Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~   作:バルボロッサ

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6話

 

「僕がアーサー王から継承している宝具は全部で3つ。聖剣エクスカリバーとそれを封印する2つの鞘だ」

 

 魔術師側からも尋ねたいことがある、ということではあったが、かねての約定通り、明日香は自身の有する宝具の開示を告げた。

 もっとも、三種の宝具はいずれも雫たちの前で解放したこともあるものだから、その説明にすぎない。

 そして達也や克人たちが警戒し、話を聞く必要があるのが、彼の言う“聖剣”エクスカリバーだ。

 

「明日香が使う場合、エクスカリバーは宝具の基準でいえば、一撃で城塞を破壊できるクラス、対城宝具級になる。宝具のランクで言うとAランクオーバー。魔法師の基準でいえば戦略級魔法に当てはまるかな」

 

 宝具のランク、というものが魔法における殺傷性ランクと一致しているわけではないが、補足する説明によるとアストルフォが持つ宝具がだいたいCランクでヒッポグリフがBランクオーバーなのだとか。

 そして戦略級魔法に当てはまるということは達也たちが感じ、軍部が感知した脅威度はおおよそ正しく、一撃で艦隊を壊滅させることができる、という基準とも合致することだろう。

 

「ただ聖剣は普段ほかの二つの宝具で封印されています。

 一つは風王結界(インビジブル・エア)。聖剣の正体そのものを隠すための鞘で、元々はアーサー王の魔術師であるマーリンがかけた魔法なんです。この風王結界は魔力消費を抑える宝具でもあって、通常時はこれで正体を隠すのと同時に魔力消費を解放状態のだいたい10分の一くらいに抑えているんですよ」

 

 アーサー王の聖剣、エクスカリバー。その名はあまりにも有名だ。

 それは魔術が魔法に置き換わり、神秘が彼方へと去った現世においても聖剣として名高い。

 聖剣はもとより宝具────聖遺物すらほとんど見たことない雫であっても、風王結界を解除した明日香の剣には、有無を言わせない圧倒的な神秘を感じさせられた。

 一目見ればあれが聖剣なのだと、言われるまでもなく理解できるほどの神秘。

 あれほどの聖剣の担い手たる英霊ともなればその数は限られ、真名を看破することは難しくない。

 横浜で、ルキウス・ヒベリウスとの戦いにおけるまで明日香は、自身の武器を常に隠していた。

 とはいえそれは、サーヴァントの真名を隠し、弱点となりうる逸話を隠すためでもあったが、それよりも魔力消費量の節約という意味合いが大きかった。

 

「そしてもう一つが十三拘束(シールサーティン)。かつてアーサー王とともに戦った円卓の騎士たちが戦場に願う誇りの形、十三の祈りによって聖剣を封印するための鞘です」

 

 だがそれよりもさらに重要な拘束こそが聖剣の鞘たるアヴァロン。

 

「前回の聖剣の解放は不完全解放。過半数の条件を満たしていない状態での不十分な解放だったんですよ」

 

 あまりにも強大すぎる至高の幻想(ノーブル・ファンタズム)を封印するための騎士たちの祈り。

 

「あれで不十分!? それじゃあ、完全に解放されていたらどれほどの威力を発揮していたの……」

 

 驚きは真由美のものだけではない。

 感情に一定の天井を設けられている達也でさえ、驚きに目を瞠っていた。

 敵サーヴァントを跡形もなく撃破したあの時の一撃は、軌道衛星上にある軍事衛星からもその斬撃を見ることのできるほどのもので、生じたサイオンの余剰波はまさしく戦略級魔法そのものだった。

 一撃の破壊()()であれば達也自身が保有する“戦略級魔法”の最大出力時の方が上であろうが、その破壊の密度、何よりも対サーヴァントに通用するという点において、そして敵サーヴァントの戦略級魔法をも消し飛ばすほどの威力は、恐るべきものであったのだ。

 不十分な状態であったとしても軍が、そして国内外の魔法師が驚愕し、脅威を感じた。それがまださらに上があるのだとしたら、あるいは既存のあらゆる戦略級魔法──灼熱のハロウィンを生み出したあの一撃さえも上回る軍事的脅威となり得るのではないだろうか。

 

「完全に解放されていたら、まあよくて魔力枯渇で不発の上、即死。下手すればアーサー王の霊核に押しつぶされて明日香の魂が消滅していたでしょうね」

「え?」「なに?」

 

 だがその懸念を藤丸は別の角度から否定した。

 

「明日香自身の魔力量は元々、人類的には最上級クラスといえるけど、本来のアーサー王には遠く及ばない。彼の王の心臓はブリテンの竜そのもの。人の魔力量なんかとは比較にならない。そのアーサー王だからこそ、聖剣を担うことができたのであって、いくらその霊基を継承してはいても元が現代魔術師の明日香には担いきれるものではないんだ」

 

 現代魔法において魔力という概念はない。

 達也の推測ではサイオンがそれに置き換わる存在となっており、サイオン保有量が魔力量に相当するといえる。

 だが現代の魔法師はCADや魔法式・起動式の発展に伴い、サイオン保有量はとりわけ重要な評価項目とはなっていない。

 達也自身は、古典的な概念に基づく出生の来歴から現代においては規格外とも言えるサイオン保有量を有しているが、その達也と比較して()ても獅子劫明日香のサイオン保有量はずば抜けている。

 だがそんな明日香をしても、聖剣というものは、人が背負うにはあまりにも重い、あるいは尊すぎる幻想なのだろう。

 

「聖剣というものは本来、星を滅ぼしうる外敵を討つためにこそ振るわれるべき神造兵装です。人々が“こうであって欲しい”という願いの結晶。究極のラストファンタズム。

 それは人に対して振るわれるにはあまりに強大で、だからこそ円卓の騎士たちが、それを()()()()()()()戦場を定めるために、死後なお続く拘束を課しているんです」

 

 ────…………なんだ? 今の視線は…………────

 

 藤丸の言葉の合間、不意に明日香からの視線が強く、咎めるような険を帯びたことに達也は気がついた。

 けれどもそれは一瞬のこと。

 それについては頭の片隅で処理を回し、今は最後の魔術師の語る内容にこそ注意を払った。

 

「そもそも魔力というのは自然界に満ちるものと生命そのものであるものがあるけど、宝具や魔術の発動に使えるのは基本的に自分の体内を通したものだけだ。いくら明日香でも聖剣の完全開放なんてすれば、命どころか存在そのものとトレードオフになっても不思議じゃない」

 

 それは現代の魔法の考え方とも似ている。あるいはこのような考え方・理論・概念が根底にあったからこそ、現代の魔法理論においてもサイオンやプシオン、あるいはイデアの概念が確立されていっているのかもしれない。

 実際、宝具を解放した直後に倒れた明日香の状態を達也や克人は魔法演算領域のオーバーヒートに似た状態であると診た。そしてそれを指して藤丸は“魔力の枯渇”だと言った。

()()()()が枯渇すると魔法師は疲労困憊の状態となりそれ以上の魔法行使はできなくなり、身動きもとれないほどに疲弊する。

 それと魔法演算領域のオーバーヒートとは異なる症状であるからして、サイオンと魔力というのは = ではないのだろう。どちらかというとプシオン、あるいは古式の考え方からすると精気に近い概念なのかもしれない。

 

「というわけで明日香がもう一度、あの宝具を解放することはできません。十三拘束がどれだけ解除されるかわかりませんし、不完全解除でも死ななかったのが奇跡的なくらいですから」

 

 それは国家や軍、そして魔法師の立場からすれば安心すべきことと言える。

 あれほどの強大な力が国家の統制なしに野放しになっているということは、魔法師を軍事力と見做している者たちにとってみればあってはならないことであるし、魔法師にとってみても納得のいかない理不尽な脅威なのだから。

 だが────―

 

「明日香は、それを知っていたの? 知っていて、宝具を使ったの?」

 

 彼を心配する者からすれば、それは別の意味で理不尽で、安堵出来かねること。不安をもたらすもの。

 泣きそうな感情を堪えるような雫の声に、親友のほのかは何も言えずに心配そうな目を向け、明日香は表情を消した。

 

「当然だ」

「当然って! 明日香は、そんなの…………」

 

 明日香の端的な答えに、雫は普段の無表情さをかなぐり捨てて席を立った。

 以前、彼はサーヴァントとは過去の存在であり、自分もそんなサーヴァントとしての役割を果たしているのだということを言っていた。

 過去の存在。

 まるで自分は今を生きる人間ではないかのような表現は、力の発動が命を削ることを自覚していたからか。

 

「サーヴァントの力は人の身には余る奇跡だ。そしてその奇跡というのは無償では有り得ない」

 

 真由美でさえ唖然として口元を抑え、雫は睨むように明日香へと視線を向けている。

 雫の視線に込められているのは死のリスクを負ってまで宝具の解放を行ったことに対するものか、あるいは不安によるものか。

 明日香は敢えてそちらに視線を向けようとはせず、能面のように表情を消している。

 

 サーヴァントの力は強大だ。

 魔法師の魔法でさえ、それを持たない人たちにとってみれば恐れられているほどの力なのだ。サーヴァントの力はそんな魔法師すらも寄せ付けない力。通常兵器も化学兵器も、魔法でさえも通用しない存在。防ぐことさえできない破壊の力。それが戦略級の規模で繰り出されるのだ。

 それだけの力の存在はまさに奇跡と呼べるし、一個人が持てるものでもない。なればこそ、その力にリスクや対価があるのは当然ともいえる。

 

 だがそれは、人としての生にとって必ずしもあっていいものとも思えない。

 達也もまた人の身を超える、世界の安定を崩すことのできる力を有する者であり、意思もつ兵器と呼べる存在だ。そして魔法師ですらない常人にとってみれば、魔法師全体が兵器であり、達也は魔法師を──深雪を──兵器としての在り方から解き放ちたいと願っている。

 兵器であることを受け入れている明日香の在り方は、達也からしてみれば近くて遠い。そしておそらく、深雪にとっての達也と同じく、その身を案じる者──―雫からすれば、そんな在り方は受け入れ難いものなのだろう。

 

 雫の思いは人として真っ当で、真由美や幹比古も程度の差はあれども、魔術師たちの覚悟に言葉を失っていた。

 ただそれだけでは情報収集に来た意味を見失っている。

 

「獅子劫、拘束がどういう条件で解放されるのかは分かっているのか?」

「十文字君、それは……」

「七草、確認は必要だ。あれ以上の大規模破壊術式の発動条件。首都防衛を任とする十文字家としても、十師族としても聞く必要がある。軍としても同様のはずだな、司波」

 

 沈鬱を振り切り、重々しく問いかける克人に揺れは見られない。

 

「そうですね。戦略級魔法が国家の統制からも十師族の統制からも外れているとなれば、魔法の詮索がマナー違反、と言っている場合ではないでしょうね」

 

 同様に達也も、妹の深雪とは異なり揺れはない。

 もとより彼にそのような余分はなく、本家のためにも、そして彼のためにも情報を得ることは必要だからだ。

 真由美の方は克人ほどの割り切りが出来ていないようだが、明日香の方が雫の視線から逃れたいようだった。

 

 明日香と藤丸が何事か確認するように視線を交わしたのはわずかな時間で、おそらくテレパシーのようなもので会話していたわけではないだろう。あらかじめ、この流れが予想できていた、といったところか。

 

「僕が知る誓約は二つ ────アーサー王のものとベティヴィエール卿のものだけです。

 アーサー王の願い(拘束)は、自らの戦いが世界を救うための戦いであること。そしてベティビエール卿の願い(拘束)は、己よりも強大な者との戦いであること。ルキウスとの戦いではこの二つと、あと何らかの条件を3つ満たしていたようですが、それが何かは俺にも分かりません」

 

 ルキウス・ヒベリウスは明らかに明日香よりも、そしてあの場にいた何者よりも強かった。魔法も、軍の武装も通用せず、サーヴァントを屠ってきた明日香すらも凌駕する存在。

 花弁散らす大剣から放たれた赤雷は、その余波だけで克人の魔法障壁をないも同然に砕き、放たれれば少なくとも戦術級の上位、あるいは戦略級にも匹敵する破壊の爪痕を都市圏に刻み込み、市民も軍人も魔法師ももろともに消し去っていただろう。

 達也とて即死してしまえば再成することはできない。

 

「条件の分からないまま解放を強行したのか?」

 

 だが同時に明日香の宝具もまた、同等以上の脅威なのだ。

 赤雷を切り裂き、ルキウスを呑み込み、成層圏にまで届かせた究極の斬撃。それだけではなく、宝具解放に伴うリスクもまた、それは明日香にとって危険なものだった。

 条件を知らずに発動し、条件が満たされなければ発動しない。条件を満たし過ぎれば命を奪われる。

 現代魔法であれば失敗作の謗りを免れないほどに厳しい条件だ。

 

「円卓の騎士たちが王と定めているのはアーサー王であって、僕が認められている訳ではありませんから」

 

 それは明日香自身がよく理解しているのであろう。

 だが、制約は古の騎士たちの誇り。誉れある戦の在りよう。

 明日香がアーサー王の力を継いでいるとはいえ、彼らの心を得ているとは思わない。

 

「戦略級に匹敵する魔術、魔法を行使できるとなれば脅威に思われることは予想できますから、まぁ不安なのは理解できますが、カルデアが機能停止して魔力供給の目途がない以上、明日香にとっても次の発動はありません」

 

 かつてのカルデアではマスターという魔力供給機を通すことでカルデアから莫大な魔力をサーヴァントに供給できていた。無制限に、というわけではないが、いざという時の切り札として宝具を発動することができた。

 今のカルデアにはそれだけのバックアップを行うことはできないし、そもそも現代には明日香(サーヴァント)と契約できるマスター(魔術師)もいない。

 

「そして僕たちが聞きたいのも戦略級魔法についてです」

 

 魔術師たちは質問に答えた。彼らの来歴、目的、そして致命的ともなり得る彼らの戦力についてまでも。

 魔術から魔法へと下っても、秘奥を暴くという行いはマナー違反とされている。魔法ならぬ魔術の特性を鑑みれば、神秘の開示につながる彼らの応えはタブーを侵したと言えるだろう。

 それだけに、それを引き換えにした彼らの質問に克人は身構えた。

 

「グレートボム、とか呼ばれていますが、僕たちが聞きたいのは、灼熱のハロウィンとやらで大陸半島部で使われたあの戦略級魔法をどういう思いで撃ったのか、その考えを聞かせてください」

 

 魔術師の問いは、同等の価値、と言えるだろう。

 戦略級の魔術について尋ね、それに応えたのだ。戦略級の魔法について尋ねられるというのは等価交換として正しい。

 

「あれは国防の観点から見れば必要なことだった。

 軍があの状況で、あれほど都合のいい戦略級魔法を保有していることは俺たちも知らなかった。だがあの情勢下、軍の展開は大亜連合の艦隊展開に対して後手に回っていたと聞く。ただでさえ奇襲を受けた直後だ。艦隊が国土に迫っていれば甚大な被害を受けていただろう。そしてそうなればその後の日本の混乱は今の比ではなかったはずだ」

 

 ただ、克人の応えは幸か不幸か、彼にとって自らの手に余るものであり、彼の、というよりも国防軍としての思惑の説明にならざるを得ない。

 ただしそれは、あくまでも十文字克人が、軍に理解のある魔法師にすぎないからであり、かの魔法の行使者ではないが故。

 

「戦略上のことを聞いているわけではありません。あの魔法の担い手に、その手に持つ力の意味を聞きたい────―司波達也」

 

 藤丸の問いかけよりも硬い声音は明日香から達也へと向けられた。

 克人が応えたのは、彼が今回の訪問者たちを取り纏めるような地位にあるからだ。だが、圭はそもそも問いかけを軍や国家などの大きな組織に対して行ったわけではない。

 あの魔法の行使者へと問いかけたのだ。

 

「…………なんのことだ」

「言った通りだ。どういう思いであの魔法を放ったのか。その意思を答えてくれ」

 

 対する達也の応えは韜晦するもの。

 ただし、その表情は常よりも厳しい。司波達也は普段から愛想のよい振る舞いを行ってはないし、特定の一人に向けて以外には感情の発露が極めて乏しい。

 魔術師たちの質問へ応えた声音は、それまでが感情的と思えるほどに凍てついた、人らしい感情を排除したものだった。

 

「ちょ、ちょっと待って、明日香くん! それって、あのグレートボムの魔法保持者が達也くんってこと!?」

 

 真由美の戸惑った様子に、達也は情報があからさまに漏洩しているわけではないことを認めた。その隣に座る克人にも、声こそ上がらなかったものの驚きが見られる。

 関東を本拠とする十師族の二人、当主でなくとも十師族を代表してこの場にいる以上、二人が情報を持たされていなかったのだから、達也の情報が四葉の外に漏れたわけではないはずだ。

 

 ──情報交換の条件を俺にもつけたのはそういうことか──

 

 だとすればかまをかけているのか、魔術師としての情報網か、あるいは噂に聞く藤丸圭の未来視か、獅子劫明日香の直感か。

 

「十三使徒を除く戦略級魔法の保持者が非公開なのは、それが国の保有する戦力として重要な意義を持つからだ。俺の一存でそれに対する回答することはできない」

「それが君の答えか?」

 

 明日香の声音がまるで質量を伴っているかのように感じるのは錯覚だろうか。

 その瞳が黒から淡く碧眼になっているのを見るにアーサー王とやらが前面に出ているのかもしれない。

 それが聖剣の解放の影響が残っているからかどうかは達也にも分からない。

 

「言っている通りだ。戦略級の魔法の発動は文字通り軍の戦略上の意図。個人の思惑がどうであろうと、あの魔法の保有者が誰なのかも含めて俺個人が軽々しく口にできることではない」

 

 だがいずれにしても答えられることではない。軍属としても四葉としてもだ。

 

 

 

 

 軍人として、機密にあたるであろう“兵器”の情報をかたることができないというのは明日香にも理解はできる。

 だがそれでも達也の韜晦は納得できないものだった。

 

「アレを放つことに何の信条も、想いも、決意もなく、命じられることのみを理由にしているのだとすれば、それは危険なことだ」

 

 夢を通して見たアーサー王の記憶において、彼もまた決して美しいだけの騎士道を歩んできたわけではないことは識っている。

 敵を倒すために村を焼き、敵を殺し、国を守るために敢えて大陸へと撃って出て、聖剣を振るって皇帝を消滅させた。

 民を守るために最善を取るべきだという克人の理屈は分かる。

 それでも引けぬ一戦、戦場での誇りの形は輝くべきだ。

 そうでなければそれは戦闘ではなくただの蹂躙。

 騎士の、人の誇りを認めぬ凄惨な殺し合いにしかならないのだから。

 

 そんなものを守るためにアーサー王が力を貸してくれているとは思えない。

 そしてそれに加えて、人理を守る観点からも危険なことだ。

 

「少し落ち着きなよ明日香。君はちょっとアーサー王の影響を受けすぎだ。現代の魔法師に騎士道を求めても仕方ないだろう」

 

 激高しかかっている明日香を藤丸がまぁまぁと宥めた。

 

「達也君、勘違いさせていたら済まないけど、明日香の言い方はともかく、別にカルデアとしては、大規模破壊魔法を行使したことそのものを問題にする意図はないんだ」

 

 一気に険悪化していた二人を宥めるように圭が口を挟んだ。

 圭の言い分が確かであれば、明日香と彼は同じカルデアという組織に属してはいてもスタンスには違いがあるのかもしれない。──────―ふと、達也は違和感を覚えた。

 

 ──深雪……? ──

 

 隣に座る深雪の様子だ。

 知られてはいけない秘密を暴かれていることに隠すつもりもない怒気を露わに明日香を睨んでいる。

 常であれば魔法の暴走を起こして周囲に氷結を発生させていてもおかしくはない。だが今は凍気すら感じられない。

 

「だから深雪ちゃんも落ち着いてくれないかな。敷地内では外のように気軽に情報改変はできないだろうし、美女に睨まれるのも悪くはないけどね」

 

 圭のその言葉で深雪がハッとしたように自らのサイオンを確認している。常であれば感情の発露によって暴走し、凍結現象が発生するほどに深雪の干渉強度は桁外れだ。

 それは“とある”理由によって制御能力が制限されているからこその暴走だが、その深雪の感情の昂ぶりによっても魔法が暴走していない。

 館には多様な結界があり、半ば異界化しているとは藤丸の弁だが、異界であるからこそ、現世の情報世界を思いによって歪める魔法が、ここでは思うように発動しない。

 

 

「あの魔法だけれど、達也君の魔法の性質──分解と再成に特化していることを考えると、おそらく分解魔法によって何らかの破壊的なエネルギーに変換しているのではないかというのが、僕の見立てだ。多分物質そのものを────―おっと、魔法の詮索についてはマナー違反だったかな」

 

 視線に険が宿るのを感じるが、激する前に冷徹な思考が取り戻される。

 

 ──―嵌められた、いや、お膳立てに乗ったか──―

 

 他者の魔法を分析するのは達也の十八番だ。

 彼の魔法特性上、そして魔法への造詣の深さがそれを可能にしているが、圭のそれはおそらく達也の解析とは別口だろう。

 

 魔術師の秘術を問いに来たのだから自らの手の内を明かすのは等価交換としては正しいのかもしれない。

 だが、達也のそれは軍事的な機密でもあり、四葉の秘匿でもある。

 

「まあ理屈はともかく、あの魔法の性質と魔法に物理的な距離が影響しないということを併せると、あの魔法は文字通り世界を焼くこともできるのではないかな?」

 

 達也は自分の手がCAD /トライデントへと動こうとするのを理性で押し留める。

 圭はここでは外のように気軽に情報改変はできないと言ったが、それはどこまで魔法を阻害する効果があるのか。

 達也の精霊の眼(エレメンタル・サイト)は問題なく機能している。

 彼の魔法は情報改変を行う通常の魔法とは毛色が異なる。通常のキャストジャミングであれば達也の魔法は阻害されないが、それは深雪の魔法干渉力でも同じことが言える。

 

「その担い手が何らかの抑止的な判断に基づいてその力を行使しているのならいい。けどそれがないのであれば、経緯如何によっては行使を躊躇うことはない」

 

 これ以上、話を続けさせず、止めるべきか。その判断は────

 

「率直に言うと、人理焼却を目論んだ敵が仕込んだ保険。敵が仕込んだ最後のトリガーが達也君、君だと僕たちは睨んでいる」

 

 

 

 






次回はいよいよ、みんな大好き金髪碧眼のあの人が登場です。ユーモアを内包しつつもキリリとカッコいいあの人の活躍をご期待ください
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