それは突然の出来毎だった。
駅を歩いていると、空から虹色に輝く光の粒が落ちてきたのだ。
なんとなく、綺麗だなと思って足を止めて見ていた。
ゆっくり落ちてくるそれを、受け止めようと手を差し出した。
触れた瞬間、眼前が虹色に染まり、意識が朦朧とする。立っていられなくなり、片ひざを付いてしまう。
虹色なんて明らかにやばい色に焦りが募るが、身体は動かない。
まるで、身体を作り替えられているかのように全身が熱く、それなのに感覚が鈍くなっていく。
やがて、熱の奔流が止まる。目を開けるともう視界は虹色では無かった。
そこは慣れ親しんだ駅の中。しかし、その光景は非日常そのものであった。
ヒトらしき者が大量に倒れている。
それらは全て女性のような姿をしていて、それでいてヒトでは有り得ないような耳や尻尾を持っていた。
「なんだ、これ……」
漏れ出た声に違和を感じた。まるで、女性のような落ち着いた声。
直ぐ様目に入った腕には、着た覚えの全く無い白く長い手袋のようなものをしている。ペタリと座り込んでいる足にも同じ色の靴下のようなものが。その先には厚手のブーツ、目線を上に上げていけば、着た覚えどころか、これまでの人生で着たことも無い茶と白のチェック柄のスカート。そして、この冬の時期に寒さなど関係無いと言わんばかりのヘソ出しスタイルのシャツと、やっぱり寒いと言わんばかりにスカートと同じ柄の入ったコート。
まるで理解が出来ない。
現状から目を背け、辺りを見回してみれば皆が皆同じような反応をしていた。
やがて、そんな皆の反応に遅れて反応したかのようにサイレンが鳴り響き、重装備をした警察が駆けてくるのが見えた。そして、理解が及ばず固まっている人たちを次々と回収していく。
「君、大丈夫か?」
「あ、はい」
「すまないが、今は緊急事態でね。応答が出来るなら、我々の後ろで避難することも出来るだろう」
そう言って、盾持ちの人は歩を進めていく。
何かを包囲しているようで、徐々に範囲を狭めながらあまりのことに固まってしまっている人を次々と後方へ渡していく。
もう何がなんだか分からなくてジッと見ていたら、誰かを捕まえたようだ。
どこかに「犯人を確保しました」と連絡したのが聞こえた。
それからたくさんの人が来て、順に耳や尻尾のある人に話しかけていた。
俺のところにも当然来た。
「あの、何が起こったの?」
「それがね、私たちも全く把握出来ていないのよ。一般人からいくつも大量の人が倒れているという通報があって、いつかのテロ事件の再発かと駆けつけてね。私も医者として出来ることがあるかもしれないと思って来たのだけれど、ここにいるのは皆、動物みたいな格好をした女の子ばかり。悪いところがあるわけでもなく、全ての人が自分はこんな姿じゃないって錯乱しているみたいで。何やらこの後、原因が判明次第説明をするために動物の姿をした女の子を一箇所に集めている最中みたい。というわけで、私も詳しいことは分からないから、あっちの護送車に素直に乗って貰えると助かるわ」
その女性が指さした方向には確かに、動物の姿をした女の子が乗り込んでいるバスのような車があった。
「ありがとうございます。一先ず、向こうに行ってみます」
お礼を言うと、女性はお大事にと返して他の人のところへ向かった。
さて、事態が全くのみ込めていないが、それはどこも同じらしい。ならば、大した用事も無かったのだから、説明を聞きたい。
俺は立ち上がって、護送車へと向かった。
ホッキョクオオカミ