作者の推測やオリジナル設定てんこ盛りですが皆さんに楽しんでもらえる二次創作にできるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。
空が青い。美しい黒の長髪をなびかせながら、少女は雲一つない晴天を見上げて漠然とそう思った。
空はこれほどまでに青いのに、そう思いながら少女、神裂はため息をついた。
「なぜ、私の心はこんなにも晴れないのでしょう......」
彼女、神裂火織は、天草式十字凄教と呼称される(もちろん裏側でだが)宗教組織のトップ、女教皇(プリエステス)と呼ばれる最高位に位置する存在である。
しかし、生まれつき『神の子』と身体的特徴が一致するために、他の人間よりはるかに優れた身体能力を持つ特徴を持つ『聖人』の一人である神裂は、自分が生まれながらに他人より特別な存在だからという理由で組織のトップとなっていることに、不安と恐れを抱いていた。
その立場の重圧はとても重いものであるのだが、神裂は生まれ持った責任感の高さと感情を抑え込む精神力の強さも相まって、そういった重圧に関する不安や恐れを一度たりとも誰かの前で口にしたことはなかった。
そんな神裂の元に、正確には天草式に依頼が舞い込んだのは、ある春の日のことだった。
「ここ......ですね 」
神裂が訪れたのは九州地方にあるとある集落の集会場であった。季節は早春、まだ若干寒さが残るこの季節、神裂は下はジーパン、上は安物の紺色のセーターを羽織っていた。隠れキリスタンを母体とする天草式はその祖先からの伝統を引き継ぎ、公的にはすでに弾圧がないとされている現代でも堂々と宗教活動は行わないのが習わしとなっている。そのため組織として公的に活動するためにいくつかのNGO団体やNPO団体を設立している。
神裂がこの集会場を訪れたのも、村役場からNPO代表として相談を依頼されたからである。だがそれは表向きの話である。いくら表向きにはNPOやNGOとして振る舞おうと、地域に密着し、地元に溶け込むように潜伏して信仰を繋いできた天草式の存在は潜伏先の地元ではよく知られている。実際昔から隠れ潜む隠れキリスタンを地元の人々は密かに支援してきたという歴史がある。
そのため現代でも、なにか地元で魔術的な問題が起こると天草式はその解決に協力してきた。
今回、神裂が呼ばれたのも、村で起こった魔術的事件に関することであったのだ。
「儀礼刀の盗難.......ですか? 」
「はい。さようですじゃ。村で代々伝えられてきた魔よけの大太刀が何者かに盗み取られてしまったのでごぜえます 」
村長の言葉に神裂は首を傾げた、儀礼刀の盗難は確かに村にとっては一大事に違いないだろうが、それ自体は魔術的事件とは言えない。過去にいわゆる結社予備軍と呼ばれる組織のメンバーが別の村に襲撃をかけてきたときは天草式総出で対応して追い払ったりしたが、今回はそういったことは必要なさそうである。
「あの......盗難なら、なにも私たちに依頼せずとも、警察に被害届を出せばよいのではないのですか? 」
神裂の言葉に村長は不機嫌そうに顔を歪めた。
「新しいトップの方は、なんで儂らがあんたがたのところに依頼したか分からんというのですか? 」
村長の言葉は神裂の胸に突き刺さった。
「私は....... 」
神裂が痛む心を抑えつつ、村長に言葉を返そうとしたその時だった。
「遅れてすみません。村長 」
元気の良い声と共に、部屋に一人の少年が入ってきた。
「あんたは? 」
「村役場からの依頼を受けてきました『島原デイサービス』の楠木です 」
少年の言葉にいぶかしげに彼を見ていた村長は破顔した。
「おお、よく来てくださった。まあ上がってくだされ 」
部屋に上がった少年、楠木は神裂に頭を下げた。
慌てて同じく頭を下げる神裂に少年は優しく微笑むと口を開いた。
「頭を上げてくれよ女教皇(プリエステス)さん。組織は違えど俺とあんたは同じ先祖を持つ間柄なんだからさ 」
楠木の言葉に神裂は思わず彼の顔を見つめた。
「あなたは...... 」
「同業者なんだから名乗っても構わないよな。俺は『島原式十字成教』のトップ、地域教皇(パープスト)を務める楠木和正だ。よろしくな 」
それが、同じ母体を持つ組織出身の2人の出会いだった。
「つまりは.......村から儀礼刀を盗難したのは魔術に関連するものである可能性が高いと、そういうことですか 」
「さようですじゃ 」
村長からの説明は要約すると次のようなものであった。
村に祀られている儀礼刀『七天七刀』は、村の中央にある神社にながらく安置されていた。村が誕生した時から土地に建てられていた神社に最初から安置されてたという。そしてこの七天七刀は、その置かれえている台座と刀を繋ぐように一枚のお札が張られていた。不思議なことにこの巨大な刀は村一番の力持ちが力任せに台座から持ち上げようとしてもピクリとも動かない上に張り付けてあるお札も破れないという不思議な特性を持っていた。村の人間はこの事象から刀を聖なるものとして扱い、今日にいたるまで大切にまつり続けてきたのだという。
「ところが今回、その台座のお札が破られ刀が持ち去られたと.......なるほど、確かにそれは犯人が魔術関連の人間である可能性は高そうですね 」
「その刀とは......どのような伝承を持つものなのですか? 」
神裂の言葉に村長は頷いた。
「儂もひい爺さんから聞いた話じゃからあいまいなのじゃが、なんでも昔この村に現れた七つ首の化け物を打ち倒すために神が天より授けてくださったものじゃと聞いておる 」
村長の言葉に神裂と楠木は顔を見合わせた。村長の言葉の真偽は定かではないが、もし事実なら村に祀られていた刀は、フランスの聖剣デュランダルや英王室の至宝カーテナ=オリジナルなどと同じようなレベルの霊装の可能性があるからだ。
「とにかくよろしくお願いいたしますじゃ。あの刀のおかげで村は始まって以来、今まで守られてきた、それを儂らの代で終わりにはしたくないのです 」
そう言って深々と頭を下げる村長に2人は必ず取り戻すことを誓うしかなかった。
「で.......ああ言ってしまいましたがいったいどうするつもりですか? 」
集会場から出た2人は、適当に歩き出しながら今後の方針について語り合っていた。
「そうだな......とりあえず現時点ではまったく犯人像がつかめないから、当日に何があったかを村の人間への聞き込みから把握。それと盗難された『七天七刀』に関する伝承の調査だな。この2つが分かればある程度犯人の予想が立つはずだ 」
現時点で今回の七天七刀盗難事件について分かっていることは1つしかない。それは、犯人は一般人では絶対に解けないレベルのおそらく魔術的封印を解くことのできる実力をもつ人物であるということである。
「まあ、あんたは聖人だし、おれもそう簡単にやられない程度の実力は持っていると自負しているからそこまで心配する必要はないと思うけどさ……ってどうした? 」
話していて、かなり浮かない顔をしている神裂にようやく気付いた楠木に神裂は沈んだ表情のまま顔を向けた。
「聖人聖人って......私の存在理由はそれだけですか......? 」
その言葉に神裂の思うところを読んだのだろう。楠木は、うーんと首をひねって唸った後、唐突に神裂の頭に手をやり、ナデナデした。
「!なにを!? 」
これまでの人生の中で幼少期を除いて、そんなことを他人からされた経験は神裂にはない。
「いや、少なくともお前俺よりは年下だろう?年上らしく慰めてやろうと思って......」
その言葉は神裂にとって初めてのものであり、心に響くものだった。同じ天草式のメンバーで自分を『慰めようとする』人物など今までいなかったのだ。そんな楠木に素直に感謝の意を表しようとした神裂だが、次に楠木が言った言葉が彼女を硬直させた。
「まあ、1歳か2歳しか違わんのに年上だかどうだかと言っても仕方ないかもしれんけどさ 」
「....... 」
楠木の言葉によって妙な沈黙が生まれてしまった。
「......あれ?......俺、なんか変なことを言ったか? 」
「楠木......さん...?一つ質問しても、よろしいですか? 」
「ん?ああ、別に......ひ! 」
神裂の質問に対する楠木の返事の語尾が跳ね上がっているのは、直後に神裂が全身から放つどす黒いオーラに気づいたからである。
「あなたは、いったい私を何歳だと思っているのですか? 」
「え......っと....いや、あのさ…… 」
「ご安心ください......よほど間違った答えでない限りなにもしませんから....... 」
「(怖!威圧感が半端じゃないんだがこれ!) 」
そう心の中で思いながら、しかし恐る恐る楠木は口を開いた。
「えっと、17ブフゥ!!!」
再び語尾がおかしくなっている楠木だが理由はただ一つ、聖人としての超人的な腕力による必殺パンチで宙高く打ち上げられたからである。
「大外れだよど素人がァ!私は11歳だあァァァァァ! 」
響き渡る神裂の怒声を聞きながら、いやその見かけでそれはないわ……と呟きながら楠木は派手な土煙を上げながら墜落した。
登場人物紹介
1.神裂火織
いわずとしれた『聖人』であり実力者。ただしこの時点では『七天七刀』を所持してはいない。物語開始時点で11歳。だが和正には17歳に見られらていた。すでにその時から天草式のトップとして崇拝されていたが、本人は自分にその資格があるのか疑問を持っている。
2.楠木和正
天草式とは別の隠れキリスタン組織を母体とする十字教宗派『島原式』に属する魔術師の少年。NPO団体『島原デイサービス』からの代表として集会場を訪れる。