魔王のガワだけで彼はこの先生きのこれるのか。 作:ボーヒーズさんちのジェイソン君
△月○日
前回の日記から思いがけず日があくことになってしまった。
筆不精のせいか、日々の生活に追われているとこんな日記を書くのも忘れていることが多いのは困りものである。
あれからしばらく、4人で家の裏の空き地に畑を作ったりそこに食べられる野草を植えたりしていた。
植えている野草の方も連日探索しているためか、野蒜に浜大根、野良牛蒡と可食部の大きい野草が見つかっておりかなり順調だと言えるだろう。
というか、こんなに食べられるものが近場にあるのに村の連中は何をやってたんだ…?
まあ、あの世に来てまで働きたくないってことか。
植物の栽培には堆肥が良い、と前々世で聞いたことがあったが残念ながら作り方を覚えていなかったため断念した。代わりに、刈った草や落ち葉を土に混ぜて発酵させた腐葉土を使うことにしてみると、案外それが良かったのか畑は今のところ順調である。もうしばらくすればコンスタントに食事をすることも可能になるだろう。
3人組の方は今の、俺が数日おきに小動物を獲ってきて焼いて塩で食うのも嫌ではないようだが、せっかくだから野草を有効利用したい。
死後の世界でビタミン云々言うつもりは無いが、単純に気分の問題である。鼠や兎、蛇といった肉の量の割りに骨が多い小動物にいい加減辟易しているのだ。
猪や鹿といったそこそこ大きな獣もいるようだが、不思議と罠にはかからない。狩猟者がいないせいで寿命が長くなってるからある程度知能があるのかもしれないな。
畑を荒らされたら困るし久しぶりに肉をたくさん食べたいので今は罠を改良中である。
他の村人たちに関しては特に語ることは無い。
最初の数日は放置されていたがウチが畑を作っていることが知られ始めると、数人の村人による襲撃が日常茶飯事になってきた。まあ現代で言うスラム街のさらに酷い感じな村で、一箇所だけ人間らしい生活をしていたらそりゃ略奪してやろうとする阿呆も湧いてくるわな。
とはいえ肉を1~2日に1回は食べている4人に対し、年単位で何も食べてない村人では相手にもならない。食べなくても生きていけるとはいえ、あくまで個人のイメージかもしれないが飯食わないと力が出ないしなあ。
そして畑は完全に無傷とは言わないが、8割がたは今のところ無事である。柵の近くのいかにも盗みやすい場所の
仮に運よく盗み出すことが出来ても、今度は俺が耳飾をつけたまま村を
そういえば何人か我が家のおこぼれにあずかりたいのか、畑の前で項垂れている連中を見た時は驚いたが、3人組にローテーションを組ませて畑とホームレスの間あたりで刀の素振りをさせるとすぐに居なくなった。
夜中に盗りに来る可能性も考えて鳴子と柵も作ってみたが、今のところ取り越し苦労だったようだ。
…というか、ふてえ奴らだ。我が家にはニートを飼う余裕はありません!なんだかんだ言って3人組だって畑作業とか木工工作をしているのだ。
彼らを差し置いて赤の他人にやる食べ物は無い。
そして3人組といえば、彼らの俺に対する視線がたまに怖い。いや、思考を覗いてみたが復讐を企てているわけではないらしい。
どういうことかと言うと、例えばこれはつい2時間ほど前の話だが、栄太郎が拡張した畑には何を植えればいいか聞いてきたので適当に指示をして一緒に作業することを伝えると嬉しそうに頷いた。そこに慌てて瓶一郎が来て、栄太郎を押しのけて今日の作業について聞く。さらにそれを遮るように清太が…という具合である。
作業はほとんど変わらないはずなのに何故毎日こんな事を聞くのか、俺はてっきり彼らの頭が弱いのだと思い追求せずにいたがこれは明らかにおかしい。
耳飾を出し、たまたま一番近くにいた清太の顔をじっと見てみる。清太は最初、困惑している様子だったが何かに気づいた様子だった。というか勘違いしていた。そして俺は彼らの頭の中身を覗いたことを後悔することになったわけだ。
……まさか、全員がホモマゾペドの3重苦になってるとはなあ。どこでそんなメガ進化をしてきたのやら。
いや、アレか。会って早々に
自分が原因で3人をとんでもない方向へ誘導してしまったような気がするが、まあ気にしないでおこう。彼らは彼らなりに今幸福を感じているらしいし。
ただ、今夜からは布団は3人から少し離して、かつ刀を布団の中に忍ばせておくことにしよう。
男として生まれた以上、そっちの貞操はたとえ命をかけても死守するべきだと思うのだ。
△月△日
村の新入居者……新入霊?まあいいや、新入居者が来た。
実のところそれはどうでもいいのだが、同行していた死神に交渉して調味料と植物の種の調達を依頼した。代金は摂れた野菜で先払いしたが、かなり意外そうにされていたのが心外だった。
郷に入っては郷に従えとは言うが、わざわざ世紀末世界に染まる必要もあるまい。
翌日には種を持ってくることを快諾してくれたことを死神に礼を言うと、代わりに新人たちの世話を任されたことには閉口したが。
この村に来る連中なので例によってガラが悪いことこの上無い奴らである。
俺が何から説明するべきか思案していると、ひときわ体の大きい侍風の男が舐め腐った態度をとってきた。多少我慢はしたのだが、それで調子に乗ったようで小突いてきたためこれも回りまわって彼のためと思い教育的指導をしておいた。
地面の一部になって痙攣する男を見たおかげで他の面子への説明は非常に簡単ではあったことだけはありがたかったな。
新人をテキトーに村の家に割り当てた後、今度は
流魂街の中にある
村人の多くは会話をする前に襲ってくる肉食系か、そもそも反応が無い草食通り過ぎて植物系の連中ばかりなので何気ない話をする相手は案外貴重だったりする。
この数ヶ月3人組とおっさんと、話し相手が4人しかいないしな。
相変わらず地面に座り込んだまま寝ていたオッサンに手土産を渡すと、嬉しそうに礼を言われた。
瀞霊廷を守っている門番とはいえ、基本的には特に仕事も無くて暇なんだろう。村はずれだから誰も来ないし。
瀞霊廷や死神について聞いてみると、案外色んなことを教えてもらえた。
とはいえ隊の構成や瀞霊廷内で旨い飯を出す店といったような、それほど重要ではないことであったが。まあ俺自身も明確に何かの目的があって話題にあげていたわけではなく、なんとなく聞いてみただけだったが話口が面白かったのもあり、それなりに興味をそそられたのだった。
見た目はゴツいが人当たりも良く、案外世話好きのようで門番などと
△月×日
なんか
ここ数日は恒例となりつつある村人からの襲撃を撃退している最中、あわや棒で殴られそうになったのだが、体から染み出た淡い光の球体がそれを防いでくれたのだ。
防いだ方も防がれた方も一瞬呆然としていたが、ここが好機と気をとりなおし、とりあえず相手の中年女の顔に拾った石をめり込ませておいた。
そうこうしていると相手は怪我人多数、こちらはせいぜいがかすり傷程度だったため、自然と村人たちは退却していった。
3人組には日頃の農作業と素振りをさせていた成果が出た形だ。
3人組は波について聞きたがっていたが、俺自身もなんであんなものが出たのか分からんので説明のしようがない。もしかしてドラゴンボール的な世界なんだろうか、ここ。
一度使うことが出来たからだろうか。その後も同じように波を出すことが出来、いくつか分かった。
まず、この波は大きくて抱える程度、小さくて野球ボールくらいの大きさが出る。堅さは硬球くらいか。そこそこ硬いが、金属ほどというわけではないらしい。出した直後は俺の意思に従ってその場で停滞するか、直進するようだ。直進させた後コースを変える、ということは出来ないらしい。そして、出して数秒でかき消える。何かに当たっても爆発するわけではないから気功波的なものではないのか?それか単純に俺の扱いが下手なのか。うーん。
それと最後だが、これを使うと妙な話だが腹が減る。
死んでいるのに空腹感を感じるのだ。もしかすると俺の体内のエネルギー的なものを外に放出する能力だったりするんだろうか。
...イカンな。普通に考えて異常な事態だというのに、楽しんでしまっている自分がいる。前世での失敗は繰り返したくないものだがテンションが上がるのも事実なんだよなぁ。
雰囲気的に子供の頃にかめ○め波の練習したりしてたのと同じノリだろうけど。
△月○日
昨日から練習している『波』について分かったこと。
『波』をその場で出すのも直進させるのも体力の消耗はほとんど変わらない。これは朝夕に何度か確認しているうちに気がついた。
あと、体力の残量が関係してるのか、それとも意識レベルの問題なのか気絶寸前まで体力を使った状態だと『波』は最初からまともな形にならず、黄色い霧のような状態で出てきてすぐに消えただけだった。ちなみに昏倒したものの村外れにある誰も寄り付かない森の中で検証していたため、貞操については心配するような事態になっていない。余計な話かもしれんが一応ね。
それからこれは未検証の思い付きなのだが、『波』の密度を変えて金属くらいの硬度を持たせることは可能なのだろうか。それから、今のところ球形のものしか出せていないが様々な形にすることは出来るのだろうか。例えば、今の俺はせいぜい抱える程度の大きさを1回出せば体力の大部分を持っていかれるわけだが、そのサイズで中身を空洞にして表面の密度を上げる、なんて芸当は可能なのか。加えてこのキャパシティーは成長する余地があるのか。成長するとしてそれは体力という意味なのか。それとも別の何かなのか。
唐突に得た新しい能力は丁度いい玩具だった。
一応は超能力者だったりはしたが、派手さとは無縁の能力だったため連日テンションがうざったいくらい上がっている。
そんな感じで、俺の流魂街77区・麻倉での生活は相変わらずガラは悪いもののある種順風満帆に過ぎていっていた。まあ死後ではあるんだが。
書き溜めを早々に消化したので不定期更新オン!