Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃
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12話 トロイメライ

「セレニケ!」

 大量の血液とともに崩れ落ちた彼女の体をカウレスは必死に揺らす。だが既に事が切れてしまっており、その行為は無駄でしかなかった。

「ライダー!」

「わかってる!」

 アキレウスはすぐさまいつもの軽装の姿に戻れば、槍を振るった。振るった先には、小さな女の子がナイフを持って立ち尽くしていた。

「ふふ、バラバラになっちゃった」

 黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパーはナイフに付いた血を舐め取りながらそう呟く。

「てめぇ……」

「貴方のことも解体させてくれるのかな?」

「は、馬鹿野郎……」

 ライダーは上空に向かって蒼い稲妻を一閃させる。

「……?私達には当たってないよ?」

「今のは攻撃じゃねえよ」

「攻撃じゃなかったら、何ーーッ!?」

 それこそ一瞬の出来事だった。遠く離れた位置から放たれた矢の一撃がアサシンの両足を撃ち抜いていた。その一撃で両足を失ったアサシンは為す術もなく倒れた。

「よし、生け捕りにーー」

 が、それは叶わなかった。両足を失ったアサシンは何らかの力でその場から消え失せたのだ。

「まさか、令呪……!?」

「アキレウス、早く行かないと手遅れになる!」

「手遅れって……」

 セレニケをカウレスに任せ、岸波はすぐにアサシンを探すべく街中を走り出す。

「気付いてないの?サーヴァントがこの街にもう一人いる!」

「なッ!?」

 それ以上に、岸波は感じ取っていた。このままだと悲劇が起きてしまうということに。

「アキレウス、絶対に止めて!」

 

 

 

 

「ジャック!」

マスター(おかあさん)……」

 両足を失い立つことすら出来ずに倒れ込むアサシンのもとに、彼女のマスターである六導玲霞が現れた。

マスター(おかあさん)ごめんなさい、失敗しちゃった……」

「いいのよジャック、次があるわ?」

 そう答えながら六導はアサシンを背中に背負う。

「ねぇマスター(おかあさん)、これからどうするの?」

「とにかく逃げないとね。大丈夫、安心しなさい?」

 六導の言葉を聞き、少し安心したのかアサシンは落ち着いた様子を見せていく。

「ねぇマスター(おかあさん)、私達またマスター(おかあさん)のピアノ聞きたいな」

「ええ、きっとーー」

 その刹那、六導玲霞目掛けて一本の矢が高速で街を駆け抜けた。それからアサシンを庇うように、六導はアサシンの体を投げ飛ばす。

「え……?」

 六導は死を確信した。だが、自分の命を救ってくれたこの子達のために死ねるのなら本望だ。きっとそんな風に考えていたのだろう。何もかも諦めたような、そんな瞳で一閃する矢が自分の新造王に突き刺さるのをただひたすらに待っていた。だが、その矢が六導の心臓を貫くことはなかった。

「っぶねぇ!!」

 六導は目を疑った。先程までアサシンと交戦していた赤のライダーが、どこからもなく放たれた矢から自分を守ったのだから。

「大丈夫か?」

「な、どうして……」

 六導は驚きを隠せずにいた。それは後ろで見ていたアサシンも同じだ。

「まぁ事情説明は後だ。出てこいよ、姐さん」

 アキレウスの言葉とともに、霧に中から一人の少女が姿を現す。

「赤の、アーチャー……」

「何故だライダー、何故彼らに加担する」

「それはこっちのセリフだ。なんで天草四郎にーー」

「黙れ!!」

 アキレウスの問いなど最初から聞く耳を持たないと言いたげにアーチャーは叫ぶ。

「その子は、黒のアサシンは私が回収する」

「それは許されません」

 遅れてルーラーがその場に現れる。彼女もサーヴァントであるので街から少し離れていたから到着が遅れたのだろう。

「ルーラー……ライダー……、その子は戦わされているんだ!そんな小さな子供を貴様は戦わせるというのか!?」

「そうだ姐さん、あんたらと戦うために俺らにはこいつの力が必要なんだ」

「我々と戦うため、だと?お前たちもその子達を利用するのか……?」

 赤のアーチャーの様子が少しおかしかった。そう、アキレウスは感じた。

「見てわからないのか!?その子はその人間の為に戦っているんだ、戦わされているんだ!!その子は救ってやらねばならんのだぞ!?」

「救えません、貴女には」

 アーチャーの言葉を一蹴したのはルーラーだった。

「彼女は聖杯を求めたが故にサーヴァントとして召喚されました。サーヴァントである以上、貴女では救えません」

「黙れ!貴様は聖女なのだろう!?なら彼女たちは救う対象なのではないのか!?」

 ルーラーはアーチャーの問いに答えることはなかった。

「偽の、聖女……」

「私は、自分を聖女だなんて思ったことはありません」

「な……!?」

 その言葉に、皆が驚いた。

「く……」

 アーチャーは涙を流しながらもアキレウスに一瞬視線を向ければ背を向けて屋根の上へ駆け上がる。

「聖杯が欲しくば取りに来い!全員このアタランテが射抜いてやる!!」

赤のアーチャーはそう言い残してその場を去ろうとするが、それを射抜くように黒のアーチャーが弓を番える。だがその矢が届かないことを確信したのか、矢を放つことはなかった。

「さて、こちらの話に移りましょうか」

 そう言ってアーチャーは黒のアサシンと緑髪の女性に視線を傾ける。

「そうだね。えっと、六導玲霞(りくどうれいか)さんで間違いないよね?」

「……ええ」

 六導はアサシンを守るかのように抱きかかえる。

「まず状況を詳しく説明させてもらうね」

 そう言って岸波は六導に現在の黒と赤の対立について。そして天草の事を、説明した。そして、あの空中庭園のことを。

「それはある程度ジャックから聞いていたのだけれども、そんな事になっていたのね……」

「で、これからは取引だ。私達にとって貴女達は敵。でも天草四郎も敵。そして――」

「私達にとっても天草四郎は敵――」

「そういうこと」

 敵の敵は味方。とまで言うつもりはなかったが、そこまで意図を読み取ってくれた六導に対して小さく笑みを零す。

「つまり天草四郎を倒すまで協力しろと、そういうことね」

「断れば殺す、それはわかってるよね」

「でも私達が協力しなくても貴方達が困るのも事実、よね?」

「私達に条件を出すっていうの?」

「いえ、ただわかってるとは思っていますけど私にはこの子に魔力を供給をする手段がありません。だからこそ魔術師を殺めていたのです」

「それに関してはこちらのユグドミレニアの魔術回路と接続すれば問題ない」

「……私達が協力するふりをするとは思わないの?」

「私達抜きで、彼らに勝てると思うならそうすればいい」

「……」

 六導は怯えるアサシンの方に視線を向けながらも、唇を噛み締める。

「わかりました、貴方達に協力します。それしか私達に選択肢がないみたいですし」

「うん」

 六導の言葉を聞き、手を差し出す。

「私は岸波白野、よろしく六導玲霞さん」

 

 

 

 

「作戦は成功したんですね」

 ミレニア城塞に到着した岸波達は待機していたフィオレに報告をしていた。

「今カウレスに六導さんとここの魔術回路を接続してもらってる」

「そうですか」

「……セレニケさんの件は、ごめんなさい」

 黒のアサシンの襲撃を受けた際、セレニケは事が切れてしまった。当然といえば当然である。アサシンの宝具を直接受けてしまったのだから。

 黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパー。世界中に名の知れたシリアル・キラー、岸波のいた日本では『切り裂きジャック』と呼称されている反英霊。その宝具、解体聖母(マリア・ザ・リッパー)、アサシンの持つ4本のナイフ。だがある条件を揃えることで相手を確実に死に至らしめることが出来る。

「……」

「な、何?」

 岸波はキョトンとしたフィオレの顔を見てたじろぐ。

「いえ、貴女のことを少し誤解していました。もっと冷血なお方だと聞いていたので」

「あぁ……」

 そう言われると調子が狂う。岸波は確かに効率を重視した性格をしている。しかし罪悪感がないわけでもない。

「その、白野さんとお呼びしても……?」

「あぁ、うん。構わないけど――」

「姉さん」

 そう言って間に割ってきたのはカウレスだった。

「カウレス、ライダーとの調子はどう?」

「なんか、変な感覚だよ」

 セレニケと契約していたサーヴァント、黒のライダーアストルフォ。彼女が亡くなったことで黒のライダーのマスターがいなくなった。サーヴァントはマスターなしに現界することが出来ない。そしてその場でライダーと契約できたマスター適正者はカウレスのみだった。

「ルーラーからも令呪を一画譲ってもらったから、計二画。これでなんとかやれそうだよ」

 カウレスは令呪が刻まれた右腕を見つめる。

「でも俺なんかがライダーのマスターで本当にいいのか?ゴルドおじさんのがまだいいんじゃないのか?」

「ゴルドおじ様は……」

 ゴルドは自らのサーヴァントである黒のセイバー、スウァフルラーメを失った。その事がショックなのか、どうかはわからない。だが彼はマスターに再度なろうとはしなかった。

「自信を持ちなさい、カウレス。貴方もユグドミレニアのマスターなのだから」

「……」

 岸波はそのやり取りを見ながら、部屋を後にした。




黒のライダーのマスター、消去法で考えればどう考えてもカウレスになってしまうんですよね。
さてさて、次回からはようやく最終決戦に向けての話になります。

黒のアサシンの存在がどう今後の話に関わってくるのか、楽しみにしていて下さい。


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