Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~   作:バルボロッサ

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16話

 

 

 立ち昇る憤怒の焔を包み込んだ地母神の抱擁はさながら星がその内に火を納めるかのように。

 これまで魔法師たちが見てきたサーヴァントの宝具は驚異的ではあっても、神秘的とは思えなかった。

 けれどもシータとヴィシュヌ、二人の放った宝具はまさに英霊の神秘、戦場に散り行く華であった。

 

 けれどまだ終わりではない。

 

「異国異教の者とはいえ、古き国の王ともあろうものが、よもや伴侶ごときと終をともにするとはな。不甲斐ないとはこのことだ。まぁ、それは貴様にも言えたことだがな、アルトゥールス」

 

 まだ戦場の終局はここではない。

 

 

 

 敵性サーヴァントであったアルターエゴ(ヴィシュヌ)バーサーカー(呂布奉先)は撃破できた。けれどもこちらのサーヴァントであるアーチャー(シータ)は消滅し、ライダー(アストルフォ)セイバー(明日香)は倒れている。

 自らが打倒した明日香を見下ろすのはセイバー、ルキウス・ヒベリウス。

 彼のことを藤丸圭は古に滅びた国の皇帝にして、かつて大陸最強と呼ばれた剣帝と言った。

 事実その剣技と体技は黄金の剣を自在に振るう獅子劫明日香をすらも上回った。

 加えて魔法の通じない神秘の具現体。藤丸に言わせればサーヴァントの中でも別格の対魔力を有しているルキウスには魔術であっても通用しないのだそうだ。

 達也が新たに開発した新魔法であれば、サーヴァントにもダメージが与えられうるということだけは呂布奉先に通用したことで実証できた。

 けれどもあれは現実の肉体を持つデミ・シャドウ・サーヴァント。

 純正のサーヴァントにどこまで通じるかは不明。

 

「はぁあああああッッ!!!!」

 

 いち早く動きを取り戻したのはエリカと摩利。

 二人の魔法剣士はそれぞれの武装型CADを振るっていた。

 エリカは間に合わせの特殊警棒型ではなく本来の得物である大蛇丸によって放たれる千葉の秘剣“山津波”を超加速によって叩きつけた。加重系・慣性制御魔法であるその魔法は、自身と刀に掛かる慣性を極小化して敵に拘束接近し、インパクトの瞬間、消していた慣性を上乗せして放つ秘剣。無慣性状態のスピードの中でも一点のぶれなく刃筋立たせる極地ともいえる操刀技術、人の身にあっては極限クラスともいえる知覚速度、そして抜群の運動神経。それらが合わさってなせる業であり、先の奇襲の時とは違い、今度は最大威力を発揮できるだけの助走距離をとっていた。その威力たるや十トンを超えるほどの巨大なギロチンを空高くから落とした斬撃に等しい。

 同時に放たれた摩利の業は源氏の秘剣たるドウジ斬り。摩利にはエリカほどの速度はなく、高速での接近はできない。剣の腕前も千葉の門下では目録、印可であるエリカには格段に劣る。けれどもエリカにはない魔法技術があり、遠隔で振るわれた二刀の刃がエリカの“山津波”とタイミングを合わせて放たれる。

 いかに剣技に卓越していようとも、古に大陸最強を誇る剣帝であろうとも、防ぐことなどできはすまい。

 たとえ魔法が通じなくとも、武装一体型のCADはそれそのものが武器であり斬撃たりえる。

 魔法を無効化しようとも二人の斬撃を消し去ることはできず、二つの秘剣はたしかに剣帝ルキウスへと届いたかに見えた。

 けれど────―

 

「なっ!?」「──ッッッ!」

 

 エリカの大蛇丸と摩利の遠間の刃。この現実に確かに形を持ったそれらは触れたと見えた瞬間に、まるで飴細工を叩きつけたかのように砕け、破片となった

 二人の魔法剣士はそのどちらも十師族ほどの魔法は操れない。けれども剣技と組み合わせることで、その剣技を高めることで、自らの為せる中では至高ともいえる一撃となりえたのが、今の斬撃だったはずなのに、それらはセイバーのサーヴァントたる彼の身体に傷をつけるどころかわずかの停滞も作ることはできなかった。

 

 ──しまっ!! まず────― ──

 

 極大の山津波を放ったがゆえに、インパクトの瞬間に解放された慣性がエリカの脚を止めた。それは並みの剣士、魔法師にとってみればほんのわずかな躓きで、けれど剣帝にとってみれば、己が存在意義ともいえる一幕、赤き竜との戦いを遮る毛筋一本にも満たないノイズのようなもので、それは無造作に手で払わせるほどには気に障るできごとだった。

 けれどもその手にあるは皇帝剣フロレント。ルキウスにとって蠅蚊を払う程度の雑事は、エリカにとっては必死致命の斬撃に等しい。

 現代の魔法剣の達人であるエリカだからこそ感じる絶対的な死の予感。

 

「うおおおおおっっ!!!!」

 

 けれどその斬撃がエリカを斬り裂くことはなかった。

 エリカとほぼ同時、反応的には彼女よりも早く駆け出して、けれども移動速度の関係で出遅れていたレオが、攻撃の矛先を変え、手にある薄羽蜻蛉を捨てて、エリカへと突撃するように体当たりをしたのだ。

 

「がッ!!」「レオ!!!!」

 

 結果、ルキウスにとって何気なく振り払われた一撃はエリカではなくレオの背中を断ち割った。

 常人であれば即死。

 常人よりも強靭な肉体性能を誇るレオであっても、死を免れ得ない致命の傷。

 

 その光景を、魔法協会支部のあるビルから出てきた深雪が目撃した。

 致命傷を受けて倒れる友人(レオ)とその血に塗れて叫ぶエリカの姿。

 逆上し、激怒した彼女はCADを操作することもなく、魔法を展開した。兄の能力の一部を封印していたリソースを解放したことで、同じく解放された自らの力。最早神秘すらも内包しているかのごとくに世界を浸蝕する精神の氷結魔法。

 

 ──系統外・精神干渉魔法“コキュートス”──

 

 その力は魔法師にあって規格外(イレギュラー)

 魔術ではなく、魔法が、神秘を切り捨てたはずの現代最新の文化文明の結晶たるのその力がサーヴァントへと干渉を果たすほどだった。

 

「…………ほう。まがい物、造り物の魔術師(メイガス)もどき風情が」

 

 けれどいかに深雪の魔法が規格外であろうとも、相手はサーヴァントの中でもA級の力を有するローマ皇帝。最優を誇るセイバーの対魔力を突破できるものではない。

 かの剣帝こそすべてに通ずるローマの皇帝。

 古に従えた宮廷魔術師たちとて彼を傷つけることは能わなかったのだ。

 深雪の魔法は傷どころか剣帝の玉体に霜露をつけることもできはしなかった。けれども神秘の絶えた現代の魔術師もどきが、自身に干渉可能なほどの神秘を行使できるというのは蠅蚊以上にはルキウスの興味を引いた。

 向けられる側にとってはそれだけで絶対的な死を予感させるもの。

 ルキウスにしても自らの気を向けられ、崩折れそうになりながらそれでも眼差しを変えない女に少しばかりの面白味を感じた。

 

「ん?」

 

 ルキウスが感じたのは自らに迫る、現世界からの攻撃ではなく、情報世界からの攻撃。

 彼からしてみれば脅威というにはほど遠く、当たったところで対魔力に弾かれてダメージはない。けれども泡が弾けるほどには干渉してくるであろうそれを何気なく薙ぎ払った。

 強い敵意を向けてくるのは黒い鎧──当世風なのかルキウスにしてみれば奇異に映る黒一色のフルフェイスの鎧に身を包む男の魔術師もどき。

 

 

 

 

 達也の脳裏には先ほどから警鐘がうるさいほどに響いていた。

 人らしい感情の極点、激情の大部分を失っている達也にとって初めてというほどにかき鳴らされるそれは、かつて沖縄で深雪を失いかけた時のそれに似て、それよりも圧倒的に危機感を訴えている。

 現代の魔法師を依り代にした紛い物ではない純粋なサーヴァント。それもかつて対峙したメフィスト・フェレスなどよりも遥かに強大だというセイバー(剣士)のクラスなる敵。

 特大の警鐘が訴えているのは、自らの危機以上に深雪の危機。

 彼に深雪への注意を向けさせてはいけない。関心を向けさせてはならない。視線を向けさせなどしない。

 呂剛虎(シャドウ・デミ・サーヴァント)に通じた“霊子干渉構造体分解魔法”がそれだけでこの常識外れの亡霊を打倒できると考えるほど達也は自惚れてはいなかった。

 魔法を放つごとに達也は自らの認識の世界が深まっていくのを感じていた。

 有機物、無機物の構造を理解するのはもとより、人間の構造についても、魔法の構造についても理解できていた。深まった視界に視えているのはあるいは魔術にすら、神秘にすら到達しているのかもしれない。

 それを脳で理解しようとするのではなく、受け入れる。

 それだけで不思議とサーヴァントに対しても届くと、そう思えていた。

 けれどもこの敵にはどうだ。

 打つべき一手が思い浮かばない。脳が麻痺しているかのように思考が加速しない。

 先ほどの攻撃で干渉できたことにより、このサーヴァントの存在をより確かに知覚・認識できるようになった。

 だからこそ、より濃密に、絶対的な違いを感じた。

 何をすればこの敵を分解することができるのか/ 否、人間が干渉しうるモノではない。

 どうすればこの場を離脱、深雪を生かすことができるのか/ 否、今呼吸できているのはコレが乗り気でないだけ。

 

 神秘を捉える視界ではなく現実を見据える視野の端では、背中を断ち割られたレオが刻一刻と吐息を細めていっており、エリカが必死に呼びかけているのが見える。

 自分なら彼をまだ救える。だがそれでどうする。その後に待っているのは目の前の人を隔絶した神秘による蹂躙。

 レオの命を繋いだところで、わずか数秒の後にはこの場にいる全ての命はまとめて消し飛ばされるだろう。

 

 そんな予感を前に──────― 一筋の焔が駆けた。

 

 

 

 

 

 

「ぬっ! 貴様──────」

 

 打ち込まれた()の重さはルキウスすらも押し込めて後ずらせた。

 

 ──えっ────―!? ──

 

 たなびく髪は、すでに消えてしまったはずの彼女を想わせる真紅。 

 少女たちに見せるその背は、彼女のものよりもたくましく、彼女が最後に見せた純白の花嫁を思わせる姿と対。

 その手に携えるは彼の英雄が地上に生まれ落ちた瞬間より身に着けていた不滅の刃。あらゆる魔性を討ち滅ぼすための羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)

 

「よもやそのようなボロボロの霊基(カラダ)で、いや、廃棄物同然の死に体でまだ俺の前に立つか!」

「無論だ。そのためにこそ、余はここにいる。カルデアの者たちの道を途切れさせぬためにこそ、僕は、余を呼ぶ声に応えたのだ! 余の名はラーマ! 偉大なりしコサラの王だ!!」

 

 ヴィシュヌ(神霊)ならざるラーマ(英霊)

 その身は神霊回帰して在った霊基に比べれば未熟。王としての姿ではなく、王子として追放されていた時の姿であったことが何よりの証。

 けれどもラーマにとってはこの姿こそが英雄ラーマとしての全盛期。

 愛妃シータを一心に求め続けていたこの姿こそが、彼にとっての何にも代えがたい在りし日の記憶。

 

 

 

 

 

 突如として達也たちの眼前に立ち塞がり、窮地にあった彼らを救うかのようにルキウスと戦い始めたのはサーヴァントだろう。

 どことなくシータという英霊に似た面影を持つが彼女とは違い、手に持つ武器──宝具は剣。

 その名乗りはラーマ。

 伝承においてシータを王妃として、けれども追放した古代インドの英雄にして王。

 先ほどまで神霊サーヴァントとして自分たちと敵対していた存在だ。ルキウスと同じ陣営かどうかは確定ではないが、タイミング的にはそうだろう。

 だが今、彼らは敵対し戦っている。

 サーヴァント同士の戦い。

 紛れもなく一級品の英霊同士の戦い。

 

「レオ! このバカ! ふざけんじゃないわよ! レオ!!」

 

 思考は一瞬。動きを止めかけていた達也はエリカの必死に呼びかける声に振り向き、駆け寄った。

 レオの状態は致命傷一歩手前。サーヴァントの一撃を受けたダメージとしては軽いものなのかもしれないが、命の灯は風前に消え行く寸前だった。

 

「お兄様!」

 

 厳しい顔つきでレオの傍に立った達也。その隣に駆けた深雪は達也の右手にすがりついた。

 

 確かに感じる深雪の温もり。

 達也は彼女の意図することを即座に理解した。

 達也と違い深雪の感情は常人のそれと変わりない。

 魔法科高校でできた親しい友の命が消えることを良しとはしない。無論達也とてその感情は残されてはいるが、常人と同じとは言い難い。

 達也の手にはこの状態からでもレオを救う術がある。それは“彼の一族”からは機密として封じられている彼本来の魔法。

 けれども達也は頷き、左手に持っていたCADをレオへと向け、躊躇いなく引き金を引いた。

 

 ──エイドス変更履歴の遡及を開始。復元時点を確認………………復元開始──

 

 達也が司る“分解”と対を為すもう一つの魔法、“再成”。

 エイドスの変更履歴を遡り、負傷する直前の情報体(エイドス)を復元し、複写する。複写した情報体を魔法式として、エイドスに貼り付ける。怪我をした状態を記録している情報体を、怪我をする前の情報で上書きする。

 事象には情報が伴い、情報が事象を改変する。

 魔法の基本原理に従い、怪我をしたレオの肉体の状態改変が始まり、瞬きの間に終わった。

 

「ぅ……あれ? これ……」

「レオ。あんた…………」

 

 怪我をしなかった状態への復元、回帰。

 呆然とするレオと驚きに目を見張るエリカ。致命傷にも至るほどの傷はレオの体にすでになく、どころか傷跡は衣服にすらもなかった。

 怪我を治すのではなく、怪我を負った事実をこそ、無かったことにする。

 それは現代の魔法においても奇跡とすらもいえる御業であろう。

 無論何の代償もなく行使できる異能ではない。

 ゼロコンマ二秒。レオが致命傷となる傷を負ってから、回帰がなされるまでの時間。

 レオが感じていた文字通り死に至るほどの痛苦を、その刹那の時間に凝縮されて達也は追体験したのだ。

 表面上は魔法を行使する生体ロボットであるかのように魔法を放った達也の辛苦をほかの誰も感じ取れはしなかっただろう。

 彼を想う深雪以外は。

 彼女だけが達也の額ににじむ苦悶の痕を認めることができた。

 

 達也の受けた代償を知らぬ者たちにしてみればまさに奇跡の行使。

 十師族である真由美や克人にとってもそれは同じで、むしろ現代の魔法に卓越しているからこそ、そこから逸脱した異能への驚きは大きい。

 そしてその異能はどちらかというと藤丸圭の領分に寄っている。

 藤丸の理解においてもすでに神秘薄れた現代では大した魔術は行使できないはずなのに、まるであれでは彼が神秘そのものとなるようではない。

 

 ──回復? いや、あれは情報回帰か! あれはもう魔法というよりも……いや、それよりもあっちだ──―

 

 ただ、今はそれに驚いてばかりはいられない。

 

「カウンターのサーヴァント召喚!? いや、あれはアーチャー(シータ)の霊基を基点にした再召喚か!?」

 

 ルキウス・ヒベリウスと剣戟を繰り広げているのは本人の名乗りの通りセイバーのサーヴァント、真名をラーマであろう。

 かつての聖杯探索の旅路において、人類最後のマスターが協力を得た英霊。

 神霊(ヴィシュヌ)の霊基であったときに比べれば霊格こそ下がっているものの、それでも英霊としては一級の戦闘系サーヴァント。

 たしかに剣帝ルキウス・ヒベリウスとも渡り合えている。けれどもシータは自らの終わりを逸話とする宝具を展開させていた。シータと霊基を共有していたからこそ、ラーマは再現界することができたのだろうが、シータの霊基そのものが崩壊寸前だった。

 今のラーマの霊基(カラダ)もまた崩壊寸前のボロボロだ。

 いつ消滅してもおかしくはない。それこそアストルフォや明日香よりも霊基の損耗は著しいはずだ。

 猛攻は続かず、鍔迫り合いからの強烈な蹴撃を受けてラーマは吹き飛ばされた。

 圭の近くまで地に溝を刻みながら飛ばされたラーマは体勢を整えると油断なく剣を構えながら圭を流し見た。

 

「……そなた余の盟友の面影があるな。カルデアの係累の魔術師か」

 

 消耗は大きい。未だ現界を続けられているのはシータが齎してくれた奇跡のような猶予時間。

 

「このような事態だ。余と契約を交わすことはできるか?」

 

 この仮初の命が惜しいわけではない。

 ラーマにとってあのセイバー(ルキウス)はすでに一度自分を打ち破っている相手だ。

 だがマスターとの契約、魔力供給が得られればあるいは……

 

「すいません。僕は…………」

 

 けれどもすでに神秘は絶えて久しく。

 藤丸の魔術師にはそもそもサーヴァントの魔力を補えるだけの莫大な魔力など自前にはない。

 

「……よい。仕方あるまい。ならば時間を稼ごう。残念ながらさすがの余もこの霊基(カラダ)では長くはもつまいがな」

 

 ならばできることを為すだけ。

 敵わなくとも今は退くことはできない。ここで退いたとして、消滅は逃れようがないのだから。

 

 

 

 

 

 時間を稼ぐ。そのためにラーマは再びルキウスへと切り結んだ。

 激しく動くたびに、魔力の消費に加えて、崩壊寸前の霊基(カラダ)から魔力が漏れ出て崩壊が加速する。

 

「分からぬな。貴様は、俺とは違い人理にその名を刻む英霊。汎人類史のサーヴァントであろう。善なる英雄がこの世界の為に命を賭すか。この滅びに向かう世界のために! 人の選ぶ醜い末路のために!!」

 

 切り結ぶ剣の下、ルキウスが問いかける。

 そもそも汎人類史の英霊がこの世界を尊像するために力を振るう意義があるのかと。

 魔術の存在が公のものとなり、神秘が絶え、魔術基盤は崩壊し、魔法が人のモノとなった世界。

()()()()()()()()()()()

 魔術基盤とは世界に刻まれた呪いのようなものだ。

 人が人である限り残り続ける。人の世がある限り神秘が消えることはない。たとえ神への祈りが薄れようとも、どれだけ科学が魔術を駆逐しようとも。

 人が人である限り、基盤が完全に消えることはないのだから。

 

 けれどもこの世界では事実として魔術や超能力といった超常の存在が魔法という神秘から切り離されたものによって解き明かされたようになっている。

 文字通り神秘が駆逐されつくしてしまえば、神や精霊はもとより神霊も英霊も亡霊でさえも存在できないだろう。

 それはすなわち世界の力そのものが失われるということ。

 

「余にはこの世界が()()()()()()()は分からぬ」

 

 この世界が力ある未来を編纂していくものであるのか、それとも未来を剪定された事象となるのか。

 もしも剪定事象としての世界を継続させるために力を振るってしまっているとしたら、それは人理に仇成す者、汎人類史の敵。

 

「だが声が聞こえた。この世界が余を呼ぶ声に余は応えた!」

 

 けれどもこの世界は本来あり得ざる特異の事象を受けて悲鳴を上げた。

 ラーマはそれに応えたのだ。そしておそらく“あの”英霊も。 

 

「それに“僕”の中に戻ってしまったシータが教えてくれた。この世界で過ごした記憶を。この世界でもなお、紡がれた友との日常(未来)を!」

 

 人理の英雄たちは今を生きる者たちのために、未来のために戦い、走り続けたのだから。

 

「なればこそ、今はこの世界のためにこそ余は戦おう! たとえこの世界が()()()()()()()()へとつながるかも知れずとも、今はこの世界こそが編纂を許された事象であると信じて!!」

 

 彼方からの英雄たちは立ち上がり、剣を翳す。終わりを乗り越えようとする者のために。命の価値を、今も叫び続ける者たちのために。

 

 未来のありかを求める旅路を、ここに至る道を途切れさせないために。

 

 

 ラーマがヴィシュヌならざる英雄の腕を掲げる。

 翳すその剣の本来の姿は弓矢。ブラフマー神の力を宿し、ヴィシュヌの象徴たるチャクラム。

 羅刹王(ラクシャーサ)をすら屠った烈火の剣。

 

「月輪の剣、必滅の矢────」

 

 ラーマ(シータ)の霊核に亀裂が入る。

 足りない魔力を現界のための魔力から回しているからだ。

 対するルキウスもまた剣を掲げる。花神の加護を受けた皇帝剣に膨大過ぎる魔力が込められ振り切られる。 

 

「受けよ! 羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 ラーマの全存在を賭けた最後の一撃が、赤雷と激突した。

 

 

 

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