最強の勇将。やはり私の弓では通じませんか」

 

 シータの放った弓矢は確実にバーサーカーの不意を打ったにもかかわらず、超速で振るわれた方天画戟によって捌かれた。

 狂化によって理性を失うバーサーカーのクラスでは、本来生前の武技は損なわれるはずだ。

 だが膨大な魔力消費と引き換えに得られるスペックは強大。

 シータのもつ武具、追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)はシヴァ神によって授けられた力と勇気を試すための豪弓。そこから一弓五射に放たれた矢の威力は、込められた神秘からしても見た目どおりではない威力を持っていた。

 けれど呂布はそれを大した神秘もなく、劣化した生前の絶技と膂力のみでそれを事も無げに撃ち払ったのだ。

 シータの武勇では三国の無双たる飛将軍には通用しない。

 それは分かっていたことだ。だからこそここからが策だ。

 

「“礼装起動(プラグ・セット)”────“メジェドの眼!! ”」

「はぁあああッッッ!!!!」

「うおおおおおっ!!!」

 

 圭の魔術と同時にエリカと、わずかに後れてレオが斬りかかった。

 完全な死角からの攻撃。

 バーサーカーとして理性を失ったからこそ、眼前に立ち塞がった敵にのみ意識を奪われる狂戦士の特徴ゆえに生じた隙だ。

 生前の武技もない────はずなのに。

 

「なっ!」「こいつッ! この武器で、受け止めたッ!?」

 

 レオの薄羽蜻蛉とエリカの山津波。

 特にエリカの山津波は彼女の魔法の特性と相俟って超速加重の斬撃だ。

 それを二方面の死角から刹那の時間差でほぼ同時に受けておきながら、身の丈をも超える超重の方天画戟を高速に動かしてそれを防いでいた。

 咆哮。

 会心の一撃を超絶の技巧と膂力で受け止められたことによる衝撃に加えて、英雄ならざる人の身の心を揺さぶる威圧にエリカとレオの動きが固まり、方天画戟が振るわれようとした。

 

「■■■■■■■■■■■■!!!!!」

「エリカ、レオ!」「離れて!」

 

 その動の起こりを摩利の圧斬りと真由美の魔弾が打ち据えた。

 方天画戟が速度を得る僅かな一瞬。それはバーサーカーの膂力の前では僅かなものではあったが、起こりを崩されてしまえば方天画戟の威力はベクトルを逸らされた。

 

 

「ぬぅん!!!」

「■■■■■■■■──────ッッッ!!!!!」

 

 そしてその僅かな間隙にエリカとレオは隙間のような距離をとり、間髪に入り込んで克人の攻撃型ファランクスがバーサーカーを押しつぶさんとした。

 いずれの魔法も圭の魔術の付与によって確かにサーヴァントにその体に届いている。

 けれども相手は英霊。人類史にその名を刻んだ英雄であり、英傑が乱舞した後漢末の動乱においてさえ最強の武人と謳われた呂布奉先。

 克人が放つ瞬間無数の魔法障壁にその霊基(カラダ)を押し潰されても、得物を動かす隙間もない牢獄にあっても、ただ膂力のみで方天画戟を振るってファランクスを破壊した。

 圧倒的な破壊の猛威。

 それでも暴風の脚を止め、エリカとレオが距離を稼ぐことはできた。

 克人のファランクスが破られ、バーサーカーが駆けようとするその刹那、振動が空間ごとバーサーカーの体を襲った。

 

「■■■■■■!!!????」

 

 雫の魔法により空間に設置された機雷が破壊的な振動を発生させてバーサーカーの体を軋ませる。

 歪曲する空間は攻撃でもあり、動きを封じる牢獄でもあった。

 形ある障壁であれば魔法であったとしてもエーテルの鎧を纏ったサーヴァントであれば砕くのは容易い。雫のそれは魔法によって事象改変された物理現象であり、振動という形を持たない現象。故に方天画戟では砕くことはできず、バーサーカーは渾身の咆哮を放った。

 思考してのことではない。けれども音とは空気の振動であり、神秘の塊であるサーヴァントの放つ咆哮ともなれば魔法を砕くには十分。

 そしてそれは彼にとっても十分な時間をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 目視において呂布奉先と目された敵は黒い靄を纏い、依り代となっている呂剛虎らしき姿は確認できない。

 達也が持つ精霊の眼(エレメンタル・サイト)ではさらに醜悪な様相を呈していた。

 どろどろに溶かされ、圧搾され、それでもなお消えることはできずに悲鳴を上げ続けているかのような残滓と、精霊の眼だからこそ見える情報の塊。

 そしてその情報の塊は現在における表層的なイデアではなく、多重多層的な、遥かな過去という膨大な厚みをもった情報。個体に依らないナニカ──― 現代魔法が斬り捨てた神秘、信仰とでもいうべきものを内包した存在。

 それはあるいは霊子情報体とでも言うべきものか。

 それこそが達也が理解しているサーヴァント。

 現代魔法はサーヴァントには通用しない。

 それは達也の異能とでも言うべき魔法を以てしてもだ。達也には想子を知覚することはできても霊子の構造を視る術はない。

 達也はそれを自身がサーヴァントのことを、魔術を、神秘を正確に理解できていないからだと考えていた。

 彼の異能は、精霊の眼(エレメンタル・サイト)によって構造体の情報を知ることによって対象を分解できるというものだと思っていたからだ。

 けれどもそうではない。

 彼が分解できるものは単一の分子構造体などに留まらない。人間という複雑な情報の塊ですらも分解できるのだ。だが、いかに達也の情報処理能力が卓越しているとはいっても37兆を超えるほどの細胞、それを構成している分子の配列、素粒子の羅列を刻々と変化している中で理解しきることなどできるはずがない。

 ゆえに達也が分解できるもの、理解していると考えていたものの本質は別にあるのだ。

 

 ──たとえ物理現象に囚われず、通常の魔法の通用しない幽体であることがサーヴァントの性質なのだとしても、()()は俺たちに物理的に干渉している。()()()()()()()()()に干渉するための想子情報を発生させるはず──

 

 ならばサーヴァントという理解の埒外の存在であろうとも、彼の認識の再定義によっては手の届きうる存在には違いないのだ。

 

 それは神秘を知らぬがゆえの、全てを解き明かし暴こうとするヒトという種のエゴが生み出した幻想でしかなかったが、奇しくも正しく的を射抜いている点もあった。

 

 ──俺という、いや、この世界に存在する構造体に干渉する、その起点、その繋がりを分解する!! ──―

 

 司波達也(摩醯首羅)の魔法は、神秘にも届きうる。

 

 ──“霊子干渉構造体分解魔法”発動!! ──

 

 狙うはサーヴァントという異物の本体と残滓として消えようとしている依り代の情報とをつなぐ連絡路。

 依り代たる呂剛虎が死に、楔を失えばサーヴァントは自滅すると藤丸圭は言った。

 まだ本来のサーヴァントには届かないだろう。それでも依り代という核に縛られたデミ・サーヴァントには通用しうる。

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 達也が右手に構えたCAD── トライデントが彼の異能たる魔法を放った瞬間、それは情報の海を経由して呂布奉先を── 呂剛虎を穿った。 

 サーヴァントとしての情報とこの世界における器を繋ぐ架け橋を、素体を依り代たらしめている情報(神秘)を、達也の魔法が分解したのだ。

 絶叫が轟く。

 それは魂を擂り潰されて消え行かんとしていた呂剛虎のものか、それともこの世界から拒絶された呂布奉先のものか。

 魂消る叫びと評することが相応しい声は、達也の魔法が、魔法師の力が、確かにデミ・シャドウ・サーヴァントに届いたのだという証。

 けれども────

 

「■■、────■■■!!!!」

「まずい、シータ!」「!!」

 

 それは本来のシャドウ・サーヴァントであれば用いることのできない力。

 英霊が英霊たるの証──― ()()

 

 ──依り代から切り離されたその刹那を使って!? ──

 

 依り代から解放されたからこそ、放てる奇跡のような一瞬。

 バーサーカー、呂布奉先の宝具 「軍神五兵(ゴッドフォース)」。

 あらゆる武芸に秀でた天下無双の飛将軍が、とりわけ燦然と輝かせる武技。

 

 死の間際に放たれる弓がシータに襲い掛かり、対するシータにそれを防ぐ術はない。

 

礼装起動(プラグ・セット)──― オシリスの砂!!!!」

 

 その未来を視ていた圭が、残る魔力を礼装に叩き込み、魔術礼装──アトラス院にデフォルトされたもう一つの魔術を発動させた。

 

 オシリスの砂。

 

 それは魔術協会とならぶ巨人の穴倉とも評された蓄積と計測の学府──―アトラス院が“最強の魔術師”を目指して試作した魔術礼装に備わる最高の魔術。

 あらゆる未来を計算し、その先を掴み取る絶対策。

 ゆえにこそバーサーカー、呂布奉先の宝具といえど、その砂の壁を突破すること能わず。

 

「────―ぐっっ!! ぁぁあああああッッ!!!!」

「■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 圭の魔術は礼装頼みの借り物であり、本来あるべきバックアップも今はない。

 かつて人理修復の旅路で人類最後のマスターが行使したほどの威力も神秘も望むべくもない。

 けれども対するサーヴァントもまた、劣化したシャドウを依り代に憑依させているに過ぎない。

 

 僅かな時を防ぎきれればいいのだ。

 呂布奉先が宝具を放つことはできたのは、依り代との連絡路を穿たれて、その霊核に不純物がなくなったから。

 だがだからこそ、その僅かな時を防ぎきれれば、魔力消費の大きいバーサーカーは現世に存在を継続できない。

 

 藤丸圭の魔力流出が限界に達し、その腕から力が失われる。口の端からは魔術回路の過活動によって損傷した内臓の影響で血が流れる。

 けれどもあと一歩。呂布奉先の放った無窮の弓矢は、紅の王妃を貫くに及ばず、武人の霊体はこの世界から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 ✡  ✡  ✡

 

 

 

 

 達也が呂剛虎(呂布奉先)へと致命の一撃を手向け、その霊基を消滅させることに成功していたころ、彼らが守る魔法協会支部の中には魔法師が侵入を果たしていた。

 陳祥山。大亜連合軍特殊工作部隊隊長にして奇門遁甲の使い手。

 大陸の古式魔法なるその術により、彼は部下たちを撒き餌として敵対者たちの目をかいくぐり、協会支部内で歩みを進めていた。

 奇門遁甲は表には吉凶を占う術として知られるが、裏の顔として方位を操る魔法としての側面がある。術者の望む方向へ人々の認識を誘導する秘術。

 その魔法を使い、陳は敵の注意と警戒を部下たちに誘導し、自身は無警戒のままにここまでやってきた。

 日本の魔法師たちの研究の成果の集まる場所、魔法協会関東支部、その中枢。

 特殊工作部隊が密かにこの国に侵入し、部隊を展開したのも、一つには日本の魔法師を拉致するのも目的だが、本命はここに集積されたこの国に魔法研究の成果を奪うことにある。

 大亜連合はその成立過程において憎々しいことに古来の魔法技術の多くを失ってしまっている。この国のとある魔法師一族、不幸を齎す四葉(アンタッチャブル)との抗争によってだ。

 魔法の力が国の軍事力に直結するようになった現代だからこそ、国としての魔法力の低下は国力の低下につながり、大亜連合はUSNAや日本などから魔法後進国ともみなされてしまう。

 だからこそ奪い、取り戻すのだ。

 本来であれば、ここは何よりも厳重に警備されている場所。

 けれども今は、市街に展開した部隊の襲撃により混乱し、中でも切り札であるとっておきの人間爆弾は、周囲一帯のあらゆるものを薙ぎ払ってここに侵攻せんと見せていた

 ここまでもつはずもないのに。

 

 あれはまさしく爆弾だ。

 大亜連合から、いや、現代の魔法世界から失われた秘術、神秘をもって現世に蘇った古代の猛将、中華の誇る最強最悪の反骨の武将、呂布奉先。

 それが現代魔法師の中でもこと接近戦においては最強の一角に名を連ねるであろう呂剛虎と融合して暴れまわっているのだ。

 誰があれを止められるであろう。

 誰がアレを前にして命あることを許されるであろう。

 呂剛虎は陳にとって替えのない部下だ。

 友誼や情などからではない。他の雑兵ならいざ知らず、戦略級魔法師を除けば大亜連合において稀有な力を有する魔法師だからこそ、そう易々と失われていい魔法師ではない。

 

 ────―それなのになぜだというのだろう。

 

 陳は彼を生きる爆弾へと変えた。

 あの男の言うがままに、あの男の成すがままに。

 

 ──────仕方のないことなのだ。

 

 作戦を果たすためには必要な戦力だ。

 そうだ。呂剛虎は優秀だとは言え、一度捕まり、二度までも失敗を見せていた。

 その戦力を強化することのなにがいけない。

 喪われた神秘を僅かな時間とはいえ再現し、目にし、あまつさえその身に宿すことができたのだ。

 それのなにが間違いだというのだ。

 目的を果たすために、国のために、必要なことなのだ。

 なのに────―

 

 

 

「なるほど、これが奇門遁甲ですか、勉強になりました」

 

 陳の前に氷雪の女王が立っていた。

 なぜだというのだ。なにが間違っていたというのか。

 

 彼の足元が、周囲の壁が、空気が凍り付いていく。

 

「わたしも早くお兄様のもとへ馳せ参じなければなりまんので、あまり時間をおかけすることはできません。なので、しばしお休みください」

 

 心を奪われ凍りつくほどに見惚れるような可憐な笑みを浮かべた少女の魔法により、陳祥山の意識は闇に閉ざされ、その身体は凍り付いた。

 

 

 

 





2000万記念でようやく孔明先生をお迎えすることができ、その前にはローマ皇帝も来てくださいました。みんなでローマ!
前回の星4配布で来てくださったパイセンには申し訳ないのですが、幣カルデアには項羽様はおられません。ごめんねパイセン!
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