Fate/Apocrypha ―赤の軌跡―   作:穏乃
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日常が続くって言ったな?あれは嘘だ。


14話 天蠍一射

「それではゴルド叔父様、行ってきます」

 ミレニア城塞でフィオレは笑みを零しながらそう告げる。新月の夜まではあっという間だった。だが岸波達がそれぞれサーヴァントとマスターとして、語り合うには充分すぎる時間でもあった。

「ああ、その……なんだ。生きて帰ってこい」

 サーヴァントを失い、やりきれない気持ちでいっぱいのはずの彼からその言葉を聞き、フィオレは不思議な気持ちを感じた。

「では、行きましょうか」

 ミレニア城塞から空港まではそんなに時間はかからなかった。だが到着した頃には既に辺りは暗く、人影もなかった。

「誰もいないんだね」

 アサシンが六導に手を引かれながら、ポツリと言葉を漏らす。

「ええ、私達の方で貸し切ってありますので」

「貸し切りッ!?」

 誰かに怪しまれないよう学生服を着たルーラーが驚いたような仕草を見せた。

「それはさておき、作戦の確認だ。ライダー、魔導書の真名は思い出せたのか?」

「うん、完璧に思い出せたよ!」

 ライダーは自信満々に胸を張る。

「では空中庭園への突入に支障はありませんね」

「ああ。では各自分散して空中庭園に乗り込んでくれ。ルーラーとアーチャー、アサシンは前衛だ。ここからが問題なんだが――」

「僕の宝具はあくまで空中庭園の砲撃を止めるだけ、赤のアーチャーの矢は止められないよ」

「そこでルーラーの持つ令呪のスキルだ」

 カウレスはルーラーに視線を向ける。

「先に言っておきますが私の令呪は彼らには通用しないと考えておいて下さい」

「でもこちらのサーヴァントには有効と」

「……恐らく空中庭園に突入するまでですが」

 空中庭園には既に令呪に対しての何らかの策が講じられている可能性がある。あまり頼れないのも事実だ。

「後は空中庭園の砲撃だな」

「こちらの方は私でなんとかしましょう」

 そう切り出したのは黒のアーチャー、ケイローンだった。

「何か策があるのですか?」

「おい、先生」

 アーチャーの様子を見てアキレウスが不審に感じ、声を上げる。

「大丈夫ですよ、アキレウス。たまには私にも、頼って下さい」

 たまには、といったが彼には頼ってばかりなのも事実だ。彼なしでは此処まで戦い抜くことも叶わなかっただろう。

「黒のセイバーはアキレウス、貴方に任せます」

「……わかった」

「赤のランサーはセイバーの方に任せることにしましょう」

「俺はライダーと一緒についていく。それから姉さんと六導は後ろから小型機で、マスターが脱落する訳にはいかないからな」

「白野さんは?」

「私はアキレウスの戦車に乗っていくよ」

 と言っても彼の戦車なんて下手をすれば振り落とされてしまう。危険度で言えばかなりリスクが高い。

「それでもマスターとして、これを譲るわけにはいかないんだよ」

 カウレスもそれを聞けば無言で呟く。

「それでは各自健闘を祈る、空中庭園でまた会おう」

 

 

 

 

「あーあ、ついに決戦かぁ」

 岸波は戦車に乗り込みながら小さくため息をつく。

「どうしたんだよ?」

「いや、ここまで色々あったなって」

「何ここが終わりみたいな言い方してんだよ。これが終わったら先生と戦って、アサシンやセイバーをぶっ倒さないといけないんだぜ」

「あれ、黒のライダーは?」

「いやいやあんなの相手になんねぇって」

 軽口を叩くように、そう呟く。

「あ――」

 何かを思いついたようにアキレウスは戦車から飛び降り、その場を疾走する。そして数十秒すればアキレウスは再び岸波の元へと戻ってくる。

「何してたの?」

「ちょっとな」

「マスターに隠し事か」

 そういって脅すように岸波はアキレウスに令呪を見せつける。だがこの行為も既に二人には冗談としてのやり取りをお互いにわかるようになってしまっていた。それほどまでにこの短い戦いの中で、絆が生まれているんだなと、二人は再確認する。

「で、何なの」

「まぁちょっと、託してたんだよ」

「何を?」

「守る、想いかな」

「何じゃそりゃ」

「それより、そろそろ行こうか」

 そう言ってアキレウスは戦車に飛び乗る。

「一応途中まではスピード調節するけど空中庭園まで近づいたらそうも言ってらんねえ、振り落とされんなよ」

「大丈夫!」

 岸波は震えながらも大きく声を張る。

「さぁ開戦だ!」

 刹那、戦車は爆音と共に空中を駆ける。岸波はその爆音と衝撃に驚きながらアキレウスの足にしがみつく。

「ほ、本当に大丈夫なんだよね?」

「ライダーの宝具が確かならな……」

 赤のライダー、アキレウスの宝具。疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)のスピードは圧倒的だった。岸波を配慮してスピードを調節しているとはいえルーラーの乗る飛行機に追いつくのにそこまでの時間を必要としなかった。

「見えました」

 ルーラーが暗闇の空の一点を見つめながら、呟く。

「こちらも」

「うん、見えたよ」

 頭の中からアーチャーとライダーの声が響く。

「アキレウス」

「ああ、俺も見えてきたぜ」

 空中庭園。赤のアサシンの宝具であるそれをアキレウスは暗闇の中で視界に捉える。

「……天草四郎時貞!」

「吠えるな、見苦しい」

 ルーラーの咆哮に答えたのは赤のアサシンだった。

「マスターは大聖杯による人類救済の準備に忙しくてな、お主らに構っている時間はない」

「赤のアサシン、セミラミス……」

 魔術による通信術式で、赤のアサシンはルーラーに直接言葉を投げかける。

「彼は本当に大聖杯の力で人類を救済するつもりなのですか」

「さてな、知らんよ。マスターを止めたくば必死に追いすがってくるがいい。最も」

 赤のアサシンはまるで悪魔のような、邪悪な笑みを浮かべる。

「こちらのサーヴァントを突破できればの話だが」

 その瞬間、空中庭園から光が一閃する。十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)、空中庭園に設置された迎撃術式である。その一つ一つが対軍宝具と同等の威力を持ち、その光弾による魔術攻撃を行うものである。それにより飛行機が一騎、爆発と共に炎に飲み込まれていく。

「来ます!」

「ライダー!!」

「さぁ、刻限だ」

 側面から飛び出てきた黒のライダーとカウレスの駆るこの世ならざる幻馬(ヒポグリフ)が叫びを上げる。

「我が心は月もなく恐怖に震え、されど断じて退きはしない!」

 黒のライダーの持つ魔導書が光り、その頁一枚一枚が周囲へと広がっていく。それはまるで盾のように。

「ライダー、来るぞ!」

 空中庭園から一閃の光弾が放たれる。

「宝具解放――破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)!」

 光弾はそんなライダーを無視して一直線に奔る。だがその光弾はライダーを貫くことなく、無残にも消失していく。

「あはははは、見たかこの本の本当に力!気ん持ちいぃーっ!」

「ライダー、すごいじゃないか……!」

 ライダーの後ろに乗っていたカウレスが声を上げる。

「よし、まずは一枚目!」

 光弾を受け止め、回避しながら空中庭園へと近づけばライダーは宝具である槍を取り出し光弾を放つ棺を一閃する。

「どうだ!」

 だが、棺を破壊した瞬間ライダーはカウレスを空中庭園へと突き飛ばす。

「ライダー、何をして……!?」

 幸い既に空中庭園の中へと突入しており、高度もなかったのでカウレスは無事に着地する。だが肝心のライダーの方を見上げれば、ライダーは魔術による攻撃を受けている姿が目に映る。そしてライダーはそのままカウレスの元へと落下する。

「なんで……」

「防衛術式の防衛術式とか、やらしすぎ……」

 防衛術式の防衛術式。つまり防衛術式を破壊すれば次の防衛術式に反応して攻撃を喰らうというわけだ。

「あの光弾は受け止められても、次のは僕の宝具でも……」

「クソ、このままじゃルーラー達が……」

 私に任せて下さい。

「アーチャーッ!?」

 

 

 

 

「ライダーは空中庭園に突入できたのですね?」

 黒のアーチャーは飛行機の上から空中庭園を見つめる。

「ルーラー、最初の手筈通り向こう側のアーチャーを」

「わかりました!」

 向こうから放たれる矢を受け止めながら、ルーラーは返事をする。

「先生、何をする気なんだ……」

 戦車を奔らせながら、心配するようにアキレウスが言葉を漏らす。

「これこそは、星の(さそり)を穿つ一撃なり」

 黒のアーチャーの姿を目視するなる、赤のアーチャーも弓を番える。

「ルーラー、アーチャー……貴様らを討つ!!」

 赤のアーチャーの番える二本の矢。その術理が具現化し、降り注ぐ。

「二大神に奉る、訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)!」

「我が旗よ、我が同胞を守り給え」

 天から降り注ぐ矢に向けて、ルーラーもその旗の真名を解放する。

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 降り注ぎ、黒のアーチャー達を襲うはずだったその一撃は黒のアーチャーやルーラーに振れることはなく、ルーラーの解き放った結界宝具によって尽く防がれてしまう。

「何……!?」

「ごめんね」

「え……?」

 確かにアサシンには気配遮断のスキルが存在する。だがこの空中庭園に安々と入れるわけではない。にも関わらず、今黒のアサシンは赤のアーチャーの眼の前に現れたのだ。

「……ルゥゥゥゥラァァァァァァアアアアア!!!」

 赤のアーチャーは振り向き、それがルーラーの令呪によって転移してきたことに気付き怒りを叫びへと変える。だがそれが彼女に届くことはなかった。

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

 

 

 

 

「我が矢は既に放たれた」

 赤のアーチャーが放った宝具の中、黒のアーチャーはただ一点。残った十の黒棺を見つめていた。

「まさか……先生、やめるんだ!!」

天蠍一射(アンタレス・スナイプ)!!」

 アキレウスが全てを察し、叫んだ頃には全てが手遅れだった。空から放たれた十の矢の一撃が全ての黒棺を撃ち抜く。

 

 マスター、少しお願いがあります。

 なんですか、アーチャー?

 私の宝具を令呪の力を使って一度だけでなく、可能な限り発動できるようサポートしてほしいのです。

 令呪で、ですか?

 はい。それさえ可能なら、貴女に勝利をもたらすことが可能でしょう。

 

「道は、開けました」

「先生ぇぇぇええ!!!」

 黒のライダーが1つ破壊するだけで身動きを取れなくなるような魔術的防衛攻撃を10つ同時に受け、燃えゆく飛行機と共に黒のアーチャーが崩れ落ちる。

「先生、先生ぇ!!」

「アキレウス!!」

 戦車を使って落ち行く黒のアーチャーを助けようとするアキレウスに、黒のアーチャーは声を絞り出しながらも、張り上げた。

「……マスターを、後を頼みます」

「……」

 アキレウスさえ、彼さえ空中庭園へ突入させることが出来れば勝機が作れる。彼の教え子であり、大英雄である、アキレウスなら。

「……マスター、どうやら私は最後の最後でサーヴァントとしての勤めを果たせたようです」

 宙へと落下し、防衛術式の攻撃を受けて既に消滅しかけている黒のアーチャーは空を見つめた。

「どうか最後の教え子であるあの子達が、夜空で輝きますように」




設定改変等しております。
十と一の黒棺を破壊すると破壊したものに対して電撃のような魔術攻撃が反応する、というものを少し追加させてもらいました。
それから一日一回しか使えない先生の宝具を令呪で無理矢理十回撃たせました。原作とは何だったのか。


さて、話もラストスパートです。


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