とある聖女の過去目録   作:烈火信仁

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神社と少女

「すいませんでした......つい、かっとなって......」

集会場前での邂逅から数時間後、依頼があった七尾村唯一の図書館で、2人は村にまつわる『七天七刀』に関する伝承を調べていた。

 

「結果的には、とっさに耐衝撃用術式を張っていたから軽微で済んだから良いけどさ......お前、たしかに女の子に歳を聞いた俺も悪いけど、もう少し感情を抑制しろよ? 」

 

実際問題として、それなりの腕を持つ魔術師である楠木だからこそ軽微で済んだのであって、年齢を間違われるたびに、発作的に吹っ飛ばしていては、無関係な重傷者(下手すれば死人)を出しかねない。

 

「わかっています......自分がキレると歯止めがききにくいことは理解しているのですが...... 」

 

申し訳なさそうに委縮した声で言う神裂に楠木は幾分か声を和らげて言った。

 

「これはどっかから聞いた言葉だけどな、大いなる力には責任が伴うってことだ。その力は決してお前が望んだものじゃないだろうが.......持ってしまった以上は責任をもってつきあっていかなくちゃならない。責任をもって力を使い続けていればいつかその力が『望んだ力』になってくれるさ 」

 

楠木の言葉に頷き、神裂は手元の村の伝承を記した資料に目を移した。

 

資料に記されてるのはほとんど村長が語っていた通りのものだった。

 

大昔、記録によれば村の作物や家を破壊し、村人を襲い食物としてしまう七つ首の巨大な怪物『七頭龍(なずりゅう)』がいた。

 

困り果てた村人は村でもっとも霊感の強かった少女を介して神に救いを求めた。

 

すると神は、少女を介して村人に救いを約束した。

 

その翌日、いつものように村を襲いに来た七頭龍だったが、例の少女が祈りを捧げると突如天から七本の光輝く刀が降り注ぎ、ほぼ同時に七頭龍の七つの頭を切り落としたという。

 

そして神はその七つの刀を一つにして打ち直し、一本の巨大な太刀『七天七刀』を七頭龍をその地に封印する神器として少女に授けた。

 

以後『七天七刀』は、村の大切な宝として守られてきたのだ。

 

「伝承から考えるに確かに、奪われた七天七刀は、相当貴重な霊装な可能性が高そうですね」

 

神裂の言葉に楠木は頷きながら、こちらも資料をめくっていった。

 

「古来より神が人に授ける道具......いわゆる『神器』は、その国を代表するかのような強力な霊装であることが多い。有名どころではギリシャ神話に登場し、いまやギリシャ西教を象徴する霊装、メデューサ―の首を埋め込んだ無敵の盾『イージス』。イギリスのブリテンの伝承に語られるアーサー王の聖剣『エクスカリバー』。八岐大蛇の腹より出でて後にヤマトタケルノミコトの手に渡る神剣『草薙の剣』。いずれも一国の運命を左右しかねないレベルの霊装だ.......もし七天七刀がそれと同等の霊装だとしたら、利用されたらとんでもないことになりかねない 」

 

「しかし、この伝承を見る限り、この神器が七頭龍と呼ばれた怪物を倒すために使われたこと以外には何もわからないです。具体的にこの霊装がいかなる手段をもって使われるのか、そもそもどのような効果を持つのかさえ.......」

 

「現時点でも資料から考えられることはいくつかある 」

 

楠木は資料の中の一文を指差した。

 

「ほら、ここの文。『少女の祈りに応えし神は......』 ってあるだろ?ってことは、おそらくだが、この霊装の発動の為には、この伝承で神に救いを求めた霊感を持った娘の血筋の人間が必要ってことなんだと思うんだ 」

 

楠木の推測に神裂は感心させられた。確かにその可能性は高い。神話などにおいて伝説級霊装の発動条件が血筋であることはよくある話である。

 

 

「このあたりを村長に聞けば、事件解決の進展になるかもしれない......ただ、少し村長には酷なことになるから覚悟が必要かもな 」

 

「というと? 」

 

「もし俺の推測が立っていた場合、今回の犯人について新たな予想が立てられるからさ。1つは、もし少女の血筋を持つ人間の存在が霊装発動の為のキーだったとすると、その誰かさんが狙われる可能性が高い、あるいはすでに襲われている可能性があること。もう一つは、村の封印を解いたのは村人そのものかもしれないという可能性が出てくることだ 」

 

 

楠木の推測に村長は首を振って肯定した。

 

「いかにもおっしゃるっとおりですじゃ。七天七刀をあの台座から外すことができる者は、伝承に語られる神に願いし少女、神居くしなの血筋を受け継ぐ女子だけとなっております 」

 

「その血筋の人は今この村に? 」

 

「はい、今も神社の境内にいると思いますじゃ」

 

「その方の名は? 」

 

神裂の言葉に村長は静かに答えた。

 

「名を神居愛華と言いますじゃ 」

 

 

同時刻、七尾村において長らく七天七刀が安置されてきた村唯一の神社である『七頭龍神社』の境内では美しい緑の長髪をポニーテールにした少女が境内の落ち葉を竹ぼうきではいていた。白と赤の巫女衣装を身に纏う16歳程度に見える少女は、ふとそのほうきを止め、神社の入り口にある鳥居のほうに目をやり呟いた。

 

「来たわね.......」

 

そう少女が呟いた直後、赤い鳥居がかすんでしまう様な真っ赤な閃光と共に、なにかが空中で砕け散った。

 

「ふん。結界......か 」

鳥居をくぐって堂々と入ってきたのは黒いスーツを着込んだ、銀の短髪の外国人だった。

 

「極東の田舎者どもが作り上げたにしては立派なものだったが、われらの手にかかれば造作もない 」

 

「私たちから七天七刀を取っておいて、今度はなにをつるつもりかしら? 」

 

「言わなければ分からないか?カムイマナカ、貴様があのジャパニーズブレードを使うための最後の鍵だ。おとなしく従ってもらおう 」

 

「わたしがおとなしく従うとでも? 」

 

「貴様程度では私一人にも抗えまい。それに村の人間に助けを求めようとしても無駄だ。このあたり一帯には『人払い』が仕掛けてある。たとえお前たちが多少魔術に接しているとしても、われらの仕掛けたレベルのものを解除することは不可能だ 」

 

そう言うと男は腰に携える鞘から西洋のロングソードを抜き放った。

 

「再度言う。これが最後の警告だ。おとなしく従え 」

 

男の言葉に少女、愛華は言葉の代わりに、胸元から懐剣を取り出し鞘から抜きはらうことで応えた。

 

「そうか.......ならば、痛い思いをしてもらおう! 」

 

言葉と共に男が勢いよく飛び出した。

 

超人的な速度で迫る男に対し、愛華に抗するすべはない。彼女のできるのはその手に持つ懐剣に力を込めることだけである。

 

男の持つロングソードの鋭い切っ先がまさに愛華の肌に触れようとする、その直前だった。

 

「七生報国! 」

 

高らかな少年の叫び声と共に掲げられた日本刀が、男の振るうロングソードを鈍い音と共に防いだ。

「な......!? 」

 

「間に合ってよかったぜ、小龍景光をいつも持ち歩ければこんなに慌てずに済むんだがな 」

 

驚愕し、硬直する男だが、彼が固まっていられたのもほんの数秒だった。

 

「はあ!! 」

 

なぜなら裂ぱくの気合い共に突っ込んできた神裂の回し蹴りが彼の身体を凄まじい勢いで後方に吹き飛ばしたからである。

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!!??」

 

訳が分からないまま派手に後方に吹き飛んだ男は、神社の宝物庫の壁をぶち破って吹き飛んだ。

 

「さすがは聖人......っといけない......大丈夫だったか神居愛華さん? 」

 

「あなたたちは......? 」

 

「村長の依頼を受けてきたNPO団体......って建前の魔術組織『天草式』と『島原式』の両方のトップだ。俺は楠木和正、あっちの、今やつを蹴り飛ばしたのが神裂火織だ 」

 

「安心してください。私たちは隠れ潜んできた異端の宗派の人間……彼らとは相いれないですし、彼らが私たちを受け入れることありません…… 」

 

「ああ、そうだな。あんたらがなんでここを狙ったか知らねえが止めさせてもらうぜ。ローマ正教、『異端審問官』の誰かさん? 」

 

 

 

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