コラボの後編始まりますよ!
よくある現象ですが、後編って結構長く成りがちですね……
皆さんどうもこんにちは。私の名前は
まだまだ駆け出しですが、実は仙人やっています。
私の師匠は邪仙で、年齢1400歳以上の超年増で、我ままで自己中で、無茶ぶりと自分の事が大好きで、善悪や良心の呵責が一切なく非道な行いを簡単に行える所謂サイコパス気質な危険人物……
ですがそれでも毎日楽しく過ごしています。
さぁ、今日も師匠とその手下のキョンシーの芳香と一緒に修業――
「あらぁ?何か今、聞こえた気がしたわねぇ~?
半人前で、仙人モドキで、下半身と脳が直結して、ドジで運が無くて、そのくせお調子者の私の弟子が何か言ったのかしら?」
うぐっ!?師匠、いつからそこに……?
「最初からだぞー!」
いでで!?噛むな噛むな!!
「さ、出来たわよ?」
「わーい!」
妖怪の山の中腹にある少し開けた場所にて、師匠が善手製のバーベキューコンロの上で肉を焼いていく。
野菜に、キノコ類、さらには焼きおにぎりが網の上で焼かれ、その傍らには如何にも高そうな酒類が並んでいる。
「善遅いわね……ま、その内帰ってくるでしょうね」
「もっとお肉欲しいぞ!!」
師匠が芳香の皿に焼きたての肉を乗せて、楽しそうに微笑んだ。
「零士しょうゆ」
「ん」
はたてに頼まれ、少年が食卓の上のしょうゆの小瓶を、天狗の少女に差し出す。
「あー、やっぱり鳥皮にはしょうゆよね」
サクサクと音を立て、善の持ってきた弁当の中にある、鳥の皮をフライを醤油に浸して食べる。
「へぇ、揚げ物は塩の方がすきだな」
そう言うはたての言葉の応える、零士は岩塩を皿に取り、マイタケの天ぷらを付けて食べる。
「っていうか、天狗が鶏肉食べて良いの?」
「はぁ?ずいぶん今更な事聞くわね。別にふつーに食べるわよ。
っていうか、天狗を鳥と一緒にしないで。まぁ中には気にするヤツも居るでしょうけど、うーん……半々くらいかしら?とりあえず私は気にしないわ」
なんて風に、零士の談笑しながらはたてが箸をすすめる。
「あ!善が帰って来たぞ!!」
遥か遠方に芳香が善を見つける。
手に持っていた皿から顔を上げ、手を振る。
「師匠~、椛さ~ん!!」
「あら、善おかえり」
「師匠、椛さんは?」
軽く挨拶を交わして善が、椛をきょろきょろと探す。
確かここに居るハズだったが……
「あっちあっち」
師匠が指さす先では、ブランケットをかけられた椛がぐっすりと眠っている。
傍らには皿が置かれ、口元には食べかすがついていてとても幸せそうな顔をしていた。
「なんだか、起こすのが気の毒になるなぁ……」
そう言って、椛を起こそうとした時――
「ぜーん!!このお肉とってもおいしいぞ!!なんかして――あ”」
肉の乗った皿を持って走って来た芳香が、足元の石に躓く!
そして、皿が宙を舞い、肉をばらまきながら、まるで吸い込まれる様に善の頭の上に落下した。
「あ”……ごめん……だぞー」
「旨いだろ?たれのニンニクが決め手なんだ……」
ポタポタと、自身の前髪から垂れるたれを見ながら善が、自分の頬についた肉を剥がして芳香の口に含ませた。
「むぐ……むぐ……おいしいな!!流石善だぞ!!」
非常にうれしそうな顔をした芳香に、背を向け善は未だに涎を垂らして眠る椛をゆすり始める。
「椛さん!椛さ~ん!!起きてください!!ほら、探してる侵入者見つかったみたいですよ!!!ほら、お風呂に入ってゆっくり寝るんでしょ?」
ぺちぺちと頬を手で叩く。
その時、椛の鼻がスンスンと何かの匂いを察知した。
「すんすん……良い匂い……すんすん……お肉とニンニクの良い匂い……
「ほら、椛――いってぇ!?痛い!!痛い痛い!!」
ガブリンチョ!!と豪快に善の指が椛の牙に捉えられる!!
ぐりぐりと牙が善の手の甲に突き刺さっていく!!
「放せ!!はーなせーっての!!」
食われまいと善が必死になって、手を引くが椛も妖怪と野生の捕食本能に基づいいて、目の前の
「あーもう!!仕方ない!!」
善が自身の『抵抗する程度』の力を腕に纏わせる!!
その瞬間紅い稲妻のような力が、腕に走り――
バチィン!!
「ぎゃわん!?て、敵襲!?敵襲ですか!!」
抵抗する力で跳ね飛ばされた椛が、驚き臨戦態勢で周囲をきょろきょろと警戒する。
「敵襲……?
ああ、確かに敵ですね……まさか、いきなり食いついてくるとは……」
善の手から流れる血と、そこにくっきり残った歯形。そして自身の口の中に残る芳醇で美味なる
椛はそのパーツで大よその事を察した。
「あ、えっと……ごめんなさい!!
かじる気は無かったんですよ!?ただ偶然すごく良い匂いがして……
ちょっと一口だけ口にしていみたらすごくおいしくて!!!
えっと、お替り――じゃなくて!!詩堂さん本当にごめんなさい!!!」
頭を下げて椛が必死に謝る。
何時もピンと伸びている耳や尻尾まで元気がないのが見て取れた。
「……反省している様ですね……もう噛まないでくださいね?」
若干不穏な単語が聞こえた気がしたがそれでも仕方ないと割り切った感じて、善が自身の右手の甲を見る。
傷はまだあるが、ゆっくりと目に見えて修復していくのが分かる。
仙人の持つ力と抵抗する力が傷跡という、良くない部分をなおしているのだ。
「はぁー、こうしてみると人間の領域から出たって言うのをありありと感じますね……」
ため息を付きながら、善が師匠との修業を思い出す。
なんと言うか、思いだしたくないような、不自然に記憶の靄が掛かる部分があるが、どうやら修業の成果はちゃんと出ているようだ。
「えっと、椛さんいくつか話すことが……えっと、先ず例の手配犯ですが、はたてさんの家に居ます。それと、武器に剣を持っていますがべつにそこまで危険ではないみたいなので、問題は無いかと……まだ、同じ場所にいるかな?
はたてさん曰く、代わりに上の者に伝えて欲しいそうです」
てきぱきと善が、椛に自分の知り得る情報を渡してい行く。
願う事なら、早く彼女の仕事が終わってゆっくり休めるように、と。
「なるほど、少し家によって真偽を確認してみますね。
じゃ詩堂さん、また――最後にもう一口だけかじっても良いですか?」
「絶対にダメです!!」
ぐるるると物騒な声をだす椛を善が追い出す様に、送り出した。
「はぁ、我が弟子ながら忙しいわね……」
師匠がバタバタと走り回る善を見る。
なんと言うか、善は非常に忙しそうにいつも走っているイメージがある。
偶には休ませようと、ちょっとした気遣いをしたがそれでも上手く行かない様だった。
「ま、若いうちは苦労は買ってでもしろって言うし、良いのかもしれないわね……」
師匠の視界の先では、善が芳香からもらった飲み物を飲んでいた。
「――あら、やだ!さっきのセリフはなんだか私が年寄りみたいじゃない。
嫌ね。もっと若々しく居たいのに」
ため息を付いて、師匠がニコリと笑う。
「あー、にしてもひどい目に合った……ほら、見ろよ、歯形がくっきり残ってる……」
ジュースを飲み干した善が、椛に噛まれた手の傷を見せる。
そこには、人間の様な鋭く規則的に並んだ噛み後が残っている。
「おー……」
芳香がぼーっとしながら、僅かに血の残った手を見てそれにゆっくり引き寄せられるように近づき――
「ハグゥ!!」ガブリン!!
善の手に椛と同じ場所に食らいついた!!
「いっでぇ!?なんでだよ!!」
「うー、うー、ッ!!」
善が必死に放す様に、促すが芳香は止まらない!!
必死に腕を振るう善に文字通り食らいつき離さない!!
「あら、芳香ったら……良いこと、善?
自分のモノにマークをするって言うのは、動物の中でも多く見られる習性なのよ。
木に爪で傷を付けたり、排尿して匂いを付けたり……歯形って言うのもある意味、マーキングよね?
きっと、さっきの天狗の子につけられたマーキングを芳香は上書きして――」
「冷静に考えないでください!!!いい加減芳香も放せ!!夕飯抜きにするぞ!!!」
尚も噛み続けている芳香に、善が大きな声を上げる。
「そ、それは困るぞ……!」
渋々という様子で芳香が善の手から口を離した。
「あー、痛かった……あー、もう、何度目だよこのやり取り……」
再度の傷に耐えきれなかったのか、善は懐から包帯を取り出し手に巻いていく。
師匠もそうだが、芳香も芳香で独占欲が強いのかもしれない。
以前、紅魔館でレミリアやフランに噛まれた時もすぐに、善を噛み返していた。
「さてと……善は放っておいて、バーベキューの続きを――あら?」
師匠はいつの間にか、自分たちだけの広場に新しい人物が増えているのに気が付いた。
白い髪に、緑の瞳羽織るはうすいパーカーをイメージさせる服装だった。
「貴方は――?」
「零士。ねぇ、お姉さん。お腹空いてるんだ、ごはん食べさせてくれない?」
「え、ええ……」
師匠すら驚く、自然さでその少年はそこに立っていた。
「あれぇ~?零士さん?はたてさんの、家にいるんじゃなかったんですかぁ?」
後ろから善がのそりと姿を見せる。
それと同時に、師匠の鼻は何とも言えない匂いを察知した。
「この匂い?善、まさか、お酒を――」
「飲むわけないでしょぉ?わたしは、みせーねん……」
よろりとよろけた善が、師匠の背中に抱き着く。
呂律が回らず、足元もおぼつかない、そして顔も赤い。
「善?どうしたんだ?フラフラするのか?」
心配そうにやってくる芳香の手にはお酒の瓶が握られていた。
それはさっき芳香が、善に差し出していたジュースと同じビンで――
「ああ、間違えたのね」
合点が行った師匠が一人納得した。
「あ、うまいな、コレ」
そうしている間にも、零士はコンロの上の肉に手を伸ばしてた。
それに気が付いた芳香も負けじと、箸を持ってコンロへと近づいてく。
「ああ、ごめんなさい。忘れてたわ。
それで?なんで、こっちに?」
「ああ、さっき、天狗の人が来て追い出された。
はたてにも話があるらしくて、追い出された。
行くとこも無いし、此処で待つことにしたから」
そう言って、もくもくと食事を再開する。
お腹が空いていたのか、決してがっつく訳ではないが全くペースが落ちることなく、まるで機械の様に食べ続けている。
「そう言えば、小耳にはさんだけど……あなた急に山の真ん中に出現したらしいわね。
まるで、いきなり
「気づいたんだ。勘が良いね。
俺、多分違う世界から来たんだと思う」
何でも無い事の様に、零士が話す。
「一体どうや――ひゃん!?」
師匠の言葉が、背後から伸びてきた2本の腕で阻まれた!!
その腕は師匠の腹に巻くつくと、すりすりとお腹のラインを撫でまわす!!
「ちょっと!?何なのよ!!」
師匠が後ろを向くとそこには――
「えへっへっへ~ししょ~、ししょうすき~、ししょうすごいすきぃ~」
すっかり出来上がった善が師匠の背中に顔をうずめて笑ってた。
「放しなさい!!」
それを嫌がる師匠は善の顔を抑えつけ、引きはがそうとするが――
「ち、力、強いわね!私の修業の成果が――ああもう!!」
「うっへへへへ~、ししょう、すきぃ、ししょうあいしてるぅぅぅ……結婚して!!」
「もうしてるでしょ!?」
尚も絡みつく善を、剥がそうと師匠が必死になって善を引っ張る!!
そんな二人を零士は――
「仲良いんだな」
興味なさそうに、一言だけ話した。
「いい加減に――しなさい!!」
師匠が、善に足払いをかける。
そして僅かにバランスを崩したところを見計らって、肘を善に打ち込み転ばせる!!
ドォン!!
「み”ゃ”!?」
「お師匠様をどうにかしようなんて100年早いわよ」
倒れた善の背中に座った師匠が、腕を組みながら言い放った。
「うー!師匠すきぃ!あいラブ師匠!!師匠命ぃ!!
さぁ、仲良し家族になりましょうねぇ!!」
完全に沈黙したと思われた善が、師匠を押しのけた立ち上がる!!
そして空中で師匠をキャッチして、お姫様抱っこの体制で捕獲する。
「ぜ、善……?」
「さぁ、愛の結晶を授かりましょうね!!」
善が師匠を連れたまま、少し離れた茂みに入って行こうとする!!
「ちょっと!?待ちなさい!!何を、何をする気なのぉ!?」
ルンルンとスキップをしながら、善が茂みへと入って行く。
「へぇ、結婚してたんだ」
ひょい
「あ!ソレ、私のお肉だぞ!!」
「ごめん、ごめん」
芳香と二人で、零士が食事を静かにしていく。
ガサッ――
「お疲れ」
「十月十日でオメデタかー?」
「なんとか、回避したわよ!!」
茂みから、乱れた衣服で息を切らせた師匠が姿を見せる。
見た目から察するに、相当激しい戦いがあった様だ。
「はぁはぁ……話を戻すわよ?アナタ、さっきも言ったように別の世界から来たんでしょ?そのきっかけは何だったのかしら?」
師匠の言葉に、零士の目がわずかに鋭くなる。
緑の瞳に、露骨な無念が宿る。
「スカウトされた。変な奴に」
「変な奴?」
師匠のに促されるまま、零士はこの世界に来る前の事を話しだす。
それは、なんの前触れもなくやって来た脅威だった。
「君が、零士君だよね?君の噂は聞いてるよ。
どうだい、僕たちと一緒に何か楽しい事をしないかい?」
その男は恐ろしいまでに『普通』だった。
外の世界に在る、清潔な白いシャツと皺を良く伸ばした黒いズボン。
平均よりも若干整った顔と、数舜後にはその存在すら忘れてしまう様な、敢えてそうさせている様な、まるで此処に居ないかのような、ひどく曖昧な姿。
敢えて言葉にするなら、非常にはっきり見える蜃気楼とでも表現するべきだろうか?
足元に落ちていた、少し太めの木の棒を持ってこう言った。
「まずは、実力を見せてもらおうかな?」
結果を先に言うなら、零士はそいつに勝つことは出来なかった。
零士はの刀はそいつの肌を切り裂いた。
血がほとばしり、肉が裂け、しかしそれを何でも無い事の様に、その男はなおも立ち向かってきた。
男の振るう木の棒は、タダの棒のハズが零士の刀とつばぜり合いし、時に打ち勝ち時に零士の技を受け切った。
「さぁ――行くよ?」
その男が木の棒を大きく横一線に振るった。
零士はその『技とも呼べない業』に身の危険を感じて、身構えた。
そして気付いた時には――
「こっちの世界に?」
「うん、そう」
食事を終えたのか、零士は両手を合わせてご馳走様とつぶやいた。
「今度はそっちの事教えてよ。あの人は何?」
零士が興味ありと言わんばかりに、師匠の出てきた茂みを指さす。
恐らくはあの中に居る善を指しているのだろう。
「詩堂 善。私の弟子ね」
「ん、それははたてから聞いた。今時珍しい仙人の弟子だって。」
「別に珍しくは無いわ。行くとこに行けば、それなりの人数は居るわよ?
最終的に仙人になれるかは別としてね?」
「じゃ、あいつは珍しい方なんだ」
零士がそう呟く。
何かが彼の琴線に触ったのか、善の事が気になるみたいだ。
「邪仙の
零士が右腰の刀を気にする。
その刀に結ばれたリボンが、風に揺れた。
ガサッ――
「あー……なんか、頭痛い?」
後ろの茂みから、善が頭を抑えながら出てきた。
こちらも師匠の同じように、服がところどころボロボロになっている。
「あら、漸く目を覚ましたのね?」
「師匠?なんでびくびくしてるんですか?」
心なしか怯えた様子の師匠を善が、不思議に思いながら問いかけた。
「お、怯える訳ないじゃない?」
露骨に誤魔化す態度を師匠が見せる。
どうやらさっきのは、相当トラウマになった様だった。
「ねぇ。俺と勝負してくれない?」
「勝負?」
「弾幕無しの組手、一回で良いからさ」
謎の男の様に、零士が近くにあった木の棒を無造作に拾って振ってみる。
凡その長さ、片さ、持ち具合。
自分の持つ本来の刀とは大きく違うが、一応無いよりはましだろう。
「えっと……?」
「良いじゃない、やってみなさいよ。偶には私や芳香と違う相手との手合わせも良い物よ」
「ええっ?」
突然の申し出に困惑する善をノリノリな師匠が促す。
此処には休みの積りで来ているし、お腹も減っているしで正直戦いたくないというのが素直な気持ちだ。
「一回だけですよ?」
「よろしく」
善の言葉に、零士が頷く。
「では、両者見合って――!」
橙が審判役を買って出た。
一抱えある、石を持って二人の真ん中へ立つ。
ヒュン――
石が投げられ、地面に向かって落ちていく――あの石が落ちた時が、開戦の合図だ。
トン――!
「ハッ!!」
「ん――ッ!」
落下と同時に、二人が同じ方向へと向かう。
目指す物はお互いに同じ様だ。
「気功翔脚!!」
善の足に、紅い気が纏いつき、地面を蹴る。
仙人の力により強化された脚力が土を蹴り上げ、零士へと肉薄する。
「――!」
零士はカウンターとばかりに、腰にぶら下げた木の棒を振るう。
所謂居合切りの要領で――
バチン!!
「へぇ――!」
零士が驚嘆の声を上げる。
善は零士の攻撃を腕の側面を使って受け止めていた。
防御でも、回避でもなく受け止める事を選ぶ。
それは、なかなかに選択する事に勇気が居る事で――
「痛ッ!?」
善が痛みを感じて、そこから距離を置いた。
見ると防御に使った右腕に、縦に皮が裂けている。
あれはただの木の棒。そう思っていたが、達人が扱うとただの木の棒でも十分人体を切り裂くことが出来るのだろう。
もし善が仙人で無かったら、もしあれが真剣だったらと思うと、ゾッとする。
「私の負けですね」
降参とばかりに、善が両手を上げる。
善は最初の一手で選択を間違った。
本来ならここで、戦闘はとっくに不可能だ。
「そっか……」
不完全燃焼の零士は少しつまらなそうに、構えを解いた。
「驕ったわね善。相手の持つ物がタダの木の棒だと、油断したわね。
相手が死神なら、死んでるわよ?」
「すいません師匠――選択を間違えました」
師匠が一瞬にして、顔を変える。
一人の仙人から、弟子に自らの未熟を諫める『師匠』としての顔へ。
「……」
零士が、こちらに背を向ける善を見ながら、善と話す師匠に向かって全力の踏み込みをする。
今度は、木の棒などではない。本物の真剣だ。
斬った――
零士が感覚的にそう、悟った。
仮にもしこの枝が、刀ならば二人同時に切り殺していたという確信を持って、刀を振り下ろしたが――
「一回って言ったでしょ?」
後ろを振り返りもせずに、善が右手の人差し指と中指の2本で零士の刀を受け止めていた。
タダの指先、さっきも見た紅い気があふれ刀を止めている。
「そうそう、それでいいのよ」
師匠がそう呟くのを、零士は何処か遠くの事の様に感じた。
「ねぇ、もう一回――」
「嫌ですって、もうお腹ペコペコ……早くお昼を――あ”!?」
絶句する善の視界の先には――!!
「ふにゅ~、お腹いっぱいです……」
「もう食べれないぞー」
お腹を大きく膨らませた、橙の芳香の二人組!!
空っぽになった荷物と、同じく空っぽになった弁当箱が周囲に散乱している。
善はがっくりと、うなだれた。
此処から出も聞こえてくる、善の空腹を訴える胃の音に流石の零士も気の毒に成った。
シュン!
その時、空間に隙間が開き、一人の美女が姿を見せる。
善が、あ、紫さんとその妖怪の名を呼んだ。
「橙……よかった、此処に居たのね……」
「紫しゃま?」
よくよく見ると、紫の頬が微妙にこけている気がした。
いや、服や髪もなんだか、妙にくたびれている気がする。
「そろそろ、一回マヨヒガへ帰ってくれないかしら?
藍がいろいろと、おかしいのよ……」
「おかしい?」
紫の言葉に、善が反応する。
「そう、此処に居ない橙の事を読んだり……
突然『あの仙人を殺す!!』とか、言って頭を掻きむしったり……
博麗神社の木に藁人形を打ち付けて回ったり……
挙句の果てに、猫のぬいぐるみを『橙』って呼んで、連れて歩いたり……」
「完全に病んでるじゃないですか!?」
まさかの事態に、善が驚く。
クールアンドビューティーな、藍がそんな風になっている様子はにわかには想像できないが、紫がそんな嘘を付いても得は無いのは分かり切っている。
「橙さん、お願いだから帰ってあげてください!!」
「そうよ!!お願い帰って来て!!」
善と紫が頭を下げて、橙に頼み込む。
どうやら壊れた藍をなおせるのは、橙のみの様だった。
「仕方なですね……善さん、お楽しみはまた今度ですね!」
しなを作って見せる橙に善が、苦笑いを浮かべる。
「あら、その子別の世界の子ね?」
紫が零士の姿に気が付く。
「俺は――」
「はぁ、結界が緩く成ってるのね……入って送るわ」
もう慣れたのか、紫が再び別のスキマを呼び出す。
どうやらこれで帰れる様だ。
「零士さん良かったですね、帰れますよ?」
スキマを後ろに、善が零士に話す。
「最後に斬らせてよ。一回で良いからさ」
無気力さを感じさせる瞳に、好戦的な色を纏わせ零士が刀に手を掛けた。
「絶対にダメです!!!」
善の言葉に、零士の緑の瞳に若干の不愉快さが滲む。
「嫌なら仕方ないか」
酷く残念そうな顔をして、零士が紫の開けた入口へと帰っていく。
スキマに落ちて、一瞬の浮遊感を味わう。
だが、その次の瞬間には零士は別の場所にしっかりと立っていた。
「結局、斬りそびれてばっかだな」
頬を撫でる風に自身が元の世界に帰って来た事を確信すると、さっきまでの事などすでに忘れたと言わんばかりに、のらりくらりと目的もなく歩き出した。
ポリポリと頭の後ろを掻いて、何をしようかと試案しながら歩き出した。
まるで浮雲のような零士の歩と同調する様に、刀に結ばれたリボンが風に小さく揺らいだ。
本編中に、椛がニンニクを食べる描写がありますが犬にニンニクはNGです!!
もしご家庭で、椛さんや響子ちゃん、影狼さんを飼っている人は絶対にあげちゃダメですよ?