波導の勇者がゆゆゆいにINしました。   作:千点数

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日常崩壊

 [神樹/結界外]

 

 “トツカノツルギ“は、幾つかの時を経て、光り輝く樹木の側までやって来た。

 そのままその樹木の中に入ろうとするが、弾き返されてしまう。

 

 すると、“トツカノツルギ“の、刀身と思われる部分が、不意に青いオーラを発しーーーーーー

 

 ーーーーーーぐるん!と、自身の身体を回転させて樹木の一部をごっそりと切り裂いた。

 

 そして、その切り裂いた場所から、悠然と“トツカノツルギ“は、樹木の中へ・・・・・・神樹の、結界の中へと、入っていった。

 

 

 ・・・・・・億を超える単位の、大小様々な種類のバーテックスと共に。

 

 *

 

 大切なものは、無くしてから初めて後悔するという。

 近くに、何時も手の届く所にあって、当たり前のように思っていたもの。

 それは、無くなってから初めて、その大切さに気がつくのだと、俺の爺さんは死ぬ前に、そう言って死んだ。

 

 (確かに、なくして初めて大切さ、ってのは痛感するよなぁ)

 

 その時俺はそう思った。

 爺さんが死ぬ前に、そういう事があったから。それで、すごく後悔して、精神的に潰れそうにもなった。だからこそ、

 

 だからこそ、今度は無くさないと、そう誓ったのに。

 

 *

 

 「(何時だって後悔ばかりだ。いっぺんなくしてから後悔する・・・・・・ホントに、俺って奴ぁ一歩も成長できてねぇな)」

 

 ボロボロの樹海、朽ちかけて、光が消えそうになっている神樹。

 ・・・・・・そして、瀕死の、ボロボロの勇者達ーーーーーー

 

 *

 

 [数日前/勇者部部室]

 

 それは、スリリングでデンジャラスではあったが、そこそこ平和な日常を壊すには十分な言葉だった。

 

 「昨日、朝早くから大赦に用事があったのは、神託があったからなんです」

 「近い内に・・・・・・一週間以内に、バーテックスの侵攻が起きます。

 ・・・・・・それも、今までにない位の、総力戦に等しいものです。

 恐らく、今までとは比べものにならない位の、文字通り桁違いの激戦になるでしょう」

 

 二人の巫女が言ったその言葉は、静まり返った部室に、よく響いた。

 

 *

 

 空気がピリピリしている。

 それもそうだ。あんな台詞の後で、明るい雰囲気なんて出せる訳がない。

 比較的歳が上の勇者は悲壮に顔を歪め、歳がまだそこまでいってない勇者は、オロオロとして、落ち着きがないようだった。

 雰囲気に耐え切れず、今にも泣きそうな娘もいる。

 ・・・・・・棗のあんな歪んだ顔を初めて見た。

 

 笑顔で溢れていた時間が、一瞬にして不安と悲壮感に濡れた、悲痛な時間に変わってしまった。

 ・・・・・・日常というものは、こんなにも脆かったのか。

 この日、初めていつもの、当たり前にある日常に感謝し、嘆いた。

 

 *

 

 日に日に部室の空気は重くなっていった。

 部活動に、外面では一生懸命に取り組んでいるように見えても、波導を使える俺だから解る、解ってしまう。

 どこか、心に不安があって、全員何をするにしても上の空だ。

 

 これまでにもバーテックスが襲来する、といった内容の神託はあったらしい。が、今回のものは、何時もの倍・・・・・・いや、数百倍くらいの敵の量は覚悟をしておかねばならない、それほどまでのものだそうだ。

 

 最悪・・・・・・・・・・・・死ぬ覚悟もしておかねばならないそうだ。

 

 状況も、心も、精神も、雰囲気も。

 

 最悪なまま日にちは過ぎ。

 

 そして、来てしまった。その日が。

 

 *

 

 ドアを勢い良く開けて、若葉が開口一声。

 

 「大変だ!神樹様の結界がごっそりと破られて、バーテックスが大量に侵攻してきた!」

 

 それは、最悪な知らせだった。

 

 *

 

 神樹が作る結界が破られた。それも、一部がえぐりとられるようにごっそりと。

 すぐに神樹は結界を張直したが、かなりの数のバーテックスが侵入してきてしまったらしい。

 

 「直ぐに樹海化すると思う。それまでに・・・・・・気持ちの整理は付けておいてくれ」

 「恐らく今回の襲撃が、神託のそれだと思われます・・・・・・皆さん、絶対に、生きて帰ってきて下さいね」

 「誰か一人、欠けて帰ってくるなんて、嫌、ですから」

 

 若葉とひなた、そして水都が、全員に向かってそう言う。

 俺は、波導で全員の心を読み取るが・・・・・・悲痛だな。ヤバい。マジで、ある一人の為ならば死を厭わない奴が数人いる。

 

 ・・・・・・覚悟を決めるか。

 

 後悔だけは、絶対にしないように。

 

 *

 

 「(オイオイ・・・・・・ありゃあ億はいるぞ・・・・・・)」

 

 もしくはそれ以上。

 大小様々なバーテックスが、ワラワラと、一部の方角へ目掛けて侵攻している。

 

 「結界はもう神樹様が閉じた・・・・・・だから、これ以上数が増える事はない・・・・・・が、あの数だ・・・・・・絶対に死ぬなよ。

 一人では絶対に突っ込むな!誰かと、二人で互いを支え合え!」

 

 絶望。そんな言葉が似合うこの光景。

 だが、全員諦めていないのは、絶望しかないような光景を目の当たりにして、絶望しておらず、前を見ているのは、やはり勇者だからか。

 

 「(先陣は俺が切ろうじゃあねぇか)」

 

 “はかいこうせん“。

 

 「(開戦だ畜生共が。ゴキブリよりも湧いて出てきやがって。一匹残らず叩き潰す!)」

 

 だから、俺も、最後まで諦めない。

 

 こんなんでも一応、“波導の勇者“、だしな。




オリジナルバーテックスについて書きます。

*“トツカノツルギ“
 別称“天羽々斬剣“。造反神の神格の一部を星屑が取り込み、周囲のバーテックスと合体して出来た、“ほぼほぼ神に近いバーテックス“。
 何かを“断ち切る“事に特化しており、神樹の結界も用意に断ち切った。
 全長約五十メートル。そのうち、刃渡り約二十メートル。
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