とある聖女の過去目録   作:烈火信仁

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とある男と異端審問

「異端......審問官? 」

村長から話を聞いた後、神裂と楠木はくだんの少女、神居愛華がいるという七頭龍神社へと足を向けていた。

 

その道中で楠木が口にしたある組織の名に神裂は信じられないといった調子で首を傾げた。

 

「俺の知っている限り神話級の霊装の封印を解除できる力を持つ組織は数えるほどしかないが、その中で、いま狙う可能性がある組織と考えた時に浮かんだのが異端審問官だ 」

 

そもそも異端を取り締まるというと、十字教三大宗派の中でもイギリス清教がそのイメージが強いが、決して他の宗派がそれを行っていないというわけでもない。

 

十字教最大宗派であるローマ正教も例外ではない。というよりローマ正教は十字教三大宗派の中にあっても特に他の宗派や宗教に対して排他的な風潮を持つ組織である。

 

そのローマ正教において『異端狩り』に特化した組織が楠木が口にした『異端審問官』を多数保持する一大組織『異端審問局』である。

 

公的には、20世紀のはじめごろには解体された組織とされているが、その実、現代でも騎士団に次ぐローマ正教の貴重な実戦戦力として活動していることは、魔術業界ではよく知られた話である。

 

「しかし、もしその通りだとして......なぜローマ正教がこんな......言い方は悪いですが、田舎の一地方伝承にまつわる霊装を狙うのでしょうか? 」

 

「さあな、そこは俺もわからん。ただあの組織はまるでダイオウイカのような長大な触手を世界中に伸ばしているが、肝心の爪、武力が圧倒的に不足しているからな。なりふり構わず力を欲しているのかもしれねえ 」

 

「なるほど、しかしそもそも十字教に属する異端審問官がどちらかというと日本神話系の霊装を使うのは無茶があるのでは? 」

 

神裂の疑問に楠木は苦笑して応えた。

 

「俺たちだって十字教をベースにしてはいるが、多角的にさまざまな宗教の要素を取り入れているだろう?それにまあ......異端審問官の役目はなにも『異端を滅する』だけじゃないからな 」

 

それは?と神裂が問おうとしたとき、彼らの前方で真っ赤な閃光が走った。

 

「この感覚......人払いをかけたうえでの防護術式の破壊? 」

 

「そのようだ......どうやら俺の考えはビンゴだったみたいだな 」

 

そう言うと高杉は光に向けて駆け出す.......と思ったらそちらに背を向けて走り出した。

 

「え?ちょと、どこに行くのですか! 」

 

「得物を取ってくる! 」

 

というわけで得物、日本刀『小龍景光』を持った楠木と神裂は間一髪、神居愛華の保護に成功したのである。

 

 

「く......貴様ら......見覚えがあるな。そちらは天草式、こちらは島原式か......この異端どもがぁ! 」

 

突っ込んだ宝物庫から傷だらけで出てきた男は憎しみに身をたぎらせて怒鳴った。

 

「異端審問局極東副支部長、ヨハネ・エルグマンの名において、その女もろとも地獄に叩き落としてくれる! 」

 

ヨハネはその腰元からなにやら小さなラッパのようなものを取り出し、口に当てた。

 

2人が身構えた直後、ラッパが高らかに音色を響かせる。

 

直後、ヨハンの頭上がゆらりと蜃気楼のように揺れた。それと同時に突如そこに巨大な火柱が姿を現した。

 

「!」

 

「な? 」

 

驚きの声を上げる2人に口元を歪めて笑みを作りながら、ヨハネは再びラッパを吹き鳴らす。

 

火柱は音色を待っていたかのように、勢いよく巨大な火の玉となって、楠木達に向かう。

 

「死ねぇぇぇぇぇ! 」

 

ヨハネの絶叫と共に火の玉は楠木達3人に激突した。

 

「うははははは!どうだ、見たか!これがわれらの力…….まて…… 」

 

確かに火の玉は目の前の敵を捉えた。だがそれ自体が異常だということにいまさらながらヨハネは気づいた。

 

なぜなら本来ならあの火の玉は、敵である3人を飲み込んでいなければおかしいからである。

 

「黙示録のラッパ吹きの記述を基にした術式か.......確かに強力な術式だな 」

 

まるで炎の壁のように真上に伸びている火球の向こう側から楠木の声が響く。

 

「だが威力不足だ。そもそも7つの封印の内の7つめであるラッパ吹きを再現したいなら『4騎士』を初めとした各封印の要素を取り入れて順序通り行わないと、正確な効果は出ない。厳密な手順を踏まなきゃ正確な効果を出せないところが単一宗派の痛い欠点だよな 」

 

「貴様、何をした? 」

 

「なに、言うならば俺のご先祖様の力を借りただけだ 」

 

楠木の言葉と同時、巨大な炎の壁が崩れ、その向こうにそれが姿を現した。

 

「軍神の血筋の俺だからできる術式さ。大楠公の偉業を再現する術式……七生報国だ 」

 

そこにあったのは、土づくりの巨大な城郭だった。見る者が見ればその形状がかつて、楠木正成が鎌倉幕府の大軍を相手に立てこもった山城『赤坂城』とうり二つなことに気づくだろう。

 

「馬鹿な......一瞬でこれだけの魔術的造形物を.......? 」

 

驚愕するヨハネに向けて白の中央位置するやぐらに立つ楠木は、その手に握る小龍景光を明確に向けた。

 

「さて.......それじゃあ......その娘(こ)を連れて飛べ神裂! 」

 

そう叫ぶと共に楠木は刀はやぐらから飛び降り勢いよく小龍景光の刀身を地面に突き立てた。

 

「楠木軍法術式が一つ、赤坂......炎上! 」

 

その言葉と共に、ヨハンの攻撃によってすでに城壁に炎を纏っていた赤坂城がさらに巨大な豪火を発して燃え上がった。

 

そしてその炎を纏った状態で、呆然とたたずんだままのヨハネを巻き込むかたちで倒壊したのである。

 

「楠木は負けても終わらない......赤坂の戦訓たっぷり味わえたか?異端審問官 」

 

 

 

 

 

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