Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃
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11話 ジャック・ザ・リッパー

「アキレウス、少し話があります」

 ミレニア城塞の物見台で一人座り込んでいた赤のライダーの元に黒のアーチャー、ケイローンが現れる。アーチャーはライダーの横に座り込む。

「こうしていると、昔を思い出しますね」

「いや、まさか先生と共闘することになるなんて思っても見なかったぜ」

 当然だ。アキレウスは赤のライダーでケイローンは黒のアーチャー。お互い本来敵同士なのだ。現にこの状況になるまで殺し合っていた関係だ。

「なので改めて問いたいのです。貴方ははライダーとして召喚されたにも関わらず、槍の力を最大限にまで使用できていることについてです」

「槍……?」

 宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)、アキレウスの持つ槍の宝具。元々はケイローンがアキレウスの両親に送ったものであり、それをアキレウスが使っているのだ。

「貴方はライダーとしての宝具とランサーとしての宝具の二つを有しています。その場合本来ならばライダーとして召喚された以上槍の能力はある程度制限されるはずなのですが、その様子もない」

「それな、俺も少し気になっていたんだ」

 気になってはいたが、気持ちよく戦えるから気にしていなかった。というのがアキレウスらしいというのだろうか。ケイローンっは小さくため息をつく。

「貴方と同じ性質を持ったサーヴァントがこの世に現界しています」

「……赤のアサシンか」

 赤のアサシン、セミラミス。彼女はアサシンでありながらキャスターとしての側面も持ち、あの空中庭園を宝具として生み出したり魔術を行使していた。実際黒のライダーは彼女をキャスターと誤認したこともあったと聞く。

二重召喚(ダブルサモン)というスキルが存在します。と言ってもこれは三騎士との組み合わせは出来ないのですが……」

 二重召喚(ダブルサモン)とは召喚の際に特殊な条件付をすることによって二つのクラス別のスキルを保有することが出来る、極めて希少なスキルである。だがこれにも制限があり、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの四騎士での組み合わせしか存在しないのだ。

「つまり俺のこれはそれとはまた別ってことか……」

「もしかすると貴方のマスターが特別の可能性もありますが、貴方はランサーとしての側面も持つサーヴァントであることを、自覚してもらいたい」

「俺が、ランサー……ね」

 確かに今考えると俺が普通に槍を全力振るっているのはおかしな話だ。ライダーであるなら戦車で戦うのが筋なのだから。

 

 

 

 

「黒のアサシンのマスターは元々はユグドミレニアの魔術師である相良豹馬(さがらひょうま)になる予定だったけど、召喚のために日本に旅立った後連絡が取れなくなったと」

 単純に考えるとサーヴァントの召喚後、サーヴァントを奪われて殺害されたということになる。そして現在ルーマニアで切り裂きジャックとして注目を集めている。

「ユグドミレニアの力でここ最近のルーマニアの入国記録とかって見れないのかな?」

「可能だ、少し待ってろ」

 カウレスは慣れた手付きでキーボードを叩く。それを見ていたフィオレはまるで現代の技術がわからないような顔で見守っている。

「これだな、ここ一週間分くらいはあるはずだ」

「この中で私と獅子劫以外の日本人はーー二人か」

「レイカ・リクドウと、ロウカ・リクドウか」

「まぁあくまで私の憶測なんだけど、これの片方は黒のアサシンだね」

「黒のアサシンか、因縁だな」

「……ですね」

 それを聞いていた獅子劫とフィオレが呟く。

「何、二人知ってるの?」

「私は直接対峙していませんが、そちらが……」

「一度アサシンとやり合った」

「……どんなサーヴァントだった?」

「確か……あれ?」

 岸波の問いに答えようとするも、獅子劫は頭を抱えだす。

「……思い出せない。なんかこう、記憶に霧がかかっているような」

「……何かのスキルか」

 この様子だと獅子劫だけでなく、直接戦ったであろうセイバーに聞いても同じ反応をされそうだ。

「恐らく相手は記憶を操作するスキルか宝具を所有してる。気をつけないとね」

「それで、どうやってアサシンに協力させるのですか……?」

「とりあえずサーヴァントを無力化させる。その上で命を助けてほしければ協力しろという」

「如何にも悪人の考えそうなことだな」

「うるさい悪人面」

 獅子劫、今のはボケてるってことでいいんだよね。

「アサシンはトュリファスに潜伏してると思う。魔術師を狙ってね。だから私含めて三人くらいで囮になって、アサシンをあぶり出す」

「セレニケとこちらのライダーを同行させましょう。あとは……」

「俺が行く」

 唐突に話を切り出したのはカウレスだった。

「俺だってマスターの端くれだ、囮くらいにはなるさ」

「……あとアーチャーも借りてってもいいかな、狙撃できるやつがほしい」

「わかりました、アーチャーにその旨を伝えておきます」

「よし、結構は明日。ちゃんと私服で来てね」

「ご健闘を祈っています」

 

 

 

 

 トュリファスの街に入るのは簡単だった。岸波は久しぶりの私服に違和感を感じていた。

「なんか、落ち着かない」

「まぁ最近戦いばっかだったしな」

 同じく前に私服を買ってもらっていたライダーもラフなカッターシャツに身を包み、椅子に座りながらマグカップを片手に岸波の言葉を返す。

「戦士には休息も必要だ、こういう時間は大事だぜマスター」

「……そのマスターっての今はなしで」

「は?」

 ライダーは不意を疲れたような表情をする。

「それだと囮にならないから、私のことは名前で呼びなさい、私もアキレウスって呼ぶから」

 本来なら真名呼びなんて言語道断。だが現在に至っては別だ。聖杯大戦で、天草四郎はルーラーとしてのスキル『真名看破』によって全てのサーヴァントの真名を知っている。今更隠すのも、おかしな話というものだ。

「でも黒のライダーも先生もトュリファスから離してサーヴァントは出来るだけ遠くに居させてるのに、なんで俺だけマスーー……あんたと一緒に行動してんだ?」

「ああ、それ。だってあんたの足だとどこにいても同じでしょ、逆に警戒されちゃう」

 成る程、とアキレウスは納得したように首を縦に振る。確かにどこにいるかもわからず、だがどこにいてもすぐに現れてしまうサーヴァントが目の届く範囲にいればそちらの方が相手も岸波やユグドミレニアの魔術師を襲いやすい。

「と言っても本当に来るのかな」

「来るだろ、奴さん大食いみたいだからな」

 今までの殺人事件の量から考えれば黒のアサシンの魔力の燃費が悪いのは一目瞭然。そしてしばらく殺人が起きていない以上、相手も痺れを切らしてこちらを襲ってくるに違いない。

「……アキレウスはさ、なんで聖杯に何を望むの?」

「なんだよいきなり」

「なんとなく」

 岸波はマグカップに残っていた飲み物を飲み干し、アキレウスに視線を傾ける。

「……英雄として生き、英雄として死ぬ。俺の望みは生前から変わらねえよ」

「……英霊って、皆そんなものなのかね」

 え、今私は何を言ったんだろう。皆そんなもの、と普通に言ってしまったが実際に願いを聞いたのはアキレウスが初めてだ。なのにまるで、他にも聞いたことがあるような。そんな気がしてしまったのだ。

「まさか、ね」

 聖杯戦争に、参加したことがあると。そういうことなのだろうか。自分もダーニックのように何らかの方法でこの姿を保ち、過去の聖杯戦争に参加していたのだろう。

「……」

 赤色の少女の姿が頭から離れないことに岸波は苛立ちを感じ始めていた。

「おい……」

「え……ッ!?」

 アキレウスと問答をしていて気付かなかったが、辺りが霧で覆われ始めていた。

「まさか……」

 と、その時街中の人間たちが一斉に咳き込みだす。

「皆さん、家の中に避難して下さい!早く!」

 町の住人もこの霧が異常なものだと気づいたのか岸波の言葉を聞いて家に中へ入っていく。

「これがアサシンの宝具……?」

 霧自体が毒だと感づいた岸波もハンカチで口を塞ぐ。

「岸波!」

 近くで待機していたカウレスとセレニケがこちらに向かって来る。

「大丈夫か?」

「うん、でもこれだと視界が悪くて」

「此よりはは地獄。私達は炎、雨、力」

「……っ!?」

 一瞬の出来事だった。何かに感づいたセレニケは岸波の体を精一杯突き飛ばす。突き飛ばされた岸波は体が宙に浮かぶ中、セレニケの方へと視線を傾ける。

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

 セレニケが突き飛ばしていなければきっと、自分がこうなっていたのだろうか。先程まで何事もなかったセレニケの体から大量後が吹き出し、彼女は力なく崩れ落ちてしまった。




そろそろ回収しないといけないフラグがたくさんあるので、なんとかしていかないとなぁと思います。
さてさてこれでユグドミレニアに残る魔術師も原作と同じになりましたね。

ただ此処で問題が発生しました。アストルフォのマスター、誰にしよう…。
というわけで次回もまた読んでいいただけると嬉しいです。





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