「(波導は、我に在り・・・・・・!)」
身体から、何かが抜けていく。
波導だけじゃあない。何もかもが抜ける感覚がする。
めまいを覚えて、身体がふらつくが、それでも、翳したその腕は、決して動かさない。
波導を腕に集中させて、神樹に流していく。
チカチカと視界が明滅し、段々身体から力が抜けていく。
それでも、波導を注ぎ込むのを止めない。
神樹の弱まっていた光が強くなっていく。
それに比例して、その神樹から感じる神々しさというものも増していく。
ふと、気がついた時には、身体がどさり、と倒れていた。
自身の身体を見れば、存在が消えていくように、段々身体が薄くなって、消えていっていた。
映画のルカリオは元の時代に消えていったが、俺は、元の世界に戻るのだろうか。
不思議と、恐怖は無かった。
自分の身体が消えていっているのに、そのような感情は抱かなかったのだ。
(綺麗だなぁ・・・・・・これで桜みたいに花が満開だったなら、最高だな)
暗くなっていく視界の中、最後に見たものは、神々しく、強い光を発する、綺麗に復活した神樹と、周囲の空間に舞う、赤青黄緑等の、色とりどりの花びらだった。
*
消えたと思っていた。
夢のように、俺の存在がこの世界から抹消されたものだと、そう、思っていた。
だが、現実はそう、バッドエンドばかりでは無かったらしい。
「まさかルカリオがちっちゃくなっちゃうなんてね~」
「(いや、今の俺はルカリオじゃない。リオル、と呼んでくれ)」
風が言った言葉を訂正しながら、俺はぬいぐるみのように抱きしめてくる棗の拘束から抜けだそうと頑張っていた。
そう、俺は、波導を使い果たして消えるものかと思っていたのだが、何とリオルとなってこの世界に残っていたのだ。
「(マジで離して苦しいからぁ!)」
「ルカ・・・・・・リオルが無茶をしたと聞いて心配だったのよ。棗に暫くそうさせてあげなさい」
「(んな殺生なぁ・・・・・・)」
ああもう。ルカリオからリオルになったからステータスがめっちゃ下がったし、波導もうまく使えないし、使える技の数も減ったし、ちっちゃくなっちゃったし・・・・・・まあ、神樹の復活なんて目茶苦茶やらかしたんだしこのぐらいで済んでむしろ良い方か。
ちなみに、特性も実は変わっていたりする。
え、何かって?直ぐにわかる。ほら、俺の特性の被害者が今日も・・・・・・。
ガララ!と、扉を開けて勢いよく入ってきた若葉に、俺は棗から取り上げられてがっくんがっくん揺さぶられる。
「リ~オ~ル~!またひなたと共謀して私の髪形に悪戯しただろう!」
「(あ、ばれた?)」
「いつの間にか私の髪形がツインテールにフリフリのリボンが結ばれていて驚いたんだぞ!」
俺の特性は、せいしんりょくからいたずらごころに変わっていた。まあ、リオルの夢特性で、変化技を先に出せるという結構約に立つ特性なんだが・・・・・・こう、悪戯をしたくなる。時々、発作的に。
「お仕置きだ。剣道場に行くぞ!一つ悪戯をするごとに一試合という約束、忘れた訳じゃないだろう?」
「(え?・・・・・・あ“。・・・・・・ちょっと待って。い、いい一回落ち着こう?うん待って俺死んじゃう!俺よわっちくなっちゃったの!強くないのぉ!)」
「ああ、そうだ。他に来る人はいるか?」
「(無視!?)」
「はいはい!私行く!」
「私も!」
「(ダブル友奈も!?ちょ、棗助けて!?)」
「私も行こう。ルカリオがリオルになってから手合わせをしていない」
「(味方がいない(泣)!?)」
若葉の小脇に抱えられ、剣道場に連行される。
「あらら・・・・・・リオルの自業自得って奴だねあれは・・・・・・」
「ですね。でも、大丈夫でしょうか・・・・・・」
「リトルわっしー、大丈夫だよ~きっと。だって、ああ言いながら今日でもう十一回目の試合だから~」
「そうそう。弱っちくなったなんて本人は言ってるけど、いつも帰ってくる時は無傷なのよあの子」
「まるで魂が抜け落ちた感じの顔で帰って来ますけどね・・・・・・」
「あれは気にしない」
「(たーすーけーてー!畜生!鬼め!)」
「誰が鬼だって(威圧)?」
「(すみませんごめんなさいもう言いません(号泣)!)」
俺のまだ始まったばかりの、リオルとしての日常は、今日も騒がしく過ぎていった。
もしかしたら有り得たかもしれない、優しい世界。