Fate/ School magics ~蒼銀の騎士~ 作:バルボロッサ
司波深雪が謎の怪人と騎士の戦いの現場に遭遇してから一週間。概ね平穏無事に過ごすことができていた学校生活は、その日授業後の騒音とともに破られた。
<全校生徒の皆さん!>
音量調整に失敗して音割れした大音声がスピーカーを通して校舎全体に響き渡ったそんな台詞とともに告げられたのは、有志同盟を名乗る一団による放送室の占拠と学校における差別撤廃を目指すことの宣言であった。
放送室の占拠騒動自体は風紀委員と生徒会によって速やかに鎮圧されたが、学校の生活改善については生徒会長である七草真由美もむしろ望むところであり、結局、有志同盟側とは翌々日に討論会を行うことで決着をみた。
だがどうやら元々その“差別撤廃のための有志同盟”とやらは一高内に水面下でかなりの勢力を伸ばしていたらしく、翌日には校内のあちこち、主に二科生を対象にして有志同盟への参加を呼びかける声や差別撤廃についての演説が聞こえることとなった。
彼らは一様に青と赤で縁取られた白いリストバンドをつけており、それは魔法能力による社会差別を根絶することを目的に活動する反魔法国際政治団体――ブランシュの下部組織であるエガリテの証であった。
彼らの多くがその意味を知っていて隠す気がないのか、はたまたそのシンボルの意味を知らずにつけているのかは分からない。
だが確実に平穏な学校生活は破綻しており、本来それを望んでいた者の一人である司波達也は、その日の夕食後、妹の深雪を連れてとある寺院を訪れていた。
「それで、今日は一体何の用かな?」
二人を出迎えたのは墨染の衣を着た禿頭の男性。この九重寺の和尚、九重八雲だ。
「実は、師匠のお力で調べていただきたいことがありまして…………」
そして司波達也の師匠――宗教の、ではなく体術の師匠でもある。
忍術使い九重八雲。彼自身に言わせると由緒正しい“忍び”だ。
魔術がフィクションや空想の産物ではなく実在すると確認され、魔法へと下ったのと時を同じくして、単なる体術や諜報技術のプロフェッショナルというだけではなく忍術もまた、魔法の一種であることが明らかになった。
無論、空想上の忍術そのままというわけではないが、九重八雲は古式魔法の一分類とされる忍術を今に受け継ぐ“忍び”ではある。
そのため彼の持つ諜報能力は四葉や“とある組織”のバックアップを受けることのできる達也の思いもよらぬ深度まで情報を探ることも可能だ。そして四葉や“組織”では互いに組織や集団としての柵や思惑、陰謀などがあるために利用できないこともあるため、体術のとはいえ師匠にあたる彼とのつながりは達也個人のものだ。
無論、だからといって気安く頼むことができるといったものでもないのだが、今は四葉と“組織”――軍の顔色を窺うことよりも依頼がしやすい位置にあった。
達也が八雲に依頼した情報とは、一つにはブランジュ――エガリテのメンバーであることを確実視した一校の三年生、司甲のことについてだった。
彼は自ら国内のテロ組織に探りを入れて首を突っ込むほど勤労精神や愛国精神にあふれた魔法師ではないが、自らの平穏、ひいては愛妹の平穏が乱されかねないとなれば話は別だ。
八雲の方も、彼は彼で
結果的に、達也の依頼は依頼してこれから調べる、といった時間をかけることもなく達成された。
司甲。旧姓、鴨野甲。日本においては高名な古式魔法師――古くは陰陽師と呼ばれた賀茂氏の傍系にあたる血族。
エガリテやブランジュとの関わりは、彼の母の再婚相手の連れ子である義理の兄が、ブランジュの日本支部リーダーを務めていることが判明した。
「甲くんが第一高校に入学したのは、この義理のおにいさんの意思が働いているんだろうね。多分、今回のようなことを目論んで、なんだろうけど……彼が具体的に何を企んでいるのか、までは分からない。……最近になってまともではない者が傍について、碌でもないことを企んでいる、あるいは企まされているようだけれどね」
八雲の情報は、途中から確度の薄い――つまり情報を生業として生きる彼らが確信をもって告げられない程度にしか情報を収集できなかったということを意味するものとなっていた。
「まともではない。それは深雪が遭遇したという怪人のことでしょうか?」
司甲を探っていた深雪の友人、北山雫や光井ほのかが、彼によって誘導された上に謎の怪人の襲撃を受けたのは深雪から聞いている。
そしてその場に現れた騎士――二年前の魔法師子女誘拐事件を本当に解決した者と同一人物だと思われる魔術師が、獅子劫明日香だということも、別方面からの情報を収集分析した結果、確度の高いものとしてあたりをつけている。
それらのことについても仕入れておきたい情報であった。
だが、達也がそちらに話しを傾けた瞬間、八雲の瞳に鋭い光が宿った。
普段の陽気で細められた瞳の、奥の奥にしまい込まれた刃のような光。それが一瞬とはいえ達也と深雪の前で露わになった。
達也の反応に自身の自制しきれなかった反応が出てしまったことに気づいたのか、八雲はすぐに苦笑するような、いつもの、からは少し苦みのある行灯じみた笑みを浮かべた。
「ああ。深雪くんが遭遇した怪人。つまりはサーヴァントのことだね」
「
「どちらかというと使い魔の類だけれどね。魔法師ではなく、魔術師のね」
達也の魔法についての知識は深い。
彼はある欠陥を抱えているために特定の方面以外に関しての魔法能力が著しく限定されているため、魔法師としては欠陥品であり劣等生の烙印を押されている。その烙印を克服するために深く広い魔法の知識を得ようと努力したのだ。
その結果、実技でこそ二科生であり劣等生である達也だが、理論や筆記では一科生はおろか首席である深雪すらも寄せ付けない圧倒的な入試成績をたたき出している。
無論のこと、それは入試などという限られた時にしか使えない知識に限ったことではなく、より実践的な、あるいは実戦的な魔法の知識に関しても同様だ。
その達也をしても、もはや過去へと消えいこうとしている魔術に関する知識は乏しい。ましてその魔術の知識の中でも、とりわけ特別な存在について彼が知らないのも無理はなかった。
「魔術師の使い魔…………」
なぜならば、例の怪人と、そして騎士と遭遇した深雪が、悪寒を感じるほどに異質な存在だとそれらを直感したからだ。
愛妹ゆえの贔屓目などなしに、深雪は同世代トップクラスの魔法師だと達也は見ている。素質的には世界最高クラスとなってもおかしくはない。
その深雪があれらを“異質”で“異常”なもとと直感し、悪寒を覚えたのだ。
それが単なる奴隷や使い魔などであるとは思えなかった。
「サーヴァントというのはね、英霊の一側面を召喚した存在だ。人類史に残った様々な英雄、偉業、概念。そういった
八雲の説明に達也は眉をひそめた。
「過去の英雄、つまり亡霊――
死者は死者。
死者の声を聞く、いわゆるイタコのような魔法も存在するにはするのだが、それは実際には情報を読み取っているに過ぎない。
だがそれは決して、深雪の説明のように確たる存在として人が触れ、自己意識のもとに人に襲い掛かるような存在ではない。
深雪の話では怪人は雫たちに襲い掛かり、実際に触れ、そして狂気を孕んではいたものの言語を発して意思疎通が可能であったというのだ。
八雲の説明と合わせて考えると、まるで亡霊や幽霊が実際に存在している、まさに前世紀における魔法の存在のようなおとぎ話じみたものなのだ。
勿魔法の理論において
達也のとある異能はそれらを視ることのできるものではあるが、そんな彼をして今まで死者の亡霊などというものを視たことはなかった。
それは彼が死者を見たことがないということでは決してない。
彼の母はすでに鬼籍となっているし、非公式ながらも彼には参戦経験があった。そして四葉においても…………
だが達也の理解はいささか拙速であり、過小評価であった。
「亡霊とは、言ってしまえばまあそうとも言えるかもしれないが、実態はそれよりも遥かに格上だ。本来サーヴァントは特殊な状況下においてのみ成り立つ儀式によって召喚されるはずの存在なのだけれど……深雪くんが遭遇して無事で居られたのは奇跡的だったかもしれない。それほどまでに英霊というのは、たとえそれが英霊本来の一側面にしか過ぎないとしても、その存在は人とは隔絶した存在だ」
達也は驚きに目を瞠った。それは彼にとっては極めて珍しい反応で、唯一残されたものに対する数少ない人間的な反応であった。
すなわち愛妹に関すること。
深雪が危険な状態にあったということ。そして深雪をして無事でいられたのが奇跡とまで言われた相手のことだ。
深雪が完璧無敵、などと思っているわけではもちろんない。
そのための
たとえ多少離れていたとしても、深雪が命の危機に瀕する状態に陥るまでの間に達也が駆けつけることができるだけの状況を常に彼はとっていた。それは心がけや自信などではなく、彼の異能に許された範囲を把握しての合理的な行動であったはずなのだ。
だがたしかに実際、2年前の事件で七草家の魔法師たちが誘拐された子女を救出するどころか返り討ちにあい、さらには拉致されてしまったという事実があった。
更には一騎当千であるはずの十文字家、おそらく四葉の裏の仕事を行う魔法師立ちと比べても遜色のない彼らが最後まで誘拐犯を捕えることができず、
すでに実際の戦場のみならず、暗闘さえも経験しているであろう魔法師たちが歯が立たなかった相手に、深雪や自分ならばあるいは……と考えるほど自信過剰に油断はできない。
現状を鑑みるに、魔術師はともかく
「あるいは達也くんにしても、深雪くんにしても、その時代の人間として比べれば彼らに匹敵するかもしれない。けれども英霊として世界に認められればそれはもう人間とは次元の違う存在だ。そうして呼び出されるサーヴァントは普通の人間では太刀打ちできるものじゃない。それがたとえ魔法師であったとしてもだ」
無論、過去の英雄・英霊のすべてが、当時から今の達也や深雪よりも強かったはずはない。
例えば日本の名のある武将・名将のような者たちであれば、いかに怪力無双だと英雄譚で語られようとも、魔法の使える達也たちが一方的に勝ち目がないというはずはない。
魔法師の自己加速魔法は常人の速度を遥かに凌駕し、かつてのおとぎ話から脱却した魔法の発動速度は、英雄豪傑の振るう刃が届くよりも早く彼らを圧倒するだろう。
だがそれらは、この世界・この次元で同一であったならばという条件でだ。
「魔術師、であっても、ですか……」
達也の脳内では今フル回転でサーヴァントという規格外の使い魔に対抗するための方法を模索しているのだろう。常に鋭い瞳がさらに研ぎ澄まされたような眼光を帯びていた。
一方でその横では兄の情報収集と思考に水を差すまいと口出しを控えてはいるものの、兄ですら適わないと言われたことに深雪が抗議を主張するかのように八雲に剣呑な眼差しを向けていた。
そんな兄想いな深雪の眼光にたじろいだわけではないだろうが、沈思する達也に八雲は再度口を開いた。
「……達也くん。僕は忍び――忍術使いだ。君たちの言うところの古式魔法師という区分とは少し違うが、魔法よりも古い、いわば魔術の親戚の末裔といってもいい」
忍びとは忍術を使うのみに非ず。
魔法師は魔法が優秀なほど得てして魔法に依存しがちなことがまま見られる―― 一校でも1年一科生などに顕著に見られる――が、身体的な能力が介在する余地がないわけではない。
「君は体術における僕の弟子ではあるが、忍術を教えたことはこれまで一度もない」
一般的な魔法行使能力に欠陥のある達也にとって体術でその欠陥を補うことはとりうる方策の一つである。そのために優れた体術を扱う忍び、その中でもマスタークラスとされる九重八雲に師事することは有用で、けれども達也が幾つもの柵から明かすことのできない秘密を多く持っているのと同様に、八雲もおいそれと忍術を教え広めることはなかった。
「魔術が今、ほとんど姿を消している理由を知っているかい?」
強引に話題を転換されている、というよりも魔術についてのより深い知識を、しかし明かされる範囲の知識を教授しようとしてくれていることに達也はすぐさま気づいた。
魔法とは魔術や超能力、忍術、陰陽術など前世紀には空想の産物とされていたものが実在するのだということを世界が知ることになったとある事件を切っ掛けに発展してきた素質ある者の力だ。
そのある事件は歴史的には核ミサイルを用いたテロを、当時は空想の産物とされてきた異能をもって未然に防いだとされている。
それによって異能の有用性と実在を認めた世界の各国政府がその開発と系統化に着手し、紆余曲折を経て今の現代魔法や世界のパワーバランスへとなった。
その過程において、当然有力な情報源となったであろうはずの魔術を扱う者たちは、その多くが人知れず姿を消してしまい、今に残っている者たちも魔術を捨てて古式魔法師となっている。
魔術や魔術師は世界の表舞台から姿を消した。
そんな中現れた藤丸という魔術師の血統は、魔法師としての血統を古くから確立し、今の地位にある名家からすると疎ましくもあり、しかし彼らの持つ失われた異能を得るための貴重な情報源でもあり、実態不明な存在でもある。
達也の知識をもってしても、魔術がなぜ失われ、魔術師の大部分が姿を消したのかは分かっていない。
だがそれをこの忍びは語る。
「魔術とはね、矛盾した存在なのさ」
「矛盾?」
「有名であればあるほど力が強くなり、知られれば知られるほど弱くなり消えてしまう。魔術のほとんどが滅んでしまったのは科学によって解明されてしまったからなのさ。神秘としての魔術は科学によって解明され、
魔法は系統立てられた明確な式によって成り立つもので、そこに知名度などというものが入り込む余地はない。勿論よく知られている魔法学分野がよく研究されて洗練されるということはあるが、魔術における知名度や信仰といったものはそれとは全く別種の力源となる。
「要は神様なんかと同じさ。君は信じないだろうし、実は僕も信じてはいないけれど、昔は神様という存在は“あった”のさ」
仏法に帰依する僧侶がそのようなことを言ってもいいのかとも思うが、九重寺は天台宗の末寺を標榜としている忍寺であって、仏を信仰しているところが“建前”である。達也も八雲の弟子ではあるが、それは天台宗に感銘を受けたなどということが理由やきっかけであるはずがなく、魔法学における非物質性の超常的生物を否定するとまでは言わないが、神を信じることはない。だが否定しても話は続かないため、達也はあえて八雲の話の腰を折ることもなく続けた。
「多くの人が崇め、敬い、信仰する対象としての神。けれどもやがて人は目に見えない神ではなく、目に見える者や存在に価値を置いていくようになった。つまり神秘が薄れ、神が消えたわけだ」
宗教や神というのは、知られなければ消え行く存在だ。
3つ目の世界大戦を経た今の世の中においてでさえも世界には宗教が存在し、神を信仰する者が大勢いる。だが古来より数多の土着信仰、宗教、思想、それらが存在し、人知れず、あるいは争いの結果、消えていった。
それは神やその教えが広く、そして強く知られているからこそ力を持っているからではあるが、一方で伝説やおとぎ話のような神の降臨などは現在の現実において起こり得ない。
勿論、戦略級と呼ばれるような魔法や、今は世界的に禁止されている核兵器などの大量破壊手段が使われれば、それこそ北欧神話に語られるような
達也とてそんな悪魔じみた、世界を滅ぼしうる力を持ったイレギュラーな魔法師の一人ではあるのだから……
ただ、神が存在すると信仰しても、誰しも神がこの世界に実在するとは考えない。
「だが完全になくなったわけじゃない。藤丸圭と獅子刧明日香。彼らは正真正銘、魔術を今に受け継ぐ者で、神秘に属する者たちだ」
藤丸圭と獅子刧明日香が熱烈な信仰者ということではない。
だが古来より魔法と宗教とは世界のどこにあっても密接な関わりがあった。
日本では陰陽道や密教、神道などで用いられていた、いわゆる呪術が古式魔法へと変化したものである。
中世欧州では魔女狩りとして宗教における異端を狩るために魔術魔法は徹底的に排除されたと言うが、魔女の烙印を押された者が真実、魔術師や魔法師のようなものであったかどうかはともかく、これも魔法と宗教の密接な関わりには違いない。
さらに古く遡れば、日本にしろ古代文明にしろ、神への信仰とは王権とも関わりをもっており、その権威を象徴するものとして超常的な力が振るわれたとされることがある。
それらが全て真実であったのかまやかしであったのかは、達也には分からないが、八雲の言を信じるとすれば、それらは全て神秘色濃い過去だからこそありえたことなのだ。
ただそれとは別に気にかかるのは、八雲があの二人のことを達也が指摘するまでもなく知っていること。
「師匠は藤丸と獅子刧のことをご存知で?」
尋ねると八雲はポリポリと頬を掻いた。珍しく口が滑ったとでも言いたげだが、そうではないだろう。そんな抜けたことをする人ではない。
「彼ら……“藤丸”圭くんの系譜とこの寺の来歴には少しばかり因果があってね。多分彼らはこの寺のことを知らないだろうし、所詮は
八雲は苦笑しながら語るが、その後半は独り言のようなつぶやきめいていた。
だがその独り言には達也でさえ、そして十師族でさえ知り得ない重大ななにかが含まれているようにも感じられ、達也は鋭く八雲を見つめた。
「師匠?」
「ん? ああ、ごめんごめん。僕から言えるのは、彼らの目的は君たちに敵対するものではないし、敵対してはいけないということだけだ」
少し剣のある呼びかけに、物思いに耽りかかっていた八雲は気づいたように取り繕って見せた。
「ただ彼らの周囲には気をつけた方がいい。彼らの近くに居ればいいのか、それとも離れた方がいいのかは、僕にも分からないけどね」
明確に彼らが敵であれば、あるいは在ることで凶災を招くというのならば近寄らなければいい。あるいは打ち倒せばいい。
だがそうではないのだ。
彼らは凶災を招くのではなく、凶災を鎮めるためにこそ招かれる。
ゆえにその近くにあれば巻き込まれる。遠くにいればその手から零れ落ちる。
“カルデアのマスター” ――かどうかは分からないが、サーヴァントらしき騎士がいるということはそうなのだろう―― 彼が来たということは、この世界、この時代はすでに特異点になっている、あるいはなりかかっているということだ。
「神秘はより強大な神秘の前に屈する―――神秘から切り離された魔法にしてもそれは同じだ。魔法が魔術から生み出されたものだというなら、魔法とて神秘とは無関係ではない」
もしも彼らが対抗しようとしているのが英霊ならば、あるいは“災厄”ならば、それは人類の文明の産物をこそ飲み込むものだ。
魔法が魔術に劣っているわけではない。魔法は魔術を基にして生み出された進化した力だ。物理的な干渉力は凡その魔術と比べて遥かに強力。それは揺るぎない事実ではある。
だが魔法は神秘薄れた魔術の新たなる形とも言える。なればこそ威力という点においては勝っていようとも、神秘という面ではさらに弱くなっており、文明の発展に組み込まれてしまっている。
「神秘を纏う存在――英霊を相手に通常の魔法がどれほどの効果があるのかは……僕にも分からない。おそらくほとんどの魔法は通用しないと思うけれどね」
――――――― 一つだけ、ではないが、八雲は語らなかったことがある。
九重寺には墓がある。
そこに遺体はなく、遺物もない。ただ無名の碑があるのみ。
それは人の墓ではなく、ただ流れてきた物の碑だ。
流れてきた時点ですでに壊れていたという。
流れてきてすぐ、完全に機能を停止したという。
けれどもそれがあるから、あったからこそ、九重寺は“忍び寺”なのだ。
それはたしかに、特異な状況下であったからこそ、ではあるが座に刻まれた英霊。
多分、達也も知らないだろう。
達也が知っている事実は彼の兄弟子、つまり八雲の弟子の一人、門下の筆頭に彼の所属する国防軍の特殊な大隊――独立魔装大隊の隊長がいること。
すなわち”大天狗”
たしかに彼は八雲の弟子ではあるけれど、風間こそが、九重寺が“忍び寺”であることの、意味そのものでもあるのだということ。