「えー、電車くらい我慢出来ないの? 数駅だよ?」
「よく考えてみろ。例え数分だとしても熱湯風呂に浸かり続けられるのか?」
俺の言葉にホッキョクギツネも首を大きく縦に振って肯定した。しかも、大勢の人が乗る電車になんて乗ってみろ。俺たちはともかくキタキツネの存在がバレることに繋がるかもしれないのだ。
まあ、外に出て実家に行こうとしている地点で危険も何も無いのだが、キタキツネはアニメにも出ているキャラとして人気だからな。俺たちアプリ版にしかいなかった者とは注目度が違うのだ。
「まあまあ、フレンズになって体力も増えているので歩いて行ける距離ですよ」
「歩くのぉ?」
キタキツネは文句を言っているが、どうしようも無いのだ。熱湯(暖房)の中になど絶対に入れない。まあ、アニメとか見るとどんな地方でも行けているような気もするが、現実はそう上手くはいかないということだ。
キタキツネが案内を、ホッキョクギツネが地図アプリを利用して先導する。あれ、これ俺いらなくね。携帯も扱えなければ、電車にも乗れない俺って。
そうして、ちょっとした自己嫌悪に陥りながら人気の少ない道を選んで歩くこと十分ほど。キタキツネが何かを見つけたらしく、急に走り出した。
「新作のゲームだ! あれ欲しかったんだよね」
と言って昔ながらといった様相をしたゲーム屋の中へと消えていった。
「なあ、キツネ。これ……」
「キタキツネに見事にやられましたね……」
止める間も無く入っていったキタキツネ。まだ寒いこの頃、当然暖房がかかっているであろう店内には俺たちは入れなかった。
こうして、暖房のかかっている部屋に入れない俺たちから逃げ切ることは簡単だ。キタキツネは嫌だ嫌だと言いつつも、一度は帰る必要性が分かっているのだろう。まあそれにしても、待つしかないのは手持ち無沙汰だ。
「そこのベンチで座って待ちましょうか」
「そうだな」
そうしてホッキョクギツネと駄弁りながら待つこと数十分。ゲームを買ったのか袋を抱えて出てきた。そして、俺たちのほうを見ると気まずそうな顔をした。
「あっ……」
「キーターキーツーネー、絶対俺たちのこと忘れてただろ」
「ごめんなさい……。ゲームに夢中ですっかり忘れてた」
耳がシュンと垂れている。珍しくしょんぼりした顔だ。
「まあ、待つのは良いんだけどな。一言でいいから声かけてから行って欲しかったな」
「そうですね。キタキツネがずっとゲームを欲しがっていたのは知っていましたし、大丈夫ですよ」
「……うん、ありがと」
そんなこともありながらキタキツネとホッキョクギツネの案内の元、さらに十数分。一軒の民家が見えてきた。キタキツネの実家である。
「それじゃ、俺たちは向こうの公園で待ってるから」
「え……付いて来てくれないの?」
「これはキタキツネの問題ですから。私たちと行くよりも、きっと一人で行ったほうが良いですよ」
そうやってキタキツネを説得すると、ようやく覚悟を決めたのか家に帰っていった。
「さて、俺たちも邪魔にならないように行きますかね」
「そうですね」
公園にたどり着き、再びベンチに座る。しかし、お互いに会話は無い。きっとホッキョクギツネも俺と同じことを考えているのだろう。
キタキツネの前では家族と会ったことを覚えていないと言った。だが、全てを忘れたわけではないのだ。会ったという記憶は確かにもう曖昧にしか覚えていない。けれど、あの時に感じた筆舌にし難い感覚はまだ覚えている。
家族に会えて、安堵すると同時に暖かい気持ちになった。しかし、その暖かさはどこか、過去の自分を見て無理矢理そう思おうとしているようで。どこか、今は本当にそう思えているのか疑問に思ってしまう自分がいて。
今でもその疑問は解けていない。けれど、これがフレンズになるってことだと感じた。俺は、もうヒトでは無いのだから。
そうして待っているとキタキツネが帰ってくる。その顔は明るいが、どこか影があるようで。
主観ではあるが、家族に会ったことにより、今の自分の状況を認識したようにも見えた。
「さて、帰るか」
「……うん」
そのまま会話も無く、ゆっくりと歩いて帰る。
ふと、俺の携帯に着信が入る。操作に四苦八苦しながら、なんとか出ると聞き覚えのある声がした。
「ようやく見つけたよ」
次回最終話予定です。
こんな小説をここまで読んでいただき、ありがとうございます。