あの後、入学式はつつがなく消化されていき、無事に終了した。
その中でも予想した通り、深雪ちゃんの答辞は見事だった。
こう言ってしまっては身贔屓が過ぎるかもしれないが、実際その通りだから他に表しようがない。
だが、一つ。
魔法科高校から見て懐疑的にならざる負えない部分があった。
それは深雪ちゃんの答辞に含まれていた「皆等しく」や「一丸となって」とか、「魔法以外にも」や「総合的に」などの実力主義を旨とする魔法科高校の掲げるスローガンにそぐわない平等を訴えるフレーズがちらほらと聞こえていた。
しかし、深雪ちゃんはそれすらも上手く建前で包み隠して、聞いている側に棘を感じさせなかった。
そして、その態度は堂々としていながらも初々しく慎ましく、本人の稀代の可憐さと相俟って男子の新入生はもちろん、その父兄や上級生、教員の一部すらも、心を鷲掴みにされたことだろう。
明日には(いや既になっているかもしれないが)、深雪ちゃんの周りに多くの人が集まるはずだ。
その中で絶えず、歯の浮くお世辞が深雪ちゃんを襲っているだろう。
帰ったら、たぶん(というより絶対)達也にうんと甘えて、それこそ
今日は達也の家にお邪魔するのは止しておいて、今日は二人だけにさせてあげよう。
というよりも、あの空気には俺は耐えられないから、ご遠慮願いたいだけなんだが。
「ふぃー」
そう考えながら俺は、上へ左腕の肘を右手で引っ張り伸ばす。
「ふぁ~~」
すると、隣で両腕を天井に向けてエリカも身体を伸ばしていた。
格式ばったことが苦手なのは昔から変わらないんだよな、俺もエリカも。
「おい、みっともない声を出すな」
「そうですよ、二人とも。司波さんの言う通りだと思います」
達也に言われて、俺は腕を下げる。
同時にエリカも上げていた腕を下ろすと、柴田さんに諭された。
「そんなこと言われても、俺にはあんな堅苦しいのは苦手なんだよ」
今は入学式の舞台となっていた講堂を出て、俺、達也、エリカ、柴田さんの四人は生徒IDの交付のために講堂内にある窓口に来ていた。
まあ、交付と言っても予め、個人別のカードが作成・保管されているわけじゃなく、個人認証をした後にその場で合格通知と共に送付された白紙の学内用ICカードにデータを書き込む仕様なので、どの窓口で受付をしても結局は同じだ。
しかし、ここでもやっぱり、と言えばいいのか、自然に壁が出来上がってしまっている。
それは案の定、一科と二科の同学年同士のものだ。
深雪ちゃんならそんなことは些細だと言って無視するだろう。
だが、それを食い止めるため――学校側は意図していないだろうが――新入生代表として先にカードを受け取っているはずだ。そう達也から聞いた。
だから、この場に深雪ちゃんがいないのは、教師陣の精神安定上良かったのかもしれない。
「そうそう、アタシも和樹くんと同じでああいったのは嫌いなの。見逃してよ、美月」
エリカが俺に同調するが、それを達也が軽くたしなめる。
「それならせめて敷地を出てからにしたらどうだ? 教師陣に白い目をされたくないだろ?」
「そんなんでするヤツもするヤツだと思うけどな。ほら次、柴田さんとエリカは先に受け取って来て」
まあ、いわゆるレディーファーストの真似事だ。
達也?達也は横で無言を貫いてるから、承諾ってことでいいだろう。
「ありがとうございます、じゃあお先に」
柴田さんは俺らに軽く頭を下げてから空いた窓口に向かった。
「和樹くんも人並みの甲斐性を知っちゃったかぁ」
「なんだよそれ。ってか俺に人並みの甲斐性がないとでも思ってたのかよ?」
コイツは本当に失礼だな、昔っから。もういい加減慣れたけど。
慣れない頃は、いちいちキレて喧嘩になってたな。いやぁ、あの頃は若かった。
「そうだけど、一体誰に教わったのかな? 教えてよぉ~?」
「んなことはいいから、早く取ってこい。後ろに睨まれてんだから」
本当はそんなことは一切ないんだが、エリカのノリに付き合うのが面倒になったので言い訳を付けて先に取らせる。
「はいはい」
「はい、は一回で十分だっての」
「わかりましたよ~」
「・・・ったく。早く行け」
「お前も大変だったんだな。俺たちの所に来る前は」
達也が俺の肩に手を置いて、何か残念そうなものを見るような視線を俺に向ける。
言葉の意味は理解できるんだが、その視線の意味はどっちなんだ。
エリカに付き合っていた俺の苦労を推し量ったのか、それとも俺自体が物凄く残念な奴なのか。
少なくとも、後者はないと信じたいが。
「エリカの場合はそうでもなかったぜ・・・っと、達也、お前も先に取っとけ。俺は一番最後が良い」
「そんなもの関係ないだろうに。いや、ただの気紛れか」
少し考えるそぶりをして、ため息を吐きながら呆れる達也。
俺、そんなに気紛れでお前らに迷惑かけたかね?
「分かってるなら良いじゃないか。ほら先行け」
「分かったよ」
達也は肩を竦めながら、窓口に向かう。
その後すぐに、教師に入るように言われ、指示に従う。
「・・・さて、何組だか。まあ、何処でも変わらんだろうけど」
窓口まで歩く時、何気なく呟く。
出来る限り、自分の
「おはようございます。こちらに名前、生徒番号を打ち込んでください」
「はい、承知しました」
事務員の指示通りに記入して、1分足らずで生徒IDの認証が終わって、カードに俺の情報が書き込まれていた。
俺は配られたカードを頭の上に掲げ、感慨深げに眺める。
一年E組の21番。それが俺の出席番号のようだ。それがどうかしたわけじゃないが。
「和樹くん、何組だった?」
一般棟へ続く生徒たちの行列から外れて、朝いた場所と同じところにいた達也たち三人に合流すると一目散と言った感じにエリカが聞いてきた。
「教えてやらん、面倒臭い」
「和樹くんのケチ人でなし脳足りん!」
少し面倒だったので素っ気なく返すと、エリカは昔何度も俺に使った貶し文句を息継ぎなしで言った。
俺はそれに昔よくあったなぁ、という懐かしみとここで言うか、という恥ずかしさを感じた。
だが、そういった感情を相殺して余りある怒りを感じた。
「ア?」
少し殺気を込めてエリカを軽く睨むと、彼女は態度を一変させ、頭を下げた。
「本当にごめんなさい、言いすぎました」
「……コントをやるのは良いんだが二人とも」
それを面白そうに(俺の主観だが)見ていた達也が仲裁に入った。
「断じてやってない」
俺は達也に即座に反対すると。
「え、そうなんですか?」
有り得ない、というよりも違うの?と言いたげな顔をして驚く柴田さん。
流石にエリカと同じ対処法を実践することは今後の対人関係でしこりを残してしまいそうなので、頭を抱えながら、理由を聞く。
「ちょっと待ってくれ柴田さん、どうしてそう思ったのか教えてくれると有り難いんだが」
わりかし、本当に分からない。今のどこがコントに見えたのかが。
案外、柴田さんもどこか天然の気があるのかもしれないな。
そうだったら、それはそれでちょっと困るんだが。
「どうしてって、お二人とも息がぴったりだったじゃないですか。それで」
「裏合わせのあるコントだと思ったって訳ですか」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど・・・。
それで、今のを聞いたらエリカちゃんと瀧波さんは本当に仲が良い同士なんだと思って」
「え(は)!?」
俺とエリカが驚いて声を上げると、達也が急に顔を後ろに向け、手を口元に添えた。
・・・笑っていやがるな、こいつ。
「おい、達也。お前はなにしてんだよ」
「それよりもお前は何組だったんだ? 早く教えろ」
表情を引き締めて、さもお前の相手をするのは面倒だ、という空気を流しながら達也は俺に聞く。
「E組だ、文句は?」
「ないが、俺らは同じか。何か深雪が拗ねそうだな」
俺たちが同じクラスってだけでか? 流石にそんな器量が狭い訳無いだろう深雪ちゃんは。
「私も同じです。これから一年間、よろしくお願いします」
柴田さんは知り合いが同じクラスで安心したように微笑んで、今日何度目か分からない挨拶をしてくれた。
「あぁ、はい。こちらこそ達也ともどもよろしく頼みます」
「なんだぁ、和樹くんと同じかぁ。何か気恥ずかしいなぁ」
「気恥ずかしいって何がだ、別に昔と何も変わらんだろう」
「あのさぁ、和樹くんってデリカシーが欠けてるって、女の子に言われたことない?」
「そうさなー、死んだ方がマシじゃない?って中学の時、馴染みの奴に言われたっけな」
昔、隣近所の女の友人の買い物に付き合った時に怒らせたことを思い出しながら、しみじみと呟いた。
「えぇ!?」
さも信じられないような表情で驚くエリカ。ひかえめだがそれに同調して驚いていた柴田さん。
達也ですらも目を見開いている。
というか、エリカ。お前が言いだしたことだろうに、何故に驚く必要がある。
「それは初耳だが、どうしたんだその後は」
心底興味深そう、でもなく淡々と詳細を聞いてきた。
事実なのか自分の中で結論付けたいんだろうな。達也はそういう癖があるから。
「まあ、全面的に俺が悪かった場面だったから、そのまま説教を受け続けたよ。
ほら、去年だか俺がお前ん家に泊まる約束だったのに、午後になってドタキャンした日」
「ああ、あの日か。その日は大変だったんだぞ、深雪の機嫌が悪いままで治らなかったんだ」
そのことを思い出したのか、達也にしては珍しく疲れた声を出した。
「それについてはすまなかった。ほんとに申し訳なかったと思ってる」
「司波くんって妹さんいたの? どんな子? さぞかし可愛いんでしょ」
「可愛いって言うより、綺麗って形容する方が合ってないか?」
「外見はな。だが、性格は可愛いもんだ」
その言葉を恥ずかしげることもなく堂々と言い切る達也。流石だ。
もしそうだとしても(実際、義理兄妹だと深雪ちゃんがそうなんだが、血縁の兄妹と言う意味で)俺には真顔で言い切ることは絶対に無理だ。
「ケッ、お熱いこってこのシスコン野郎」
こういう意味だが。
こんなセリフを堂々と言われたら、俺が唾を吐き捨てるように愚痴を零すのは間違ってないだろ?
まあ、実際には唾なんか吐き捨てないが。みっともないからな。
「後で覚えておけよ?」
冷徹な視線を俺に向ける達也だが、そんなもの俺は慣れきっている。
「だが断る」
今度は逆に俺が心底面倒そうに言葉を吐き捨てる。
「あ、あの、司波さんの妹さんって、もしかして新入生総代の司波深雪さんですか?」
俺たちの間に漂う険悪な空気感に耐えかねたのか、柴田さんが話題を変えた。
まあ、基本いつも通りの空気だが、この子は優しいのか、それとも怖がりなのかね。
「もしかしなくてもそうだけど、柴田さんはどうしてそう思ったんだ?」
「いえ、深雪さんって言っていたのでもしかしたら、と思ったのと、お二人の面差しが似ていたので」
「そうかな。自分ではあまり似ていると思ったことが無いからな」
実際、達也と深雪ちゃんは、外見はあまり似ているとは思えない。
「いえ、お二人の凛としたオーラの面差しがとても似ていましたから。兄妹だと思ったんです」
囁くように話されたその言葉で俺は、柴田さんの眼を見抜けた。
――霊子放射光過敏症。
魔法師特有の知覚制御不全症の一種で、別名「見え過ぎ病」とも言われる体質だ。
だから、「症」と付いているが病気でもないし、障碍でもない。感覚が鋭すぎるだけだ。
――
どちらも「超心理現象」――科学技術な現代魔法もこれに含まれている――において観測される粒子で、物理的存在で存在が立証もされているフェルミオンやボソンとは異質な非物理的存在だ。フェルミオンやボソンの説明は
未だ仮説段階なので何とも言えないが、想子は意志や感情、思考を形にし、霊子は意志や思考を産み出す情動を形作っていると考えられていて、今現在も研究所等で仮説の立証実験が進められている。
普段、魔法の行使に適用されるのは想子の方だけで、現代魔法の技術体系も想子の制御に重点を置いている。
そのため、現代魔法を使う魔法師はまず始めに想子の制御する技能から覚えていく。
ところが霊子放射光過敏症者は、先天的に霊子放射光――霊子の活動(具体的には、生物の感情の起伏や精霊たち)によって発生する非物理的な光線を知覚して過敏に反応をしてしまう。
霊子放射光はそれを知覚している者の情動に影響を及ぼす。
それが根拠となって、霊子は情動を形作る粒子、という仮説が書き上げられたのだが、その為に霊子放射光過敏症者は精神面でのバランスを崩しやすい傾向にある。
それを予防するためには、第一に霊子放射光の感受性をコントロールすることなのだが、当然のことながら、10代から20代の若者には――感受性の強さにもよるが――比較的難しい。
そこで活躍するのが
通常のレンズに霊子放射光を遮断、又は軽減する特殊な被覆を施したレンズ。
コストが多少増えるため、症状の度合いで数百円から数千円程度の値は上がるが効果は高い。
軽度の霊子放射光過敏症なら、普通、中学生の時には既に制御が出来てくる。
だが、柴田さんはオーラの表情までもを認識し、判別するまでの大きく純粋な素質がある。
その分、フィードバックの大きさも相当なものだろう。
それは、
というか、おいそこ。気が付くのが遅すぎるとかヤジを飛ばすんじゃない。
「へぇ、オーラの表情なんて良く識別できたね。本当、柴田さんは凄く
俺は微かに殺気を滲ませて、細めた目で柴田さんの目を凝視する。
「――ッ!」
そう俺に指摘された柴田さんは、目を見開き硬直していた。
見破られたことに驚いたのか、それとも秘密が露呈したことを悔やんでいるのかは分からないが、良い印象の感情ではないのは確かだろう。
だが、ここらで釘を刺しておかないと、俺の秘匿事項も露見してしまうかもしれない。
その上、達也にも表沙汰にはしたくない事情が幾つもある。
ここで俺が悪印象を持たれても、俺たちの後の人生を安定して送る上で彼我の世界の線引きは必要なことだろう。
汚れ仕事は得意と言えるほどには慣れているさ、哀しいことにな。
「でも和くん、美月は眼鏡をかけてるよ?」
エリカの問いには無言で返し、明後日の方向を向く。
しつこくその理由を問い詰められると思ったが、その前に俺たちに対して声をかける人がいた。
「お待たせしました、お兄様方」
声のかかった方向へ達也は素早く振り向いた。
「早かったね、深雪。どうかしたのか?」
達也の言う通り、俺たちの後ろには深雪ちゃんが立っていた。
その傍らには、朝会った七草真由美生徒会長と、入学式の司会を務めていた先輩。いや、この場で見れば生徒会役員だと思われる男子生徒が付いていた。確か、服部先輩だったか。
「こんにちは、司波くん瀧波くん。また会ったわね?」
目線が合うと、七草会長は俺たちに向かってにこやかに挨拶をしてくれた。
俺は軽く腰を曲げて目礼で返す。
「そうですね、会長が先程仰せられた通りになりましたが。
さては、会長。こうなることを予見でもされていましたか?」
「さて、どうでしょうね」
「秘密、という訳ですか。これは追及できませんね、男としては」
「ふふっ、面白いことを言うのね。瀧波君は」
「この手のジョークは日常茶飯事なので」
俺の場合、主だっているのは胃の痛くなるような凶悪なものばかりだが。
「あら、そうなの。なんだか気が合いそうね、私たち?」
「滅相もございません。自分と会長では、量も質も段違いでしょうから」
「そうでもないとは思うけど、まあ、そうね。おいおいね」
くすくす、と七草生徒会長は穏やかに微笑んでいるが、俺の心情はそれほど穏やかじゃない。騒乱、と言っても良いぐらいかもしれない。
なぜなら、深雪ちゃんの無言の圧力が俺の背中に向けて掛けてきているからだ。
それも理由がひとつだけじゃないだろう。普段なら深雪ちゃんはこんなことでは苛立ちを向けたりしないし。
「深雪、お疲れ様」
「お疲れ様、深雪ちゃん」
達也が労いの言葉を掛けて、俺もそれに続いた。
決して、今日や明日の保身の為じゃない。それだけは断言させてもらいたい。
「ありがとうございます。それでお兄様方、その方たちは――?」
「ああ。今年一年同じクラスになった、柴田美月さんと、千葉エリカさんだ。それがどうかしたのか?」
「いえ、何も。ですが、お兄様方はさっそくクラスメイトと“逢引き”ですか?」
逢引き、なんて古風な物言いをする時は深雪ちゃんが相当怒っている時だ。
それに、あの総代答辞の後だ。来賓で出席していたお偉いさんやら、一科の先輩方やらに歯の浮くお世辞の集中砲火を受けていたのだと、容易に予想できる。
深雪ちゃんは回りくどいのはあまり好きじゃない。
その上、御世辞なんていう物は、深雪ちゃんの嫌いなものの台頭に上がる。
だから、深雪ちゃんの場合はそれがストレスとなって溜まりに溜まる。
それを察して余りあるほどに十字砲火を受けたのなら相当なフラストレーションだな。
(やべぇな、これは・・・)
その指向性のある怒気に冷や汗が背中を流れるのを自覚しながら、皆の顔を見渡すと。
「「「?」」」
俺が何故、自分の方を向いたのか理解できていないのが二人。
俺の意図を理解しているが、そんなことをする必要がないだろうという冷徹で無慈悲な視線を送るのが一人。
「そんな訳無いだろう、ただ深雪を待っている時間に話しをしていただけだから。
それに、そんなことを言ったら二人に失礼だろ? 深雪」
深雪ちゃんの状態を一目見て察したのか、ため息を一つ吐いて仕方がない感を出して話す達也。
その中にも、しっかりと深雪ちゃんを諭す言葉が含まれている。
流石だね、やっぱり。この対応の早さ、シスコンがなせる技ってことだろう。
「ッ! そうですね。非礼な物言い申し訳ありませんでした。柴田さん、千葉さん。
司波深雪です。同じ新入生なので、お兄様方同様よろしくお願いします」
「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」
「よろしく! アタシの事はエリカで良いわ。
あなたのこと、深雪って呼ばせてもらっても良い?」
「ええ、苗字だとお兄様と区別がつきにくいものね」
俺たちの前で、三人が改めて自己紹介をした。
柴田さんと深雪ちゃんの挨拶は、初対面の挨拶としては妥当なものだ。
だが、エリカは最初から随分と(良く言えば、だが)フレンドリーだった。
俺はエリカならそうするだろうと予感はしていたので別段驚かなかったが、何故か達也は戸惑っているらしい。
ハッ、まだまだ修行が足りんな、達也も。
それに、その当人である深雪ちゃんも俺と同じように気にした風もなく、頷いた。
「あはっ、もしかして深雪って見かけによらず、実は結構気な人?」
「貴女は見た目通り、開放的な性格なのね。よろしく、エリカ、美月」
それを見たエリカは快活に笑い、それに釣られて深雪ちゃん達も笑った。
「深雪。生徒会の方々との用事が済んだのか?
まだだったら、俺たちは校内で適当に時間を潰しているが」
「大丈夫ですよ」
達也の問いかけに答えたのは深雪ちゃんではなく、七草生徒会長だった。
流石の達也も予想外だったのだろう、完全に毒気を抜かれている。
「今日は挨拶させて頂いただけですから。
深雪さん……と私も呼ばせて貰ってもいいかしら?」
「あっ、はい」
会長に話しかけられ、打ち解けた笑顔をしていた深雪ちゃんも神妙な面持ちに変えて、真剣に応えた。
「では、深雪さん。詳しいお話はまた、日を改めて」
「しかし会長、それでは予定が……」
そして、それに食い下がったのは、今まで何も言わないでいた服部先輩だった。
「それは予めお約束していたモノではないでしょう。
私たちが勝手に、深雪さんの都合を加味しないで立てたものです。
他に予定があるのなら、そちらを優先するべきでしょう?」
「ですが……いえ、分かりました」
なおも食い下がろうとしていた服部先輩は会長の揺るがない表情を見て、渋々引き下がった。
「それでは深雪さん、今日はこれで。
それと司波くん、瀧波くん、いずれまたゆっくりとお話しましょう」
七草生徒会長の後ろに立っていた男子生徒はギロ、という擬音語が適切なほど、侮蔑と不満が多大に含まれた視線を俺と達也に向けてきた。
会長に対して抱いた苛立ちに邪魔な
瞬間に、それを俺は敵意と認識し、声を荒げようとした。
何せ、中学時代の信条は『売られた喧嘩は真正面から無利子で返す』だったもんだから、こういったことには我慢が利きにくい。
そしてその瞬間、達也にワイシャツごと襟首を捕まれて後ろにのけぞる。
「オイ、アンぐぇっ」
「和樹、やめておけ。今はやめておけ。この場だと深雪の外聞が悪くなる恐れがある」
「……分かった。分かったから。襟首掴むのだけは止めてくれ、酸素がたりな、い・・」
酸欠で声も満足に出せない状態で俺は首元をタップしてギブアップの意思表示をする。
「すまない、咄嗟のことで判断を誤った」
達也のことだ、わざとだろう。というより絶対にわざとだな。
「ゴホゴホッ、ったく、酷いったらありゃしない。朝稽古、覚えておけよ」
「だが断る。とでも言っておくか」
さっきと同じような応答を交わし、俺の呼吸が落ち着いたとき。
「ねぇねぇ、このあと甘いものでも食べに行かない?
出会いの記念と入学祝い、みたいな感じで」
エリカが口を開いた。
何を突拍子もなく、と俺は思ったがエリカなりの気遣いだろう。
「それは名案ね、エリカ。お兄様方、どうでしょうか?」
「いいんじゃないのか、深雪が行きたいなら俺は構わないから」
達也は相変わらず、深雪ちゃんのことにだったら余程のことじゃない限り唯々諾々だよなぁ。
「俺も構わないぜ。てかエリカ、入学式当日だってのにもう調べてあるのかよ」
「あったりまえじゃない! その辺は抜かりなしよ!」
「そうなの、深雪ちゃん?」
俺はエリカの答えが本当に正しいのか(常識的に、ではなく女性的にだが)深雪ちゃんに聞いた。
「はい、多少は私も調べてありますよ?」
この時、俺が見せた表情は大層、エリカのツボにはまったようでこの後20分は笑い続けていた。
どうもこんにちは、橘 柚子です。
久方ぶりの投稿でしたが、いかがでしたでしょうか?
まあ、今回の投稿遅れも色々と自分の都合でした。申し訳ありません。
今話の出来は、自分としては色々と反省がありますが、大方満足しております。
また、批評や感想、誤字脱字等々何かありましたらメッセージをよろしくお願いします。
最後に、この文章で楽しんで頂けたのであれば、こちらとも幸いです。
ありがとうございました。